「出撃!魔女飛行隊」は、1982年に刊行されたブルース・マイルズの著作です。
「WWⅡソ連軍女性パイロットたちの群像」という副題のとおり、2次大戦時に実在したソ連軍の女性パイロットについて、インタビュー等を踏まえて書かれたものとなっています。
日本では、朝日ソノラマ社から刊行されていましたが、現在は昨年再刊された学研M文庫版が入手可能です。
興味深い内容が非常に読み易く書かれているため、一気に読めます。
女性パイロットに焦点を当てていますが、東部戦線での航空作戦の全般についても概要を理解するには悪くない本だと思います。
ただし、各章の内容が時間的に前後しているので、独ソ戦について、ある程度は知っている方が楽しめるでしょう。
梗概としては、有名な女性飛行家だったマリナ・ラスコヴァを中心とし、ほぼ女性だけによる航空部隊の訓練と編成に始まって、3つの飛行連隊(戦闘機連隊、爆撃機連隊、夜間爆撃機連隊)と通常の飛行連隊に配属されたリディア・リトヴァク他の独ソ戦終結までの活躍を描いたものとなります。
12機ものスコアを記録し、男性顔負けの活躍をした活躍をしたリディア・リトヴァクに目が行きがちですが、個人的な感想としては、原題でもある「Night Witches」と呼ばれたPo-2で戦った夜間爆撃機連隊が印象的です。
夜間爆撃機連隊が使用していたPo-2は、独ソ戦開始当時でも完全な旧式機でした。
木製布張りの複葉機という超低速機で弾幕の中に飛び込んで行くんですから、それはもう敵の機関銃座に銃剣突撃するようなもんです。
そのハンデを乗り越えるため、エンジンを切って滑空状態で降下爆撃を行うなんて、発想はできても、なまじな根性でできるとは思えません。
それを女性ばかりの部隊が実行していたなんて、にわかには信じがたいくらいです。
ですが、その戦術は、その後の朝鮮戦争でもベッドチェック・チャーリーとして米軍を苦しめたのですから、十分有効だったのでしょう。
その他にも一つ印象的だったのは、政治将校の役割についてです。
この本自体がソ連当局の協力の下に書かれているため、ソ連を悪く書くことはできなかったという点は考慮する必要がありますが、政治将校が今で言うカウンセラーのような役割を負い、メンタルヘルスにも配慮していたらしいというのはちょっと目からウロコでした。
何せ、政治将校と言えば、ほとんどキチガイのようなイメージしかありませんでしたから。
一方、女性の活用は、共産主義のイデオロギーとその宣伝に密接な関係があったと思われるのですが、この点について全く言及されていないのはちょっと残念でした。
内容には細部の間違いも結構多いようですが、私は気にするレベルではないと思います。
軍事については、航空雑誌は言うに及ばず、軍事研究誌だって誤情報が書いてあることは珍しくないくらいですから。
文庫ですし、買って損はないと思います。
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