情報発表は控えるべき
まず最初に、前回記事に書いた東倉里からの弾道ミサイル発射方位ですが、東京の先にはマーシャル諸島があるとのコメントを頂きました。
確かにそうです。この点は見落としてました。アメリカのMD試験場もあるので、ハワイ方面と条件的には変わらないですね。わざとそちらに撃つという可能性も無いわけではないですが、考え難いオプションです。
となると、射距離6000km程度と考えると、どっちに撃っても都合が悪いです。残る可能性は、津軽海峡付近を通ってハワイと米本土の中間あたりを狙うルートかもしれません。
なんにせよハッキリ言えることは、北朝鮮も悩んでいるだろうという所でしょうか。
さて、では本題です。
前回記事にも書いたとおり、北朝鮮が中距離及び長距離の弾道ミサイル発射を準備していると伝えられています。
ミサイル発射の態様がどのようなものになるかについてはまだ予断を許しませんが、複数のミサイルを複数の地点から発射する動きがあり、今頃、政府・防衛省は頭を抱えていると思われます。
前回、4月5日の飛翔体発射の際は、PAC-3を展開させるなど、政府・防衛省は、国民を守る意思を見せましたし、その能力があることも見せました。
ですが、次回の発射では能力の限界が表面化してしまうかもしれません。そうなれば、北朝鮮は軍事行動の際には能力の限界を衝いた作戦を採るようになりますし、日本国民の不安を助長してしまうかもしれません。
今回問題となってくる自衛隊MD態勢の限界は、監視能力、特にイージス艦による監視能力です。(もちろんパトリオットPAC-3による防護範囲の問題もありますが、これはもとより分かっていたことです。)
イージス艦のSPY-1レーダーによって、北朝鮮からの弾道ミサイル発射を監視・観測するためには、北朝鮮近海まで進出するのでなければ、LRS&T(長距離捜索・追随)によらなけばなりませんが、LRS&Tでは捜索範囲(角度)が狭まります。
私も具体的な設定可能数値は知りません(知ってても書けませんが)が、探知確率と捜索範囲(角度)はトレードオフの関係にあり、監視が難しい状況であれば、探知確率を上げるため、より狭い範囲の捜索とせざるを得ません。(この辺りの理論的な話は、リクエストがあれば書きます)
例えば、今回発射地点として予想されている北朝鮮西部の東倉里(トンチャンニ)からの発射を警戒・監視する場合、日本海海上からでは、北朝鮮の中央山脈部を越えた時点でなければレーダーでの捕捉はできないため、レーダー覆域に目標が入った時点では、目標はより高速になっていますから、目標として確立することは、発射直後から捕捉する場合と比べると、かなり困難になります。こう言った状況では、捜索範囲を絞って探知確立を上げないといけません。
また逆に、探知確立を上げるため、捜索覆域を絞った場合、東倉里からの発射方位によっては、例えば南に向け、沖縄方面にミサイルを発射されたケースでは、早期に捜索覆域から目標が飛び出してしまい、探知・補足に失敗する可能性も出てきます。
能登半島沖において、東倉里からの発射を警戒する場合のイージス(LRS&T)捜索範囲例
更に、今回は東倉里だけでなく、舞水端里(ムスダンリ)や旗対嶺(キッテリョン)からも同時に発射が行われる事が予想されていますし、既に実戦配備が行われているTEL(移動式の発射機のこと)使用のノドンは、これらの有名な発射場とは別の地点から射撃される可能性が高いでしょう。
つまりは、今回必要な監視を行うためには、イージスの監視能力だけでは、完全に不足するということです。
詳しく述べませんが、FPS-3改を装備するサイトも状況は全く同じです。
となると、今回のように複数地点、それも発射地点として予想されていない場所からも発射される可能性を想定しなければならない状況(当然有事もそうでしょう)では、FPS-5による広範囲の監視能力とJADGEとLINK-16によるセンサー統合が極めて重要になります。
もちろん、事前に発射地点を確認して置くことも非常に重要で、自衛隊は既に監視を強めているようです。北朝鮮がコレに反発するコメントを出しています。
北朝鮮、「日本の偵察機を撃墜」と警告
(産経新聞09年6月27日)
********************
北朝鮮の朝鮮人民軍空軍司令部は27日、日本が北朝鮮の日本海側一帯への偵察飛行を相次いで行っていると非難、「われわれの領空を少しでも侵犯するなら、容赦なく射撃する」と警告する報道文を発表した。朝鮮中央通信が伝えた。
同司令部はまた「米国と共謀し、わが国の衛星打ち上げと核実験に関する国連での制裁決議でっち上げの先頭に立っていた日本が、偵察行為に乗り出したことは、許し難い軍事的挑発だ」と主張した。(共同)
********************
FPS-5、JADGE、リンクが完璧に仕事をこなしてくれれば、例え複数箇所からミサイルを発射されたとしても、前回4月5日と同様に、ミサイルを捕捉追随し、必要があれば迎撃を行うことも可能です。(FPS-5が捕捉し、他の機器に自動配信し追随・対処する。)
ですが、本当に可能か否かは、当事者である防衛省・自衛隊さえも答えられません。
各種センサー(FPS-5、FPS-3改、イージス)の捕捉目標を、JADGEなどの統制システム、リンクを通じて他のセンサーや迎撃手段(イージス、PAC-3)に自動配信(キューイング)するシミューレーション試験は行っているものの、実際に弾道飛翔目標を使った実地試験は行われていません。(予定があるとの情報もなし)
唯一、前回4月5日が実戦でのテストとなり、良好な結果が得られたようですが、複数のミサイルが同時に発射された場合にもシステムが確実に作動するかは、やはり不透明です。
この点について、現役自衛官だった時に、実地試験をやるべきで、その際にこんな試験方法があるといった発案もしていたのですが、主に予算的な理由からNGでした。
もし、ミサイルの同時発射が行われた際に、完璧な捕捉追随ができなければ、そしてその事が北朝鮮にも明らかになってしまえば、北朝鮮は例えMDがあったとしても、弾道ミサイルによる有効な戦術が可能だと認識してしまいます。
また、どんな方法を採れば、MDによる迎撃を回避し易いかも認識してしまうでしょう。
という訳で、早ければ7月初旬にも行われる可能性があると見られる北朝鮮による弾道ミサイル発射に当たっては、前回4月5日のような詳細な情報発表は行うべきではありません。
完璧な仕事ができればOKですが、ノドンまで含めた同時発射が行われれば、それはおそらく不可能です。
そして、北朝鮮とすれば、欠落した情報が何かを判断すれば、MDの盲点が把握できてしまいます。
国民に安心を与えることも必要ですが、今回のように、防衛の現場に与えるマイナスの影響が大きい場合は、一切発表せずでも良いはずです。
今の内から発表しないことをアナウンスしておけば、それほどの不安・混乱は起こらずに済むのではないかと思います。
最近のコメント