菅首相は弱腰ではなく無能(尖閣問題)
逮捕されている中国漁船船長が釈放されることになりました。
「尖閣沖の衝突事件、中国人船長を釈放へ「日中関係考慮」」(朝日新聞10年9月24日)
粛々と処置すると言っていたので、記事も書かずに静観していたのですが、腰砕けもいいところです。
これによって、菅首相も従来の弱腰外交を踏襲しているとして批判が渦巻いてますが、私は弱腰だとは思っていません。
事態を理解した上で、強行な策を取らないのは弱腰ですが、事態を理解できていないのは無能だからです。
中国は、(国際)世論に対しての宣伝戦をしかけて来ていました。
そこには理念などはなく、国益しかありませんから、仕掛けた戦いに敗北が見えない限り撤退することなどあり得なかったのです。
(実際に撤退したのは日本になりましたが)
尖閣を中国領土だと主張し、海保による船長逮捕を不当だと主張する以上、日本による法的措置を認めてしまえば、日本の管轄権を認めたことになってしまうため、中国はこれを認めることは決して出来なかったのです。
これは、日本人が北方領土に渡航する際、日本政府がロシアによるビザ取得を必要と認めない事と同じです。
では、中国にとって敗北とはどんな状態だったかと言えば、アメリカが、日本の側に立った明確なコミットメントをし、中国がまるでこの問題など始めから無かったのごとく振る舞うことでした。
実際、アメリカは言論だけのコミットメントはしていました。
先月には、国務次官補が尖閣諸島が日米安保の適用対象になると発表しています。
(この件に関する新聞記事は既にリンク切れのため、代わりにこれに言及した週間オブイェクト様の記事を貼っておきます。)
「尖閣諸島は日米安全保障条約の適用対象」
そして、昨日も国務長官が明言しています。
「クリントン米国務長官「尖閣は日米安保適用対象」」(読売新聞10年9月24日)
読売は直ぐにリンクが切れるので、全文を転載しておきます。
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【ニューヨーク=志磨力】前原外相は23日午前(日本時間同日夜)、ニューヨーク市内のホテルでクリントン米国務長官と初めて会談した。
会談は約50分行われた。日本側の説明によると、沖縄・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で日中間の緊張が高まっていることについて、外相は日本の国内法に基づいて粛々と対応していることを説明した。これに対し、長官は理解を示したうえで、「尖閣諸島には、(日本への防衛義務を定めた)日米安保条約5条が適用される」と明言した。
長官が安保条約適用にあえて言及したのは、強硬姿勢を崩さない中国側をけん制する狙いがあったとみられる。外相は「日中2国間の問題で、東シナ海に領土問題はない」と強調し、「外交問題として、大局的な見地からしっかり取り組む」と応じた。
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そして、アメリカは、ここまで言った以上、事態が政治問題からエスカレートして軍事的衝突が懸念される状態になれば、介入せざるを得なかったのです。
もし、そこで黙っていれば、日米同盟だけでなくNATOを含むアメリカの結ぶ全ての軍事同盟の信頼性が低下するからです。
国務長官も、この時点で日米安保条約の適用対象だと明言する以上、状況によっては軍事介入も覚悟していたはずです。
それにも関わらず腰砕けになった菅首相。
おそらく、クリントン国務長官もあきれ果てているはずです。
彼女がサッチャー元英首相なら、日本の内閣には男が一人もいないと言っていることでしょう。
アメリカが軍事介入を含む強力なコミットメントを行えば、中国は引き下がるハズでした。
何しろ、今回の事案発生直後から、中国は事態が軍事的危機になることを避けていたからです。
この問題の発生直後、中国は漁業監視船を尖閣近海に急行させながら、海保艦艇に近づく前に引き返させました。
事実上軍艦に等しい中国の漁業監視船が武装を持つ巡視船に接近すれば、双方の銃口が睨み合う事態になり、双方ともに、より強力な軍及び自衛隊を出さざるを得なくなり、自ずと軍事的な危機にエスカレートせざるをえませんでした。
中国は、それを避けたのです。
自衛隊の次に出てくるはずの、米軍との衝突を避けるためです。
アメリカは、そこまでの覚悟があることを発信してました。
それにもかかわらず、日本の無能首相は……
今回の措置によって、今後、海保は尖閣周辺でまともな活動はできなくなるでしょう。
今後、余程まともな指導者が出てこなければ、回復は難しいようにも思えます。
もし、という仮定の話は好きではないのですが、今回の事案を好ましい方向で解決するとしたら、どんな処置が可能だったでしょうか。
アメリカが明確なコミットメントをしている以上、日本は虎の威を借りて中国に圧力を与え、最終的には中国のメンツを保ってあげれば良かったハズです。
具体的には、さっさと起訴・裁判を行い、罰金刑での有罪にでもしておけば良かったのです。
罰金は、後で払わせる事にして、一旦解放します。
中国とすれば、罰金を踏み倒すことで、日本による管轄権を認めたのではないというメンツが立ったでしょう。
菅首相があやまった判断をした理由は分かりません。
国際関係というものが全く理解出来ていなかったのか、あるいはアメリカのコミットメントに頼れば、巨大な借りを作ることになり、普天間問題や今後問題になりそうな思いやり予算に関して、アメリカの意向に沿った処置をせざるを得なくなることを恐れたのかもしれません。
いずれにせよ無能ですが。
今回の事案は、「人命は地球よりも重い」と言ってテロリストの味をしめさせたダッカ日航機ハイジャック事件にそっくりです。
今後、日本を安保理の理事国に推すような国はなくなるでしょう。
これだけ無能ぶりを示せば、十分です。
なお、政府は今回の処置を検察のせいにするつもりのようですが、そんな事を信じる人はいないでしょう。
「中国人船長釈放、仙谷官房長官が政治介入を否定」(朝日新聞10年9月24日)
那覇検察による「(釈放は)日本国民への影響や今後の日中関係を考慮した」という会見内容も、法的判断ではなく政治的判断だったという言外の抵抗でしょうし、本当にこんな理由で判断したのでしたら、完全な越権行為な上、職務怠慢に他なりません。
地検の担当検事が、本当にこんな判断をしたのなら、郵便不正事件の前田検事よりも重罪です。
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所詮、三権分立なぞ名前ばかりだということでしょう。
政治の圧力をモロに受けるということが今回でハッキリ示してもらいました。
そして管とその取り巻きがとんでもなくチキンであることも。
ただ、単なる無能なのか臆病者なのかというと後者の気がします。
というのも多数の進出している企業連中および経団連ら無言の圧力と
言えるものを感じたのかもしれないからです。仮にここで裁判かけて終わったとして、
中国政府は軍事的な圧力をかけずとも経済的な圧力をかけられるからです。
軍事圧力でなければ米国は何も動かないですからね。
稀少金属の類もその一部ですが、現地にいる工場を突然閉鎖に持ち込んだり
何か理由をつけて逮捕したりすること(まぁ今回もやってますね)が中国では平気でやってきます。
いわゆるチャイナリスクをいえるものですが、対策が取れていない企業は普通に死にます
(まぁ自業自得ですが)
そうなると領土に目を取られているうちに国内経済にダメージを与えるということを避けたの
かもしれません。実際尖閣諸島が日本の領土だと中国が認めたとしても油田が共同開発で
あることに変わらないでしょう(まぁそこもドジ踏んだわけですが)
そうなると今後注意していくのは今まで以上に取り締まりを強化して漁民を入れないようにして
わが国の漁場を荒らさないようにすることと、勝手に油田吸い上げられないよう厳しく監視することしか
できないです。
岡田が「中国に依存しすぎた」と日本企業に向けて言ってましたが、あれが答えなんでしょう。
企業も国もなんとも情けないことですが、背に腹は変えられないのでしょうかね。
この国の経済面で自力回復がないかぎり今後も似たようなことが続くのでしょう
投稿: ナオ | 2010年9月24日 (金) 23時46分
先日、民間人でこの事件に少し関わった方の話を聞く機会がありました。
少なくともその方の関わった(結構重要だと私は思う)部分について、海保にはマニュアルも事前準備も何も無いようだったと言ってました。
関係者の方々の職務を全うしようとする努力や誠意で、この事件は処理されているんだなと、私は感じました。
政府首脳陣は、どんな気持ちで職務に就いているのだろう?
八重山の5万人の命を、生活を、どう考えているのだろう?
投稿: 野底マーペー | 2010年9月25日 (土) 01時09分
昨日は情けなくて涙が出そうになりました
"戦争と断交が恐ろしくて官邸主導で釈放を決めた"との報道が出ていますね
アメリカは武力行使がなされた場合は同盟国としての責務を果たすと、表明していたと思います。
これでは、中国は武力に訴えるのは無理だったでしょう。
彼らだって今戦えば、折角整備した海軍が大変なことなってしまうのは判っているでしょうから…
断交や経済的対抗措置は、中国側も無傷ではいられないものでしたし、本当に残念でなりません。
なによりも、ご丁寧に検察当局が圧力に屈した事を示唆したので
”日本は圧力で容易に原理原則を曲げる”と世界中に喧伝してしまったことが大きな痛手でしょう。
もうすこし上手く取り繕うことが出来たと思うのですが、いくらなんでも残念内閣過ぎます。
総理や閣僚の、意志決定の材料となる情報や方策を提供する組織って無いんでしょうか…
投稿: SUS | 2010年9月25日 (土) 06時49分
今回の件は仕方なかったのではないでしょうか。
中国側が武力行使を避け、人質と経済制裁と言う方策を採った以上、日米安保では対抗できません。覚悟にしても、採りうる手段にしても今回はあちらが数段上手だったのですから。
今の日本には国民を見捨てるような手段は取れませんし、かといって9条の縛りで助けに行くことも出来ません。レアアースの禁輸措置もあちらも無傷な訳ではないでしょう。
今回の一件で、中国の脅威は現実のもので、今の体制では日本は対抗できない、と言うことを多くの国民が知ったでしょうから、今後国民の意識が変わっていくのなら、こういう結末も悪くなかったと思いますよ。(半年もすれば、多くの人が忘れてしまう、と言う危険性もありますが…)
これで防衛費増の方向に世論が流れてくれると尚良いんですけど。
投稿: 藤宮 直樹 | 2010年9月25日 (土) 21時35分
2025年までに日本という国が無くなってしまうという、中国高官の話が現実的に思えてなりません。
これから中国語の練習でもしましょうか?(苦笑)
日本人も能天気ですから、これでも防衛費を増額して国を守るという意識は無いようですし。。。
投稿: やん | 2010年9月26日 (日) 02時37分
ナオ 様
チャイナリスクに対処出来ていない企業に再考をさせるためにも、今回は良い機会だと思ってましたが……
岡田さんの発言は的を得ていたと思います。
野底マーペー 様
こう言う終り方をしたおかげで、海保の現場はさらなる混乱に陥っているでしょうね。
今後、領海内での違法操業を見つけても、接近して警告するくらいしか出来ないでしょうし、それさえも無視する漁船もでてくると思われます。
そうなった時には、また官邸に通報するんでしょうが、見逃せって言うんでしょうね。
逆に、日本の漁船が中国の漁業監視船に拿捕されないか心配です。
尖閣の先には油田があり、その先には与那国、宮古列島、さらにその先には沖縄本島があるはずですが……
沖縄の方が、政府を信用できなくなってもむべなるかなかと。
SUS 様
私も、ここまで腹が立つのと同時に失望したのは久方ぶりです。
日本は圧力に弱いというのは、世界が認識したでしょうね。
流石に、必要な情報が上がってない訳ではないと思います。要は識見が足りないんですよ。
自衛隊の最高指揮官がだれだか分かってないような首相ですし。
藤宮 直樹 様
仕方なかったなんて、トンデモありません。
日本だって宣伝戦をやり返すことが可能だったのに、それもしませんでした。
今回の措置が間違っていたことは、今後の推移を見てれば分かりますよ。
意志と能力があって始めて脅威になります。
今回、日本には意志がないことが中国に明確に伝わりました。
こんな対応を続けるなら、防衛費の増額をしても無意味です。
やん 様
2025年は早いかもしれませんが、洒落じゃない方向になってますね。
防衛費増額しても、根性なしじゃ話になりません。
日本は、中国の無謀さを世界に喧伝して、中国不買運動でもさせるくらいな事を考えなければいけなかったはずだと思ってます。
投稿: 数多久遠 | 2010年9月26日 (日) 10時27分
今まで中国の脅威に対して十分な備えをしてこなかったこと、今が民主党政権で菅内閣であること、そういった諸要素全て含んだ上での「仕方ない」です。
こういう時は強いリーダーシップを発揮できる人が首相だと良いのですが、今はそうではないですし、現政権に最善手が採れたとも思えませんから。
「意思」は政権が変われば変わりますから、来るべきその日に備えて「能力」だけでも伸ばしておくに越した事はないと思います。
今回の対応が間違っている、と多くの国民が思っていることが救いですよ。
投稿: 藤宮 直樹 | 2010年9月26日 (日) 23時21分
藤宮 直樹 様
確かに、国民が彼らを選んだ訳ですから、そう言う意味では仕方ありませんね。
ただ、実際にどの程度の国民が今回の対応にダメだししてくれるのか……
経済関係のブログなど見ると、これで良かったなんて記事も少なくないので。
緊急世論調査とかして欲しいものです。
投稿: 数多久遠 | 2010年9月27日 (月) 22時02分