危機管理監ポストと危機管理監の位置付け
警察が牛耳っている内閣危機管理監ポストを防衛官僚が狙っていると、産経が報じています。
「防衛省が“宣戦布告” 警察庁の牙城に触手」(産経新聞12年2月5日)
ある警察庁キャリアと話していると唐突に切り出してきた。「市谷が『警察官僚に危機管理監は務まらない』と騒いでいる」。
中略
(震災時)自衛隊が10万人態勢を敷き、米軍も大規模な人員・装備を展開させた「戦時」並みのオペレーションを把握するには、警察庁出身の伊藤氏には「荷が重かった」との指摘が防衛省内には多い。
防衛省側には、震災のみならず大規模テロなどに備え、危機管理センターの機能強化を図るには、危機管理監ポストを警察官僚から引き離すべきだとの不満がくすぶる。逆に、警察庁側は「政府を挙げた対応のとりまとめは防衛官僚に務まらない」と反論する。
10万人もの災害派遣が実施された震災対応では、警察出身者がこれを掌握することは不可能だろうと思います。
オウムの対応でも、オウムが最後に備蓄していた武器やサリンを用いて抵抗していたら、警察だけでは、対応不可能だったでしょう。
たった5人が立てこもっただけのあさま山荘事件でも2名もの警官が死亡していますし、愛知長久手町立てこもり発砲事件でも1名が殉職する等、射殺をせずに犯人逮捕を意図した方針のせいもあるにせよ、犯罪者側が警察並以上の装備を持っている場合には、普通の警察力で対処しようとすること自体に問題があると思われます。
オウムの対応等、”一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、”自衛隊を出動させることができる訳ですが、その際に警察出身者が危機管理監として事に当たろうとしても、やはり困難でしょう。
この事を考えれば、今後も警察出身者が危機管理監では、荷が勝ちすぎる場面が出てくると思われます。
ですが、産経の記事は、防衛省出身者を配置することも問題だと指摘しています。
そもそも危機管理監は「国の防衛に関するもの」は担当外で、自衛隊の運用には権限が及ばないとされる。
中略
不審船の例をみてもわかるとおり、狭い意味の危機管理の問題が結果的には防衛の問題に発展するケースもあって、中途段階において両者を明確に区分することが難しいケースも少なくない
そもそも「危機管理監」とは、国の防衛以外を扱う職である上、国の防衛に発展するかどうか分からない段階では、防衛問題を取り扱わない「危機管理監」に事態を掌握させた方が良い、という論旨のようです。
正直言って、この論の展開は、私には良く理解できませんでした。
確かに、危機管理監の職務は、「危機管理(国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態への対処及び当該事態の発生の防止をいう。)に関するもの(国の防衛に関するものを除く。)を統理すること」にあるそうです。
ですが、では危機管理監と同じように内閣内にあるポストに、「国の防衛を統理」すべきモノがあるかと言えば、ないのです。
防衛大臣はいますが、政治家ですから、防衛問題に造詣の深い方でも、官僚ほどの専門知識はありません。
総理大臣補佐官の安全保障担当も、同様に政治家です。
防衛以外の危機管理を統理するポストはあっても、防衛を統理するポストがない中で、現行の危機管理監は、防衛を扱わないのだから、防衛に移行するかどうか分からない段階での事態では、警察出身者が危機管理を統理していれば良い、との産経の考えは、私の理解の範囲を超えました。
防衛を統理する新たなポストを内閣内に作らないのであれば、防衛に移行する可能性のある事態は、防衛省出身者が統理していなければ、先が見えないまま事態を悪化させるだけではないでしょうか。
危機管理監の職務として、防衛に関することも統理させた上、防衛官僚を配することがベストだと思います。
どうしても警察官僚が抵抗するなら、内閣内に防衛を統理する国防管理監みたいなポストを作る必要があるでしょう。
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半沢氏の文章は読み難いですね。記者として失格としか言えん。ですが
>防衛以外の危機管理を統理するポストはあっても、防衛を統理するポストがない中で、現行の危機管理監は、防衛を扱わないのだから、防衛に移行するかどうか分 からない段階での事態では、警察出身者が危機管理を統理していれば良い
とは読み違いで有り、半沢氏の趣旨ではないと想います。
第一と第二ページは概ね報道で有り、第三ページに警察側の言い分に一行を与えだものの、次の例は日本共産党辺りじゃない限り誰も「警察の小心眼に因る理不尽の阻 害」と読んだでしょう。
次は「防衛省が危機管理監ポストを握ると備えが万全かというと、そうではない」とは「防衛省に任せたらマシに成るが、未だ足りない」と解る方が文脈に合ってると 想います。つまり、半沢氏は何方がって言うとPro防衛省です。
そこからは、半沢氏は足りない部分を説明する。
先ず挙げたのポイントは防衛を任されない事とこの故に自衛隊を動かせないと言う権限関連の事。それ以外は能力や組織的な不足も挙げました。
3ページ末に古川氏から引用された文句も実は「防衛省じゃだめ」とか「警察の方が良い」などより「権力分散の疲弊」を示す為引用されたと想います。
総合的に語ると半沢の記事がこれを言いたい: 「最近、防衛省の官僚は危機管理監の役職を警察から奪う気です。彼等の言い分だと警察は小規模行動が殆どの為大災難に置いて力不足です。
私もこれが一理あると思います。ただし、危機管理監の一番の問題点は人選じゃなく権力不足と情報不足です。もし防衛省と警察が戦えばお互いに足を引っ張る事に 成る。これによるの遅延は今の日本にとって容認難い。こう成るより例え危機管理が警察に任せても、力を合わせて権力の集中化などの改革を押し通す方が良い。」 じゃない?
投稿: 香港からの客人 | 2012年6月21日 (木) 20時48分
香港からの客人 様
半沢氏の記事趣旨を見誤っているのではないかとのことですが、私は半沢氏の記事趣旨そのものだけをもって、今回の反論をしている訳ではありません。
半沢氏が、あのような記事を書くにあたって念頭においている事態には、尖閣沖での漁船衝突事故などがあると思います。
あの事件は、今になって見れば、漁船船長の暴走と言うべき自体で、間違いなく警察(海保庁)が扱うべき事案でしょう。
ですが、事態の進行中は、単なる漁船船長の暴走なのか、中国政府が裏で操作している偽装漁民による実力行使なのか、判断がつきません。
そして、後者の場合は、武力衝突を視野に入れた対応が必須となります。
半沢氏の文脈は、全体において、現場を知らない机上の論ではないかというのが、私の見解です。
事後になって、正解を分かった上での考え方では、意味を成しません。
上記のような視野に立って、進行中の事態を考えるためには、権力の問題もあるでしょうが、危機管理監は、警察官僚では不適だと考えております。
また、情報の問題も、警察出身者は、ヒューミントは得意でしょうが、それ以外の情報(シギント、イミント等)に弱いことも問題だろうと思います。
投稿: 数多久遠 | 2012年6月21日 (木) 23時36分