敵基地攻撃に関する政治家の問題認識
北朝鮮による「弾道ミサイル」発射に関連して、敵基地攻撃が議論されるようになりました。
法的な問題はまた別の問題ですが、軍事的合理性からしたら議論されて当たり前の問題です。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200904/2009040600796
ですが、誤った認識を基にして議論されているのであれば、誤った結論しか出てきません。
先生方が、正しい認識をしているなら、かまわないのですが、鴻池官房副長官のMDに関する認識が、未だにピストルの弾を比喩に出す程度の認識であることを見ても、多くの先生方が正しい認識を持っているとは到底思えません。
さて、私がここで何を問題視しているかと言えば、敵基地攻撃によって北朝鮮による弾道ミサイル発射を未然に防止できるかのような認識がされているらしい事なのです。
上に挙げた時事の記事を見ても、「敵基地攻撃は、中略、発射場などを先制攻撃するもの」と書かれており、「敵基地攻撃」の目標が弾道ミサイルであるかのように書かれています。
ですが、「敵基地攻撃」の能力として、現実的に可能などんな装備を保有しようとも、ノドンの発射を事前に阻止することなど不可能です。
対北朝鮮を考える時、現状でも圧倒的な制空戦闘能力とJDAMによる精密攻撃能力がありながら、ノドンの発射を事前に阻止できない最大の理由は、地上に対する偵察・監視能力です。
既に実戦配備されているノドンの移動式発射機(TEL)は、地下などにある格納庫から地上に姿を現してから1時間以内にミサイルの発射が可能と言われています。
これを捕捉するためには、衛星では到底遅すぎます。
イラクでの米軍によるスカッドハントでは、E-8が使用されましたが、それでもスカッドの捕捉は困難でした。
たとえ日本がE-8を保有したとしても、山がちで森林の多い北朝鮮では、国土のほとんどが砂漠のイラクよりも、監視が困難であることは疑うべくもありません。
E-8の後継となるべきE-10も、開発試作機のみで量産は中止されてしまっています。E-8が改修されるとしても、劇的な性能向上は望めません。
例え日本海上空で空中給油をしつつ、JDAMを抱えてスタンバイしたとしても、ノドンをミサイルの発射前に発見することは困難なのです。
国会議員の先生方がこの事をちゃんと認識し、敵基地攻撃能力とは、あくまで敵に被害を強要、あるいは指導者の殺害を企図し、ノドンによる攻撃を抑止する事だと認識されているのなら良いのですが、誤解によって敵基地攻撃能力が語られているなら、後で自衛隊が責められかねません。
この点、ちゃんとした報告を受けているらしい浜田防衛相は、敵基地攻撃論には否定的です。
http://www.asahi.com/politics/update/0410/TKY200904100324.html
議論は大いにして頂くべきですが、絵空事ではなく、地に足の着いた議論をして頂くべきです。
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1 ■無題
初めまして、
いつも記事を興味深く拝見させていただいて居ります。移動式発射台ミサイルを事前に発見・撃破するのは難しい、まして分散配置されていると尚更のことと思います。すると仮に発射自体を阻止したければ個々の発射台ではなく、相手国の中枢を攻撃する能力を持つ以外にないということでしょうか。又、それはMDに比べて技術・経済・政治面でのハードルが高い上に、取得に時間がかかりすぎるのでは無いでしょうか。
投稿: matsuzay | 2009年4月21日 (火) 21時15分
2 ■いらっしゃい
matsuzay様
相手国の「中枢」というのが何を指すのかで大分違ってくると思いますが、北朝鮮に日本を攻撃する意思があれば、物理的にノドンの発射を阻止することは困難だと思われます。
方策としては、あくまで、相手が許容不可能な報復能力を持つことで相手の意思を挫く、つまり抑止するということになってくると思います。
そしてそれは、現実的には日米安保条約に基づいて達成されるものだと思います。
独自でそういった能力を持つことについて、言及されているように思いますが、おっしゃられているように困難だと思います。
また、北朝鮮に限って言えば、一つには最高意思決定者の金正日個人を中枢という見方もできますが、ザルカウィを爆殺したような作戦は成り立たないわけではないものの、いろいろな意味で困難ですし、軍の一部の判断で報復してくる可能性は排除できません。(北朝鮮内部の意思決定にはナゾも多いですし)
http://ameblo.jp/kuon-amata/
投稿: 数多久遠 | 2009年4月21日 (火) 23時49分