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2011年6月 6日 (月)

独断の是非 その2

前回の記事「独断の是非」に対して、やん様及びkuro様より、吉田所長の判断は正しく、処分すべきでないという趣旨のコメントを頂きました。

前回記事が言葉足らずだったところもありますので、補足として記事を書きます。

まず、注水継続という判断自体については、当然正しい判断でした。
大体において、注水を止めること自体が、原発に関して素人である首相の判断なのですから、当たり前かもしれません。

問題は、指揮統制上正しかったかという点になります。
企業内の意志決定に対して、軍事組織の指揮統制論で語ること自体が妥当ではないかもしれませんが、そこは敢えて無視して書きます。

本件については、東電本社及び首相官邸に原子力の専門家と言える人がいないどころか、素人のくせに政治主導だと喚くバカがトップにいるという機微な状況ではあります。

しかし、所長はテレビ会議において、状況を報告することが可能だったはずですし、中止は不適切で、注水を継続すべきだと断固主張することも可能だったはずです。
ですが、それをすることなく、中止を受け入れたように報告しながら、継続するというのは、「独断」ではなく「命令無視」です。
ですから、注水継続という所長の判断が正しいことは確かですが、命令無視は処断されるべきものだと考えて、前回の記事のように書きました。

これに関しては、非常に良い戦例があるのですが、うろ覚えの上、検索しても見つからなかったので、覚えている範囲で書きます。
(詳細を知っている方がいらっしゃいましたら教えて下さい)
太平洋戦争のソロモン諸島あたりでの事です。

アメリカ軍が、日本軍の飛行場を爆撃する作戦を立てていました。
しかし、いざ実施の当日になってから、何らかの情報から危険性が高いとして、作戦中止が決定され、前線の飛行隊にも伝達されました。
中止命令を受領した飛行隊長が、今がチャンスなのだから作戦を決行すべきだとして、作戦決行を上申をしたものの受け入れられず、最終的に命令を無視して作戦を実施しました。
結果は大成功で、日本軍に大きな打撃を与えました。
この時、アメリカ軍は、命令無視をしたものの大戦果上げたこの飛行隊長に対して、懲戒処分と勲章の授与を同時に行ったそうです。

今回のケースは、これと同じようなものではないでしょうか。
注水継続という判断は正しく、チェルノブイリを上回るような事故になっていた可能性さえあったものを防いだのですから、まさに勲章ものです。東電に人事に勲章に相当するものがあるなら、与えられてしかるべきです。
ですが、同時に、東電本社の指示を無視したことは、処分されるべきものです。

もしかすると、私のこの考え方は「軍人的」なのかもしれません。
でも、元自衛官がこのように考えるということは、健全なことではないでしょうか。

もし、私が「所長は正しいのだから処分すべきではない」、と主張するようなら、自衛隊が勝手に暴走したりするのではないかと懸念されても仕方ない事のように思います。

今回の件は、そもそも論として、首相に人の意見に耳に傾ける態度があれば、専門家を無視して注水を止めろなんていう愚かな指示にならない訳ですから、トップがバカだと恐ろしいという話かもしれません。

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指揮統制」カテゴリの記事

コメント

同意いたします。
件の所長の処分についてニュースになったとき私は
命令違反で罰し、同時に臨機に優れた判断を下したとして表彰すれば良いのでは?と思いました。

真珠湾攻撃の際にも似たような話がありませんでしたか?
命令に反して日本軍を迎撃した米軍人の話があったような気がします。

話は違いますが、軍隊以外の独断について
大昔に北陸本線の北陸トンネル内で、走行中の寝台特急「日本海」で火災が発生するという事故が
起きたことが有ります。このとき乗務員は、「火災発生時は直ちに停車すべし」との規程を無視し、
独断でトンネル外まで走行して対処しました。
結果、死傷者はゼロでしたが、国鉄当局は規程違反であるとして乗務員を処分しました。

それから数年後、同じ北陸トンネル内で急行「きたぐに」が火災を起こしました。
乗務員は規程に従ってトンネル内で停車し、延焼防止措置などを取りましたが、激しい煙に巻かれ
列車の再起動脱出を試みるも、既に停電し列車を動かすことは叶わず。
30人の人命が失われ700人以上の負傷者を出す大事故となってしまいました。

これが世に言う「北陸トンネル火災事故」で、
事故後に「列車火災発生時にはトンネル内で停車してはならない」と規程は改正され、
日本海の乗務員の処分は撤回されました。

日本海の事故の時に、規程違反は違反として罰したとしても
なぜそのような違反をおかしたのか調べて、乗務員が素晴らしい独断をしたことに気づけていれば…

私も同意見です。それはそれ(適切な判断)、これはこれ(命令無視)。個別に評価されるべき事であり「全部まとめてコミコミ」で評価すべき事ではないと。

この辺の物の見方は軍か民間かではなく、普段の仕事や生活で接する集団の規模が大きいか小さいに影響されやすいと思います。規模が小さな環境では「細かい事は抜きにして結果さえ良ければ良いじゃん」で話の進む場合が多いですから。

たしかに、それはソレ。これはこれ。ですが---。
果たして、はっきりした命令があったかは疑問です。

仮に命令系統があったとしても、この場合、命令無視ではなくて緊急避難が適応されるのではないでしょうか。
会議を続ける時間は、責任者が現場を離れる事を意味しますから、現場を優先するのは命令無視には当たらないと思います。

第一、本当の命令なら文書と一緒にくるでしょう。(テレビ会議が可能ならファクスもつなげるでしょう)
口頭の命令だけで、誰の命令かはっきりしない命令に従う方がオカシイのではないでしょうか。

モチロン、東電側は文書で命令を出したかもしれません。しかし、そうすると命令の成就も文書で確認をとるでしょう。
2か月も文書が行方不明になるモノでしょうか?
口頭で要望(都合のいい言葉ですね。責任逃れの切り札ですよ。)を述べたのでは命令にはならないでしょう。

この場合、東電の責任において命令(たとえば社長)が下されたのなら従うべきでしょう。
しかし、首相からの命令に従うのは命令系統が違うでしょう。
ましてカン邸が望んでいる、と言っただけでは命令には当たらないでしょう。

果たして東電の責任者が文書で、言い換えれば証拠の残るような形で、命令をだしたのかは極めて疑問です。


本来、こういう場合には徹底的に調査する必要があるはずです。
途中で切り上げたのには、東電の上部の責任者が誰なのか(言い換えれば、命令を出したのはだれか?)がはっきりしない。そういう無様な事態をさらさないようにするため、ではないでしょうか。

口頭での要望は、命令です。
一般の会社でもそうだと思いますよ。というか、そうです。
もちろん、その要望は、上司に当たる人間のものであること、ですが。

上の人間の指示を実施する立場の人間は、その指示が問題があると思った場合、意見具申する必要があります。
後で、気がついた場合にも同様です。
緊急回避にて、指示と異なることを実施しなければならない場合は、より迅速にその旨通知する必要があります。
そうしなければ、組織は回りません。
自分勝手な作業をする人間が増えるだけです。

もし、「文書化されているか(証拠があるか)」とかを問題にするのであれば、実施した人間が、報告書を文書化して提示すべきです。
それをエビデンスにする必要があるのです。

今回の件で、「東電が重要な決定に際して、すでに組織として機能していないのでは?」と勘ぐることができてしまいます。
この重大事に、です。

今回の事故は、個人で対処できる物ではありません。
だからこそ、しっかりと組織として正しい方向に進む必要があるかと思います。
であるからこそ、吉田所長の行為は、「実施したことは正しいことだった」けど「組織としての行動には問題がある」となるかと思います。

ので、処分が検討されることは普通のことかと思います。

軍隊の規律を基準に民間企業の統治について語るという行為が
全ての間違いの始まりです。
そもそも、間違った指示を出した本社の人間を処罰する方法が
存在しないのに所長の行動ばかりを命令違反と非難するのは
フェアではありません。

民間企業というのは結果が全てです。プロセスは二の次です。
銃弾一発まで厳密に管理しなければいけない軍隊は当然ながら
上官命令は絶対とするのと引き換えに、組織としての規律と責任
が定義されていますが、民間企業という存在は全く違います。

たとえスタンドプレーであっても、結果的に会社に利益をもたらせば
良しとする結果主義の世界です。あくまで利益団体ですから。
それゆえに成功は横取りするが失敗は立場の弱い者に押し付ける
菅直人のような人物の出世を防ぎづらい世界です。

それゆえ、今回の事件が起きたと言えます。
所長からすれば「専門知識のある現場のプロが危険性を知りながら
指示に従った」としてトカゲの尻尾切りに遭うのは明確だったはずで
どのみち同じなら技術者として正しい決断を行ったということです。

報告をしなかったのも、話の分からない人間に言っても時間の無駄
でしかないですから。

今回のことから、原発の管理を民間企業にやらせるべきではない
と考えます。利益優先が行き過ぎて、メンテナンス費用の削減を
目的に安全装置を取り外す愚行がまかり通った結果、大事故の
発生を招いたのですから。

おまけに現場作業員は使い捨ての下請けや非正規労働者なので
被曝により心身に障害を負っても切り捨てられる悲惨な実態が
あります。これではたまったものではありません。

なので国有化された組織によって、安全性を最優先目的として
軍隊的な組織によって厳密に管理されるべきだと考えます。

みなさま いろいろなご意見ありがとうございます。

この件については、所長は処罰されるべきと考える意見は、ごくごく少数のようですね。

SUS 様
真珠湾の例については、私は知らないです。(正直、戦史の知識は乏しいです)

列車事故の件は、非常に示唆的な事例ですね。

kaibat 様
確かに、大組織であればあるほど、規則重視にならざるをえないですよね。

みやとん 様
企業内の業務命令に限らず、口頭命令でも命令とみるべきだと思います。

今回、前回の記事では明確に書いていませんが、私は東電本社と所長との間での指揮命令だけを問題にしているつもりです。
官邸と東電との指揮命令については、関係法規を良く知らないので、特に言及したつもりはありませんでした。ちょっと分かりにくかったかもしれません。すいません。

kou 様
私も、東電が組織として機能していないのでは、という危惧を持ちます。
明確な命令違反を見逃さざるを得なくなっているのですから。もちろん、東電は世論が怖いんでしょうけど。

今後、東電の現場レベル責任者は苦悩するでしょうね。


kuro 様
軍隊の規律を基準というか、私の考え方が軍事組織的だということですね。

ただし、間違った指示を出した上の人間を処罰する制度的な方法が存在しないのは、軍隊(自衛隊)でも同じです。
責任者は、責任を取らされるだけです。

原発の管理を民間にやらせるべきでないというのは、私も検討すべき方向だと思います。
一カ所の事業所の事故だけで、会社が補償できる額を大幅に超えるような災害となるようなモノを、利潤追求が至上命題である民間にやらせておいて良いのかというのは、確かに疑問です。

数多様
吉田所長は、口頭注意処分になっているようです。

おっしゃる通り吉田所長の行為は、命令違反であることは事実で、
その分に関しては処分されるべきだと理解します。
満州事変を事後承認してしまった(せざるを得なかった)日本政府の
その後を見ると、処分するべきは処分しなければならないと思います。

今回は、バカな上の部下になった運の悪さを諦めるべきですネ。。。
げに恐ろしきは宮仕えかなです(苦笑)

イスラエルでは、命令違反自体は罪に問われず、その結果にのみ責任が問われる事が多いそうです。
つまり結果が良ければ命令違反も良し、だと。

 数多様・・いつも大変興味深くブログ拝見しております。「注水中断」の件ではすでに何人もの方がコメントをしておられるので、なにも付け加えることはありませんが・・例に引かれた「ソロモン諸島」の件ではまさにぴったり・でしょうね。「勲章」は東電にはないでしょうけれど、みかたによっては東電・福島原発の危機を救った・ともいえる行為ですから、吉田所長の今後の処遇については当然考慮があってしかるべきでしょう・・  とかなんとかより、新聞を見ていたら枝野官房長官が吉田所長を処分しないでほしい・とか何とか言ったそうですが・・それは政府としては「余計な発言」でしょう・・あくまで東京電力内部の問題・・・(まあ、それで菅首相の首がつながった・からでしょうけれど・だったらなおさら・・・)
 

有能な人間が独断をするのは良いのですが、有能な人間が独断をするのを見て、
無能な人間まで独断を真似し出すと、とんでもないことになりますよね。

やん 様
吉田所長は、処分されるだろうってことは分かっててやったんでしょうね。

上を見限ってたってことでしょう。

空 様
なるほど。
文化的な違いでしょうか。
全員賛成は否決扱いとか、一風変った国ですし。

J.I  様
アクが強そうですから、トップに立ったりしたら、それはそれで大変かもしれませんが、これから行わなければならない東電の
苦難を考えると、この人を上に持ってくるというのは、アリじゃないでしょうか。
何せ、国民受けもいいですし。

枝野官房長官は、何考えてるんでしょうか。
勝ち馬の尻に乗るつもりでしょうか。

イヌザメ 様
おっしゃるとおりだと思います。
だからこそ、指揮運用綱要でも、行う場合の留意事項が細かく書かれています。

数多様
個人的に、ミグ25函館空港亡命事件を思い出しました。
その当時の空自高射隊の方に直接伺ったのですが、「普段威張っているくせに、
あんな緊急事態に中央のヤツらは、何も指示してこない!」と激昂されていま
した。 今回は指示した分だけマシだったのかも知れません(苦笑)
陸自も同様で、出所不明の「函館空港に侵入し、敵を撃破せよ」という口頭命令
に従って出動した、高橋連隊長の行為と吉田所長の行為が重複しました。
無能な首相はスッカラ菅だけではなく、函館亡命事件の三木や阪神大震災の村山
もいたりして、自分がそのような事態い直面したら諦めるしかないのかと嘆息します。

東電本社と所長の間で、あったとしたら確かに数多氏の言うとおりでしょうね。

しかし、命令した以上、結果を確かめるのは命令者の義務であり責任ではないでしょうか?
命令が実行できたのか?出来たとしたら成果は?出来なかったなら何故か?
命令は出せば出しっぱなし、では上司として無責任ではないのでしょうか。

命令した後に、所長に(成果の)確認をしたのでしょうか。

命令後に確認をとっていれば、今回のようなバカ騒ぎは起きなかったのではないでしょうか。(それだけ東電が無責任なのかもしれませんが)

今回の様な場合、口頭での注意などでお茶を濁さないで、叱責と表彰を組み合わせて行なうべきだった、と私も思いますね。

やん 様
菅首相は、やる気のない有能な人間より、やる気のあるバカの方が有害だという、またとない実例ですね。

みやとん 様
仰るとおり、結果を確認していないのは、マズイですね。
自衛隊で言うところの「監督指導」が不徹底だったと言うことだと思います。

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