意味不明なADIZ拡大
先日「与那国島上空のADIZ再設定は大したニュースじゃない」として、記事を書いた与那国島上空のADIZ問題ですが、6月25日付で新たな訓令が施行されて処置が完了しました。
「与那国防空圏見直し 防衛省がきょうから 台湾側洋上へ拡大」(沖縄タイムス10年6月25日)
「防衛省、防空識別圏を拡大 与那国上空のみ西方26キロ」(琉球新報10年6月25日)
なお、先日の記事で与那国島の西側がADIZ外であることに関して、大した問題じゃないと書きましたが、琉球新報の記事中でも防衛省は「領空を守る観点から実運用上問題がなかった」とアナウンスしていることが報じられています。
現時点ではまだ改正された訓令は公開されていないようです。
防空識別圏における飛行要領に関する訓令
改正された訓令が公開されれば、上記はリンク切れになると思われます。その際はコチラで全機関から検索を選び、「防空識別」と言ったキーワードで検索すればすぐに見つかるでしょう。
そのため、以下では琉球新報の記事が正しいものとして書いてみます。
ADIZの拡大範囲は、領海の12マイルに加えて外側にもう2マイル拡大して設定するとのことです。
となると、台湾ADIZと被ってくることになります。
領海の12マイル分は、台湾側が未だにADIZに入れているものの、運用上は外されているとされる範囲です。ですが、その先2マイル分も拡大されるため、この部分は完全に被ります。
しかし、ADIZは各国が勝手に設定できるものなので、国際法上は問題ありません。
防衛省も「国内法で措置するもので、各国と協議して設置するものではない」とアナウンスしたようです。
実体上は、双方が強行に出れば緊張する可能性はありますが、空自も台湾の空軍もそこまでしないでしょう。
実際には大した問題の無かったこのニュースですが、こうして記事を書いている理由は、一つにはADIZが非常に誤解をされて認識されているからです。
ADIZ内にアンノウンと識別された飛行物体が侵入すると、(自動的に)スクランブルがかかるというような情報がそこかしこに見られますが、ADIZに入らなくてもスクランブルすることはありますし、逆にADIZに入っていてもスクランブルしないことだっていくらでもあります。
今回のADIZ拡大につながった与那国町長の不安も、そう言った認識がベースにあるのでしょう。
ADIZは、平たく言えば、防衛大臣が自衛隊に対して「この範囲に入った航空機はしっかりと識別しなさい」と示したものです。
まあ、逆に言えばこの外はしっかりやらなくても良いわけですから、その意味で言えば与那国町長の懸念もさもありなんでもあります。
さて、今回記事を書いているもう一つの理由は、琉球新報の記事が間違っていないとすれば、拡大されるADIZの範囲が意味不明だからです。
私は、前回の記事を書いた時に、てっきり拡大される範囲は、台湾側がADIZから外して運用している与那国周辺の領空に合わせるのだろうと思っていました。
それでも、その先2マイルを拡大したことは、領空に入る前に対処を始めるという観点からすれば、理解できるものです。
ですが、与那国島の真西側「だけ」拡大するというのは意味不明です。(琉球新報記事のリンクにある画像参照のこと)
未だに、与那国島に北西や南西側から接近する航空機は、ADIZに入っていないにも関わらず領空に入っている、という事態がありうるのです。
離着陸機を考慮し、与那国島の滑走路に合せたのかとも思いましたが、だとしてもADIZ内だけで離発着することは無理ですし、そもそも与那国空港のランウェイは08/26であって、正確に東西方向を向いている訳ではありません。(東西方向ならランウェイは09/27になる)
正直、防衛省がそこまで意味不明なことをするとは思えません。
多分、琉球新報の誤報だと思うのですが……
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おっしゃるとおり、琉球新報の誤報です。
実際は防衛省の報道資料のとおり、「与那国島西側の我が国領空及びその外側2海里」が正しい。
「与那国島上空の防空識別圏の見直しについて」
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2010/06/24a.html
この訓令は、書いてあるとおり、識別を容易にするため自衛隊機がDC(SS)に対して位置情報等を通報するように定めてあるにすぎません。
にもかかわらず、琉球新報は恥ずかしいことに勘違いに基づいて社説まで書いています。
「防空識別圏 外交で完全解決が必要だ」
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2010/06/24a.html
投稿: | 2010年6月27日 (日) 14時40分
領海外2マイルでしたら台湾が反発するのもわかりますね。
あちらも自国のADIZと被るのは嫌がるでしょう。
実際にはスクランブルの応酬、と言ったことにはならないのでしょうけど、どうもこの手の「運用でカバーする」やり方は筋が悪いと感じてしまいますね。
それはともかく、琉球新報の図はあり得ないと思います。
旧訓令でADIZ図を作って見たときに気づいたのですが、基本的には多数の点を結んだ多角形になりますから、琉球新報の図のように島の形そのまま西側に突き出すことはないはずです。
まだ新訓令をwebで見ることは出来ないようですが、単純に考えて与那国島南北にそれぞれ1点、今回台湾側にせり出す1点ないし2点を新設して与那国島周辺のみ台湾側に出っ張る形になるのではないでしょうか。現在与那国上空を一直線に分断している線から三角形もしくは台形がはみ出すイメージですね。
国後島周辺だけは複雑な形を描いてADIZから外していますが、これは北海道が南北で国後島を挟み込んでいる為ですし。
投稿: 藤宮 直樹 | 2010年6月29日 (火) 14時42分
名無し 様
報道資料に出てたんですね。
やはり予想通りのほぼ半円状ですか。
まあ、当然ですよね。
誤解したままの社説は未だに間違いを正すこともなく公開されてますね。
もっとも、ADIZがらみの報道は、全国紙含めて間違いだらけですけど。
名無しさんのリンクが間違ってましたので、正しいリンクを書いておきます。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-164120-storytopic-11.html
藤宮 直樹 様
台湾の反発は、やはり2マイルのためかもしれませんね。
しかし、ADIZは権利主張の根拠にはならないので、本気でそんなことを言うつもりはありませんが、筋と言うなら領空+2マイルではなく、双方の中間線を境界とすべきではないでしょうか。
琉球新報は記者クラブにも席があるんですから、防衛省に聞いてみてから記事を書けばいいのに、どうしてこんな間違いを放置しているのか、全く持って疑問です。
確かに、仰るとおり実際の訓令では多角形状になるのでしょうね。
投稿: 数多久遠 | 2010年6月30日 (水) 23時04分
結局の所、台湾側が一方的にADIZの運用から外している範囲と一致しなければ反発するでしょうから、言ってもしょうがないことなんですけど。
それならそれで調整会議でも持ったほうが良いような気もするんですが、結局双方そんなに困っていないから腰が重いのでしょうか。
中間線を境界とするのならば、米軍から引き継いだ時点でやっておくべきでしたよね。
あの時に多少調節していますし。今やるとかなり台湾側に寄るので猛反発は必至だと思います。
まだ若干不具合がありますが、暫定版のADIZ図をリンクしておきます。
Google MAPを利用したので、任意の地点を拡大縮小できます。
それと前回私のコメントで一部誤りがありました。
北海道本島と国後島の間は本島海岸線から海上3海里の線になっています。そうすると今回の+2マイルはそちら側と整合性が取れていませんから、台湾側としてはロシア相手よりも嘗められている、と感じたのではないでしょうか。
投稿: 藤宮 直樹 | 2010年7月 2日 (金) 13時56分
藤宮 直樹 様
仰るとおり、双方困ってないので話す必要がないんだと思いますが、例え双方の防衛担当者が話そうと思っても、民主政権下では台湾と対話することも許されないのではないでしょうか。
菅首相はそれほどではないでしょうが、基本的に信じられないくらい中国寄りですから。
確かに、最初の時点でしっかり主張すべきだったことは間違いないですね。
台湾としては今更という思いを持っているのでしょう。
ADIZ図、ご苦労さまです。
しかし、私もドラッグしてみるまでは表示されませんでした。
何ででしょう?
訓令は未だ更新されず……
発表したんですから、早々に更新して欲しいものです。
投稿: 数多久遠 | 2010年7月 3日 (土) 19時59分