BMDシステム総合検証の意義と妥当性 その2
前回から引き続いて、今回はキューイングの困難さについて始めます。
ここでも、問題になるのは、やはり弾道ミサイルの速度です。
ノドンの速度は、マッハ10。秒速にすれば3km以上です。
仮に、センサーが捕捉後、センサーでの内部処理、JADGEへの伝達、JADGEでの内部処理、迎撃システムへの伝達、迎撃システムでの内部処理が全くの時間を要しなかったとしても、電波は光の速度でしか伝わらないため、北朝鮮で発射されたミサイルを、キューイングして別のシステムが目標を捕捉しようとしても、電波が往復2000kmの距離を伝搬する間に、目標は、当初の位置から20m以上移動していることになります。実際には、先ほど0と仮定した時間は、当然にそれ以上かかりますから、位置のズレはもっと大きくなります。
大規模なネットワークシステムとしては、銀行のATMなどがありますが、カードの認証に結構時間がかかることを考えれば、BMDシステムの処理にも、あるていどの時間がかかることは当然です。当然、速度の速い弾道ミサイルの位置は、相当移動することになる訳です。
結果として、センサーが捕捉した情報を、そのまま送っても、キューイングを受けたシステムは、「そんなところには何も見つからない」と言うことになりかねないのです。
となると、キューイングも「ココに目標があるからココを見ろ」ではなく、「お前が見る頃には、目標はココにあるはずだから、あっちを見ろ」としなければならなくなります。
あるいは、受け取る側のシステムが、これは何ミリセック前の情報だから、移動速度を考慮するとこの辺りを見なければいけないと認識してくれなければならない訳です。
また、こんな処理をしなければならないくらいですから、処理が適切に行われないと、同一目標をとらえた複数のセンサーからの情報が、複数の航跡として認識してしまう可能性もあります。
と言う訳で、内部処理の方法がどうであれ、そう言った複雑な処理を経てキューイングがなされる訳ですので、理論上は問題なく作動するシステムを作っても、実地での検証は不可欠です。
ところが、BMDシステムの構築から随分経つにもかかわらず、この検証は始めて実施されます。
私が現役自衛官だった時にも、ある会議の席上で、かなり強く実地検証の必要性を主張したことがあるのですが、回答はネガティブでした。
予算の話ももちろんですが、実地検証を行うとなれば、模擬標的をFPS-5等のレーダーを向けられる日本海方向で、かつ海岸至近にPAC-3を展開させることが出来ないと検証ができないため、調整が困難すぎると判断されたのだろうと思っています。
ですが、この検証は、概算要求等でも情報がなく、今回突然実施されることになりました。
やらないはずだ、と思っていたにも関わらず、急遽実施されることがアナウンスされたので、私としては驚きと喜びのニュースだったのです。
もしかすると、昨年の北朝鮮による飛翔体発射の際に、キューイングが正常に行われない、あるいは1つの航跡が複数に認識される等の問題が発生したのかもしれません。
あるいは、飛翔体がPAC-3の覆域を通過しなかったため、この時問題点を洗い出すに至らなかったPAC-3についても検証が必要だという認識になったかです。
さて、次に検証要領の妥当性を考えてみたいと思います。
問題は、冒頭に書いたとおり、検証場所と模擬標的のプロファイルです。
場所は、「航空自衛隊輪島分屯基地、能登半島周辺の海・空域等」とのことで、先ほど書いたとおり、日本海側ですからFPS-5等のレーダー及び場所を自由に移動できるイージスに関しては問題ありません。
不具合があるとしたら、PAC-3パトリオットです。
と言う訳で、以前の記事で書いてみたのと同様のフットプリントを、PAC-3が輪島に展開したものとして書いてみました。
輪島分屯基地にPAC-3を展開させ、北朝鮮の方角から模擬標的を打ち込んだ場合のフットプリント
実際の試験は、もう少し北から打ち込んでも試験ができるはずです(そうすればフットプリントはもう少し北を向く)し、G空域は、輪島の直ぐ近くまでエリアがあるので、輪島にPAC-3を置いて試験することは問題なさそうです。
(試験の際には、輪島からであれば、海面に突入する模擬標的を視認できるかもしれません)
標的に関しては、AAM-4の改造標的とのことです。
AAM-4の最大速度は、マッハ4~5と言われています。
これを改造するとともに、発射のプロファイルを工夫すれば、マッハ10程度は出せそうに思われます。
改造内容としては、弾頭の単なるウエイトへの変更、誘導プログラムの改変、推進薬の形状変更等でしょう。
プロファイルとしては、これをF-15がダイブしながら打ち下ろす、あるいはハイレートクライムしながら打ち上げるものと思われます。
結論としては、場所、標的とも、検証としては妥当なもののように思われます。
粛々と検証し、問題があれば、早期に是正して欲しいところです。
北朝鮮が、何かを打ち込んでくる前に。
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コメント
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PAC3も動けるから問題ないと思っていたのですが、そうでもないのですね。
北朝鮮と言えば、サッカーでアジア予選でアウェイではピョンヤンで戦うそうです。
サッカー選手もサポータも平和という名の競技で。(そもそも北朝鮮ごときがオリンピックに参加できる
こと自体間違いなのですが、あのフラッター会長がいる限り続くでしょう)
なにかしでかすんじゃないかとヒヤヒヤしてます。
なにせ韓国に潜水艦で軍人を殺すだけでなく、砲撃を加えて民間人を殺すのですから。。
ピョンヤンの空港からバスで会場まで輸送中に爆破なんて可能性も
無きにしも非ずです。あるいは日本航空かANAかピョンヤンの空港に降り立つ時に撃ち落されるなんて可能性も十分考えられます。
そして、それを機に戦争勃発なんてことも可能性としては残ります。
そういった経緯もあって、今回のBMD立証が結構されたかもしれませんね。
投稿: ナオ | 2011年8月 3日 (水) 01時29分
ナオ 様
レーダーは、距離によって、捜索パターン(PRFなど)が変ってきますから、試験をするなら実際の使用を想定する距離で試験しないと、結果が違ってきてしまいます。
というわけで、移動式レーダーにしても、試験場の制限はあります。
北朝鮮でアジア予選ですか。
さすがに選手に手出しはしないでしょうが、サポーター(入国が許されるのか?)は危ないかも知れませんね。
何か事が起れば、盾にされかねないような気が……
投稿: 数多久遠 | 2011年8月 3日 (水) 20時44分