1項か3項か、破壊措置命令_2012北朝鮮「衛星」発射
今回は、破壊措置命令の法的根拠について考えてみます。非常にマイナーな話ですが、おつきあい下さい。
この件について、早い段階で言及していた報道は、次の毎日の記事です。
「北朝鮮「衛星」:破壊命令を検討 PAC3、イージス艦で」(毎日新聞12年3月19日)
ここで、問題になるのは、根拠法令が、自衛隊法第82条の3の内、1項が適用になるのか、それとも3項が適用になるのかです。
この点について、政府(民主党)は明確に方針を決めていないのか、若干の混乱が見られます。
当初は、1項が適用される見込みでした。
「北の「人工衛星」、田中防衛相が破壊命令検討」(読売新聞12年3月19日)
田中防衛相は19日の参院予算委員会で、北朝鮮が人工衛星を打ち上げると発表したことについて、「自衛隊法第82条の3第1項に基づき、首相の承認を得た上、破壊措置を命ずることを考えている」と述べ、日本飛来に備え、自衛隊に破壊措置命令を出すことを検討する考えを表明した。
田中防衛相は、明確に1項の適用を示唆していました。
ですが、準備命令の発出がなされた27日現在、どうも前回2009年と同様に、3項での破壊措置命令発出が検討されているようです。
「発射場にミサイル本体搬入か」(NHKニュース12年3月25日)
「破壊措置命令」は、自衛隊法82条の3の第1項と第3項に定められています。第1項は弾道ミサイルなどが日本に飛来するおそれがある場合、第3項は人工衛星の打ち上げ用のロケットなどが事故などで日本に落下するおそれがある場合を想定していて、今回、政府や防衛省は第3項に基づいて命令を出すことを検討しています。
NHKの1項と3項に関する説明はおかしいのですが、これはまた別の機会に書きます。
また、準備命令発出と同日に行われた外交防衛委員会で、佐藤正久議員が、田中防衛相を追求するネタとして、この件を持ち出しています。
「3月27日外交防衛委員会で質問しました。」(佐藤正久議員公式ブログ12年3月27日)
○ 弾道ミサイルなどへの対応の流れの中で、弾道ミサイルなどの破壊措置について、自衛隊法第82条3項から1項に対処方法が変わるときの弾道ミサイルなどの発射の兆候について大臣の意見を尋ねた。対処方法が変わると、部隊の運用方法もずいぶん変わるので、北朝鮮の「衛星発射」だけではなく、一般論として質問をした。
こちらからも、今回も3項で発出されるような雰囲気が見込まれます。
さて、では内容です。1項と3項は、何がどう異なるのでしょうか。整理してみます。
なお、隊法82条の3の全文については、記事末尾に載せておきます。
状況
1項:弾道ミサイル等の落下が予想される時
3項:常時(緊急の場合のためあらかじめ命じる)
発令権者
1項:防衛大臣、ただし総理の承認を要する
3項:防衛大臣、総理の承認は不要
実施要領
1項:命令で示す
3項:緊急対処要領により事前に規定
現在防衛省のサイトで見つかる緊急対処要領は、2007年3月に閣議決定されたものhttp://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2008/2008/html/ks316000.htmlですが、「弾道ミサイル緊急対処要領 海上配備型を追加 上・下層の運用規定整う」(朝雲新聞2008年1月3日)によると、少なくとも同年末には一部改正になっています。内容的には、この時の改正以後、変更を要する事業は行われたていないので、おそらく現在もこの改正された緊急対処要領が生きているモノと思われます。
大雑把に言えば、1項は、都度命令するための規定で、3項は、不意を衝かれ、いきなり撃たれた時のための規定です。
防衛省にとって、1項はとても面倒で、3項はとても使いやすい条項です。極論すれば3項さえあれば、1項など必要ありません。1項は、いちいち首相の承認が必要です。
自衛隊が自由に動くことを良しとしないであろう民主党にとっては、3項よりも1項の方を好みそうです。
実際、前述の通り、田中防衛相も当初は1項での発出を明言していました。
ですが、前回2009年の時は1項ではなく3項が適用され、命令が発出されていました。
実を言うと、2009年の記事「破壊措置命令-展開部隊」でも言及しましたが、前回がちょっとオドロキの根拠法令の適用だったくらいなので、今回1項での発出を田中防衛相が明言していた頃は、「まあ当然だろうし、妥当だろうな」と思っていました。
恐らく、前回2009年も3項での発出をした防衛省サイドが、説得をしたものと思われます。
日本のお役所の場合、「前例」が大事ってことなのか、このまま3項の適用を定着させてしまえば、防衛省として都合が良いからなのか……
最終的に、どちらになるのかは、明日には判明しそうです。
参考:自衛隊法
(弾道ミサイル等に対する破壊措置)
第八十二条の三 防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。
2 防衛大臣は、前項に規定するおそれがなくなつたと認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、速やかに、同項の命令を解除しなければならない。
3 防衛大臣は、第一項の場合のほか、事態が急変し同項の内閣総理大臣の承認を得るいとまがなく我が国に向けて弾道ミサイル等が飛来する緊急の場合における我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため、防衛大臣が作成し、内閣総理大臣の承認を受けた緊急対処要領に従い、あらかじめ、自衛隊の部隊に対し、同項の命令をすることができる。この場合において、防衛大臣は、その命令に係る措置をとるべき期間を定めるものとする。
4 前項の緊急対処要領の作成及び内閣総理大臣の承認に関し必要な事項は、政令で定める。
5 内閣総理大臣は、第一項又は第三項の規定による措置がとられたときは、その結果を、速やかに、国会に報告しなければならない。
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