ロシア爆撃機による日本周回飛行の軍事的意味
ロシアの爆撃機、TU-95が日本を1周する周回飛行を実施しています。
「ロシア爆撃機が「日本1周」 首相訪問時に福島沖も飛行 前代未聞の露骨な挑発」(産経新聞11年9月9日)
ロシア機の日本海及び太平洋における飛行について(統幕発表11年9月8日)
統幕発表資料より
産経新聞は前代未聞と書いていますが、日本を包み込むようにほぼ1周したことは過去にもあり、以前にも記事を書いてます。
「これは示意行為 ロシア機による日本周回飛行」
また、同紙は、この飛行が野田首相の福島訪問に合せたものであり、露骨な挑発の意図が見て取れると書いています。
しかし、この飛行の前8月24日から30日にかけて、TU-22情報収集型と思われる機体による4回もの日本周辺飛行が確認されている他、この周回飛行と同日、フリゲート艦など4隻が宗谷海峡を東進していることが確認されるなど、ロシアは大規模な演習を実施中であり、その状況の中での行動であったことを考えると、野田首相の福島訪問に合せたと考えるのは間違いでしょう。
「ロシア機の日本海における飛行について」
「ロシア機の日本海における飛行について」
「ロシア機の日本海における飛行について」
「ロシア機の日本海における飛行について」
「ロシア軍4隻、宗谷海峡通過=千島列島周辺で演習か-防衛省」(時事通信11年9月9日)
演習自体が野田首相の就任に合わせたモノである可能性はありますが、かなり大規模な演習のようですから、妥当な見方とは思えません。
そして、それだけ大規模な演習の中で、あくまで状況の一つとして日本周回飛行が実施されたことを考えると、そこから読み取るべきモノは、政治的意義よりも軍事的意義だと言えます。
一連の活動の中で、ちゃんと軍事的な意味がある行動をしたに違いないからです。
ただし、日本を1周すること軍事的な意味があるわけではありません。
おそらくこれは、日本側に明確な攻撃目標は明らかにせず、かつ正確な長距離航法を実施(しかもIL-78による空中給油付)した作戦を行わせることを意図しただけでしょう。
実際の飛行ルート及び攻撃目標は、太平洋上を、日本のレーダー警戒網を大きく迂回して、東京に南東から向かうとか、那覇を突くといったものになると思われます。
日本とすれば、ロシアがそう言った作戦態様を考え、それを実施可能とするよう、部隊の錬成を行っている事を警戒しなければいけません。
そしてそれは、航空自衛隊にとって、結構キツイ事です。
作戦正面を限定することが難しくなるからです。
具体的には、AWACSやE-2Cによる警戒網を太平洋側にも大きく広げなければいけませんし、航空機も千歳や三沢ばかりに集中させる訳にはいかなくなります。パトリオットなどSAMの配置も、位置だけでなく射撃方位の変換を意図したモノにしなければなりません。
TU-95は、機体としては結構旧式な機体です。
ですが、こういう使い方をされると、実際の作戦時に実行に移されないとしても、日本としては警戒しなければいけなくなりますので、結果的に有効に使われたことになってしまいます。
ロシアが、北方領土周辺での軍事衝突においても、東京など日本全土を攻撃目標とし、それを行えるだけの能力を錬成していることは留意しておくべきことです。
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ん?でもこれは、F-15ないしF-2がスクランブルで常に(もちろん範囲ごとに交代・引継ぎしつつ)追い掛け回している
わけですから、領空侵犯と同時に警告射撃して無視されたら機関砲で撃ち落せばいいのではないのですか?
ステルス機でもありませんし、まして護衛の戦闘機も付いているわけじゃないですからいつものことだと思うのですが。
投稿: ナオ | 2011年9月15日 (木) 01時32分
太平洋側を跳梁しているということで我社の縄張りと重なるので提案・・・・
Pー1哨戒機に空対空ミサイル(AAM5)を積みましょう。
空が防空で多忙な時に太平洋側にエスコート無しのお客様が侵入してきたら哨戒中の機体で海自が対処しますので(笑)
投稿: 海族 | 2011年9月15日 (木) 16時22分
ナオ 様
Tu-95は、今では完璧なミサイルキャリアーです。
搭載するミサイルは、いずれも射程400km以上(つまり防空レーダーの範囲外から射撃可能)ですので、実際の作戦時にTu-95が、日本のレーダー覆域内に入る必要はありません。
日本がAWACSを上げてなければ、太平洋の遙か彼方からミサイルを発射し、防空レーダーにはいきなりミサイルが映ることになります。しかも、速いモノは着弾まで5分。百里から5分待機のアラート機が上がったときには東京に落ちてます。
海族 様
半分冗談で言われていると思いますが、冗談ではなく良い案だと思います。
というより、一部関係者では実際に考えられていた節があります。
コストというより、海自にとっても貴重なリソースであるP-1を防空に取られたくなかったので、実際には採らなかった手段なのだと思いますが、面白い話なので、ちょっと記事にまとめてみるつもりです。
投稿: 数多久遠 | 2011年9月15日 (木) 21時07分
コースを見ると対馬海峡をただ通るだけでなく韓国沿岸に沿って飛んでもいるんですね。
日本に対してだけでなく、韓国に対しても意図があるのかな、と思ってます。
投稿: かきぴぃ | 2011年9月16日 (金) 10時39分
かきぴぃ 様
政治的な意図がある可能性もありますが、ほとんどの行程が航法訓練ですから、被訓練者である搭乗者に楽をさせないように計画しただけかもしれません。
投稿: 数多久遠 | 2011年9月17日 (土) 12時03分
記事にある「TU-22情報収集型」とは、Tu-22M3Rで、写真及び電子偵察を任務とします。統幕発表の写真の「バックファイアー」は、エアーインテイクの形状からTu-22M3と判りますが、通常の爆撃機か前述のTu-22M3Rかは判りません。ロシアは共産時代から記事にある様な飛行を実施しており其の中には「東京急行」と呼ばれるのも有り、沖縄周辺空域に数ヶ月に一回位しか飛来しない中共よりも遙に警戒しなければならない事は言うまでも有りません。何せ、サンフランシスコ講和条約での主権回復間もない頃、ラヴォーチキン戦闘機で北海道上空まで侵犯した位ですから。因みに先述のラヴォーチキンは米空軍のF-84Gに撃墜されています。
投稿: ストライクイーグル | 2011年11月14日 (月) 13時48分
ストライクイーグル 様
昔は、アメリカもU-2でしょっちゅう領空侵犯やってましたから、今とは大分感覚が違うでしょうね。
投稿: 数多久遠 | 2011年11月14日 (月) 22時08分