自衛隊組織の人事制度からの瓦解_後方任用制度
財務省と民主党は、組織としての自衛隊を、人事制度から瓦解させようとしています。
以前にも「「準自衛官」制度の創設は疑問」として記事を書いて反対した、後方職種自衛官の人事制度上の差別化ですが、「準自衛官」では響きが悪く反対されると踏んだのか、財務省・民主党は、今度は「後方任用制度」と名前を変えて、24年度予算案にねじ込んできました。
平成24年度予算の概要より
この資料だけでは、後方任用制度とは如何なるモノなのか良く分かりません。
3月3日時点で「後方任用制度」でググッて最初にヒットする資料は、財務省の広報誌「ファイナンス」の2011年4月号に掲載された「平成23年度新防衛大綱・新中期防と防衛関係費について」(主計局主計官 市川 健太)です。
その他の職務に係る処遇を最適化する制度
(後方任用制度:後方業務分野において、中
高齢の隊員を有効活用し、職務職責に応じた
給与、定年等の処遇を適用)を設計・導入し、
人件費の追加的な負担を招かない範囲で所要
の実員を確保する。
これを見ると、いわゆる定年後自衛官の再任用制度のようにも見えます。
ですが、再任用制度は既に実際に導入されているもので、後方任用制度はそれとは異なります。
財務省・民主党は、反対を恐れてか、詳細・実態を説明しようとはしていないようです。
現在ネット得られる資料で、後方任用制度の姿が分かる記述は、佐藤正久議員のブログ記事くらいしかありません。
「部隊の士気低下を招く閣僚の発言に唖然!」
「後方任用制度」とは、財務省が打ち出したもので、「必ずしも自衛官でなくともできる仕事については、自衛官に準ずる身分を新設し、現役自衛官をこれに移し、事務官・技官に準じた処遇をする」というもの。要は、現役自衛官を職種で2種類に区分して、人件費を抑制しようとする制度。
早い話が、やはり「準自衛官」の改名焼き直し制度なんです。
人をモノとしてしか見ていない、現場を知らないキャリア官僚の考え方ですね。
佐藤議員の記事タイトル通り、軍事組織の士気というものを、恐ろしく軽視した制度です。
アメリカのように、戦争とは、あくまで国外で戦うものと考え、それを実現している国はそれでも良いかもしれません。
ですが、現代戦では、航空機やミサイルの発達、及び特殊作戦による後方攪乱により、後方と前線の区別、危険度の差異は非常に薄く曖昧なものになっています。
下手をすれば、重要目標となりやすい後方拠点にいるよりも、前線でタコツボに入っている方が、むしろ安全かもしれません。
これが導入されれば、例えば補給処などは、全員が後方任用制度の適用を受けた、後方任用自衛官になるでしょう。
その補給処が空爆を受けたり、特殊部隊によるゲリコマ攻撃を受けた時、普段から正規自衛官としての扱いを受けていない後方任用自衛官が、命を賭して、補給物資を守るとは思えません。
普段から、そんな差別処遇を受けていたら、私なら、安全な所に隠れて、危険が去るのを待つかもしれません。
制度として、どんな名称を付けようとしているのかも気になります。
ここでは仮に「後方任用自衛官」と書かせてもらってますが、財務の発想は「準自衛官」そのものです。
自衛官に限らず、軍事組織に属する人間は、極言すれば、名誉のため、もっとブッチャケた言い方をすれば、格好付けのために命を賭します。
「準」と呼ばれた人間に、それを期待するのは過剰な期待と言うものでしょう。
さて、しかしこの後方任用制度ですが、「必ずしも自衛官でなくともできる仕事」をさせる言う点で、賛成する人もいるかもしれません。
ですが、そもそもこの発想にはオカシナ点があります。
防衛省を支えている既存の制度である事務官は、一体なんなの?、という点です。
現行制度でも、制服自衛官と「必ずしも自衛官でなくてもできる仕事」をする事務官という制度があり、制服自衛官が配置されている職務は、制服自衛官を当てるべきだとの考え方がで制服自衛官が配されているのです。
この後方任用制度が制度化されるのであば、それは、現在制服自衛官がやっている仕事の一部が、実は「必ずしも自衛官でなくてもできる仕事」でした~、と言っていることと同じです。
腹の虫が治まらないので、何やら乱文になって申し訳ありませんが、この後方任用制度については、今後も微力ながら反対して行こうと思います。
そしてそのためには、野田政権を倒さなければなりません。
何せ、この後方任用制度、前述のように「準自衛官」と言われていた当時、反対する北沢防衛相に対して、「座敷に踏み込んできた」のが当の野田財務相(当時)なのです。
もしかすると、野田首相としては、反対する北沢氏を外し、言うことを聞く田中氏を防衛相に据えることで、この後方任用制度を通そうと考えたのかも知れません。
最後に、この件に関する素朴な疑問をあげておきます。
本件を推進する野田首相のお父さんは、習志野駐屯地勤務でしたが、空挺団の所属ではなく、業務隊の所属だったそうです。
つまりは、後方任用制度の適用を受けたはずの自衛官だったようなのです。
野田首相は、お父さんに対して、どんな気持ちで、後方任用制度の適用を推し進めているのでしょうか。
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「後方任用制度(準自衛官)」カテゴリの記事
- 自衛隊組織の人事制度からの瓦解_後方任用制度(2012.03.04)
お久しぶりです、
この後方任用制度、来年度からの国家公務員給与7.8%減にプラスされるのでしょうか。
投稿: matsuzay | 2012年3月 6日 (火) 22時28分
現状でも事務官技官の多い駐屯地業務隊や補給処等は真っ先に対象になりそうですね
震災を受けて、後方兵站はむしろ体制強化が必要ではないか?と言われている部分ですが
これを弱体化させてしまう虞のある政策は疑問です
今次震災では、駐業の女性事務官でも数週間の泊まり込み勤務をしたと伝え聞きます
こういった事例を受けて、人の良心や義務感・責任感を安く使おうとしているのかもしれません
投稿: SUS | 2012年3月 7日 (水) 17時49分
書類と数字としか向き合わない東大出の方々が思いつきそうなことですね。無神経なことをするものです。
「安全な後方」なんて言葉は事実上死語なのではと思うのですが、民主党(あるいは財務省)の方々は違う見解をお持ちのようで。
いずれにせよ、なんとか阻止したいものです。
投稿: 啄木鳥 | 2012年3月 8日 (木) 17時52分
matsuzay 様
26年度までに法案を通そうとの考えのようですので、24年度はまだ大丈夫です。
自衛官給与の削減は、自民も反対しているようですし、議論はこれからですね。
SUS 様
後方兵站の軽視については、佐藤議員も、同じ懸念を持たれているようですね。
仰るとおり、震災での事務官の尽力を見て、最終的には全部事務官にしちゃえ、とか思ったのかも知れません。
啄木鳥 様
記事中にも書いた財務省の広報誌に書かれているように、この件は、現場どころか防衛を良く知りもしない財務省が主導で動いています。
それに、防衛を軽視する民主党が載った形でしょうね。
まだ時間もあるので、継続的にフォローしたいと思います。
投稿: 数多久遠 | 2012年3月 8日 (木) 22時35分
後方任用制度は断固反対です。補給や会計隊に所属する隊員であっても入隊時に自衛官としての戦闘訓練等基本の前期教育を受けています。後方任用制度の対象と考えられている部隊、職種の隊員の士気を極めて低下させることが確実です。自衛官になりたくて、入隊したはずが、一線を引かれてしまってはあまりにも屈辱的なことです。職業が変わるも同然です。現在彼らは、事務的な仕事をする傍ら、野営訓練等をこなしています。
財政を考えることは大事なことであるが、もう少し自衛隊とはどのような組織であるべきか吟味すべきとおもいます。
投稿: マー | 2012年6月 7日 (木) 21時32分
マー 様
私も反対です。
入隊時から別採用にでもしないと、全体の採用にも悪影響がでてくるような気がしますね。
投稿: 数多久遠 | 2012年6月 7日 (木) 22時33分
民主党のやからは、いかに日本を弱体化させるかに一生懸命ですねぇ。
そんな事したら情報の漏れが酷く成るばかりでしょう。(この次は民間活用か、アウトソーシングとでもいって経費の削減する心算でしょう)
問題なのは自衛隊が闘うための組織(というより自己完結性を持つ組織と言った方が良いですね)だ、という点です。
地震や災害救助等でもわかる通り、自己完結性をもたない組織(警察や消防)では命令の遂行が不可能のものが多々あります。
また、遂行できても長期間は難しいでしょう。
後方任用制度はこの自己完結性を破壊、弱体化させかねません。
もし出来た場合は、派閥の温床になるのではなでしょうか。
絶対反対ですね。
投稿: みやとん | 2012年6月 8日 (金) 21時13分
みやとん 様
恐ろしい事に、この件は、主導が民主党ではなく、財務省だってことです。
もちろん国家破綻したら困るのですが、この件は浅慮としか思えません。
投稿: 数多久遠 | 2012年6月 8日 (金) 23時48分
省益あって国益なしってヤツですか。
財務省にもおかしなヤカラがはいりこんでいるんですかねぇ。
中高生である程度の軍事教育(というより世界の常識)を教えないとダメではないのですかねぇ。
まあ、日教組がのさばって居るうちは無理かもしれませんがね。
投稿: みやとん | 2012年6月10日 (日) 00時50分
みやとん 様
予算の大部分を人件費が食っているとなれば、民間でもそこに手を付けようとなるでしょうから、財務省の動機は理解できるものの、自衛隊(軍隊)が基本的に労働集約型の構造を持つことは理解して欲しいと思いますね。
投稿: 数多久遠 | 2012年6月10日 (日) 20時03分