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2009年7月 5日 (日)

THAAD導入

SM-3、PAC-3に加え、THAAD導入が検討されているようです。
新型迎撃ミサイル:導入を検討…地上配備型、迎撃3段構え 」(毎日新聞09年7月5日)

「SM3とPAC3を補完する「第3のミサイル」と位置付け」るとの事ですが、性能的には補完ではなく、対弾道ミサイル対処能力ではPAC-3の上位互換と言えるものです。
大気圏内外で迎撃が可能で、長い射程と広い防護範囲(フットプリント)を持ちます。

以前の記事に載せたPAC-3による防護範囲と比較してみます。(10倍の距離をフットプリントとして描画)

O0320023010208179665
習志野、朝霞にPAC-32個FU(Fire Unit)、市ヶ谷にPAC-3リモート・ランチを配備する場合

O0320021810208179668
習志野にTHAAD1個FUを配備する場合

一見して分かる通り、その差は歴然です。
更に、THAADは、より高高度から迎撃が可能なため、迎撃失敗時に再試行することも可能で、最終的な迎撃成功確率も、高いものになります。
また、特に生物・化学兵器搭載の弾道ミサイルに対処した場合、PAC-3では迎撃高度が低く、迎撃成功した場合でも地上に影響がでる可能性がありますが、THAADでは迎撃後に大気との摩擦熱でBC兵器も無害化されます。

加えて、THAADの導入が検討される理由は、単に防護範囲が広いというだけではありません。
公開している小説中にも描いていますが、弾道ミサイル攻撃能力(特に射程)を強化する北朝鮮に対して、現有のSM-3、PAC-3態勢では、それぞれに欠点があります。
SM-3ではディプレスト弾道に対して対処困難であり、PAC-3ではロフテッド弾道に対して対処困難です。
THAADは、両現有システムが対処困難なこれらの目標にも対処可能です。
記事に付いている図でも、このことが描かれています。
O0208025010208179674
毎日新聞より

また、上の図でも北朝鮮による弾道ミサイル攻撃を念頭に置いた図を描いていますが、対中国という点では、PAC-3による迎撃は困難で、THAADが必須となります。

そんな良いものなら、なぜ最初からPAC-3でなくTHAADを導入しなかったのか、という意見も出てくるでしょうが、THAADは米軍でもやっとこれから本格的な配備が始まるところです。自衛隊がPAC-3の導入を決めた当時は、THAADは開発が難航しており、中止される可能性すらウワサされるほどでした。

もし十分な数のTHAADが配備されるなら、PAC-3は必ずしも不要(パトリオット自体は、対航空機や巡航ミサイル対処が可能であり、システム全体が不要になるわけではない)になります。毎日新聞は、費用がかかる事を批判していますが、JADGEとの連接など、積み上げた無形の資産は大きく、PAC-3を配備してきたことが無駄になるわけではありません。

費用の問題はもちろん有りますが、実際にTHAAD配備を検討する上で、おそらくそれ以上に問題なのは人員です。
THAADを配備するとしても、何かの後継システムとして配備するわけではないので、組織上はスクラップアンドビルドを行わざるを得ません。
俎上に上がってくるのは、パトリオットの高射群に留まらず、陸自の高射特科部隊にも影響が及ぶ可能性があるでしょう。
XRIM-4陸上配備型の話題も出ていますが、陸自が中SAMによるホーク後継ミサイル選定を失敗(中SAMがウエポンとして失敗という意味ではなく、更新が頓挫してしまうようなシステムとなった事が部隊建設上の失敗という意味)した事もあり、THAAD導入問題は、今後の陸空高射部隊を巻き込んだ大きな組織改編に繋がってくる可能性があります。
過去にはナイキJの配備に伴って、陸自から空自への人員の転換がありましたが、これと同様に陸自高射特科の人員が空自THAADに転換する可能性があります。逆に、THAADが陸自高射特科群に配備となり、パトリオット部隊が縮小するような可能性もなきにしもあらずと思われます。
個人的には、THAADはJADGEとの連接が大前提であり、おそらく固定運用となるため、空自とすることが適切だと思いますが、陸・空幕間で綱引きがあるかもしれません。

この件は、引き続きフォローしていきます。

元記事全文
********************
 北朝鮮の弾道ミサイルに備え、防衛省が現在保有している海上配備型迎撃ミサイル(SM3)、地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)に加えて、新型迎撃ミサイルの導入を検討していることが4日、分かった。地上配備型の「高高度広域防衛システム」(THAAD、サード)と呼ばれ、防御範囲がPAC3より10倍程度広い。同省は、SM3とPAC3を補完する「第3のミサイル」と位置付け、年末に行う「防衛計画の大綱」(防衛大綱)や「中期防衛力整備計画」(中期防)の改定に反映させることも視野に入れている。

 弾道ミサイルの軌道は、米国の早期警戒衛星が発射を探知した後、日米のイージス艦やレーダーの情報を合わせて計算する。現在の日本のミサイル防衛(MD)は2段構え。飛来してくるミサイルはまず、海上自衛隊のSM3が高度100キロ以上の大気圏外で迎撃する。

 これを撃ち漏らした場合、弾道ミサイルが地上15~20キロに到達した時点で、航空自衛隊のPAC3で迎え撃つ仕組みだ。

 ただPAC3は射程が20キロ程度と短く、地上の守備範囲も半径20キロ程度に限られるため、発射情報を事前に得て必要な場所に移動しておく必要がある。首都圏、中部、近畿地方に配備され、10年度中には計11カ所に広げるが、日本全土をカバーするのは難しい。

 一方、THAADは射程が100キロを超え、地上の防御範囲もPAC3の10倍程度広い。国内に3~4基配備すればほぼ全土を守ることができる。数百キロ飛ぶSM3より射程は短いものの、大気圏の内外いずれでも迎撃可能で、SM3では対応できない低い軌道の弾道ミサイルも撃ち落とせるという。米軍は9月から米国内で実戦配備する予定だ。

 PAC3は11カ所への配備で5000億円程度かかる。防衛省はTHAADの導入費を明らかにしていないが、THAADの方が少ない予算で日本全土をカバーできると見込んでいる。【仙石恭】
 ◇解説…新型配備に数千億円、費用対効果に疑問も

 防衛省が導入の検討に入った新型迎撃ミサイル・THAADは、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)と地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)を補完するものだが、政府は既にSM3とPAC3に8000億円以上を費やしている。THAADの配備に数千億円が必要なのは確実で、防衛予算が年々減る中、ミサイル防衛(MD)にどれだけカネをつぎ込めばいいのか、政府は難しい判断を迫られている。

 4月、北朝鮮が日本上空を越える弾道ミサイルを発射したことで、自民党国防族を中心にMD拡充を求める声が勢いを増している。その際には、PAC3の不足も指摘された。ただ、MDには費用対効果への疑問もある。米国頼みの早期警戒衛星導入が先だとの声も強い。著しい技術革新で費用が膨らむ一方のMDと、通常装備とのバランスをどう取るのか。「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」の改定を前に、政府には慎重な判断が求められる。【仙石恭】
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MD」カテゴリの記事

コメント

1 ■時代は繰り返す・・・・
失礼します。

>陸・空幕間で綱引きがあるかもしれません・・・

逆に空自高射隊はTHAAD専門(MD)となり、従来ペトリが担当した広域防空を陸の高射特科に移管するという案も出るでしょうね・・・・

もちろんそうなると、空の高射職種の隊員も陸に行かなきゃならない人も出るでしょうね。
でも以前その話を高教隊の方に話したら激しく拒絶されました。陸だけはちょっとと・・・・

ちなみ陸に移管されたら、自活車・待機車などの空自が誇る充実した野外装備は取り上げられるでしょうね。

これは小話ですが、陸の高射の連中が、空の高射を見学したら、ペトリそっちのけで、各種野外装備に群がるとか・・・・そして絶句して帰るそうです・・・・・・文化の違いに・・・・


さてテーマが違うネタで非常に申し訳ありませんが。おもしろい写真が某作家さんのブログに掲載されていましたので載せさせて頂きます。

http://eiji.txt-nifty.com/.shared/image.html?/photos/uncategorized/2009/07/05/nice_boat_01.jpg

もうご覧になっているかも知れませんが・・・・お知らせしたく。

2 ■Re:時代は繰り返す・・・・
>海賊様
確かに、陸側からは、ペトリをよこせ!という話は出るかもしれませんね。

ただ、書かれている通り、空自は高射の人間含めていろんな意味で反対するでしょうし、そうなる可能性は低いと思います。
これについては、マトモな理由も多いので、記事で書いてみるかもしれません。

空自野外装備を見た陸自さんの反応は、私も目にしましたので、良く分かります。
建前もあるのですが、確かに文化的側面が強いかもしれません。

紹介して頂いた写真は知りませんでした。
アドレスのとおり、なんとナイスな写真でしょう。
元ブログも拝見したので、私も宣伝活動に加担します。

撮るんじゃないかと思っていましたが、艦載ヘリが載っているところを見ると、わざわざ僚艦から飛ばして撮ったんですね。
流石です。海自さん。
艦船の識別には自信がありませんが、艦番号からするとDD-106さみだれで間違いないでしょうか?
さざなみでないことは間違いなさそうですが。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

古い記事へのコメントで失礼します。

日本政府関係者が北朝鮮の弾道ミサイルに対処する為、新たな防護策として、地上配備型イージスシステム「イージスアショア」の自衛隊導入を優先的に検討する方針を固めたと共同通信が4月29日付の記事で伝えていますが、「優先的に検討する」という表現がTHAADの優先性や導入の可能性を否定することを意味するのならば、残念な見解です。日経新聞は2013年11月6日付の記事で防衛省はイージスアショアとTHAADを比較対象にしていましたが、毎日新聞は2014年8月9日付の記事で防衛省幹部がイージス艦の艦隊防空任務を犠牲にしたくないという理由からイージスアショア導入を訴えていました。この頃からなのか、何時の間にかイージスアショアとTHAADの二択論が形成され、一方が切り捨てられるかのような議論が見受けられるようになりました。双方とも異なる環境での運用を想定しており、予算の都合上もあるかも知れませんが、比べるのは不適当と考えます。しかし、二択論をあえて肯定するならば、個人的な見解としては、イージスアショアの必要性はTHAADに比べて優先度が低いように思えます。理由はふたつあります。第一に在日米軍の第七艦隊のイージス艦がSM-3の不足分を補填します。有事が想定される場面では第三艦隊等からイージス艦が日本に派遣されることでしょう。現在、海上自衛隊が運用しているSM-3が発射可能なイージス艦は4隻、各艦8発搭載しているものと思われ、合計32発ということになります(但し、Mk. 41 Mod 6 VLSの最大搭載数はではなく、合計で90セルにも及ぶとされる)。これに加えて在日米海軍はBMD対応艦7隻体制で各艦9発、合計63発になります(但し、Mk. 41 VLS各種の最大搭載数はではなく、本土からのイージス艦が増派される時は、それ以上になる)。日米合わせて95発、あたご級の改修で合計111発になり、米海軍から駆逐艦ミリアスが配備されることにより120発となります。日本はイージス艦8隻体制で最大64発(各艦8発搭載の場合)、最終的には日米合計136発ということになります。無論、一部イージス艦はローテーションの都合上、整備状態となるので理論上の最大値。北朝鮮が保有するノドン系統は200発から300発とされていますが、TEL保有数はノドン仕様では50基とされ(一度に発射できるノドンは50発まで)、液体燃料方式の為、再装填までには時間を浪費して米軍による報復攻撃と防空網制圧やTEL狩りが想定され、すべて使い切れるという保証はありません。また、スカッドERも脅威になりますが、スカッド発射基が100基と推定されているにせよ、地上軍の浸透を想定して韓国の在韓米軍に向けてスカッドB、Cの使用が優先されるものと考えられ、すべてが日本に向けられるとは限りません。また、信頼性次第で発射が失敗する弾道ミサイルもあるでしょう(もっとも、SM-3も通算迎撃率が80%という点も加味しなければなりません)。第二に将来的にSM-3 Block IIAが導入されることから理論上は一隻で日本全土を横須賀港からでも防護範囲に収めること可能になり、広範囲に複数隻を配置する必要性が薄れるからです。無論、AN/SPY-1系統の探知範囲や位置関係(例えば弾道ミサイルのロフテッド軌道に伴う迎撃範囲の限定化、標的になっていると思われる着弾地点との距離、迎撃ポイントまでに迎撃ミサイルが到達する所要時間に左右される迎撃可能性等)から広範囲配置の必要性を全否定しようとは思いませんが、迎撃ミサイルのリソース運用はDWESで自動的に最適化されるので無駄弾は最小化され、NIFC-CA、CEC (E-2D)、C2BMS (AN/TPY-2)はデータリンクで広範囲のセンサー群をセンサーネットワークで結び、イージス艦の負担が減らせるということに違いはありません。その為、イージスアショアの需要は無くなるとまでは言えないまでも低下すると思います。

イージスアショア以上に「優先的に導入」されるべきなのはTHAADと考えます。まず、SM-3とPAC-3による二層防衛構造が誤解されているような印象を受けます。PAC-3 MSEにせよ、その防護範囲(フットプリント)は半径35km程度とされ、日本全土を防護するのは圧倒的に不足しており、日本全土を防護できるだけのPAC-3を配備するのは予算的にも現実的ではありません。即ち、PAC-3に防護されない地域が非常に多く、実態としては多くの地域がSM-3による単層防衛です。現時点での迎撃成功率が80%ということを考えれば統計的には20%の弾道ミサイルはPAC-3に防護されない地域で再迎撃の機会がありません。無論、SM-3を二発使用して迎撃可能性を高めることもできますが、DWESによるリソース配分が期待できるとはいえ、飽和攻撃に対する迎撃ミサイルのリソースを必要以上に浪費するリスクが増えます。SM-3の単価は20億前後であり、予算の都合上、大量保有は困難でもあります。防空任務用にSM-2も装填されているとはいえ、海上自衛隊のイージス艦は各艦8発程度しかSM-3が装填されていないのではないかという見解もあります。しかし、総保有量だけがTHAAD導入論の根拠ではありません。SM-3は固体燃料ロケットの性質上、燃焼制御が困難であり、一段目のロケットを構成するMk. 72ブースターは高度70kmに到達するまで燃焼を続けます。即ち、SM-3は射高70km以下(大気圏内)の迎撃を前提としていません。SM-3系統は最大射程ばかり注目され、最低射高が見過ごされがちです。確かに高度80kmの熱圏付近までは空気抵抗による減速も想定されますが、ディプレスト軌道で許容可能な高度まで抑えればSM-3の最低射高を一定時間超過することはあっても、最低射高を超過する飛翔時間は短縮され、迎撃可能な時間が減少してSM-3による迎撃の難易度が高くなり、反応が遅れるようなら最低射高の限界点を超えて降下して迎撃できなくなります。また、ディプレスト軌道は空気抵抗による減速が発生しても相対的な飛翔時間が短縮され、SM-3の最低射高を潜る点でも迎撃が困難になると思います。無論、ノドンのような準中距離弾道ミサイルでは北朝鮮から日本を狙うには射程がディプレスト軌道では不足するかも知れませんが、ムスダンのような射程と推力に余力がある中距離弾道ミサイルをディプレスト軌道で日本の本土を狙うことがあれば、実用性があるのではないかと懸念しています。また、近年は低空を飛翔するラムジェットを利用した超音速ミサイルが中国でも研究開発されています(WU-14/DF-FZ)。このような新たな脅威には、SM-3の最低射高は対処できないと思われます。米ミサイル防衛局MDAはTHAADが有効であると認識され、射程延長型のTHAAD-ERが提唱されています。故に日本もディプレスト軌道の脅威も考慮してTHAADを最優先で導入すべきと確信しています。閣僚レベルで中谷元防衛大臣、自民党の敵基地攻撃能力を求める提言書でも導入の可能性が言及されるようになりました。但し、一部で射程だけで語る意見や艦隊防空を優先したいあまり、イージスアショアを優先的に推す意見もあり、ディプレスト軌道に対する優位性やPAC-3の防護範囲内にない地方に対する代替的な終末段階での迎撃手段としてTHAADの必要性が無視されているのではないかと憂慮しています。このようなディプレスト軌道の脅威を訴え、THAADの導入意義に着目した数多久遠先生には先見の目があったと思います。また、それに何年も前から気づいて導入を提起された数少ない有識者でもあると思います。もっとも懸念しているのはミッドコースという用語が招いたイージスアショア(SM-3)とTHAADが重複するかのように誤解され、同列に扱われる傾向が見受けられていることです。その為、単価や最大射程だけが比較され、単価比や射程比でイージスアショアが有利であるかのような印象を与え、最低射高の重大性が理解されていないように思えます。THAAD導入の意義はSM-3とPAC-3の隙間を埋めてミサイル防衛三層構造を構築し、SM-3の最低射高では対処が難しいディプレスト軌道の脅威を軽減し、PAC-3の防護範囲にはない地域にSM-3とTHAADのミサイル防衛二層構造を提供することです。PAC-3発射基が36機、PAC-2が48機としても原子力発電所は日本全国で18カ所に点在しており、更に23の特別区、20の政令指定都市、290の自衛隊施設、135の米軍事施設に至るまで(一部重複)すべてを防護対象とするには不足しています。THAADは高価な迎撃ミサイルシステムであり、1000億円前後という単価は導入することには抵抗感を覚えるのは仕方がありません。しかし、迎撃ミサイルの本体価格だけならPAC-3が約5億円、THAADが約10億円、SM-3が約20億円であり、迎撃比価Cost Exchange Ratioが射程に比例する点も軽視できません。THAADは射程約200kmである為、日本全国を防護するには相当数求められますが、将来的にはTHAAD-ERが実用化されるなら射程は600kmにも及び、日本全国で最低三拠点配備できれば、理論上は日本全国を防護できるようになります。しかし、そこまで至らずともSM-3が最低射高が高度70kmである以上、THAADの導入は不可避と考えます。PAC-3の防護範囲外にある地域をTHAADで補強することにも繋がります。そして、SM-3と比較してミサイル本体価格で飽和攻撃に対応する取得性の点では有利なだけではなく、AN/TPY-2 Xバンドレーダーは500kmとされているAN/SPY-1系統のレーダーに比べ、前方配備モードFBMでは探知範囲は1000km以上とも言われ、前方配備モードならイージス艦とのデータリンクで目標情報伝達、エンゲージ・オン・リモート、ローンチ・オン・リモートにも役立てることができるのではないかと思います。過去にSM-3が迎撃に失敗した実験ではTHAADが取りこぼした飛翔体の迎撃に成功した事例もあります。現在、車力駐屯地と経ヶ岬駐屯地に在日米軍のAN/TPY-2 Xバンドレーダーが配備されており、防衛省がTHAADの導入を決めれば、C2BMCで相互補完も可能になります。但し、特に防衛装備庁を中心に防衛省はNIFC-CA等の米側が運用しているシステムを導入することには難色を示すのではないかとの意見が防衛産業筋で語られており、懸念材料ではあります。それでおも中谷元防衛大臣の話しではNIFC-CAとCECの導入に向けて政府が環境整備していると公言されたのは救いです。

THAADは高価な装備であることに違いはありませんが、政府と防衛省が導入しないままの姿勢を貫けば中国や北朝鮮がディプレスト軌道でSM-3の弱点となりうる最低射高を突き、無力化を試みるべく、ディプレスト軌道での運用を前提とした弾道ミサイルや超音速ミサイルを充実されることを懸念します。現時点でも北朝鮮がムスダン等でディプレスト軌道での運用される危険性を憂慮しています。そのような事情も想定している為、イージスアショアとTHAADの二択論を肯定したいとは思いませんが、二択論が形成された環境下ではイージスアショアよりもTHAADが優先する必要性があるのではないかと思います。防衛省の一部幹部等がミサイル防衛よりも艦隊防空を優先しようとする姿勢にも不快感を覚えます。弾道ミサイルが本土を直撃して国民の生命財産を奪うよりも海上自衛隊艦船の方が大切という発想は理解し難いです。米海軍イージス艦のように一隻8発から9発にSM-3を増やすだけでも8隻体制で一隻分の拡充になります。感情論抜きで語るにせよ、海上自衛隊の皆様には申し訳ありませんが、本土に対する打撃は艦隊への打撃より遥かに深刻です。本土への核攻撃に伴う経済的損失は無論、反撃能力や戦争継続能力が著しく低下します。兵站、補給、整備、歳出入の影響に伴う中長期的な国防予算の確保に至るまで艦隊防空が犠牲になるより遥かに深刻な悪影響を及ぼします。故にイージス艦というリソースをミサイル防衛よりも艦隊防空を優先しようとする一部の防衛省幹部の価値観が理解できません。繰り返しますが、必要であれば在日米海軍は不足するイージス艦で支援することでしょう。提供を渋れば在日米海軍基地も被害を受ける可能性があるから、そうせざるを得ないのです。 THAAD導入はディプレスト軌道という隙を与えない、PAC-3防護範囲外の地域に対する代替的な二層防衛を用意できるという意思表示としても導入は欠かせないと思います。問題の人員確保ですが、航空自衛隊の基地防空用地対空誘導弾を陸自に引き渡し、余剰となった空自の人員をTHAADに振り向けることはできないでしょうか。即ち、陸自はSAM全般を担当して空自はSAMを手放してPAC-2、PAC-3、THAADに専念するのはどうでしょうか。

個人的な見解こそ述べましたが、専門家の見解も伺わないことにはミサイル防衛の動向を取り巻く全体像を正しく把握できないとも考えます。何か見落としてはいないか、そのことを自問自答しながらも、自身の視野にも限界があるわけですから、参考までに有識者としての見解を聞かせて頂ければと思います。

X 様
長文のコメントありがとうございます。

THAADかイージスアショアか、という問題を、端的に語ることは困難ですし、詳細に論じるのであれば、コメントではあまりにももったいないと考えています。

そのため、もし書かせて頂くなら記事として書くつもりですが、なにぶんかなりの労力もかかるので、記事を書くかどうかはお約束できません。

結論と、その理由を箇条書き的に書かせて頂きます。

私は、現時点でTHAADとイージスアショアのどちらを整備すべきかという答えとしては、イージスアショアを選択すべきだと思っています。

もちろん、弾道ミサイル防衛をより効果的にするためには、THAADを入れ、イージスSM-3、THAAD、パトリオットPAC-3の3弾構えにすることが最も効果的だと考えています。

そうであっても、イージスアショアを優先すべきと考える理由は、次の通りです。
・イージスSM-3では、常続的警戒と弾道ミサイル迎撃が困難
・イージスSM-3では、最大の迎撃対象であるノドンミサイルに対し、ノドン保有弾数200発以上という点から、補給によって継戦能力を維持することが困難
・自衛隊の予算・人的制約から、THAADの整備まで行う事は困難だが、イージスアショアであれば、教育訓練、多くの機材がイージスと互換性があることから補給が容易である点から、整備が容易

一言で書いてしまったので、説明をしないと理解は難しいかもしれませんが、大きな点としては、上記の理由から、私はイージスアショアの整備を優先すべきだと考えております。

部隊整備、オペレーションの現場を知っている人間としては、自衛隊の予算が大幅には増えない現状の中の見解です。
もし、防衛予算を大幅に増やせるのであれば、THAADは、非常に有効だと考えます。

>私は、現時点でTHAADとイージスアショアのどちらを整備すべきかという答えとしては、
>イージスアショアを選択すべきだと思っています。

御回答頂き有難うございます。意見の相違があるにせよ、有意義な議論ができることには感謝致します。

北朝鮮がディプレスト軌道でイージスアショア分を含むSM-3の無力化を試み、弾道ミサイルを運用することになってもイージスアショアは優先するべきとお考えでしょうぁ中国でもWU-14/DF-FZ超音速ミサイルが研究開発途上にあり、低高度での脅威は増えています。自分が中国や北朝鮮の立場なら日本がイージスアショアを導入する時点でSM-3を無力化すべく、ディプレスト軌道による弾道ミサイルの運用に切り替えると思います。逆にロフテッド軌道でも落下速度にPAC-3が対応できるのかという問題提起もあるようです。

>・イージスSM-3では、最大の迎撃対象であるノドンミサイルに対し、
>ノドン保有弾数200発以上という点から、補給によって継戦能力を維持することが困難

ノドンミサイルは200発以上と言われる一方、ノドンを発射可能なTELは約50基とされています。続けて発射すれば200発投入することもできるでしょうが、再装填までに数時間必要だと以前主張されたと記憶しています。更に液体燃料方式では燃料を充填するにもタイムロスが発生する為、事前に準備して充填していない限り、短時間での連続発射は困難と思います(充填しても保管期間の問題がある)。その間、米軍が北朝鮮に対する敵基地攻撃、防空網制圧、TEL狩りを開始すると考えます。準備までのタイムロスもあるでしょうが、日本から戦闘機を発進するとしても経済巡航速度でも約一時間です。在韓米軍、韓国空軍なら尚更防空網制圧とTEL狩りを開始するまでの時間は距離的には然程かからないと思います。米軍から仕掛ける場合には既に防空網制圧実施段階にあると考えます。敵基地を攻撃するということは全弾発射させないことに結びつきます。

敵基地攻撃に伴う発射総数を抑制する楽観論を戒めるべきは当然ですが、第一波以降も北朝鮮が上記の予想から攻撃態勢を維持できるとは思えません。ノドンだけなら第一波の50発分の迎撃能力が求められます。無論、スカッドERという脅威もあるわけですが、韓国にもスカッド発射基が使用される為、すべてが日本に向けられるわけでもありません。何度も申し上げますが、在日米軍のイージス艦もSM-3の予備戦力として防衛省が加味しているか疑問です。現状では在日米海軍と海自のイージス艦で推定されるSM-3搭載合計は約100発になります。ノドンだけなら50基で第二波まで迎撃に必要なSM-3が確保されているということになります。必要であれば米軍からイージス艦の増派を求めればイージスアショアの必要性も薄れると思います。また、海自は一隻毎に8発しか搭載されていないと言われています。ならば、VLSの残り82セルはどうなっているのか。対空ミサイルSM-2に偏りすぎているのではないでしょうか。無論、一度の迎撃能力の限度が10発前後だからという事情もあるでしょうが、第二波の攻撃まで考慮するなら、SM-3の搭載数を増やせば良いのではないかと考えます(例:第一派で8発、第二波で8発、二回にわけて発射)。

>・自衛隊の予算・人的制約から、THAADの整備まで行う事は困難だが、
>イージスアショアであれば、教育訓練、多くの機材がイージスと互換性があることから
>補給が容易である点から、整備が容易

それではイージスアショアの人材は何処から取得するのでしょうか?THAADの時にもスクラップアンドビルドというわけにはいかないと主張されていた記憶しています。それはイージスアショアでも同じではないでしょうか。イージス艦から人員を全員降ろせば良いという話しではないのは御理解頂けると思います。それではイージス艦の要員がいなくなります。結局は新しい人材を教育せざるを得ない点ではイージスアショアもTHAADも同じことだと思います。海上自衛隊が運用するのか、航空自衛隊で運用するのか、その点でも揉めることになると思います。後者なら航空自衛隊が海自に訓練を頼むというのは想像できません。THAADの人材教育なら米軍も協力するはずです。予算的・人的制約ではイージスアショアもTHAADも何かしらの負担があるのではないかと考えるわけです。補給にせよ、余剰部品を確保できるだけの予算があるのか不安があります。また、ACSAの運用にせよ、防衛省はNATO TIER2に参加しておらず、NATOカタログ制度の恩恵を受けられていないのではないかという指摘もあります。互換性にせよ、AEGIS BMD 5.0.1が使用されるイージスアショアはSM-6を運用できないベースライン9Eであり、他のベースライン9搭載艦とのシステム的な違いもあり、過信できないと思います。運用するAN/SPY-1Dにせよ、前期型(こんごう型に搭載)と改良型のAN/SPY-1D(V)も存在しています(イージスアショアとあたご型に搭載)。また、イージスアショアが運用しているのが海自も導入しているMk. 41 VLSにせよ、同じMk. 41 VLSでも全長が異なったり(例えばStrike Length、Tactical Lenght)複数の種類があります(例えばこんごう型ならMk. 41 Mod 2、あたご型ならMk. 41 Mod 20)。このようにしてイージス艦との互換性を下手に語れないと思います。しかし、予算的制約以上にディプレスト軌道へのSM-3脆弱性が放置されることが問題と思います。それではコストの為に脆弱性に伴う迎撃能力と国民の生命を犠牲にするのかという話しになります。THAADの射程は確かに不利な要素ですが、THAAD-ERが米国でIOCを獲得できるのなら射程600kmが実現する為、導入数と配備数を圧縮できるのではないかとも思います。無論、不確かな状況ではTHAAD-ERは希望的観測は慎むべきではあるでしょうが。

ここまでの要点はひとつ、コストの為にディプレスト軌道に対する脆弱性を放置することは正当化できるのか。コスト<ディプレスト軌道に対する脆弱性の解消、これはゲーム理論での全領域に対する非協力ゲームにおけるゲームの解ではないかと思います。もし実現できるのなら、イージスアショア対THAADの効率性比較するゲーム理論やランチェスターの法則の数理モデルがあると良いですね。その方がすっきりします。

ところで空自OBで結成されている「つばさ会」がどのようにミサイル防衛政策にコミットしているのか興味がつきません。その点について情報をお持ちであればよろしくお願いします。

また長文となりましたが、今後も先生の評論を参考にさせて頂きます。

X 様
日本が能動的に、武力衝突が起こる時期をコントロールできるのであれば、その時期に併せて、防御力も必要性の高いモノを配備すべきですし、それは可能でしょう。

しかし、日本にそれはできません。
専守防衛を破棄したとしても、能動的に北朝鮮の体制転覆を謀ることはできないでしょう。

そうなると、非常に長期的な視野を持って防衛体制の整備をしなければなりません。
THAADの防御力、特に私も指摘し、X様も懸念するディプレスト弾道に対する防御力は効果的ですが、200発を越えるノドンに対する対処の方が、態勢整備の対象としては重視すべきだと考えます。

そのためのイージス・アショアです。

加えて、どこまでできるかは、疑問の余地もありますが、イージス・アショアがあれば、艦艇のイージスで、米国に向かうICBMの迎撃ができる可能性があります。

このエントリの趣旨からは外れますが、少々伺いたいことがありますのでこちらに失礼します。

イージスアショアの導入があれよあれよという間に決まりました。陸自が運用するとの報道でしたが、私は陸自がイージスアショアを運用するメリットがいまひとつ感じられません。仮に海自であれば、「イージス艦の運用で蓄積されたノウハウがあり、クルーの融通も利きやすい」という理由付けが考えられそうですし、空自の場合でも「PAC-3とあわせて、日本の空を統一的に守る防空システムを構築できる。また、有事に海自と共同で日本周辺の海を守るケースを考えれば、イージスシステムの運用に空自が習熟することは、海空自衛隊の共同上大きなメリットではないか」という理屈も成り立つかと思います。
また、防空ミサイルの格ないし位置という面から見ても、イージスアショアは野戦防空システムではなく、もっと戦略的な脅威を対象とする点で、陸自管轄というのは、パトリオットを空自が持つ現在の組織構造には不自然に感じられます。
数多さんはイージスアショアを陸自に運用させるという方針について何かメリットがあるとお考えになりますか?もし宜しければお答えいただけたらと思います。私個人としては、まず空自、次点で海自と考えていたのですが…。

ふきのとう 様

イージスアショアなのか、THAADなのか、ではなく、イージスアショアを3自衛隊の中で、どこが運用すべきかというお話だと理解しました。

イージスアショアを陸自が運用することに決まった理由は、弾道ミサイル防衛に積極的に噛むことができていない陸自が、俺にも噛ませろ!と言ったことが最大の理由だと思っております。
また、現役の自衛官からもそのとおり聞いております。

陸自は、今までも着弾後の被害局限等で仕事がありましたが、もっと積極的に迎撃に関与したいと思っていたようです。
また、予算においても、弾道ミサイル防衛が金食い虫であることから、弾道ミサイル防衛に噛めていない陸自の予算が相対的に減少していたことに対して、幹部自衛官も多い陸自として不満を抱いていたようです。

これに関しては、私は大したデメリットもないことだし、特に問題はないと思っています。

陸海空のどこが運用するにせよ、弾道ミサイル防衛は、空自のJADGEシステムでの統制下で運用する必要性があり、どのユニットが、どの段階で迎撃するか等、誰が運用していても変わりありません。

教育に関しては、海自が先行していますが、陸自も高射関係者は基本的な事は知っているため、それほど問題ありません。

むしろ、陸自関係者に弾道ミサイル防衛についての知識が広まるため、望ましいことではないかと思っています。

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