映画評「ハーツ・アンド・マインズ」「ウィンター・ソルジャー」
「ハーツ・アンド・マインズ」と「ウィンター・ソルジャー」は、現在、東京都写真美術館で公開中の映画です。(7月16日(金)まで)
Youtubeの予告編
共にベトナム戦争にまつわるドキュメンタリー映画で、一言で言えば、反戦映画です。
マイケル・ムーア監督が「ハーツ・アンド・マインズ」を評して、「これまで制作された最高の映画だ」と言っていることからも、方向性は覗えるでしょう。
「ハーツ・アンド・マインズ」については、テレビで放映されたこともあるようなので、見たことがある方もいるかもしれません。
劇場公開は初のようです。
DVDも出ていますが、新品は手に入らなそうです。アマゾンでは信じられないような価格で中古商品が出てます。
第47回アカデミー賞の最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞してます。
政策決定者側にいた人間にもインタビューを行っており、一見すると中立性を保っているようにも見えます。
しかし、米軍による残虐行為は描いても、北ベトナムによる残虐行為については一言も触れておらず、米軍が撤退することで結果としてベトナムの人々が共産主義によって苦しめられた事にも言及していません。
そう言う意味で、やはりいわゆる反戦映画です。
方向性がハッキリしているので、ベトナム戦争について、ある程度知っている方にはいいですが、ベトナム戦争についてこれを機会に勉強しようと思っている方にはオススメしません。偏向します。
それから、予告編で見られるようなロケット弾や機関砲による攻撃シーンは、実際には作品中の極めて一部でしかなく、私を含めてそう言った観点で見に行った人には拍子抜けする作品だと思います。(観客には、航空祭に来るようなマニアらしき人もいました)
こう言ったムーブメントもあって、アメリカはベトナムから撤退することになった、という事を知る意味では見る価値があると思います。
「ウィンター・ソルジャー」は、ほぼ全編が帰還兵による証言シーンであり、作品としての方向性は「ハーツ・アンド・マインズ」以上に明確です。
米軍による残虐行為を正当化するつもりはありませんが、彼らの証言を聞いていると、証言している彼ら自身に嫌悪感を抱きました。
何せ、残虐行為を現場で見て戦闘を拒否するなどした人は一人もおらず、現場ではそれらを行っていながら、帰還してからそれを非難しているのです。
彼らの内の幾人かは、軍によって洗脳されたと言ってますが、オウムの信者がテロを行いながら、あれは教団のせいだった、自分には罪は無いと言っているようなもので、罪を軍に擦り付けようとしているように見えて不快でした。
現場で拒否して軍法会議にかけられでもしたのなら立派だと思います。
「ウィンター・ソルジャー」の方は、ほぼ見る価値はないと思います。
なお、余談ながら「ウィンター・ソルジャー」の冒頭あたりに、白リン弾を毒ガスとしている部分がありました。(字幕で確認し、慌てて英語音声を聞き取りましたが、聞き取れず)
白リン弾の毒ガス扱いはファルージャからかと思っていたのですが、ベトナム当時にも似たような話があったようです。
東京でのロードショーは7月16日(金)までですが、その後各地で公開されるようです。各地でのスケジュールはそれぞれの映画館にお問い合わせ下さい。
札幌:蠍座
苫小牧:シネマトーラス
仙台:せんだいメディアテーク
松本:松本CINEMAセレクト
名古屋:名古屋シネマテーク
大阪:梅田ガーデンシネマ
京都:京都シネマ
神戸:神戸アートビレッジセンター
広島:サロンシネマ
福岡:西南学院大学内、西南コミュニティセンター・ホール
沖縄:桜坂劇場
それにしても、両作品見ると2800円は高いです!(2本立て扱いではないため)
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ジョン・ケリー元海軍大尉が「ウィンター・ソルジャー」に出演したことは、32年後の大統領選では総じて不利に働きましたね。
投稿: 炎暑雪国人 | 2010年7月 6日 (火) 01時26分
炎暑雪国人 様
そんな有名な方も出てたんですね。
知りませんでした。
経緯をwikiで読んだだけですが、なんか売名行為っぽいですね。
あれが受けると思ったのでしょうし、確かに当時はそうだったんでしょう。
32年後に足を引っ張るとは思わなかったんだろうな。
投稿: 数多久遠 | 2010年7月 8日 (木) 23時15分
>米軍が撤退することで結果としてベトナムの人々が共産主義によって苦しめられた事にも言及していません
当たり前です。
この映画はベトナム戦争がまだ終結する以前の1974年に製作されています。
旗色が悪くなったとはいえ米軍撤退など誰も考えていなかった泥沼状態の頃です。
1975年の9月にTV放映された時にリアルタイムで見た自分には当時の状況と相まって
戦争の真実が深く沁みわたりました。
偏向などという言葉を使えるのは平和な時代だからこそ。
投稿: nanashi | 2011年1月25日 (火) 09時09分
nanashi 様
確かに制作年としてはそうですね。
ですが、反戦の動きは撤退を迫っていた訳ですし、撤退を誰も考えていないというのはおかしいですよ。
あれが真実でないと言うつもりはありませんが、片方の真実しか見ないことはやはり偏向というべきです。
ベトコンの残虐行為にも触れているなら、偏向していると言うつもりはありません。
それらについて、意図的に触れていないのであればプロパガンダです。
投稿: 数多久遠 | 2011年1月25日 (火) 22時31分
プロパガンダ。
通常は「国策宣伝」に対して使う言葉ですね。
北ベトナム側が作った映画であればその言葉は該当するでしょう。
しかしこの映画を作ったのはどこの国ですか?
あるいはその敵対国の北ベトナム追従者が北ベトナム側の視点で作ったのでしょうか?
あなたは民主主義の根幹を成すべくために当然存在する政府に対する監視の概念や
それに則った反対意見が提示する検証行為をプロパガンダと呼ぶのですね。
あなたの主張に拠ればドイツ第三帝国に当時反対する勢力がその主張を述べたいと思うなら
ユダヤ人の犯した罪状も語らなければそれはプロパガンダだと、そういう事ですね。
やれやれ。
投稿: nanashi | 2011年2月 9日 (水) 22時27分
nanashi 様
ベトナム反戦活動(日本のベ平連なども含め)に対しては、旧ソ連から資金提供を受けていたことは割と有名だと思いますが、ご存じないでしょうか。
投稿: 数多久遠 | 2011年2月12日 (土) 17時00分