菅首相が韓国砲撃事件で言ってはならない発言 周辺事態法適用は考えてはいない
韓国砲撃事件で、ちっとも関連の記事を書かないので、不審に思われていた方もいらっしゃると思います。
書かなかった理由は、砲撃ではあっても、これが、軍事というより政治の領域の話題だと思ったからです。
で、政治面の話はブログ「リアリズムと防衛を学ぶ」が「北朝鮮による砲撃、または「若将軍」のバクチ」との記事で、これ以上はないというくらいに見事な解説を書かれた(新聞など有料のマスメディアでも、ここまで掘り下げた記事はない)ので、私が書けることはなくなりました。
が、菅首相がオオボケをかましてくれたので、簡単に書きます。
この人は、本当に一国のトップとして向いていません。
絶対に言ってはならない一言を言ってしまいました。
「菅首相、周辺事態法検討を否定=北の砲撃対応、渡辺氏と食い違い」(時事通信10年11月29日)
周辺事態法は、一言で言うと周辺事態に際して、日本が米軍の後方支援を行うための法律です。
周辺事態法の実際の法文は、オブラートに包まれ、分かりにくくなっています。
ですが、その成立経緯などを見れば、アメリカからの働きかけもあり、韓国北朝鮮の衝突や台湾海峡有事において、必ずしも日本に直接の脅威が及んでいない時点においても、(我が国の平和及び安全の確保に必要な措置として)米軍の後方支援を行う事を可能にするために制定されたことは明らかです。
周辺事態法成立の発端は、1994年の北朝鮮危機の発生です。
この時、アメリカは本気で北朝鮮を爆撃することを検討したと言われ、一触即発の状態にまでなりました。
この時、日本は法的に米軍を支援する枠組みが不備だったため、水面下で相当の圧力を受けたものと思われます。
そのため、これを契機として、日米間で日米防衛協力ガイドラインが改訂され、それを国内法的に担保するため、周辺事態法が成立しました。
詳細が知りたい方は、森本敏氏の書いた次の論文を見て下さい。
日米防衛協力ガイドラインと周辺事態法
と、成立の背景とその目的が分かれば、菅首相の発言の意義が分かります。
つまり、菅首相の「私がその法律の適用を検討していることは全くない」との発言は、「日本政府として、(韓国と北朝鮮が衝突して米軍が介入する事態になっても)米軍の後方支援をすることは考えてない」と発言したに等しいのです。
現在、アメリカは米韓軍事演習を実施し、北朝鮮に圧力をかけています。
当然、日本はこれを支持しなくてはなりません。
ところが、菅首相は支持するどころか冷や水を注いでしまいました。
日本の立場としては、「米軍の軍事行動を支持する」というような、明確なコミットメントは、現時点では必ずしも必要ではないでしょう。
ですが、「可能性として排除しない」程度の言い方で、あり得る事だとしておく必要があります。
アメリカから表向きに抗議が来ることはないでしょうが、防衛・外交当局者は、今頃釈明に追われている可能性さえあるのではないでしょうか。
本当に、危機意識のない指揮官です。
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