ホルムズ海峡危機_米軍の軍事目標は革命防衛隊
経済制裁に端を発したホルムズ海峡危機ですが、制裁に対するイランの反発は、当然予想された結果です。
イランがホルムズ海峡封鎖に言及することも、アメリカは当然織り込み済みです。
イランもアメリカも、実際にドンパチやることは望んでいないでしょうが、アメリカは経済制裁を実施することを決めた段階で、もしアフマディネジャドが暴走した際の対応策は検討しているはずです。
と言う訳で、イランが海峡封鎖に打って出た場合、アメリカ(軍)が「何を目的」として、「何を目標」にするかを考えてみました。
以下、面倒なので確定的に表現しますが、基本的に推論です。
結論から書きますと、アメリカ軍の目標は、イスラム革命防衛隊です。
イランの軍隊は、正規軍たるイラン・イスラム共和国軍(以下正規軍)とイスラム革命防衛隊(以下革命防衛隊)の二つです。
共に、陸海空の3軍をかかえる、少々へんちくりんな編制です。
詳細は、wikiでも見て下さい。
革命防衛隊は、治安維持も実施しており、ロシアの内務省軍的な性格もありますが、治安維持だけが任務ではなく、イラン・イラク戦争でも、正規軍と肩を並べて戦っています。
以下、彼等がアメリカ軍の目標となる理由を書いてみます。
・中国製地対艦ミサイルを保有する沿岸ミサイル部隊など、実際に海峡封鎖を行う能力は、正規軍の海軍よりも革命防衛隊海軍の方が高い。
・海峡封鎖の他に、アメリカが警戒するイランのオプションは、弾道ミサイル攻撃ですが、シャハブシリーズを運用する弾道ミサイル部隊は、革命防衛隊の所属。
・民兵部隊バスィージを統括しており、アフマディネジャド大統領の支持基盤。
軍事的な要素としては、前の2つの影響が強いと思いますが、もっとも重要なのは、最後に上げた大統領の支持基盤となっているという点です。
イランの大統領は、国家元首ではなく、法的には決して強い権限を持っていません。
アフマディネジャドは、強行的な対米批判を行う大衆主義で人気を集め、その支持基盤としてきました。
その集票装置が革命防衛隊です。
ですが、近年の孤立化により、国民の人気は下がっています。
一方、この経済制裁で、イランの経済と国民生活は、窮乏しています。
欧米が原油の禁輸を課したことは、代りに中国が購入するでしょうから、それほど強い影響を与えるとは、私は思いません。
ですが、既にイラン通貨リヤルは20%以上の下落が起きています。
「イラン市民、外貨に殺到 制裁への不安反映、自国通貨売り加速」(産経新聞12年1月21日)
これにより、深刻な影響を受けるのは、おそらくガソリンでしょう。
意外かもしれませんが、イランは世界有数の産油国でありながら、ガソリンなど石油製品は、かなりの量(30~40%)を輸入に頼っています。
「ブラック・ユーモア?産油国イランのガソリン不足」
しかも、国内ガソリン価格を安価に維持するため、多額の補助金がかけられています。
リヤルが下落したこと、及び銀行決済を凍結させるなどの制裁により、このガソリン輸入が困難になります。
これにより、ただでさえ低下気味のアフマディネジャド人気は、さらに下がります。
この状態でホルムズ海峡危機が顕在化し、米軍がアフマディネジャドの支持基盤である革命防衛隊を叩けば、イラン国民が離反する可能性は高いと思われます。
そして、それ以上に、最高指導者であるハメネイが、アフマディネジャドを切り捨てる可能性もあるでしょう。
米軍の、「目標は革命防衛隊」、「目的はアフマディネジャドの追い落とし」ではないでしょうか。
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イラン軍の高性能主力兵器は、
日本の仮想敵国と、共通している所がありますので、
もし紛争が起き、その実力の一端が拝めるのは、
日本に嬉しいことかも?
(米軍がデータを渡してくれればの話ですが;)
投稿: イヌザメ | 2012年1月27日 (金) 23時08分
イランも原発なんて作ってないで、製油所でも作ってガソリンを安く売れば市民の人気も高かったのにね。
テレビで報道されているのだけでも、物価の上昇はかなりのモノらしいですが、こうなると仕入れは現金になってくるでしょうから余計に生活(特に商売)はキビシクなるでしょう。
また中東ですから、(去年)独裁政権が次々に倒れた影響も考えられます。
アラブ諸国の出方が見ものです。
投稿: みやとん | 2012年1月28日 (土) 13時10分
>データを渡してくれれば・・・
貰えると思います。ただし・・・手土産持参でこのキャンプファイヤーに参加すればでしょうが・・・
しかし実際問題、コトが起こった時に、軍事行動に参加するとしないでは得られる情報量には大きな差が出ると考えられます(インド洋での海自の活動終了後に米国から得られるテロ関連情報が大幅に減ったとか・・)。
投稿: 海族 | 2012年1月28日 (土) 17時06分
イヌザメ 様
確かにそうですね。
国産コピー製品による戦果データを良く分別する必要がありそうですが。
みやとん 様
ガソリン自体は、今までは安く売られてました。
多額の補助金によって。
北朝鮮同様に、情報が規制されている国ですから、アラブの春のようになるかどうかが疑問ですが、周辺国の動向も影響をあたえるでしょうね。
特に、シリア情勢は結構影響が大きいかと。
海族 様
手土産は……、海自と民間船舶がやることになるんでしょうね。
補給艦とか出せればいいんですが。
投稿: 数多久遠 | 2012年1月30日 (月) 22時31分
>手土産
行くとしたら今まで自衛隊が行った国際貢献の集大成になってしまうでしょうね・・・機雷掃討のための掃海部隊、後方支援のための補給艦・・そしてそれらを守るための護衛艦隊・・・
しかも我が国の原発が停止に向かっている社会情勢では、中東の平和と、そして原油のなどのエネルギー利権が絡みそうな争いごとには手も口も出さないといけない状況になってきております・・・・
投稿: 海族 | 2012年2月 1日 (水) 00時07分
いやあ、三井でしたか、イランに日本が精油所を建設していた時があったでしょう。
イライラ戦争で錆だらけになったようですが---。
新しくそういうモノを日本との間で(中国ではなく)、作れば、とう意図で言ったのですけどね。(ここを突っ込んで欲しかったですね)
中国と結びつく事は、北朝鮮、パキスタン等(の核テロを起こしかねない国、またはテロリストに売りかねない国)と見做されかねないですよ。
だから的にされるに決まってるでしょう。
問題はハネメイ師が高齢であることです。
それだけの判断力と決断力があるのでしょうか。
エジプトでも他の中東の国でもそうでしたが、指導者の健康によって左右されることが多いのが気になります。
投稿: みやとん | 2012年2月 2日 (木) 00時28分
海族 様
米軍のニーズが一番大きい点は、やはり機雷掃海でしょうね。
イランが海峡封鎖を図るとなれば、以前のように、周辺国から支援を受ける訳にもいかないでしょうから、ご指摘のような編成になるのだろうと思います。
ただ、そうなると政治決断は難しそうですね。
経産省は、イランと良好な関係を維持したがるでしょうし……
みやとん 様
イランを経済的に兵糧攻めにしようという今の政治情勢の中で、日本が支援して精油所を建設する訳にはいかないと思います。
それこそ、アメリカ人から裏切り者と呼ばれますよ。
イラン人(経済)の立場からしたら、原発なんかより精油所の方がいいのは当然ですが。
ハメネイは、必ずしも原爆を欲しがっているようでもないですから、アフマディネジャドが倒れれば、以外とそう言う方向に舵を切れる可能性はあるかもしれません。
投稿: 数多久遠 | 2012年2月 5日 (日) 12時31分