北朝鮮によるミサイル発射について防衛省が発表
5月15日、防衛省が先日行われた北朝鮮による「弾道ミサイル」発射に関連して、2つの発表を行っています。
一つは「北朝鮮によるミサイル発射について 」、もう一つは「北朝鮮のミサイル発射に係る防衛省の情報伝達について 」です。
「北朝鮮によるミサイル発射について」の内容は、これまで随時出してきた情報をまとめただけというものに近く、ほとんど新たな情報はありません。
多少なりとも新味のある情報は、第三国から資材・技術の流入などがあった可能性も指摘した点と1段目ブースターの推進剤が液体燃料だとした点の2点程度です。
防衛省発表に対して、メディアが注目した点もこの2点に集約されている感じです。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090515-OYT1T00206.htm
http://www.asahi.com/national/update/0515/TKY200905150123.html
読売と朝日の両紙で面白い違いは、第三国として読売が「イラン、パキスタンなど」としたのに対して、朝日は「中国、ロシア、イラン、パキスタン」としていた点です。
北朝鮮の弾道ミサイル開発に対して、中国やロシアが現在も協力しているとは考えにくいのですが、朝日がどんな意図でこの2カ国を入れたのか気になります。
第三国からの技術流入、第1段ブースターの推進剤とも、当然ながらアメリカと情報の摺り合わせも行った結果でしょう。特に第三国からの技術流入に関しては、日本独自ではほとんど情報収集が困難な内容です。
第1段ブースターの推進剤については、防衛省の発表では、燃焼の火炎状態等から単に液体燃料であるとしていますが、野木恵一氏は、軍事研究誌最新号(6月号)に掲載されている記事中で、推進剤は予想されていたヒドラジン系ではなく、ケロシンとガソリンの混合物ではないか、と書いています。(野木氏の分析根拠は、北朝鮮が公開した弾道ミサイル発射シーンの噴射炎の色からです。元素は燃焼時に特定の波長の光を多く出すことから、炎の色から燃料の種類が分析できます。)
推進剤がヒドラジン系ではないかと予想されていた大きな理由は、北朝鮮は入手したスカッドC(ヒドラジン系推進剤)を弾道ミサイル開発のモデルとしたと思われていたからです。
ケロシンが燃料だったスカッドは、最も設計の古いスカッドAだけですが、野木氏はこのスカッドAの技術がソ連から北朝鮮に渡り、北朝鮮の弾道ミサイル開発の元になったと考えているようです。
ほとんど勘ぐり過ぎかもしれませんが、朝日新聞が、野木氏並みの分析能力を持っているとはとても考えられないので、もしかすると防衛省とアメリカも野木氏と同じ考えを持ち、これが朝日に漏れ伝わったのかもしれません。
今回の情報だけで、推進剤の種別に結論を出すことは危険かもしれませんが、もし北朝鮮がヒドラジン系に比べて推進力に劣り、技術的には古いと言えるケロシン系の推進剤を採用しているとしたら、弾道ミサイルとして実戦的能力を獲得し易いという考えから、扱い易い推進剤であるケロシン系を選択した可能性も考えられます。(ヒドラジン系の燃料は腐食性や毒性があり扱いにくい)
この点からも、北朝鮮は何らかの物体を衛星軌道に投入しようとしていたと思われるものの、今回の行為により「弾道ミサイルの性能の向上のために必要となるこれら種々の技術的課題の検証等を行い得たと考えられる」と防衛省が分析していることは肯ける話です。
今回の防衛省の発表で問題のある点は、第1段ブースターを切り離した後の飛翔体が日本の東1270kmに落下すると予測した点について、なんらのコメントも行っていない点です。これについては防衛省発表は次の通りに書いているのみです。
「「落下物2が11時43分頃日本の東、約1270kmの太平洋上に落下すると予測された。(11時38分の時点)」と発表した件については、そのような落下は確認されていない。」
この件については、以前の記事「コースティング 」に書いていますが、状況によっては誤った迎撃をすることになった可能性もあり、発射前日の誤報問題なんかより遥かに重要な問題であるはずですが、防衛省は今のところダンマリを決め込んでいるようです。
防衛省が発表したもう一つの「北朝鮮のミサイル発射に係る防衛省の情報伝達について」は、発射前日の誤報について人為的ミスであったことを書いているだけです。
これに関しては以前の記事「誤報の原因と課題 」でも書いてますし、新たにコメントすることはありません。
なお、このちょうど良いので、この機会に訂正を書いておきます。
以前の記事「破壊措置命令-展開部隊 」と「破壊措置命令-PAC-3配備について早速訂正 」で、首都圏に展開したPAC-3部隊について、第4高射群の高射隊を含めて5個高射隊と書いていました。
ですが、浜松の高射教導隊が機動した報道はあるものの、岐阜の部隊が機動した報道は全くなかったので、高射隊に関しては、首都圏には第1高射群の4個高射隊のみが展開していたようです。
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