ブログランキング&ツイッター

  • 軍事・防衛 ブログランキング
  • ツイッター

« 武器輸出3原則緩和に向け、防衛相補佐官に及川氏を起用 | トップページ | 陸自部隊 違法出動の可能性? »

2010年11月14日 (日)

悪魔の辞典的「基盤的防衛力」解説-機甲師団廃止の序曲

基盤的防衛力
みなさんは、この言葉をどんなモノと認識しているでしょうか。

年末に迫った防衛計画大綱の見直しにおいて、遂に削除されるかもしれないと噂される、日本の防衛力整備の核心と言えるキーワードですが、私から見れば、日本の防衛力整備を歪んだ形にしている諸悪の根源です。

という訳で、今回はこの「基盤的防衛力」(整備)の解説を、普通は隠される行間を補って、悪魔の辞典的に行います。

しかし、まずは行間を見る前に、歴史を見てみましょう。

「基盤的防衛力」構想は、昭和51年の防衛計画の大綱、いわゆる51大綱において登場した言葉で、白書によれば「わが国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、(中略)独立国として必要最小限の基盤的な防衛力を保有する」となっています。
登場の背景としては、日本独力では対処不可能なほど強大なソ連軍を仮想敵(公式には仮想敵とはしていない)とする上で、ソ連軍の戦力に合せた(巨大な)防衛力整備は不可能なので、要事に戦力の拡大が図れるよう、各種の基盤的な戦力を配備しておく、というものです。

この考え方は、07大綱によっても「基本的に踏襲」されましたが、「新たな脅威や多様な事態への実効的な対応」を、「限られた資源」(人・物・金)で行うために見直すべきとする考えが強くなり、16大綱においては「有効な部分は継承」となっています。
そして現在は、完全に脱却すべきではないか、ということで、年末の大綱見直しが注視されている状況です。

ここまで、歴史を見ただけでも、怪しい部分がちらほらと見えるのですが、以下では白書に記述された解説の行間を読み解いてみます。

白書では、基盤的防衛力について、「平時において十分な警戒態勢をとりうるとともに、限定的かつ小規模な侵略までの事態に有効に対処可能」と書かれています。
これは、裏読みすれば、限定的ではなかったり、小規模じゃなければ対処不可能でも構わない、ということです。

自衛隊の保有弾薬は少なく、開戦から3日しか保たない、などと言う噂は良く耳にする話です。
3日が妥当かどうかはともかくとして、そんなに少ないってことはないだろう、と思うかもしれませんが、現に大綱において基盤的防衛力として、限定的かつ小規模な事態にだけ対処できる(弾薬)だけで良い、と書かれているのですから、何ヶ月も戦えるだけの弾薬を持っているはずはないのです。

また、「防衛上必要な各種の機能を備え、後方支援体制を含めて組織および配備において、均衡のとれた態勢を保有することを主眼」とも書かれています。
これは、前述した「わが国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも」という部分とも関わってくるのですが、基盤的防衛力が、わが国の国力では対抗しようもない巨大なソ連軍を想定していたこともあって、実際に想定される事態に実効的に対処できるかどうかを考慮する必要はなく、単に各種の機能が一通り揃っていれば良い、と言っていることになるのです。

軍事評論家の清谷信一氏が、日本の装備品選定や調達数を決めるに当たって、起こりうる事態や対処を想定していないと頻繁に批判していますが、それは当たり前なのです。
大綱が基盤的防衛力として、実際に想定される事態に実効的に対処できるかどうかを考慮する必要はない、としているのですから。

このことは、自衛隊も問題であることは認識しており、07大綱において、「新たな脅威や多様な事態への実効的な対応」と盛り込み、それまでの考え方のおかげで、現有装備体系が「実効的でない」との反省していることでも覗えます。

ともあれ、実際に想定される事態を考慮する必要はない、とされているおかげで、「均衡のとれた態勢」として、自衛隊は、専守防衛の政治的な配慮で保有が止められる物を除き、基本的に何でも持っています。

例を挙げれば、戦車です。
ドイツのように陸続きではないため、ソ連の大機甲部隊と戦うためには、航空作戦や上陸作戦を経た後でなければ戦う事態が想定されません。
そのため、戦車が本当に必要なのか、自衛隊内部にも疑問がありましたが、にもかかわらず機甲師団を配備しているのは、基盤的防衛力という考えの基、必ずしも実際に起こる事態を考慮していないからです。

ですから、大綱から「基盤的防衛力」が消えると機甲師団は解体の可能性が出てくると思われます。(流石に戦車自体を廃止にはしないでしょうけど。)
現在はソ連の機甲師団が大規模な上陸作戦を行う可能性よりも、中国の特殊部隊が離島に侵入してくる事態の可能性の方が遙かに強いからです。

もう一つの例として、逆に、基盤的防衛力というお題目に守られる必要がなくなっているものとして、FSがあります。(今はFI、FSという区分事態が無くなりましたが)
冷戦当時、ソ連の航空戦力に対して、わが国のFIとSAMの戦力では、DCA(防勢対航空)の段階で、航空優勢確保が到底おぼつかない状況でした。
FSは、ソ連の着上陸阻止のためのAI(航空阻止)任務を実施するような段階になる前に、地上で壊滅させられる可能性が高かったのです。

ですから、戦車無用論と同様に、FSは不要で、全てFIに回した方がいいんじゃないか、という話がありましたし、おかげでFS(のP)の地位は低く見られていました。
今は、離島防衛のために対艦攻撃能力を不要と見る方はいないでしょうから、基盤的防衛力というお題目に守られる必要はなくなっているでしょう。

総括すると、実際に起こる事態を想定するのではなく、装備・部隊は、何でもカンでも一通りの物を用意して、弾薬などの継戦能力は、最小限の量を用意しましょう、というのが「基盤的防衛力」整備構想でした。

日本のように、周囲を海で囲まれ、長い海岸線と持つ反面、縦深がほとんどないなど、特殊な防衛環境にあれば、世界の主要国とは異なった特色ある防衛力でも良いはずですが、日本は基盤的防衛力という考えの基、何でもカンでも、世界の趨勢を追っかけて来ました。

もし、年末の大綱見直しでこのキーワードが消えれば、日本の防衛力整備は大きく変って行く可能性があります。
変って重要になりそうなキーワードは、今のところ「実効性」、「弾力的」、「多機能」というあたりですが、今後数十年の防衛力整備の方向性を示す、○○的防衛力なんて言葉を案出中かもしれません。
答えは、近いうちに漏れ出してくるでしょう。

« 武器輸出3原則緩和に向け、防衛相補佐官に及川氏を起用 | トップページ | 陸自部隊 違法出動の可能性? »

防衛政策」カテゴリの記事

コメント

確かにソ連の崩壊以後に本格的な見直しを含んだものが行われるべきだった、と思います。ただし基礎的防衛力という言葉が無かった場合、冷戦が終わったーだから、軍縮だ。という極端な流れになりかねなかった、と思うのですが。

そして今になって何故?という疑問もあります。民主党(少なくとも民主党の一部)は事あるごとに自衛隊・海保(等のひろい意味での日本の防衛力)を弱体化させようとしてきました。今回の尖閣ビデオの非公開もその視点で見るとおかしな事では無いかもしれません。

まさか考え過ぎとは思いますが、次の選挙では負けそうだから、今のうちに自衛隊を---。というんじゃないでしょうね。

あのビデオ流失も手伝って、防衛力削減なんて提言したらもっと大変なことになるでしょう。
削減なんて安易に言えるはずがないと思ってます。
防衛力を強化しておくと、あちらもヘタな行動にでにくいでしょう。政府としても今回みたいな
変な事態に巻き込まれるリスクを減らすことが出来ます。削減したら、余計に調子にのって
色んな島にまで回ってきて挑発してくる可能性が十分に考えられます。
防衛力を強化してまで向こうが挑発してきたとしても、対策は取った!と言い訳できますから。

基盤戦力は常に保ちその中で防衛力を上げるために必要な戦力の増強には
どれが効率的か、その点に付きます。
航空兵器・護衛艦ないし潜水艦増強はほぼ決まったようなものではないでしょうか。

で、戦車ですが600両で終わってしまうのではないかというのが正直なところです。
上陸された時点で国民に被害が及ぶのは確実ですから、できれば洋上で壊しておきたいからです。
(撃退できれば上陸されてもいいという考えはちょっと危険ですからね)
離島防衛にはC-Xでの輸送が可能な機動戦闘車が控えてますから、有利に働くのではないかと推測されます
むしろこちらに期待したいですね。離島においてこれがあれば攻め込む側は大きな火力を持つ戦車が必要になりますからね。ただし戦車枠には入れないこと前提にしてほしいですが。


機甲部隊の大規模な着上陸侵攻の蓋然性は、島嶼侵攻の蓋然性より低くなっているとは思いますが、
彼らは機甲部隊の着上陸能力も整備しつつあるように聞き及びます。完全に捨て去る訳にもいきませんね。


「基盤的防衛力」の枷を外し、「実際に起こりうる事態」を想定して、それに対処できる防衛力を整備することには大賛成なのですが、現政権下で「基盤的防衛力」の枷を外して大丈夫なのか不安になってきました。

「実際に起こりうる事態」をそう認定するのは誰かという事を考えると…
「平和を愛する諸国民の公正と信義」を盲信している人々が必要以上に口出しするのではと

厳しい財政状況の中の限られた予算の中で優先順位を決めなくてはならないという現実はある訳ですが、その一方で日本を取り巻く安全保障環境が大きく変貌しつつあるのも事実ですね。最大の難関は民主党と言うよりもやはり財務省でして。それをoverride出来るのは政治主導しかありません。それが期待できないのが今の民主党政権ですね。
戦車不要論が言われて久しいですが、戦車に対抗出来るのは戦車しかないのも事実でしょう。600両にまで削減して不安に感じるのは私だけでしょうか。

みやとん 様
基盤的防衛力は、その成立過程には規模が関わっていますが、規模を規定する文言ではないので、「基盤的防衛力」があったから軍縮を防げたということはないと思います。
何でもカンでも買っておくためには、予算が必要だったというのはあるかもしれませんが。

なぜ今になってかと言えば、民主のせいも勿論ありますが、やはり金がなくなってきたからじゃないでしょうか。

ナオ 様
ビデオ流出のおかげで、削減は言いにくくなったでしょうね。

「どれが効率的か」を考えないことが基盤的防衛力です。
それが消えかけてきたことから、FXだったり潜水艦増強だと見ています。

戦車は、もっとバッサリ行ってしまう可能性もあるのではないかと思います。
陸自も、南西方面の防衛には戦車よりも機動戦闘車と考えているのではないでしょうか。

SUS 様
友愛を叫ぶお花畑は消えてくれましたが、実権を握っているのが日本よりも某国に敬意を示す悪徳弁護士ですからね~。

アシナガバチ 様
おっしゃるとおり、難関は財務省でしょうね。
「他を切る」と言ってくれる勇気と気骨のある政治家がどれだけいるか……、少なくとも民主にはいません。

戦車に対抗するのは戦車しか居ないのは同意しますが、戦車を投入される戦場が発生するか(そこまで政府が持ちこたえるかも含めて)には、疑問を感じます。

2003年の話ですが、民主党は機甲師団廃止をマニフェストに挙げていましたよね。
http://www.eda-jp.com/dpj/2003/manifesto/3-5.html
それがいよいよ実行される、と言うことでしょうね。

何にしてもいらない物は、必要な部分にリソースを集中するのは良いことだと思います。

藤宮 直樹 様
民主のマニフェストは、考え方が全く不明のお題目だけなので、あれで強行されると各所で不具合が生じそうです。
なぜ20%なのか、なんて全く触れられておらず、そもそも考え方が存在するのかも不明なので……

資源(予算)がない中、選択と集中は致し方ないところでしょうね。

着上陸侵攻の蓋然性が低いので機甲師団を廃止してゲリコマ対処に特化していくと、着上陸侵攻の蓋然性は高まります。
そういう場当たり的な対処にはあまり賛同できません・・・。
着上陸侵攻の蓋然性が低いのは大変結構なことなので低いまま保ちましょう

のり 様
で、着上陸阻止にお金を使うと、それ以前の対航空の段階でやられる可能性が上がる……
と言うように、そう言った言い方では論議がイタチゴッコになるだけです。

全てに備える予算がある訳ではないので、より可能性の高いものという考え方で、どこかで線引きしないと、現実的な話になって行かないかと……

この話は、なにも民主党になってから言い出した話ではないので、どこまで行くかはともかくとして、方向性は変らないと思います。

結局、マルチロール化したFIと防空システム(防空ミサイル込み)強化、潜水艦、護衛艦、対艦ミサイル増強が一番必要です。
足掛かりを作らせない事。作らせてしまっても拡大させない事が日本防衛の要であるのは元の進攻での日本の奮戦を見ればよく分かります。

Suica割 様
昔と比べ、機動力が非常に高くなってますから、足がかりを作らせないだけでは不十分な気がします。
今は、東京を攻撃するためにミッドウェーが必要なんてことはないですから。
必要なツールはそのあたりになるかなとは思っております。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 悪魔の辞典的「基盤的防衛力」解説-機甲師団廃止の序曲:

« 武器輸出3原則緩和に向け、防衛相補佐官に及川氏を起用 | トップページ | 陸自部隊 違法出動の可能性? »

最近のトラックバック

ブックマーク、RSS