自衛隊による殺人の根拠
先日、ブログのアクセス解析を見ていたら、「自衛隊 法的根拠 殺人」というワードで検索して来られた方がいらっしゃいました。
これについて、以前の記事「自衛隊の行動任務についての法的根拠」という記事で簡単に触れているのですが、気になる方がいらっしゃるようなので、もう少し詳しく書いてみます。
殺人については、刑法199条に「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と書かれており、自衛隊云々という記述はありませんし、自衛隊法にも刑法を適用除外するという記述はありません。
しかし、自衛隊による戦闘行為(による殺人)は罪にはなりません。
それは、刑法35条に「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」と規定されているからで、この条文によって違法性が阻却されることになりなるからです。
法解釈的には、法令による行為及び正当業務行為は違法性阻却事由に該当する、と言われます。
ただし、言うまでもないことかもしれませんが、自衛隊による殺人が無条件で正当化される訳ではありません。
自衛隊法第6章「自衛隊の行動」(76条~86条)に基づいて出動等を命じられた部隊でなければなりませんし、第7章「自衛隊の権限等」(第87条~96条の2)で与えられた権限を範囲でしか認められません。
そのため、これらを逸脱した行為であれば、例え戦闘行動によるものであっても、起訴され有罪となることもありえます。
自衛隊発足から現在まで、個人の行動は別として、部隊行動が(意図があっての行為として)殺人罪として罪に問われたことはありませんが、業務上過失致死に問われたケースはあります。
最近の例としては、海自特警隊養成課程入校者の死亡事件がありますし、古くは雫石事故を挙げる事ができます。
上記の様な事故ではなく、戦闘行動でも罪になる可能性がある例を挙げてみると、次のようなものが考えられます。
例1:自衛隊施設にテロ行為で損害を与えた犯人が基地外を逃走中に、背後から銃撃し死傷させた場合
例2:治安出動中の隊員が、手配中のテロリストを発見し、警告を与える余裕があるにも関わらず、即座に射撃し死傷させた場合
例3:防衛出動中の隊員が、降服の意思を示した敵兵を射撃し死傷させた場合
グレーなものを含め、例を挙げればキリがありませんが、自衛隊による殺人のライセンスには、ちゃんと制限がかかっています。
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数多さん、
よろしければ、例1~3が、どの法廷でどの法律を基に裁かれるか教えてもらえませんか?
それと、有事であっても、軍法会議(に相当するもの)は設置されませんか?
(有事における命令不服従や敵前逃亡、サボタージュなどに対して)
投稿: 否丸 | 2009年12月22日 (火) 14時46分
否丸 様
やはり解説した方が良さそうですね。
週末には記事として回答しますので、ちょっとお待ち下さい。
投稿: 数多久遠 | 2009年12月24日 (木) 21時17分