H23概算要求-その2_FX他、航空優勢の確保関連
航空優勢に関わる23年度概算要求で最大の話題は、やはりFXです。
各種飛ばし記事も流れたFXですが、最終的にステルスに拘泥する空自が、(F-35の)調査費用のみを概算要求に盛り込んで、FXの選定調達は先延ばしにしました。
航空優勢確保のためには、代わりにF-15とF-2の能力向上改修を盛り込んでいます。F-2の追加生産はなし。
FXにステルスを望んでいる最大勢力は、当然Pだと思いますが、純減になって口減らしされる結果になっても知らないぞっと……
さて、FX選定と能力向上改修に関しては以前の記事でも述べたので、今回はその他の話題について書きます。
まず、04式誘導弾(改)の開発について
04式誘導弾(以下AAM-5)の能力向上型開発が新規で盛り込まれています。
現行AAM-5自体の評判が悪かった訳ではないですが、これは資料にあるとおり、空中給油機が配備されたことに伴う改修でしょう。
空中給油機の配備により、航空機が長時間のCAPを行う可能性が出てきました。
それに合せてシーカ冷却持続時間の延長が必要になったようです。
ボトルの大型化を図るのか、何らかの方法で冷却効率を高めるのか、はたまた必要な冷却温度を上げるのか……、方法は分かりませんが、そのあたりの研究だと思われます。
IRCCM能力や背景識別能力の向上は、併せて行うことにしたのでしょう。
なお、資料にあるとおり雲が背景になることで誘導制度が不十分になるような状態なら、現状では陸地を背景にした打ち下ろしは厳しいのかもしれません。
次に、ミリオタでもあまり注目しないと思いますが、重要な研究開発案件が盛り込まれているので、そちらに注目してみます。
それは、将来のレーダー方式に関する研究です。
FX選定などステルス機を配備することばかり注目されてますが、日本の場合、どうしても防勢的な作戦に対応することが必要です。
そのためには、長時間安定的に警戒監視を行うため、地上配備レーダーに対ステルス能力を付与して行くことは必須です。
バイスタティックやマルチスタティック、さらにはビーム合成処理でステルスを捕捉するレーダー技術は、対象国のステルス機開発能力の先を行く必要があります。
幸い、日本にはその検証のために使える先進技術実証機(ATD-X)もあります。
対ステルスレーダーがあれば、前述のAAM-5改などを利用して非ステルス機でステルス機を迎撃することも不可能ではないので、ここは是非良いモノを作って欲しいところです。
経費は将来のレーダー方式に関する研究に23億円となっています。
もっとドーンと投入してもいい研究だと思います。
航空優勢確保関連の要求については以上です。
さて、23年度概算要求の総額は、FXの調達が見送られたのにも関わらず、本年度予算より増額となる要望になっています。
もしFXの調達まで盛り込んでいたら相当の増額要求となっていたか、あるいは他の予算を相当に食いつぶすことになったと思われます。
FXに対する他幕(陸幕と海幕)の風当たりが強いのも分かります。
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海自の艦船新造は潜水艦と掃海艇各1、陸自はなぜかアパッチロングボウ1と10式戦車10、空自では輸送機くらいと全体では増額要求とはいえ、中国の軍事費の急増ぶりを思えば心もとない限りです。こんなんでいいのかなあと思うのは私だけでしょうか。
投稿: | 2010年9月18日 (土) 00時27分
これからステルスを研究するとなると、10年以上は掛かってしまいますから、
対ステルスレーダーで、ステルス機を捕捉できる技術を開発する方が効率が
良いと思います。数多様のおっしゃる通り、重要な研究だと思います。
投稿: やん | 2010年9月18日 (土) 02時07分
>現行AAM-5自体の評判が悪かった訳ではないですが、これは資料にあるとおり、空中給油機が配備されたことに伴う改修でしょう。
それは、あくまでも最終的なトリガでしかありません。開発終了段階でのフォローアップ項目に既にこの話が出ていました。その場においては空幕の中の人(FIのP上がり)はアメリカやイスラエルのSRAAMを引き合いに出し「イスラエル製含め世界の趨勢(虚偽)はボトルレス(虚偽)なのに、日本の誘導弾にはボトルが入っている。世界水準に劣る(虚偽)ので採用したくない」と強烈な電波発振を公の場でやらかしたという、空幕の今の状況を伺わせる面白いハプニング(その後、発言者の立場を慮った研究科の人やその他制服組の曖昧なフォローの嵐と冷笑の嵐も含む)もありましたが。今思えば、あの辺りから海上自衛隊の様に何がなんでも米国製という指向が露骨になったなと思います。ま、後は言わずもがなですけれども:D
投稿: さむざむ。 | 2010年9月19日 (日) 11時40分
>さむざむ。氏
・・・なんかあまり聞いてはいけない話を聞いてしまった気がします。
ていうかまず発射母機の絶対数が少ないことに関して意見が出ないのはどういうことなのだろう。
投稿: ナオ | 2010年9月19日 (日) 21時48分
名無し 様
防衛費については、中国など周辺国の軍拡状況と比べて問題視する論も多くはなっていますが、まだまだ活発にはなっていませんね。
不況も続いているので、難しい側面があると思います。
やん 様
ちょっと地味ですが、そういう所こそ着実にやってほしい所です。
個人的には非常に興味の湧く要求なのですが、ネットなどでも取り上げられることは滅多にないですね。
さむざむ。 様
シーカ関係は最も重要な部分ですし、CMとイタチゴッコな部分がありますから、フォローアップ項目にも載ってたんですね。
ボトルのことについては、整備性と稼働率を気にしてのことなら妥当性もある主張なんでしょうが、そういう話ではなかったようですね。
大体、部隊整備の能力が低ければ手のかからないボトルレスの方がいいんでしょうが、日本みたいに整備の能力が高ければボトルレスを追求する必要性自体が薄いように思います。
何がなんでも米国製というトレンドになりつつあるのは、運用者が原理を理解し難いほど技術が高度化しているせいもあるように思います。
思い返してみても、機器の作動原理の理解不足と思える運用者は少なくなかったので……
理解できなければ、バトルプルーブンの方が良いとなるのは必然的ですから。
やっぱり、国産兵器も海外に売って、実戦での真価を実証しないと。
ナオ 様
発射母機の数ですが……、(航空)自衛隊には、極端な程の数より質重視という悪しき伝統があります。
年度末の防衛計画の大綱見直しを経て、少しづつ改善するのではないか……、と期待しています。
投稿: 数多久遠 | 2010年9月20日 (月) 19時58分
うーん。バトルプルーブンというのも微妙の様な気もしますが、、、例えばAIM9XとかAMRAAMの撃墜率ってどの程度なのかな?と調べてみると、前者は無し(発射数も無し?)で、後者は発射したけど逃げられた例が多数だったりで、スパローの方がまだましぢゃああっ、と言ってるUSAFの人も居るくらいでして。もしかしたら、今度の運用によってもまた評価が変わるのかも知れませんが、少なくとも現時点においては演習番長に近い扱いをされてるのは確かっぽいですよ。
投稿: さむざむ。 | 2010年9月20日 (月) 22時26分
>>数多久遠様
>極端な程の数より質重視という悪しき伝統
今急軍拡している中国空軍機に対して今の個数で大丈夫なんてホンキで考えているんでしょうか・・・
特に沖縄にいる一個部隊の方々は。ちょっと甘すぎる気がしますね。
中国だってもうすぐ空母も手にしますし、石垣島に一個沖縄二個くらい置いておかないと
かなり厳しい戦いになると思います。
古いからスパホやF-15Eは買わない!じゃなく全体の戦力バランスを考えないと現場ばかりの
主張で物事通すのは好ましいとは思えません。
軍を出してくるかどうかは分かりませんが、西方面を本格的に強化しないと政治的にも影響及ぼします。
投稿: ナオ | 2010年9月21日 (火) 22時56分
さむざむ。 様
そうですね。
確かに、バトルプルーブンでは適ってないですね。
やっぱりブランドネームというべきでしょうか。
しかし、そう言ってしまうと、はなはだ情けないものがあります。
何せ、年収が少ないにも関わらずヴィトンだのシャネルだのを持ち歩いているチャラい女の子と、お堅いはずの自衛官が同じ精神構造だってことになってしまうんですから……
ナオ 様
そのうち書こうとおもってますが、日本の防衛力整備は敵の能力ありきで決まっている訳ではないんです。
それは、冷戦期でもソ連に対抗できる数があった訳ではないことからも理解できると思います。
ただ、中国は実際に触手を伸ばしてきそうですし、考えを変えなければならないことは安保懇などでも指摘されています。
場所の事に言及するなら、石垣ではなく、是非下地島を挙げてやって下さい。
立派な飛行場設備を持ちながら、開店休業状態ですし、世論が下地活用すべしになれば現地の方々も反対しにくくなるでしょうから。
質も確かに重要なんですが、衆寡敵せずは普遍的な真実だと思います。
そのためには防衛費の増額が必要ですが……
政治的にも影響するとのことですが、今の尖閣の状況を見ても既に影響しちゃってますね。
投稿: 数多久遠 | 2010年9月22日 (水) 22時51分
数多様
下名も下地島はJALやANAの訓練空港がありますので、空自の基地にするには良い位置だと思っていたのですが、何かの
TV番組で森本敏氏が「下地島は中国の巡航ミサイルの射程範囲内に入っていて、基地は作れない」とおっしゃっていました。
これは、本当の話でしょうか?
数の面では、中国には絶対に敵いませんネ。 中国と対等に戦う為には、今の防衛費を何倍にもしなければならないと思い
ますが、現状ではあまり現実的ではありません。
投稿: やん | 2010年9月24日 (金) 00時41分
やん 様
巡航ミサイルですが、DH-10の事でしたら那覇でも射程内なので少々的外れな見解です。
それに、当然周辺にはパトリオットや中SAMが展開することになりますし、周辺は海ばかりで環境は良好ですから、十分迎撃可能です。
23年度以降は、短SAM(改Ⅱ)も迎撃に充てられます。(予算が通ればですが)
むしろ問題なのはSRBMです。
PAC-3で迎撃はできますが、何しろ数があるので……
それに下地がOUTなら、宮古も石垣も同じです。
そうなると次は那覇ですが、那覇から上がるのでは行動半径の関係から尖閣上空あたりまで航空優性を確保するのは困難です。
やはり、下地を使わざるを得ないと思います。
宮古や石垣は民間人の避難でも忙しいはずですし。
投稿: 数多久遠 | 2010年9月24日 (金) 23時18分
数多様
なるほど、那覇は巡航ミサイルの射程に入っているのですか。。 専門家である森本氏がこのようなレベルでは。。。
短SAM(改Ⅱ)も、早期に数を揃えて配備してもらいたいですネ。
であれば、やはり下地島を有効活用するべきですネ!
投稿: やん | 2010年9月26日 (日) 14時47分