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2010年10月11日 (月)

F-2欠陥機疑惑は空幕の作為か

F-2の欠陥機疑惑について、もう下火になってきたし今更書くこともないか、と思っていたのですが、「週間オブイェクト」が「防衛省航空幕僚監部(空幕)は小川和久氏のF-2欠陥機説を説明せよ」と題して、鋭い見解を述べていたので、取り上げてみることにします。

JSF氏は、上記の記事中で、小川和久氏のF-2欠陥機説に対する態度の理由として、「F-2は特に大きな欠陥はないが、欠陥機であるという噂を流す必要があった」と一つの仮説を述べています。

JSF氏は、可能性の一つとして書いていますが、私はこれが一面の真実だと思っています。

なお、私はF-2に不具合があったことは世間一般で騒がれる前から聞いていましたが、基本的に担当外の業務だったため、不具合の内容についてはwikipediaに書かれている程度にしか承知していません。
ですので、以下については「業務上知り得た秘密」以外の一般情報を前提に、過分に推測で書かせて頂きます。

まず、試作・試験飛行の段階において、F-2が「欠陥機」だったのか、という本質についてですが、「不具合の存在」=「要求性能の不充足」ですから、その意味では欠陥機とも言えたでしょう。

ですが、例えばASMを4発も抱いた状態で高迎角姿勢とした場合に不安定な挙動を見せる、などというものは、私から見れば「支援戦闘機」として欠陥でもなんでもないと思っています。

そもそも、対艦攻撃編隊が敵による迎撃を受け、退避を行わなければならない状況になっている時点で作戦は失敗です。その時にはASMを投棄して逃げればいいだけです。(あんな大きな外装物を付けているのですから、旋回後の直線飛行でも速度が出ません)

常続的な航空優勢の確保が困難なことから制空権という言葉が使われなくなったように、航空作戦の様相には一瞬の力の空白、防空力の弱くなる瞬間がどうしても発生します。
これをバルタイム(vulnerable time:脆弱時刻とでも訳すべきか?)と呼び、この一瞬を衝くように攻撃作戦を計画することは定石ですが、それに失敗しても良いように要求性能を書くなんて、そもそも要求が過大です。
(極論すれば、対艦攻撃編隊はヨロヨロとでも作戦空域まで進出し、あとはサッサと逃げ帰ってこれればOKなのです。)

では、なぜそのような過大な要求がなされ、欠陥機扱いされなければならなかったかと言えば、そこには日本人的な本音と建前、そして空幕の最大の仕事である予算取得上の必要性というものがあったと思っています。

もう少し突っ込んだ言い方をすれば、空幕はFS(支援戦闘機)としてではなく、FI(要撃戦闘機)として十分な性能が欲しかったが、当時はFS(支援戦闘機)としてしか要求できなかったと言うことです。

以下、もう少し詳しく書きます。
防衛計画の大綱別表において、編成定数が定められていますが、1996年の大綱、いわゆる07大綱において、それまでFI10個飛行隊、FS3個飛行隊と定められていた飛行隊定数が、FI9個飛行隊、FS3個飛行隊と、FIがマイナス1個飛行隊となりました。

一般の方は「なんだ1個飛行隊くらい」と思うかもしれませんが、航空機自衛隊としては、その戦力の根幹であるFI飛行隊数の削減は衝撃的でした。
一部では防空自衛隊と自虐的な揶揄さえあるほど、防空力の維持には心血を注いでいたにも関わらずの措置だったからです。
(そんな揶揄も、専守防衛で防衛だけやれと言われているのですから当然なんですが)

そんな訳で、07大綱以後、1990年代後半、つまりF-2の試作・試験飛行の段階において、航空自衛隊は、要撃戦闘能力の確保に必死だったのです。

防衛計画の大綱改定は、なにも降って湧いた話ではありません。
冷戦の終結以降、防衛費削減圧力は増大し、防空自衛隊の主力であるFI戦力にも大なたが振られるという話は、07大綱の輪郭が見え始める以前から言われていた話です。

ですから、空幕はFSXの要求段階で、FIとしての使用に耐える要求性能を盛り込む努力をしました。
その結実がF-2な訳です。

重複になりますが、対艦攻撃を主任務とするFSに、そもそもそんな高機動性能は必ずしも必要ないのです。
(もちろんあるに超したことはありません。あの翼面積の少ないF-1でもFSとしては使えていたことを考えて下さい)

空幕としては、FIとして使えるモノを調達したかった(本音)にも関わらず、試験飛行の結果、それには問題があることが判明したのです。
FIとしては不十分だけど、FSという建前で取得しようとしている以上、改修予算を付け、メーカーにも「調達中止の恐れもあるぞ」とプレッシャーをかけるためには、欠陥機疑惑は都合が良かったのです。

私は、空幕(あるいは内局)が、意図的にF-2欠陥疑惑を流したとは思っていません。ですが、積極的に火消しをしなかった事も事実です。
(他の国なら、必死に火消しをするのが普通です)

なお、2004年の16大綱において、FIとFSの区分が廃止されましたが、これが廃止されたからF-2を要撃戦闘にも使う事にしたという訳ではありません。
当初より、要撃戦闘に能うる性能を具備するよう計画され、初期に発生した不具合を修正し、実際に要撃戦闘に能うるようになったからこそ、区分の廃止となったと見るべきです。(お役所は、こういう建前が必要なんです)

小川氏は、空幕に知らず知らずの内に、疑惑の片棒を担がされた訳です。
空幕とすれば、未だに燻っているのは想定外でしょうけど。

私は、防衛・軍事の専門家には2種類の方がいると思ってます。
それは、ハードを多少なりとも理解している方と政治的な側面が得意な方です。
(もちろん両立している方もいらっしゃいますが)
小川氏は、どちらかと言えば後者でしょう。(ハードに言及した話は少ないです)
ですから、一度関係者から話を聞いた事象については、別の関係者から聞かないと修正されないんだろうと思っています。

それと、私の感覚での話しになりますが、F-2の不具合について、当時いろいろと言われている方はFIのP(パイロットの隠語)に多かったように思います。
FSのPは、じっと黙って耐えている感じでした。
(単に、私も周りの方がそうだっただけかもしれませんが)

最後に、今でもF-2は欠陥機なのか、という点ですが、もう不具合は改善され、FIとしても十分な潜在力があると見るべきです。
(逆説的ですが、)そうでなければ、「F-2空対空戦闘能力の向上」として(FIとしての)能力向上改修の予算なんて付きません。
空幕も、そして財務省のお役人も、バカじゃないんですから。

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航空機一般」カテゴリの記事

コメント

そうすると小川さんはただのピエロって事ですね、お気の毒に…

なるほど。
しかしF2はもともと実戦部隊としては三個飛行隊として計画されていました。
削減されたのは損耗予備機やブルーインパルスの機体です。
機体の数を増やすことは叶わないのだから尚のこと、F-2への火消しには必死になると思うのですが…。
あんな欠陥機を配備するなんて!と地元の人間が反発して大騒ぎになる可能性だって十分
考えられますし、とても都合がいいとは思えないんですけれど・・・

大変勉強になりました。特に、議論の筋道の立て方が説得力があります。作戦航空機の絶対数減少の危機の折、F2再生産の機運が高まることを希望します。

私は単にF-2の欠陥の話も軍用機では良くある、「開発/飛行試験時に発見された不具合が量産化後も後々まで言われる」だけだと思ってたんですけども。諸事情を考えると、そういう単純な話でもないのでしょうね。

名無し 様
ピエロは言い過ぎかと思いますが、状況変化もあるはずなのに、ずっと同じ事を言うのは問題ありでしょうね。

ナオ 様
すいません。
ちょっと趣旨が分からないです。
07大綱で減らされたのは、FS(支援戦闘機)ではなく、FI(要撃戦闘機)飛行隊の方です。

エンジンに問題があったら、基地周辺住民も騒ぐでしょうけど、F-2の不具合として言われていたものは、どれも運用制限をかければ安全上問題になるようなものではありませんでしたから、実際騒がれなかったのだと思っています。

通りすがりの人 様
ありがとうございます。
実際、何かにつけて予算、予算、予算って言われるんですよ。
お役所はどこも同じだと思いますが……

私もF2の再生産に賛成ですが、概算要求とか見ると、可能性は薄くなってきましたね。

藤宮 直樹 様
背景によって影響は受けているものの、不具合としては、良くある初期の不具合だと思います。
だいたい、もっと酷い不具合を抱えたままの兵器だっていくらだって……

ほぼ全てが新規開発のF-2で、不具合が無いなんてことはあり得ないことです。
その後の改善を、しっかりと評価するべきだと思います。

やん 様
確かにその通りだと思います。
米国がからんだ開発経緯なんかに不満がある方が多かったことなどで、過剰に騒がれたんじゃないでしょうか。

>ASMを4発も抱いた状態で高迎角姿勢とした場合に不安定な挙動を見せる

その件はともかく、私が知る限りF-2が想定される対艦ミサイル4発を搭載してミサイルを発射するというミッションの実験すらやっていません。
要求を満たすかどうかの試験すらやっていなくて欠陥がわかるでしょうか。

また三菱重工関係者はつい最近までレーダーに不具合があり、それは主としてレーダー本体と機体とのマッチングと述べているそうです。
そのような「不具合」は欠陥ではないでしょうか。

F2は欠陥機です諦めろ軍事オタク

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