NBCフィルターの気体放射性物質防護性能
プルトニウムまで検出されている状況になったので、今更これを問題にしても詮無いことにも思えますが、安易な理解は危険だということで、書いてみます。
先日の記事「福島原発に74式戦車投入」にNBC様より、「一般にNBCフィルターは毒ガスや気体の放射性物質も吸着できる」とのコメントを頂きました。
また、週間オブイェクト様のコメント欄でも、前掲記事のリンクが貼られ、次のようなコメントが寄せられていました。(おかげで妙にアクセスが増えた)
NBCとは以下の3単語の頭文字を並べたものです。
Nuclear(核兵器)
Biological(生物兵器)
Chemical(化学兵器)よって、化学兵器に代表される毒物の気体も防げなくては意味がありません。
NBC対策という名前が付いているからには毒物の気体だけでなく、
放射性物質を含んだ気体も防げるのではないかと思います。
NBC様へのレスコメントでも書いたこととダブって来てしまうのですが、単純にNBCと名前が付いていれば、何でも対応できるのだと簡単に考えている方が多いようです。
放射性物質をフィルターで除去する場合、どんな物質をどんなフィルターで除去するのかが問題です。
塵(微細な粒子)であれば、HEPAフィルターで除去できます。そのため、原発でも使用されています。
NBC対策(N)として軍事上もっとも対応すべきフォールアウト(放射性降下物、死の灰)にも非常に有効です。
それに、戦車など、容積的に限界のある機材でも非常に少ないスペースで取り付けられます。
ですが、今回の記事で問題にした気体の放射性物質(クリプトン85やキセノン133と言った放射性希ガスや気体化したヨウ素)はHEPAフィルターでは除去できません。
ヨウ素に関しては、水溶性なので湿らせた布でも効果がありますが、希ガス類は科学的に安定(他の物質と化合しない)なため、化学的に捕集することも困難です。
そのため、原始的(?)とも言える活性炭で吸着するしか手はありません。
では、74式戦車のNBCフィルターが活性炭入なら大丈夫かと言えば、仕様がわからないので断定はできませんが、正直難しいと言わざるを得ません。
それは、スペース的に、そんなに分厚いフィルターを入れることは難しいからです。
実際、どの程度の活性炭フィルター厚があれば、希ガスを吸着できるのかは、その道の専門家ではないので分かりません。
ですが、参考になる資料として、原発で希ガス吸着用として使用されている活性炭フィルター厚の資料がありました。
原子力安全・保安院の原発事故資料
浜岡原発の希ガスホールドアップ塔略図(前掲の原子力安全・保安院資料より)
浜岡原発の希ガス吸着用ホールドアップ塔は、高さ9mもあり、図上で判断すると活性炭層の厚さは6m以上にもなります。
しかも、このホールドアップ塔が直列状に4塔設置されているため、都合、24mもの活性炭層が希ガスを吸着していることになります。
もちろん通気させる量が違うということは言えますが、これだけの層厚が必要な希ガス対策が、74式戦車に施されているとは到底考えられません。
それどころか、化学防護車やNBC偵察車でも不十分かもしれません。
しかし、それならばNBCフィルターと言いつつ、毒ガスには対処できないのではないか、という懸念を抱く人はいらっしゃるでしょう。
ですが、兵器として使用される毒ガスの多くは、「ガス」とは呼ばれても実際にはガス(気体)ではなく、エアロゾルです。揮発性も強くないものが多用されます。(揮発性が高いと、容易に風乾され、拡散してしまって効果が低くなる。)
そのため、活性炭はもちろん、HEPAフィルターでも有効です。
まとめると、HEPAフィルターや層厚の薄い活性炭、あるいはその複合で作られているであろうNBCフィルターは、兵器として用いられるNBC兵器には十分有効なはずですが、放射性希ガスには効果不十分な可能性が高いと言えます。
もちろん、今回の現場にはプルトニウムまで検出されているのですから、NBCフィルターを装備した機材を持ち込むことは非常に有用です。
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