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2011年6月 5日 (日)

独断の是非

福島原発1号機への海水注入は、原発所長の独断で続行されていたそうです。
海水注入、実は原発・吉田所長が独断で継続」(読売新聞11年5月26日)

ということで、今回は、この「独断」の是非を、自衛隊における「独断」とからめて書きたいと思います。

「独断」は、良く「独断専行」と言う4文字熟語で語られるように、基本的に悪いニュアンスを含む言葉となっています。

ですが、軍事組織における「独断」は、必ずしも悪いニュアンスを含んだ言葉ではありません。

戦史を見ても、日本海海戦における追撃戦で第2戦隊司令長官上村中将が、三笠からの一斉回頭命令を無視し、独断でバルチック艦隊を追撃したことが、この海戦の勝利を確定させたことは、独断の良い戦例上げられます。
(逆に、悪い例は、枚挙に暇がありませんが……)

ただし、「独断」を良いものとして評価することに関しては、3自衛隊間でも差があります。
私の「独断」で、各幕の独断に対する評価度を表わすと、こんな感じです。
空自>海自>>陸自

これは、陸海空で、作戦様相が変化する時間が大きく異なるからだと思われます。
言うまでも無く、変化の激しい方が、「独断」を必要とするということです。

私が空自幹部学校でのある教育課程で、独断に関する論文を書かされた際も、2/3くらい学生が、「独断」を肯定的に評価する論文を書いてました。

空自における「独断」について、もう少し詳しく書きましょう。

空自指揮官のバイブルと言える「教範「指揮運用綱要」の解説」には、独断について次のように書かれています。
(一応断っておくと、「教範「指揮運用綱要」の解説」は、基地PXで売っているもので秘ではありません。ただし一般の方には売ってくれませんが)

 指揮官は、状況が急変し、適時、これに応ずる命令を受領できない場合においても、全般の状況を考察して上級指揮官の意図を明察するとともに、自己部隊の任務を判断して状況の変化に応ずる最良の方策を決定し、自主積極的に任務を遂行しなければならない。


これを見ても、空自ではむしろ独断が推奨されていることが分かると思います。

ただし、ここでも「これに応ずる命令を受領できない場合においても」とあるように、今回の原発でのように、テレビ会議で東電本社と話していながら、勝手な判断をしてしまうことは独断専行と言わざるを得ません。

加えて、前記教範の独断の項には、続きとして次のように書かれています。

この際、速やかに自己の企図及び行動について上級指揮官に報告することが必要である。


これに照らせば、海水注水を継続しながら、本社には中止したように報告していることは、指揮統制上、完璧な間違いと言えます。

こんなことは、わざわざ自衛隊の教範を持ち出すも無く明らかなことで、その後東電が所長の処分を検討するのも当然です。
注水継続の吉田所長、処分も検討…東電副社長」(読売新聞11年5月26日)

もっとも、この独断専行により、首の皮一枚がつながった菅政権にとっては、この所長は恩人とも言えるため、処分は不要との認識のようですが……
菅首相、吉田所長の処分必要ないとの認識」(読売新聞11年5月29日)

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コメント

この件はかなり特殊なケースで、吉田所長の責任を追及するべきではないと
思います。
独断専行プラス上への報告が無かったことについては責められるべきですが、
東電の役員レベルで原発の現場が分かる人間が一人もいないのです。
以前の原発事故隠蔽で当時の東電社長がクビになってから、原子力に関係した方
が全てパージされています。
これでは、現場の長である吉田所長が上に報告することを躊躇することは、致し方
ないと思います。

素人の想像なのですが、領空侵犯の警戒についているパイロットが、内局に報告
して指示を仰ぐようなものだと思います。 間違った認識でしたら、ご教示下さい。

今回ばかりは物申したいと思います。

東京電力という組織全体で取り組む行動目的が「原発の危機管理」に
あった以上、所長の判断が正しいです。

注水を止めればどんな事態を招くかという致命的な危険性を本社が
理解せず停止の指示を出した時点で、現場が本社を信用してないと
いう決定的な亀裂を生んでいます。

本来ならば、菅政権の思いつきを食い止める盾となって現場に作業
を継続させるのが本社の仕事ですが、結果として所長の責任で行わ
せたことに最大の非があります。

本社への報告が無かったことも、本社を信用していないという状況に
加えて所長が全て自分のクビを差し出す決断をしたことを物語ります。

組織としての行動目的を差し置いて序列と統治ばかりを優先する思考
については全く以って同意できません。

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