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2009年8月29日 (土)

陸自高射特科の全般防空使用は試金石

産経新聞は、パトリオットの全高射群PAC-3化を報じた日と同日、コラム欄で空自高射部隊を弾道ミサイル対処に特化させ、中SAMの陸自高射特科部隊を全般防空に使用する可能性を報じています。

【視点】国民防護の意思鮮明 PAC3配備拡大」(産経新聞09年8月18日)記事内容は末尾に転載

この記事は、空自高射部隊と陸自高射特科部隊の大きな変化に言及した記事だったので、2チャンネルなどでも結構話題となっていました。

ここで、この記事に関連する本題に入る前に、自衛官時代にたびたび耳にすることになったある質問とその回答について書いておきます。
3自衛隊間で相互に研修を行うことは良くあることですが、陸自の方を研修で受け入れた際、空自、中でも特に空自の高射部隊であるパトリオット部隊が、彼らにどのようにエアカバーをかけられるか、という質問がされることが多くありました。
ただし、この質問は幹部ではなく、陸曹の方から貰うことが普通でした。幹部の方は、答えが分かっていたから質問はしなかったのでしょう。
この質問がされた時、私は決って次のように答えていました。
「陸自が戦闘を行う際、空自によるエアカバーは期待しないで下さい。なぜなら陸自が戦闘になる時は、空自は壊滅した後だからです。」

さて、ここからが本題です。
湾岸戦争、イラク戦争を見ても分かるとおり、戦闘はまず航空作戦から開始されます。
その中でも、敵防空網制圧は最も初期に実施される作戦で、高い性能を持つSAMは必ず標的となります。高性能のSAMが航空基地を守っていれば、これを制圧することなしに攻勢対航空などの作戦実施は困難です。
中SAMほどの性能を持つSAMが、全般防空を任として航空基地などを守っていれば、必ずSEADの対象となります。

陸自高射特科部隊の現在の任務は、機甲師団などの陸戦戦力を航空攻撃から防護する野戦防空ですが、これに全般防空加えることは、単に任務を増やし、負担を増やすと言うに留まりません。
実質的に、「全般防空を任務にする」=「野戦防空には使えない」となるのです。
別の言い方をすれば、現在の陸自の構想である「野戦防空用の戦力とする」=「防空戦闘間は隠して温存する」となるのです。

中央即応集団や西部方面普通科連隊が編成されているように、陸自の考え方、あり方は変わりつつあります。
ですが、基本的には敵による着上陸侵攻を阻止することが基本的な考え方です。装備もそれに沿って調達されていますし、部隊配備もそうです。
その流れの中で、野戦防空を任とする陸自高射特科部隊は、空自が戦う防空戦闘間は、ひっそりと身を隠すことで部隊保全を図り、空海自衛隊の壊滅後に実施される敵による着上陸に備える事を期待されています。
陸自の高射特科部隊は、BADGEと連接した空自との共同訓練も行っていますが、私が思うに、それ以上の努力で部隊保全の訓練を行っています。指揮所を地下に設置する訓練などを実施しており、「ココまでやるか」と思ったことは度々ありました。

だからこそ、産経の記事にあるとおり、陸自は「(全般防空に使用してしまえば)野戦防空が手薄になるとの懸念」を持っているのです。
ですが、この話は、産経の記事に書かれているように、財政的な理由だけではないでしょう。
離島防衛では、まず航空作戦により航空優勢を確保し、その後に着上陸という従来型の戦闘様相にはならない可能性が高くなります。
政治的な要素もからめ、彼我の航空優勢が拮抗した離島において、大規模な防空火器を持たない部隊どおしが対峙するという状況が生起する可能性が高いでしょう。
陸自とすれば、そういった様相下で活躍できる部隊の育成に(財政)資源を投下し、高射特科部隊は、空自による広範囲の全般防空に資する方向に使った方が適切だ、という考えが出てきているに違いありません。

陸自高射特科の全般防空での使用は、陸自のあり方そのものを、従来の大規模着上陸に備えるものから、離島対処などを念頭に置いたものに変えることができるかどうかの試金石です。
もっとも、民主が政権を取ると、これが試金石となる以前に機甲師団の解体など大規模な改編を受けることにもなりかねませんが・・・

以下、産経の記事内容の全文転載
********************
【視点】国民防護の意思鮮明 PAC3配備拡大
 PAC3の配備拡大は全国民を弾道ミサイル攻撃から防護する意思を鮮明にするものだ。PAC2ではノドンの迎撃は不可能で、強硬姿勢を強める北朝鮮の脅威除去に向け、妥当な計画変更といえる。

 4月に北朝鮮が発射したミサイルは秋田、岩手両県の上空を通過。東北にPAC3は未配備で、両県には浜松基地のPAC3を移動させたが、東北選出の自民党国会議員は恒常的な配備を要請している。配備拠点に偏りがあることには納税者を区別しているとの不公平感もつきまとい、全国配備でこれも解消できる。

 空自高射部隊は基地や重要防護地域を守るため、PAC2で敵の航空機を迎え撃つ「全般防空」も担っている。防衛省はPAC3の配備拡大に伴い、空自高射部隊を弾道ミサイル対処に特化させ、防空を陸自高射特科(砲兵)部隊の新中距離地対空誘導弾(新中SAM)に代替させることも検討している。

 ただ、陸自の高射特科部隊は本来、地上戦闘部隊を敵機から守る「野戦防空用」。陸自には、より広域をカバーする全般防空も任務に加われば、野戦防空が手薄になるとの懸念がある。空自の統制下に組み込まれることへの陸自の抵抗感も強いが、「厳しい財政状況の中、統合運用を進め、部隊を整理することは避けられない」(防衛省幹部)との指摘がある。 (半沢尚久)
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SAM戦術・対SAM戦術」カテゴリの記事

コメント

いつも楽しく拝見しております。
質問があります。PAC2を、すべてPAC3にした場合、射程の違いから長距離SAMを別に配備する必要が出てくるのではないかと考えますが、空自はどう考えているのでしょうか?

やん 様
パトリオットのシステム構成は、部内者にも奇奇怪怪なくらいで、非常に面倒なんですが、PAC-3のシステムはPAC-2弾を使用でき、その際の対航空機対処性能は、システム全体がPAC-2の時と比べ、射程では変わりなく誘導精度では上になります。
ですので、PAC-2をPAC-3化しても別の長射程SAMが必要になってくるわけではありません。

ただし、かなり前より防衛省はパトリオット後継は考えられており、(というより売り込みがされており)長SAMなどと呼ばれるモノも噂されています。

ただし、民主党政権の発足や最近のTHAADの噂などもあり、将来はかなり不透明ですね。

数多久遠様
ご回答ありがとうございました。勉強になります。PAC-3/Cofig2のレーダーの計算能力は非常に高いという話は聞いたことがあったのですが、PAC2弾を使えるとは知りませんでした。(驚)
素人には知らない機能が、たくさんあるんですね。
PAC2をPAC3にすることによって、空いた射程を補う為にTHAADの導入を防衛省が検討しているのかと思っていました。
また、教えて下さい。 ありがとうございました。

やん 様

PAC-3がPAC-2弾を使用できることは、軍事研究誌などでも紹介されてるので、秘を書いたわけではないです。
知っていて書ける範囲のお話であれば、またお答えしますので、またコメント下さい。

ちなみに、バージョンが上がることで計算能力は上がってますが、計算能力の絶対的な数値は大したことはありません。
ただこれはパトリオットに限った話ではなく、軍用品の場合は、民生品とはくらべものにならないくらいの耐久性などが要求されるため、兵器では良くある話です。
たとえば、メモリの一部がエラーを起こしてもシステムがダウンしないような作りに、ソフト的なことを含めて作られていたり、電圧変動など給電品質が悪くても作動不良を起こしたりしないようにします。

数多久遠様
ありがとうございました。 戦闘時に簡単にシステムダウンしてたら、話になりませんもんネ。 絶対的な信頼性が必要ですネ。
本当に、まだまだ知らない機能がたくさんあって、本当に面白いです。

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