下地島空港活用時のMD態勢
ブログを書いていて、悔しかった記事というのがあります。
最近では、昨年の10月28日に書いた「普天間の代替候補地条件」です。この記事自体は、それなりに閲覧者も多く、注目していただきましたし、2ちゃんにコピペされた内容が軍事板常見問題&良レス回収機構さんに取り上げてもらうなど、そこそこ良い反応があったと思っています。
しかし、週刊オブイェクトさまが12月21日に掲載した記事「なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか」は、移転先選定の条件がヘリの航続距離にあるという点を指摘した点など、記事の主旨がほぼ同じだったのですが、コメント数が900を超えるなど非常に注目されてました。
もちろん、オブイェクトさまと私のブログでは普段の閲覧者からして桁が2つも違うので当たり前と言えば当たり前ですし、主旨は同じようでも、正距方位図法の地図を付けるなど詳しい解説をしていたので、単純に悔しがるのではなく、自明の事のように思えても詳しい解説がいるんだなあと感心することに致しました。
考えてみれば、志方俊之氏のような専門家でも、普天間とシュワブ沖の必然性を「地政学」というあいまいな言葉で述べているだけなので、具体性をもった説明にするためにはもっと解説しなければいけなかったですね。
と、実に長くなってしまいましたが、ここまでは前置きです。
前掲の私の記事でも書きましたが、下地島の活用は台湾への兵力投入拠点として位置的には悪くないものの、SRBMへの備えや防空戦力も必要になります。
では、具体的にどの程度の備えが必要なのか考えてみようかと思いましたが、防空戦力の必要規模算定は非常に難しい作業です。というのも、航空戦力は上がってしまえば強力なものの地上にあっては全くの無力である等、シミュレーションを行う上で、ちょっとしたパラメーターの違いで結果が全く違ってきてしまうからです。
そこで、今回の記事では、SRBMに対して日本の対抗戦力で下地島の機能維持が図れるのかについて見てみます。
まず脅威認識ですが、中国沿岸から下地島まで距離はおよそ500kmですから、中国が保有するSRBMの内、下地島に攻撃が可能な兵器はDF-11A及びDF-15となります。
DF-11Aは、射程500~700km、CEPが200m以内、DF-15は、射程200~600km、CEPが150~500mです。(数値は共にMissile.indexより)
保有数は両者合わせ、既に1000を超えていると言われています。
両ミサイルについて、地図上でCEPを確認すると次のようになります。
DF-11A
DF-15
中国が核を使ってくるとは思えませんが、CEP内には、発射されたミサイルの半数しか落下しないものの、両ミサイルとも弾頭はHEだけではなく燃料気化爆弾やクラスターのようなサブミュニションも使用可能なため、効果範囲を考えると発射されたミサイルの内ほとんど全てを迎撃しないとならないでしょう。
中国のSRBMは、本来対台湾用ですから、下地島に対して使用するとしても一部しか振り向ける訳にはゆかないでしょうが、発射された全数を迎撃しなければならない命中精度を持っているということは結構キツイものがあります。
次にこちらの対抗手段ですが、ここでは自衛隊のPAC-3だけを考えてみます。
というのは、SRBMは、飛翔高度が百数十kmしかなく、SM-3では迎撃タイミングがあまりない可能性がありますし、中国と事を構えるとなれば、東京を射程に収めるDF-21にも備えなければならないため、イージスはそちらに回す必要性があるからです。加えて、SRBMを迎撃するには最低でも宮古島近海までイージスを前進させなければならないこともリスクです。
また、米軍のPAC-3については、本土から増援が来なければ嘉手納から動かす訳にはゆきません。
その一方で、沖縄以外の自衛隊PAC-3は、DF-21に対して十分な性能は期待できないので、PAC-3はほとんどを沖縄に持ってくることできます。
さて、では下地島を防護範囲に納めるPAC-3部隊の配備ですが、ブッシュなどは開墾整地するとすれば、地積的には1個高射群4個FU程度は十分に展開できます。
下地島、伊良部島はさんご礁のため硬い岩が多いものの比較的平坦ですし、宮古島南西部に展開してもフットプリント内に下地島空港を収めることができるからです。
次の図は、下地島、伊良部島、宮古島市南西と下地市付近に各1個FU(高射隊)を展開させた場合のフットプリント(防護範囲)です。
ちなみにこの配置なら宮古島空港と平良港も2個FUで防護できます。(特に平良港は継戦能力の維持上重要です)
残る問題は、PAC-3のランチャーと弾数です。
PAC-3化される高射群でも、PAC-3化されるランチャーは各高射隊2個しかありません。今後PAC-3弾の取得が順調に進んだとしても、1個高射群あたり最大で128発となります。(リロードを無視した短時間での迎撃能力)
全高射群の保有ランチャーとPAC-3弾を下地島に持ってくる(高教隊、術科学校分を除く)と仮定すれば、384発です。(1個FUの運用可能ランチャー数は最大8個なので、全高射群分を下地島防護の高射群に持ってきても運用は可能です。)
この弾数で、対応可能なSRBM数については、撃墜確率と迎撃の再試行回数で決ってきます。
十分に有効な迎撃確率として、フットプリントを描く範囲を80%と考え、仮に迎撃確率を80%とします。そうすると1回の迎撃試行で20%を打ち漏らしますから、2回目の迎撃を試行するとすると、これに対する撃墜確率も80%となり、2回の迎撃試行を試みるとすると、合計した迎撃確率は96%になります。
96%の確率は、ほとんどを迎撃できるという数値ですから、2回の迎撃試行を行うとすれば、384発のPAC-3弾で、320発のSRBMをほとんど迎撃できることになります。
中国が下地島に振り向けられるSRBM数は、その時の情勢次第ですが、1000発以上あるとは言え、本来台湾用のSRBMを下地島に320発振り向けてもほとんど被害を与えられないとすれば、企図を断念させられる可能性は結構高いと思われます。
しかし、逆に言えば、保有の半数を下地島に叩き込むつもりになれば、下地島空港の機能は破壊されるとも言えます。
日本やアメリカが、沖縄本島まで戦場となるような衝突をしない限り、PAC-3を集中配備することで、SRBMだけを見れば下地島の機能維持は可能である可能性が高いと思われます。
なお先日、米国政府が台湾へのPAC-3売却を議会に通告しましたが、台湾の空港など重要防護目標についても同じような話になるため、中国としては頭の痛い話になるでしょう。
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