大型機によるSAM回避機動
昨年5月の記事「スパイラルアプローチ」で、スパイラルアプローチやランダムスティープアプローチが、MANPADS(スティンガーなどの携帯式SAM)を撃たれないための機動だった事を書きました。
これに関連して、今回は撃たれた場合の回避機動はどうするべきなのかについて書いてみます。
「大型機がSAMを機動で回避なんてできる訳ないだろ。電波な事かいてんじゃねえ」と思う人もいるでしょうが、C-130などの戦術輸送機レベルの大型機であれば、効果のある機動が可能です。(C-17くらいまでは可能でしょう)
もちろん回避機動をする余裕がある程度の距離から発射された場合に限りますが。
このことは、「スパイラルアプローチ」中で取り上げた、イラク派遣輸送飛行隊隊長だった北村1佐のインタビュー中にも「C-130ならば、MWSで脅威を捉え、機動性を発揮してこれをかわすことも期待できるでしょう。」とあることでも分かっていただけると思います。
もちろん機動だけでは十分ではありませんが、フレアなど機動以外の回避手段を併用することは戦闘機でも同じです。
さて、では実際にどう機動すべきなのかですが、いきなり結論から書きます。
それは、MANPADSの発射を確認したら、旋回し機首をミサイルの方向に向ける事です。
多分、この記事を読んでいただいている方の頭の中にはクエスチョンマークが浮かんでいることでしょう。
映画「レッドオクトーバーを追え」やかわぐちかいじ氏のマンガ「沈黙の艦隊」で魚雷の起爆を防いだような安全距離を利用する訳ではありません。(MANPADSの安全装置は、発射時のGなどで発射直後に解除されています。)
回避機動は、正確に書くと、機首をミサイルの方位に向け、速度・エンジン出力の許す範囲で緩上昇をかける(無理ならレベル(水平飛行))事です。
エンジン出力をどうするかは、機種や状況によります。効果的な機動のためにはエンジン出力をあげる事がベターですが、赤外放射をおさえるには出力は絞った方がベターです。判断は個別の状況でパイロットに任されますが、C-130の場合は、元々赤外放射は多くないので出力はあげ、上昇する方が得策でしょう。
さて、ではなぜそんな機動がSAM回避に効果的かと言うと、直線的なトラジェクトリーを採るMANPADSなど小型短射程なミサイルの場合、次のようなことが言えるからです。
・ロケットモーターのエネルギーの内、位置エネルギーに変換される分が多くなり、速度エネルギーが不足してミサイルの機動性が悪くなること
・ミサイルから見て下方に高温の排気が来るため、目標よりも下方に誘導されやすいこと
・フレアを併用した際に、フレアが沈降するためミサイルがより下方に引っ張られること
・(基本的に)重力加速度を検知、補正する手段を持っていないため、ミサイルが根本的に目標の中心よりも下方に飛翔しやすいこと(それでもミサイルの機動性による誤差修正が目標の大きさの範囲に収まるため命中するし、ミサイルによっては発射時に重力加速度分のリード角を挿入して発射される)
結果として、上記の回避機動をとると、ミサイルは目標の下方を通過することになります。
ただし、ここまで読んでセンスのある方は分かるかもしれませんが、この回避機動には根本的な制約があります。
それは、迅速に2発目の発射が予想される場合には使えないということです。機体がミサイルの発射点に近づくため、2発目があればより近距離で発射されることになりますし、その時にはより上方に向けてリード角が取られた上で発射されるからです。
逆に、ミサイル側とすれば連射機能があれば、この欠点は補えることになるため、多くの短射程SAMは連射能力に優れています。自衛隊の短SAMなんかもそうです。
ですが、イラクではこの機動は有効です。それは、飛行場周辺にはびっしりと米軍の地上部隊が配備され、武装勢力とすれば2発目の発射をする余裕はないからです。
という訳で、大型機でもSAM回避機動が取れることは分かって頂けたでしょうか。
しかし、戦術というのはじゃんけんのようなものです。
スパイラルアプローチやランダムスティープアプローチが採られ、ミサイルを撃たれた際にもこのような回避機動が採られることが分かっていれば、それを踏まえた戦術も可能です。
それを書くことはマズイと思うので書きませんが、「戦術眼には自信がある!」という方は考えてみてください。(もちろん、地上部隊にやられても構わないという決死の覚悟で2発目を撃つ、なんてのはダメです。)
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