乗客トラブルで戦闘機がスクランブルするか?
アメリカで、乗客が機内で乗務員とトラブルになった結果、戦闘機が緊急発進する事例が発生したそうです。
「乗客トラブルでF15戦闘機2機発進 米西部発の航空機」(産経新聞10年1月7日)
結果的には単なるクレーマーだったようで、何はともあれなのですが、大方の感想としては、そこまでするのか?というニュースでしょう。
そこで、日本でだったらどうなるのかについて、ちょっと考えて見ます。
今回の件は、昨年末に爆破未遂事件があったばかりな事もあり、乗客がテロリストである可能性も考慮したと思われます。
翻って、日本の周辺で、ハイジャックなどのテロが起きた際、戦闘機を緊急発進させる事を定めた明文の規定は公開されてません。
ただし、国交省や警察と防衛省・自衛隊との間で秘密の協定等が結ばれている可能性はあり、自衛隊が緊急発進し、対処してもおかしくはありません。
洞爺湖サミットの際、ハイジャック機を撃墜することを含めて事態対処の検討をすると報じられましたが、結局、事態対処の緊急対処方針が作成、閣議決定されることもありませんでした。
(当事の報道は、既にネット上から消えてますが、コピペがあったので末尾に転載しておきます。)
しかし、これを持って自衛隊が何もしない方針だと考えるのも早計です。と言うのも、別にハイジャックを緊急事態として規定しておかなくとも、法的には対処可能だからです。
自衛隊が、戦闘機を緊急発進させる態勢を整えているのは、自衛隊法第84条の規定に基づき、対領空侵犯措置を行うためです。
対領空侵犯措置は、外国の航空機が航空法などの法令に則らずに我が国の領空に侵入することを阻止するための条文で、ハイジャック機、特にJALやANAと言った国内航空会社が運行する航空機に対しては何ら行動を採り得ません。
ですが、対領侵措置に備えて地上待機している戦闘機を「任務転用」して、自衛隊法第79条の2に規定される「治安出動下令前に行う情報収集」として行動させることも可能(内閣総理大臣の承認などが必要)ですし、防衛省設置法第4条18号の規定により「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」として行動させることも可能(大臣の命令さえ必要なし)です。
特に、この調査・研究というのは、とても使い勝手の良い条文(99年の北朝鮮工作船事件など、微妙な事態に良く使われる)で、武器を使用でもしない限り、何でも調査・研究で済ませられます。
その後、本当に撃墜する必要が出てきたら、その際だけ内閣総理大臣が治安出動の命令を出せばOKです。
ですので、国交省からハイジャックなどの可能性があるという通報があれば、即座に自衛隊機が緊急発進することになっている可能性も否定できません。
と言うより、実際そうすべきでしょうし、こう言ったことは、テロを抑止するためにも事前に公表しておくべき事です。
逆にもしそうなっていないとすれば、それは政府としての怠慢と言っても良いと思います。
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航空テロは撃墜検討、洞爺湖サミットで政府
1月24日3時4分配信 読売新聞
政府は、7月7~9日に開かれる北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)で、ハイジャックされた航空機がサミット会場を標的にする航空テロを想定、警告に従わない場合には治安出動に基づいて航空機を撃墜することなど、事態対処について検討する方針を固めた。
防衛省筋が23日、明らかにした。2001年の9・11米同時テロの後、英独などサミット開催国は、会場周辺に空軍機や対空ミサイルを配備するなど最高レベルのテロ対策を講じており、日本も万全を期すことにしたものだ。
サミットを標的にした航空テロの防止について、国土交通・防衛・警察など関係省庁は、〈1〉サミット会場周辺に飛行禁止空域を設定〈2〉警察官を民間航空機に搭乗させるスカイマーシャルの強化〈3〉空港での手荷物検査の強化--などの実施を決めている。だが、9・11テロのように民航機がハイジャックされ、重要施設に激突する大規模テロへの対応は、何も決まっていない。
防衛省・自衛隊では昨秋から、9・11テロで米国防総省に衝突したアメリカン航空77便を事例に研究を重ねてきた。具体的には、ハイジャックが確認された時点で、航空自衛隊のF15戦闘機が千歳基地(北海道)を緊急発進し、ハイジャック機に対し近傍の空港への着陸など警告を繰り返す。それに従わず、ハイジャック機が衝突1分前の地点まで到達した場合には、射撃命令を発して撃墜することが検討されている。
しかし、国内の空港を離陸した航空機がハイジャックされた場合、衝突するまで長く見積もっても30分しかない。あらかじめ自衛隊が行動するために手続きを決めておかなければ、テロを阻止することは極めて難しいというのが結論だ。
こうした事態に陥らないためには、ハイジャック機による大規模テロを、政府は、武力攻撃事態対処法の「有事以外の緊急事態」とし、事前に治安出動を前提とした緊急対処方針を作成、閣議決定する必要がある。さらに対処方針は、20日以内に国会の承認も受けなければならない。防衛省幹部は「あくまでも、政府が撃墜もやむを得ないと判断した場合に備え、現行法に基づいて何ができるのか、法的な問題点を中心に検討している」と説明する。
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