ついに北朝鮮が飛翔体を発射させました。
防衛省から分析された結果が発表されるのは、米国との見解のすり合わせなどもあるため、かなり時間を要するでしょう。
報道は山のような記事が出ていますが、ここでは事実関係をまとめ、そこから言える事、推測される事を書いておきます。
まず最初に防衛省の発表内容です。
5日午前11時30分頃:飛翔体発射
同日午前11時32分 :防衛省最初の発表
同日午前11時37分頃:本邦通過
同日午前11時37分頃:第1段ブースター落下(推定)、秋田県西方約280キロメートルの日本海上
同日午前11時43分頃:第2段ブースター落下(推定)、日本の東約1270キロメートルの太平洋上
なお第2段ブースターについては、当初の発表後に不明と訂正後、再度訂正で同地点と発表されている。
同日午前11時48分 :追尾終了、日本の東約2100キロメートルの太平洋上(予定通り)
なお、防衛相の会見では、飛翔方位は通告のとおりだったという主旨の発言をしている。
次に北朝鮮の朝鮮中央通信の発表です。
同日午前11時20分 :3段式ロケット「銀河(ウンハ)2号」を咸鏡北道花台郡にある東海(日本海)衛星発射場から発射
同日午前11時29分2秒:人工衛星「光明星(クァンミョンソン)2号」軌道進入に成功
衛星の軌道は、傾斜角は40・6度で、近地点490キロ・メートル、遠地点1426キロ・メートルの楕円軌道。周期104分12秒で地球の周りを回っている。
同衛星は「金日成(キム・イルソン)将軍の歌」「金正日(キム・ジョンイル)将軍の歌」のメロディーと測定資料を周波数470メガ・ヘルツで送信し、UHF帯の通信中継を行っている。
最後に、NORADの発表です。
第1段階は日本海に落下
残りの部分は先端部も含めて太平洋に落ちた
(第2段と3段目以降の分離については、情報なし)
北朝鮮の発表と日本政府の発表は、発射時刻にかなりのずれがあります。
北朝鮮の発表は、予定時刻をそのまま報道したとしても、軌道投入時刻が3段目の燃焼が終わっていない可能性もある時刻なので、まじめに考慮しても意味のないものでしょう。
北朝鮮が本来投入を狙っていた軌道は、朝鮮中央通信の発表の通りだと思われますが、今回の飛翔体が数日程度でも軌道に留まっていれば、北朝鮮は光明星2号は返回式衛星で、打ち上げは成功だったと強弁するつもりだと思われます。
(返回式衛星とは、中国が得意とする変わった衛星で、数日から十数日の運用の後、大気圏に再突入させて回収するというモノです。)
さて、飛翔体の飛翔状況は政府発表とNORADの情報にも差異がありますが、仮に政府発表のとおりだったとして、そこから何がわかるでしょうか。
確かなことは、「きりしま」が日本の東900km程度の場所に展開していたということだけです。これは、目標の追尾終了が日本の東約2100キロメートルの太平洋上で、この位置が予定通りだった、つまり性能上の限界だったことから分かります。
次に推測される事項としては、日本の観測網は第2段ブースターが分離されていたとしても、それを追尾できていなかった可能性があるということです。
これは、もちろん政府発表が2転したことが論拠ですが、それだけではありません。
基本的に、日本のレーダーサイトは太平洋方面の監視能力が高くありません。これは、脅威の方角から日本海方面を重点的に監視できるようにサイトを作ったからに他なりません。
立地条件などから、太平洋方面が全く監視できないサイトもあります。
今回弾道ミサイル監視に参加していたレーダーの内、下甑島のFPS-5は弾道ミサイル監視が出来る大型のアレイが太平洋方向を向いていないため、対応できません。
飯岡のFPS-5は、試験用のため回転できますが、当初はアレイを北に向けていたでしょうから、発射直後から東北地方あたりまでを警戒した後、アレイ面を太平洋方向に回転させている間は監視を行えていない可能性が高いと思われます。
FPS-3改については、当別、加茂、輪島、経ヶ岬、背振山については、基本的に日本海側の監視サイトなので、太平洋側の監視は困難です。
大滝根、串本の2箇所だけが太平洋側のサイトですが、FPS-3は改になっているとは言え、弾道ミサイル監視では複数目標の追尾は困難です。分離したターゲットの内、両サイトとも第3段および弾頭部を追尾してしまい、第2段ブースターの方は、システムが自動計算した計算上だけの航跡になってしまった可能性があります。
イージス艦については、LRS&Sでの追尾も、FPS-3改と同様に複数目標の追尾が困難なため、ブースターではなく第3段以上の方をトラックしていた可能性があります。
(3月28日付の読売新聞の記事に、海自幹部の談話として「レーダーは飛翔する弾頭を追尾しており、いきなり切り離された部品にレーダーを振り向けることは難しい」と載っています。)
また、「きりしま」については、目標の追尾が出来ていたとしても、リンクで連接できていなかった可能性もあります。
link16によるリンクは、見通し線内でしか構成できませんが、「きりしま」の展開位置が遠方だった他、中継となるAWACSなどを日本海側に集中させていたため、「きりしま」についてはリンクせずに単独で運用されていた可能性も考えられるからです。
第2段ブースターの追尾については推測ですが、今回の発表からこの程度の可能性は推測できます。
ということは、北朝鮮を始めとする諸外国の情報組織も、日本のMD能力を同じように推測できるということです。
国民に安心を与えるという点では、今回の対応はうまく出来たように思えます。
ですが、これによってかなりの情報が諸外国の知るところとなったとも言えます。どこまで情報公開するかという点については、微妙なものがあるように思えます。
最後に面白い関連ニュースを一つ。
4日に起こった誤報騒ぎですが、日本政府だけでなく朝鮮総連も誤報を流したそうです。読売が報じています。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090404-OYT1T01153.htm?from=y10
本国から、事実はどうであれ、成功を報じるように指令が出ていたんでしょうね。
短い記事なので、全文を転載しておきます。
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朝鮮総連機関紙も「発射成功」記事、ネットに30分間
【ソウル=前田泰広】北朝鮮の主張を代弁する在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の機関紙「朝鮮新報」(電子版)が4日、長距離弾道ミサイルの「発射成功」を伝える記事をインターネット上に掲載し、直後に削除するトラブルがあった。
日本政府だけでなく、身内であるはずの朝鮮総連まで“フライング”した格好だ。
韓国の聯合ニュースによると、問題の記事は、試験通信衛星の光明星(クァンミョンソン)2号について、「発射成功」「軌道に進入した」などと伝えた2本。日本政府の誤発表より前の4日午前11時前後に相次いで掲載された。2本とも約30分後にはネットから消えた。
(2009年4月5日03時07分 読売新聞)
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