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2011年6月

2011年6月29日 (水)

空自基地の脆弱度

空自の基地は、2つの点で、脆弱度が増加しています。

軍事板常見問題&良レス回収機構に時期不明なミクシィからの転載らしいやり取りが乗っていました。
気になったのは、「よく「空自基地は堅固なシェルターがないので,開戦と同時に巡航ミサイル飽和攻撃で飛行機アボンだよ」と言われているのですが,これはどの程度事実なのでしょうか?」という質問だったのですが、この点に関して、状況は以前より悪化していると言っていいでしょう。

シェルター(えん体)は、千歳と三沢および小松にそれなりの数を備えているものの、他はほとんどありません。
特に、衝突の可能性が高くなっている南西方面に至っては、那覇はゼロという状態です。
これは、自衛隊が長らく北方偏重で来たためです。
那覇など、これから整備を考えたとしても、周囲の海を埋め立てるのでもなければ、場所さえありません。
下地島は、全面的に使えるのであれば、シェルターを作る用地も十分にあります。
最近の動きを見てると馬毛島を基地化する動きもありますが、何にせよどこを使うのかはっきりさせてシェルターは整備しないといけません。

また、前述の質問に対して、巡航ミサイルはVADSで迎撃できると言っている方がいましたが、これは間違いです。
確かに撃てば当たる可能性がないことはないですが、射手がゴルゴ13だったら、というレベルです。

以前の記事「GUN派が息を吹き返すか?」で書いたとおり、巡航ミサイルを迎撃可能なGUNシステムはあり、実際売り込みもありましたが、空自はVADS後継の調達には動いていませんので、巡航ミサイルの迎撃手段は、パトリオットと陸自の中SAM、そして今年から調達が開始された短SAM(改Ⅱ)だけです。
ここでも問題がいくつかあります。一つにはパトリオットが弾道弾迎撃用として、都市部の防護などで取られてしまうことがほぼ確実なこと。そして、陸自が空自の基地防空支援をしてくれるかどうかが怪しいことと短SAM(改Ⅱ)の今後の調達数及びペースが十分でない可能性があることです。

巡航ミサイルではなく、弾道弾の脅威もあるのですから、個人的にはパトリオットを基地の防空に当てるべきだと思っています。
都市部への攻撃に関しては、中国が大量破壊兵器弾道弾で投射してくる可能性は政治的に低いですし、通常弾頭の弾頭ミサイルでは効果がたかが知れてます。(東京に打ち込まれでもしたら、それでもパニックになるんでしょうけど……)

空自がステルス機として渇望するF-35が配備されたとしても、基地がアボーンされたら終りですから、もっと重点的に施策されるべきだと思います。

*消印所沢氏へ
もし見ていらっしゃいましたら、VADSの件は修正して下さい。

2011年6月26日 (日)

自衛隊における「強姦」

現役自衛官時代、常習犯という訳ではありませんが、なんどかやりました。
その都度、随分と怒られたんですが……

怒られて済む話じゃないだろ、と思うでしょうが、自衛隊用語の「強姦」は、なんとか怒られれば済みました。(後述しますが、怒られて済む話でもないのですが……)

たぶんこのブログを読んで下さっている方には、現役、元自衛官も多いと思いますが、自衛隊用語の「強姦」なんて知らない、という方も多いと思います。
と言うのも、これは幹部、それも司令部勤務をするような幹部でないと、あまり使う機会がないのです。

さて、この「強姦」は、文書を起案する幕僚に対して、次のように使います。
「次の訓練の実施般命(はんめい)は、まだ決裁受けに行ってないのか。お前、強姦するつもりか?」
「強姦」の意味は、これ以上文書の決裁が遅れると、実施に支障が生じるようなギリギリの時期になって、始めて決裁を受けようとすることで、指揮官に、決裁印を押させることを強要することを言います。
決裁に赴きながら、何度もダメ出しをくらったようなケースでは、普通使いません。

ですので、部隊の動きを指揮官がほぼ把握できているような規模の部隊、具体的に言うと指揮官が1佐までの部隊ですと、決裁が遅れている段階で、「オイ、あの件はどうなってるんだ?」という話になって、「強姦」が起るようなケースはあまりありません。
自ずと、「強姦」が行われるのは、指揮官が記憶だけで全部を動かすようなことが難しく、多くの幕僚がいる大きな部隊で、指揮官は将官であるような司令部、ということになります。

そうなると、「強姦」の対象は、多くは初老の男ということになりますから、改めて考えてみると気色の悪い話です。
品も良くありませんね。

この「強姦」をやらかす幕僚は、私の記憶では、まじめで几帳面な、いわゆる血液型で言う(これってエセ科学らしいですが)ところのA型人間に多いような気がします。
各方面に綿密な調整を行い、しっかりした文書を作ろうとした結果、ズルズルと〆切りに近づいてしまい、「強姦」することになってしまうのです。
「適当に作って指導を受ければいいさ」と考えている人間は、「強姦」はしません。

冒頭で書きましたが、「強姦」やらかすと、当然に怒られます。
ただ、本当に怖いのは、激怒するタイプの指揮官ではなく、仕方ないと思いつつも決裁印を押してくれるような指揮官です。
例えると、田母神元空幕長のようなタイプです。
「強姦」の文書を持っていった時、こう言う方が、渋い顔をしたときは、訓練などの時期の変更や中止を考えている時ですから、調整した隷下の幕僚になんと言ってお詫びをするか、また休暇の時期をずらさなければならなくなる隊員のことを考えると、背筋に冷や汗が流れます。
対して、怒るタイプの指揮官は、ここをこのように直して文書を発簡しろ、という方が多いので、隷下部隊にも「司令官がこのように言いました」と言えばいいので、気分的には楽です。

最後に、真面目な話を。
さて、この「強姦」ですが、司令官の意図に反するような決裁をさせることもある訳ですから、これは「幕僚統制」そのもので、言うまでもなく、指揮統制上、非常によろしくありません。
もしかすると、旧軍では結構多かったのかも知れません。

なお、最近は、司令部に勤務するような女性自衛官も増えてきているので、この用語も、セクハラだということで、使えなくなってきているかも知れません。

2011年6月23日 (木)

名航(三菱重工)で手抜き

航空防衛産業の雄、名古屋航空宇宙システム(通称名航(メイコウ))で、またしてもガバナンスの低下を露呈する、手抜きの事実が発覚しました。

三菱重工が航空部品製造で「手抜き」 社内告発で判明」(朝日新聞11年6月21日)

朝日の記事では、自衛隊機の部品にも手抜きがあったかどうかは明確ではありませんが、同じ記事を報じた名古屋テレビの記事(既にリンクなし)では、自衛隊機の部品にも手抜きがったと報じられています。
「航空機部品の製造過程で規定違反の手抜き 三菱重工」(メ~テレニュース11年6月21日)

違反のあった部品は約30万個で、すでに飛行しているボーイング機などの民間航空機のほか自衛隊機にも及んでいるということですが、三菱重工は「飛行の安全には影響しない」と説明しています。


製造技術は良く知りませんが、今回発覚した手抜きは、微細な傷や加工精度不良を見分ける検査の前処理のようで、ここに手抜きがあれば、微細なクラックや誤差の大きな部品が見逃されていた可能性があることになりますから、飛行安全に影響がなかったはずはありません。

エンジン部品であれば、故障の可能性が高くなったでしょうし、強度メンバーであれば、規定内の負荷でも破断が発生したりする可能性があります。

過酷な訓練を行う自衛隊では、オーバーGの発生など、「事故」にならない「事故」は珍しくもない話ですが、これは規定の負荷の範囲であれば「絶対に壊れない」部品があったればこそです。

それが実際には手抜きで作られていたとなれば、「飛行の安全には影響しない」なんてことは絶対にありません。
最悪、空中分解なんてことだって起こりうるかもしれないのですから。

名航がからむ問題と言えばF-2の墜落事故がありますが、あちらの原因は配線の誤接続という人的ミスです。
今回は、完璧な故意ですから、より悪質です。

そして、こういう問題が発生すると言うことは、ハインリッヒの法則から推察できるように、他にも表面化していない(防衛省と名航の間の問題で済んでいる)問題があるということです。

名航には、ガバナンスを見直してもらう必要があります。

ただし、今回の件が、どの程度影響受けて発生したものかは分かりませんが、防衛予算縮減の影響を受けたものである可能性も考えておく必要があるでしょう。
F-2の生産が終了して、新造機を作り目処も立たないのであれば、企業としては存続するために支出を削るしかないでしょうから……

なお、三菱ではなく名航が、と書いているのは、同じ三菱系で防衛産業に深く関わっている名古屋誘導推進システム製作所(通称名誘(メイユウ))の方は、こう言った話をあまり聞いた記憶がないからです。額が違うこともあるでしょうが。

2011年6月20日 (月)

FCLPの馬毛島移転にもの申す その4 利権の匂い

最後にもう一つ。
馬毛島には、利権の匂いがプンプンすることも、この案が頂けない理由の一つです。

馬毛島は、ほぼ全域を馬毛島開発という民間企業が所有しています。
過去にも、NLPで使用することが検討されたり、普天間の移設候補先に上ったことがありますが、どちらも具体化せずに頓挫しています。

ちなみに、私が現役自衛官だった時にも、どこから回ってきたモノか覚えてませんが、この馬毛島の写真が回ってきて、何にもない島なもんですから、ここを使用できるようにするためには大変だ、と思った事を覚えています。

しかし、NLP、普天間移設のどちらの話もポシャったにも関わらず、この馬毛島開発は、独自に滑走路2本の建設を進めています。
一民間企業、それも資金力のある大企業ではなく、何やら得体の知れない会社が、巨額の費用を要する基地建設を進めるのは、余りにも怪しすぎます。
普通に考えれば、裏があると思った方が妥当です。

もし、本当に馬毛島を使うのであれば、この馬毛島開発、及びそのバックにいると思われる住友銀行(馬毛島開発は、住友銀行に吸収合併された平和相互銀行の子会社だったそうです)と、政界関係者(民主、自民両党の中央及び地方関係者)の関係は良く調べないといけません。
何せ、馬毛島は過去にも馬毛島事件と呼ばれる政界工作の舞台ともなっているのです。
過去の怪しい事象は、こちらも何やら怪しいサイトで詳しく語られています。
匿名党

しかも、この馬毛島開発の社長は、脱税で有罪判決を受けたばかりです。
馬毛島所有の元社長、脱税で有罪判決 東京地裁」(産経新聞11年6月3日)

また、防衛省は馬毛島の土地と開発中の滑走路を買い上げるつもりと報じられていますが、馬毛島開発はリースを主張しており、継続的に利益を得ようとしているようです。

どうしても馬毛島を使用するのであれば、利権屋に防衛予算を食い荒らされることのないよう、防衛省は十分に精査しなければなりませんし、警察・検察も汚職がないかどうか調べないといけません。

2011年6月17日 (金)

FCLPの馬毛島移転にもの申す その3 馬毛島は南西諸島防衛には寄与しない

その1でも触れたように、小川防衛副大臣は、馬毛島への移転を、南西諸島防衛強化の一環と言っています。
ですが、全くとは言いませんが、馬毛島の使用は南西諸島防衛には大して寄与しません。

馬毛島は、航空基地の立地としてみた場合、空自新田原からは南南西150km、海自鹿屋からは南に70kmほどになります。
つまり、ここに航空基地ができても、南西諸島防衛という観点からは、大して戦力を前進させる効果はありません。

おまけに、写真のような島ですから、ここを戦力発揮の基盤とするためには、大型船舶が寄港できような港湾を整備する他、燃料タンク、弾薬庫等を大金をかけて整備しなければなりません。
しかも、小さな島ですから、それらは極めて近接した位置に置かざるを得ず、攻撃を受けることを考えると、極めて脆弱で、復旧困難な基地となることは明らかです。
もちろん、災害にも弱いでしょう。津波なんか来た日には、壊滅間違いなしです。

FCLPのため、年間10日しか使わない飛行場としかしないのでしたら、一応、那覇や新田原の緊急飛行場としてなら使えます。
ですが、特に那覇からは少し離れすぎです。
那覇、馬毛島間は、約600kmですが、各航空方面隊の主要基地間は、300kmから遠くても400kmで止まっていることを考えると、ちょっと遠いと言えます。
もっとも、新田原、那覇間が開きすぎなので、そこを埋めるという意味では悪くはありません。

コストパフォーマンスを考えると、馬毛島は良い選択肢とは言えません。
最近になって話の出た安波の方が、余程、効果的です。

2011年6月13日 (月)

FCLPの馬毛島移転にもの申す その2 真意は普天間移設先とすることにある

馬毛島がFCLP訓練用地として妥当でないことが分かっていながら(当然分かっているはずです)、この話を進めるのは、真意が別のところにあるからではないでしょうか。
つまり、2009年末にも話の出た普天間の移設先とする案です。
普天間代替、鹿児島の島が浮上 防衛相、地権者と接触」(共同通信09年12月5日)

まずはFCLP訓練地として飛行場を準備し、「折角準備したのですし、年間10日程度しか訓練地として使用されてないのだから、海兵隊はこちらに移転させて下さい」と言う訳です。
米軍が馬毛島に反対しているというのも、訓練効率はもちろんながら、これを警戒してのことではないかと思えます。

なお、これに関しては、最近関係するニュースが出ています。それは、オスプレイの沖縄配備です。
オスプレイ、来年後半に沖縄配備 米国防総省が正式発表」(朝日新聞11年6月7日)
以前の記事「普天間の代替候補地条件」で、普天間移設先の条件として、回転翼機(ヘリ)が台湾に空中給油なしで到達できる場所でなければ米軍が受け入れる可能性がない、と書きましたが、オスプレイの配備で、この前提が変ってきます。
オスプレイは、航続距離が1600km以上と言われています。
つまり、オスプレイ配備を前提として場合、台北まで1000km強の馬毛島なら、海兵隊の投入拠点としては、距離的には不適ではなくなるのです。(港湾の存在や、海兵隊のその他の部隊の存在場所の問題は変りませんが)
オスプレイなら、馬毛島から離陸し、シュワブ当たりで兵員を乗せ、そのまま台湾に直行が可能です。

もしかすると、北沢防衛相始め民主党政権は、国防総省によるオスプレイ配備の決定を待っていたのでは?、と思えてならないのです。(何せ、オスプレイ配備決定の翌日に、馬毛島へのFCLP移転を知事に伝達したのです!)
「オスプレイを配備するのだから、馬毛島でもいいでしょ?」と言う訳です。
アメリカとしても、抵抗し難くなったでしょう。

ですが、地上部隊と離れる上、あんな孤島に年中部隊を置くことには、米軍とすれば嬉しいはずはありません。
馬毛島へのFCLP移転が、普天間のヘリ部隊移駐への布石であるならば、これは、またしても日米同盟を怪しくする行為に他なりません。

2011年6月12日 (日)

FCLPの馬毛島移転にもの申す その1 訓練用地としての妥当性

大分長くなるので、何回かに分けて送ります。

防衛省が、米軍艦載機による陸上空母離着陸訓練(FCLP)の移転先を、種子島の西に浮かぶ馬毛島として動き出しました。
馬毛島移転案を鹿児島知事に伝達 米軍機訓練巡り防衛省」(朝日新聞11年6月8日)

同じ内容を報じる沖縄タイムスの記事では、小川勝也防衛副大臣が、南西諸島防衛強化の一環としてこの事業を進めたいと説明したそうですし、南西諸島防衛という観点から、ミリタリー系ブログでもでも、この動きを歓迎する向きもあります。
北大路機関「第五空母航空団岩国移転後の陸上空母発着訓練拠点候補に鹿児島県馬毛島案

確かに、南西諸島防衛という観点からはプラス評価ができる話かもしれません。
ですが、私はFCLPの馬毛島移転に反対です。

軍事面でのお話をする前に、簡単に馬毛島の地勢を見ておきましょう。
馬毛島は、種子島の西約12kmにあり、南北約4km、東西約3kmの小く平坦な島です。
岩国からは、約400km離れています。
Ws000007
馬毛島の位置
Photo
馬毛島の航空写真(朝日新聞より)

FCLPの必要性・意義については、リンクを貼った北大路機関様の記事が詳しいので、そちらを見て下さい。
さて、今回は、馬毛島がFCLPの移転場所として検討されている訳ですが、岩国から離陸して馬毛島でFCLPを訓練、また岩国に戻るとなると、1回の訓練で、移動に往復800kmを飛行することになります。しかも訓練は低高度で大推力を出すことが必須のFCLPとなれば、消費する燃料も多く、訓練効率は非常によろしくありません。

F-18の航続距離は、3705km(by Wiki)ですが、これは増槽装着、高高度巡航の際の数値です。原型のC/Dでは比べても詮無いかもしれませんが、こちらの戦闘行動半径が537kmでしたので、馬毛島まで進出して訓練する場合には、ちょろっと訓練したら直ぐにかえらなければならないと言う事になります。
実際、米軍は、岩国から180km以内の訓練地を要望していると言われており、馬毛島が本来の目的であるFCLPのためには不適であることは明らかです。

では、要員の宿泊場所も含めて施設を作り、馬毛島から離陸して、即訓練するのならどうだ?という考えもあると思いますが、それをするなら、今も行っている硫黄島での訓練をすればいい話であり、馬毛島に施設を作る金が無駄です。

では真意は?
という話は次回に

2011年6月10日 (金)

今年の航空観閲式は中止すべきだ

今年は中止だろう、と思っていた観閲式ですが、実施の方向で動き出したそうです。

航空観閲式、準備指示 「被災地・原発に集中を」制服組批判」(産経新聞11年5月30日)

一般の方には知る由もありませんが、観閲式の実施はホント~~~~~~~に大変です。
お金は勿論ですし、隊員・部隊の負担は、大変なものです。

空自の震災災害派遣は、既にピーク時から半減していますが、松島基地が被災した事による影響も含め、航空観閲式を実施すれば、訓練の実施や対領空侵犯措置と言った本来の業務に悪影響が出かねません。

防衛大臣は、観閲式実施の大変さを知らないから「淡々とやるべきだ」などと言うのでしょう。
制服サイドも、「航空観閲式を含む自衛隊行事を開催するか判断を仰」ぐのではなく、「中止すべきです」と進言すべきです。

もしかすると、北沢防衛相は、この航空観閲式を主催すれば、陸自の中央観閲式、海自の観艦式とならび3自衛隊の観閲式を制覇したことになるので、何とかやりたいという思いがあるのかもしれませんが……

なお、総火演も実施するそうです。
こっちは、果たしてどの程度負荷になるのか、十分知りませんが、結構大変ではないでしょうか。
個人的には、見に行きたいのでやって欲しいですけど……

2011年6月 6日 (月)

独断の是非 その2

前回の記事「独断の是非」に対して、やん様及びkuro様より、吉田所長の判断は正しく、処分すべきでないという趣旨のコメントを頂きました。

前回記事が言葉足らずだったところもありますので、補足として記事を書きます。

まず、注水継続という判断自体については、当然正しい判断でした。
大体において、注水を止めること自体が、原発に関して素人である首相の判断なのですから、当たり前かもしれません。

問題は、指揮統制上正しかったかという点になります。
企業内の意志決定に対して、軍事組織の指揮統制論で語ること自体が妥当ではないかもしれませんが、そこは敢えて無視して書きます。

本件については、東電本社及び首相官邸に原子力の専門家と言える人がいないどころか、素人のくせに政治主導だと喚くバカがトップにいるという機微な状況ではあります。

しかし、所長はテレビ会議において、状況を報告することが可能だったはずですし、中止は不適切で、注水を継続すべきだと断固主張することも可能だったはずです。
ですが、それをすることなく、中止を受け入れたように報告しながら、継続するというのは、「独断」ではなく「命令無視」です。
ですから、注水継続という所長の判断が正しいことは確かですが、命令無視は処断されるべきものだと考えて、前回の記事のように書きました。

これに関しては、非常に良い戦例があるのですが、うろ覚えの上、検索しても見つからなかったので、覚えている範囲で書きます。
(詳細を知っている方がいらっしゃいましたら教えて下さい)
太平洋戦争のソロモン諸島あたりでの事です。

アメリカ軍が、日本軍の飛行場を爆撃する作戦を立てていました。
しかし、いざ実施の当日になってから、何らかの情報から危険性が高いとして、作戦中止が決定され、前線の飛行隊にも伝達されました。
中止命令を受領した飛行隊長が、今がチャンスなのだから作戦を決行すべきだとして、作戦決行を上申をしたものの受け入れられず、最終的に命令を無視して作戦を実施しました。
結果は大成功で、日本軍に大きな打撃を与えました。
この時、アメリカ軍は、命令無視をしたものの大戦果上げたこの飛行隊長に対して、懲戒処分と勲章の授与を同時に行ったそうです。

今回のケースは、これと同じようなものではないでしょうか。
注水継続という判断は正しく、チェルノブイリを上回るような事故になっていた可能性さえあったものを防いだのですから、まさに勲章ものです。東電に人事に勲章に相当するものがあるなら、与えられてしかるべきです。
ですが、同時に、東電本社の指示を無視したことは、処分されるべきものです。

もしかすると、私のこの考え方は「軍人的」なのかもしれません。
でも、元自衛官がこのように考えるということは、健全なことではないでしょうか。

もし、私が「所長は正しいのだから処分すべきではない」、と主張するようなら、自衛隊が勝手に暴走したりするのではないかと懸念されても仕方ない事のように思います。

今回の件は、そもそも論として、首相に人の意見に耳に傾ける態度があれば、専門家を無視して注水を止めろなんていう愚かな指示にならない訳ですから、トップがバカだと恐ろしいという話かもしれません。

2011年6月 5日 (日)

独断の是非

福島原発1号機への海水注入は、原発所長の独断で続行されていたそうです。
海水注入、実は原発・吉田所長が独断で継続」(読売新聞11年5月26日)

ということで、今回は、この「独断」の是非を、自衛隊における「独断」とからめて書きたいと思います。

「独断」は、良く「独断専行」と言う4文字熟語で語られるように、基本的に悪いニュアンスを含む言葉となっています。

ですが、軍事組織における「独断」は、必ずしも悪いニュアンスを含んだ言葉ではありません。

戦史を見ても、日本海海戦における追撃戦で第2戦隊司令長官上村中将が、三笠からの一斉回頭命令を無視し、独断でバルチック艦隊を追撃したことが、この海戦の勝利を確定させたことは、独断の良い戦例上げられます。
(逆に、悪い例は、枚挙に暇がありませんが……)

ただし、「独断」を良いものとして評価することに関しては、3自衛隊間でも差があります。
私の「独断」で、各幕の独断に対する評価度を表わすと、こんな感じです。
空自>海自>>陸自

これは、陸海空で、作戦様相が変化する時間が大きく異なるからだと思われます。
言うまでも無く、変化の激しい方が、「独断」を必要とするということです。

私が空自幹部学校でのある教育課程で、独断に関する論文を書かされた際も、2/3くらい学生が、「独断」を肯定的に評価する論文を書いてました。

空自における「独断」について、もう少し詳しく書きましょう。

空自指揮官のバイブルと言える「教範「指揮運用綱要」の解説」には、独断について次のように書かれています。
(一応断っておくと、「教範「指揮運用綱要」の解説」は、基地PXで売っているもので秘ではありません。ただし一般の方には売ってくれませんが)

 指揮官は、状況が急変し、適時、これに応ずる命令を受領できない場合においても、全般の状況を考察して上級指揮官の意図を明察するとともに、自己部隊の任務を判断して状況の変化に応ずる最良の方策を決定し、自主積極的に任務を遂行しなければならない。


これを見ても、空自ではむしろ独断が推奨されていることが分かると思います。

ただし、ここでも「これに応ずる命令を受領できない場合においても」とあるように、今回の原発でのように、テレビ会議で東電本社と話していながら、勝手な判断をしてしまうことは独断専行と言わざるを得ません。

加えて、前記教範の独断の項には、続きとして次のように書かれています。

この際、速やかに自己の企図及び行動について上級指揮官に報告することが必要である。


これに照らせば、海水注水を継続しながら、本社には中止したように報告していることは、指揮統制上、完璧な間違いと言えます。

こんなことは、わざわざ自衛隊の教範を持ち出すも無く明らかなことで、その後東電が所長の処分を検討するのも当然です。
注水継続の吉田所長、処分も検討…東電副社長」(読売新聞11年5月26日)

もっとも、この独断専行により、首の皮一枚がつながった菅政権にとっては、この所長は恩人とも言えるため、処分は不要との認識のようですが……
菅首相、吉田所長の処分必要ないとの認識」(読売新聞11年5月29日)

2011年6月 2日 (木)

書評「悪魔が舞い降りる夜」

時事ネタが少ないので、今回も書評です。

私からは先輩と言うべき、元自衛官、福原廉太郎氏の手によるミリタリーサスペンス。



副題が「北朝鮮特殊部隊 日本潜入」と題されており、帯には「原発に襲いかかる潜入特殊部隊。停止する通信機能。寸断される交通網。ライフライン壊滅に瀕し、炎上する東京-。警察力では対処不能の危機に、遂に自衛隊に出動命令が発せられた!!衝撃の同時多発シミュレーション!」とあります。

コレは、精緻なシミュレーションかもしれない、と思って読んだのですが、実際のところは……

ジャンルで言えばミリタリーサスペンスなんですが、テイストはハードボイルドです。
ハードボイルドを悪く言うつもりはありませんが、敵がヤクザならリアリティがあるものの、本書のように北朝鮮の工作員や特殊部隊相手にハードボイルドしてしまうのは、どう見ても現実離れしています。

主人公については、イージス艦の艦長もやった1等海佐(当然それなりに年です)なのですが、SEALSで実戦も経験した(研修や訓練を行う事はあっても、実戦はあり得ない)という、ちょっと無理な設定です。

著者は、防大卒業で護衛艦での海上勤務や海幕での幕僚経験もある方です。
ハードボイルドにせずとも海洋冒険小説の方が書きやすいと思うのですが、なぜか公安のような捜査と特殊部隊との銃撃戦を描いたようです。

折角読んだので書評として書きましたが、正直オススメできる本ではありませんでした。(人の事なんて書ける立場じゃありませんが……)

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