対中国防警計画は間違っている
自衛隊が離島の奪還を意図した訓練を実施することが報じられています。
「自衛隊が離島奪還訓練、南西諸島想定し12月」(読売新聞10年8月19日)
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防衛省が今年12月、新たに策定した沖縄・南西諸島の防衛警備計画に基づき、陸海空自衛隊による初の本格的な離島奪回訓練を、大分・日(ひ)出生(じゅう)台(だい)演習場などで実施することが、18日、明らかになった。
(中略)
訓練は、青色(味方)軍と赤色(敵)軍に分かれ、大分県内の陸上自衛隊日出生台演習場の一部を離島に見立てて行われる。
まず、赤色軍が自衛隊の配備されていない離島に上陸、占拠し、島内に対空ミサイルなどを備え付けるとともに、周辺海域に海軍艦艇を集結させているという状況から始まる。
すぐさま防衛出動が発令され、防衛省は、対地、対艦攻撃能力の高い空自F2戦闘機と海自P3C哨戒機を出動させる。赤色軍の対空兵器を弱体化させるとともに、陸自空挺(くうてい)団員など約250人が乗り込んだ8機の空自C130輸送機が、空自F15戦闘機の護衛を受けながら離島に接近する。空挺団員らは次々にパラシュートで降下し、海空自の援護射撃を受けながら赤色軍を制圧、島を奪い返すというシナリオだ。
訓練は同演習場のほか、沖縄・南西諸島周辺の訓練海域も使って行われる。
(中略)
防衛省幹部は「中国に対し、日本は南西諸島を守りきる意思と能力があることを示す。それが抑止力となる」と訓練の目的を説明する。同省は訓練の一部を公開する予定という。
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自衛隊の場合、予算として盛り込まれてない大規模訓練を実施することは事実上不可能ですから、この訓練は、今年度の予算資料で実施が盛り込まれていた陸自方面隊実働演習(離島対処)に米軍の協力を取り付けたものだと思われます。
同訓練については、以前の記事「H22概算要求-離島侵攻対処」において想定がおかしいと注文をつけています。
まさか、それを見て変更した訳ではないでしょうが、今回の報道を見る限り、想定はまともなものになっているようです。
予算資料にあった内陸部への侵攻対処は消えて、純粋な離島侵攻対処になっています。
ただし、日出生台の一部を設想(せっそう:自衛隊用語で、演習などで状況付与のために想定すること)離島とするようですが、それが魚釣島だったとしたら、あの急峻な島に8機ものC-130輸送機から空挺降下することが本当に可能なのか、少々疑問でもあります。
それはともあれ、今回の本題はこの訓練ではなく、この訓練が検証を兼ねるであろう防衛警備(以下防警と表記)計画です。
防警(ぼうけい)は、正式な名称を「防衛、警備等に関する計画」と言い、訓令で作成することが定められています。
内容は、「(重大な事態が発生した際)自衛隊が対処する場合における基本的事項等について定め」たもので、端的に言えば作戦計画の一種です。
ちなみに、前は毎年1回作成していたので年度防衛及び警備計画、略して年防(ねんぼう)と呼ばれてましたが、今は防警となっています。
防衛省が今回の訓練に際し、どの程度情報をリリースしたのか分かりませんが、読売の報道では「新たに策定した沖縄・南西諸島の防衛警備計画に基づき」となっており、沖縄・南西諸島を対象とした防警が存在することが報じられています。(私の認識では、以前は、防警計画が対象とする事態が明らかにはされていませんでした。)
記事中では、防衛省幹部のコメント扱いになっているので、防衛省が正式にアナウンスした訳ではないと思いますが、対象が中国であることも匂わされています。
さて、問題はその中身です。
特に焦点となる所は、離島対処の計画(あるいは作戦)では、いつも話題になることですが、取られないようにするか、あるいは取られてから取り返すか、という点です。
軍事的な危機が何時発生するか明確はではない状態で、離島を取られないようにするためには、大部隊を長期に渡って展開させなければなりません。
インフラが皆無の無人の離島では、これは非常に負担の大きな作戦です。
竹島に韓国部隊が常駐していますが、あのように恒久展開のための施設を設けない限り事実上困難です。
また、同時に、海は周辺の制海権、空は航空優勢を持続的に確保しなければなりません。特に、制空権と言う言葉が使われなくなった事で分かるように、持続的な航空優勢の確保は非常に困難です。
ですから、軍事的には、取られてから取り返す方式は妥当性のある作戦です。
そして今回の訓練想定を見れば分かるとおり、現防警も取られてから取り返す方式になっています。(恐らく)
しかし、防衛省がこの方式で防警計画を作っていることについて、私は間違っていると思っています。
それは、日本政府が信じられないからです。
取られてから取り返す方式は、前述した通り、軍事的には妥当性のある方式です。
ですが、政治的にはハードルの高い作戦でもあります。
今回の訓練概要が示すとおり、取られてから取り返す方式では、敵が離島を占拠した後、奪還作戦として、航空優勢、制海権を確保し、当該離島に爆弾や艦砲で攻撃してから陸自戦力が乗り込みます。
何が言いたいかと言いますと、作戦が非常に攻勢的な作戦からスタートすることになるのです。
(見ようによっては一方的な虐殺に見える。特に正規兵以外を送り込まれると非常にやっかい)
もしコレが行われそうな状況になれば、相手は国際世論や安保理事会に訴える宣伝戦を展開するでしょう。
しかも、その相手はウソをつこうが気にもしない独裁国家です。
もしかすれば、乗り込ませた兵を意図的に殺される事も意図するかもしれません。伝統的に人海戦術を得意としてきた中国にとって、それは難しいことではありません。
そんな状況で、攻撃を意図できるほど日本政府に根性や気合いがあるとは思えないのです。
自衛官が軍事的合理性に則ってモノを考えることは正しい事です。ですが、軍事的合理性だけで考えることは危険です。
対中国の離島を巡る戦いでは、中国が躊躇するほどの大部隊を事前に展開させるのでなければ、非情な作戦にはなりますが、中国がやりかねないと書いたように、少数を展開させ、殺される方からスタートしなければ、その後の展開は難しいように思います。
今回のような演習はもちろん必要ですが、机上演習(CPX)で、政府の対応を検証することが必要です。
(そしてそれを国民に明らかにすることも。)
取られてから取り返す方式は決意の敷居が高い作戦です。
毅然とした対応が出来るのでなければ、泣き寝入りになりかねません。
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