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2009年4月

2009年4月29日 (水)

豚インフルのパンデミックに自衛隊の出番は?

豚インフルエンザによるパンデミックに自衛隊はこうすべきだ、ということを書きたい所ですが、現状では残念ながら出来ることはほとんどありません。

直ぐに出来ることが有るとすれば、感染地域からの在留邦人の非難を特輸隊の政府専用機を使って行うくらいです。
ですが、それさえも、要員に十分な装備や準備ができる訳ではありません。

今までも、防疫関連としては、生物兵器による攻撃が、特殊武器攻撃として想定されてはいました。
ですが、特殊武器の中では核と化学にはそれなりの配慮がされていたものの、生物兵器に対しては対処が非常に難しいこともあって、対策はほとんど採られていなかったと言ってよい状況です。
このことは、NBC防護のための部隊の名称が化学防護隊などと言う名前になっていることにも表れています。
そのため、パンデミックに対しては、それほど準備ができていないのです。

米軍の場合は、生物兵器の研究も進んでいたこともあり、映画「アウトブレイク」や「バイオハザード」にも多数登場しているように、CDCなどと連携してパンデミックに対応する能力が備えられています。
(余談ですが、アウトブレイクのネタ本と言われるノンフィクションの「ホット・ゾーン」は、オススメです。「アウトブレイク」やホラーなんて目じゃない怖さがあります)

自衛隊の場合、今年21年度の概算要求に「新型インフルエンザのパンデミック対応」として44億円を投じて能力整備する予定でした。
ところがこの項目は、その後の予算折衝でそっくり削られてしまいました。
当初「新たな脅威や多様な事態等への対応」の中に、新たな項目として入っており、「自衛隊もやっと本腰か」、と思っていたのですが、なんとも残念な結果です。
豚インフルエンザのニュースに接して、関係者は今頃歯噛みしていることでしょう。
はたして不明だったのは財務省だったのか、あるいは防衛省だったのかは分かりませんが、少なくとも今年度予算の反省点であることは間違いありません。

この消えてしまった新たな予算項目「新型インフルエンザのパンデミック対応」ですが、中身を見ると次のようになっていました。
・在外邦人輸送、国内物資輸送等
 輸送機・輸送艦等の乗員、物資輸送に従事する隊員用の感染防護衣、感染防護マスク、手袋等
・医療支援
 医療従事者用の感染防護衣、感染防護マスク、手袋等
 人工呼吸器、X線撮影装など治療・診断用器材
・自衛隊の機能維持
 感染防護マスク、抗インフルエンザ薬等

なかなか意欲的だなと思った点は、最初の輸送機や輸送艦乗員などのための感染防護装備です。
対生物、特にインフルエンザなどのウイルスに対しては、通常の化学兵器用の装備とはレベルの違う防護性能が必要です。
特に、呼吸のための装備には外気をろ過するようなマスクではウイルスの遮断がし切れないため、消防が使う空気呼吸器のような装備が必要です。
本当にそこまでの装備をさせるつもりだったのかは分かりませんが、概算要求に盛り込む以上、装着しながら航空機などの操縦操作や必要なコミュニケーションを取れる装備の選定も終っていたのでしょう。

もし概算要求の通り盛り込まれていれば、今頃緊急に納入され、活躍の場も出てきたかもしれません。
44億ほどの予算は、いきなりひねり出せないでしょうが、もし豚インフルエンザが本当にパンデミックになるような様相となれば、これらは緊急に取得されることになるかもしれません。

2009年4月27日 (月)

JADGE開発の思い出

4月16日付の朝雲新聞にJADGEの戦力化が目前だという記事が出ています。
http://www.asagumo-news.com/news/200904/090416/09041610.html


現行のBADGEやJADGEは、航空作戦や弾道ミサイル防衛の中核となるシステムですが、秘の度合いが高く、情報がほとんど外部に公開されないためメディアで取り上げられることも少なく、軍事関係の雑誌でも目にすることはほとんどありません。


私もどこまで書いたら問題ないのか図りかねるので、JADGEそのものについては、ここでは書きませんが、その開発にも一枚噛んでいたので、一つ印象深かった思い出話を一つ書きます。


JADGEは大規模なシステムで、連接される機器も多岐に渡ります。
そのため、開発に当たっては関連する機器、部隊の関係者を多数集めた会議が何度も開かれました。

システムのユーザーとなる部隊関係者は、最良のシステムにしようとあれこれと注文を付けます。その一方で、同じ思いを抱きながらも空幕の担当者や試験に携わるプログラム管理隊は、コストや期間も考慮せねばならず、会議では槍玉にあがることもしばしばでした。


そして、それ以上に槍玉に上がっていたのは、実際に開発をするNECの技術者でした。
JADGEの開発に当たっては、他社も候補に上がったようですが、結局BADGEの開発納入もしているNECが、積み上げたノウハウの多さから選定されたようです。


部隊の真剣さの現われでもあるのですが、NECに対する部隊からの突き上げはかなりのもので、「NECがネックだ」などという揶揄も良く聞かれました。


こんなことを書いている私自身も、かつてはその一人で、「これが出来なければ困る。今からでも仕様変更できるはずだ!」などという不満をぶつけたことは何度もありました。


そんな折、ある会議の際、NECの技術者が全員真っ赤な目をして現れた時がありました。
一目見て「全員徹夜明けだな」と分かる状態で、NECも苦労してるんだな、とこの時思いました。
(もっとも、だからと言って要求を取り下げることはありませんでしたが)


日本の防衛には、防衛省・自衛隊だけががんばっている訳ではありません。
それを支える防衛産業の力も大きく貢献しています。

2009年4月25日 (土)

真面目過ぎるのも如何なものか

昨年2008年度のスクランブル実績が公表されました。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090423-OYT1T00800.htm

一昨年より70回減の237回、国別ではロシアが約80%の193回、中国が31回、台湾が7回などとのことです。

これは、日々真面目に対領空侵犯措置を続けてきた成果であり、携わってきたパイロットを始め、整備員やレーダーコンソールを睨んできた監視員にご苦労さまと言うべきモノです。


ですが、現役の時からずっと思ってきたことですが、真面目すぎるのの如何なものでしょうか。
というのも、この真面目さが仇になっている部分もあるからです。


日本の周辺に飛来し、対領空侵犯措置の対象となっている航空機の飛来目的は、かなりの割合が偵察です。
レーダーサイトなどに対する長射程ASMの発射訓練が、結果的に威力偵察となっている場合を含めれば、ほとんどが偵察であると言えます。


感の良い方はもうおわかりでしょうが、生真面目さゆえ、自衛隊の能力的限界(レーダー覆域に入ってからの反応時間など)については、ほとんどばれてしまっていると言えるのです。
現状でも、レーダーでコンタクトして直ぐにスクランブルがかかるわけではありませんが、積み重ねれば相当のことが分かってしまうのです。


現在の対領空侵犯措置は、例え領空を侵犯されたとしても、正当防衛や緊急避難に該当する場合を除き、領空侵犯機を攻撃することはできません。
このことは、侵犯する側も重々承知のことで、有用な情報が取れそうな状況であれば、平気で領空を侵犯してきます。
こんなことを書くと怒る方(特に自衛官)もいるでしょうが、現行法制下では、どうせ出ていって頂くしかできないのですから、状況が緊迫しているのでもなければ、緩急をつけて対応しても良いのではないかと思うのです。


ロシアや中国に対して、自衛隊が常に高い緊張感を持っていることを示すことが抑止力になっていることは事実です。
ですが、情報に関しては平時から有事です。
「兵は詭道なり」という言葉もあります。
常に真面目が良いとは限りません。「適当」が「適切」な場合もあると思うのです。

2009年4月21日 (火)

放棄されたシビリアンコントロール

今回の北朝鮮による「弾道ミサイル」発射に対して、いろいろと課題は出てきたものの、日本政府の対応は良かったと評価されていますし、私もそう思います。

ですが、政府として決定的な失策が一つありました。
それは、シビリアンである内閣総理大臣が、シビリアンコントロールとその責任を放棄してしまったことです。

このブログでも何回も触れましたが、今回自衛隊に命ぜられた弾道ミサイル等の破壊措置は、自衛隊法82条の2の3項を適用されてのものでした。

これは、「事態が急変し同項の内閣総理大臣の承認を得るいとまがない」場合に適用される条項です。ですが、今回は十分な「いとま」がありました。にも関わらず、政府は今回、飛来する恐れは認められないが、「事故が発生したら落下する場合がある」ことから3項を選択した、と言われています。
一見、筋が通っているようにも見えますが、こちら に在るとおり、防衛白書でも「事柄の重要性および政府全体としての対応の必要性にかんがみ、内閣総理大臣の承認(閣議決定)と防衛庁長官の個別の命令を要件とし、内閣および防衛庁長官がその責任を十分果たし得るようにしている」と書かれており、3項はあくまでいとまのない緊急時のみの条項として法律が制定されました。逆に、「いとま」がある場合は1項を適用し、内閣総理大臣が承認することを前提としているのです。

つまり、今回の措置では、内閣(総理大臣)がその責任(シビリアンコントロール)を放棄してしまったのです。
防衛省・自衛隊に責任を押し付けたとも言えます。

最近では、田母神元空幕長の更迭問題などがシビリアンコントロール上の問題と言われることもありましたが、今回の事案にあたって、内閣自らシビリアンコントロールを放棄しているようでは話になりません。

今後は、もっと責任ある対応をとって頂きたいものです。

2009年4月18日 (土)

敵基地攻撃に関する政治家の問題認識

北朝鮮による「弾道ミサイル」発射に関連して、敵基地攻撃が議論されるようになりました。
法的な問題はまた別の問題ですが、軍事的合理性からしたら議論されて当たり前の問題です。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200904/2009040600796


ですが、誤った認識を基にして議論されているのであれば、誤った結論しか出てきません。
先生方が、正しい認識をしているなら、かまわないのですが、鴻池官房副長官のMDに関する認識が、未だにピストルの弾を比喩に出す程度の認識であることを見ても、多くの先生方が正しい認識を持っているとは到底思えません。


さて、私がここで何を問題視しているかと言えば、敵基地攻撃によって北朝鮮による弾道ミサイル発射を未然に防止できるかのような認識がされているらしい事なのです。
上に挙げた時事の記事を見ても、「敵基地攻撃は、中略、発射場などを先制攻撃するもの」と書かれており、「敵基地攻撃」の目標が弾道ミサイルであるかのように書かれています。


ですが、「敵基地攻撃」の能力として、現実的に可能などんな装備を保有しようとも、ノドンの発射を事前に阻止することなど不可能です。

対北朝鮮を考える時、現状でも圧倒的な制空戦闘能力とJDAMによる精密攻撃能力がありながら、ノドンの発射を事前に阻止できない最大の理由は、地上に対する偵察・監視能力です。
既に実戦配備されているノドンの移動式発射機(TEL)は、地下などにある格納庫から地上に姿を現してから1時間以内にミサイルの発射が可能と言われています。


これを捕捉するためには、衛星では到底遅すぎます。
イラクでの米軍によるスカッドハントでは、E-8が使用されましたが、それでもスカッドの捕捉は困難でした。
たとえ日本がE-8を保有したとしても、山がちで森林の多い北朝鮮では、国土のほとんどが砂漠のイラクよりも、監視が困難であることは疑うべくもありません。
E-8の後継となるべきE-10も、開発試作機のみで量産は中止されてしまっています。E-8が改修されるとしても、劇的な性能向上は望めません。


例え日本海上空で空中給油をしつつ、JDAMを抱えてスタンバイしたとしても、ノドンをミサイルの発射前に発見することは困難なのです。

国会議員の先生方がこの事をちゃんと認識し、敵基地攻撃能力とは、あくまで敵に被害を強要、あるいは指導者の殺害を企図し、ノドンによる攻撃を抑止する事だと認識されているのなら良いのですが、誤解によって敵基地攻撃能力が語られているなら、後で自衛隊が責められかねません。


この点、ちゃんとした報告を受けているらしい浜田防衛相は、敵基地攻撃論には否定的です。
http://www.asahi.com/politics/update/0410/TKY200904100324.html


議論は大いにして頂くべきですが、絵空事ではなく、地に足の着いた議論をして頂くべきです。

2009年4月16日 (木)

忘備録-北朝鮮による「ミサイル」発射事案

今回は、新たな分析評論記事はありません。
北朝鮮による「ミサイル」発射事案に関連して、いろいろと出てきた情報を、忘備録として記載しておきます。


1 飛翔体関連
・3段式(おそらく)で、先端部に衛星が入っていると思われる膨らみがあったと報じられたが、北朝鮮公開のビデオでは、形状は3段式だが衛星を入れたと思われる膨らみはなし。
・燃料注入は車両からではなく、地下に埋設されたパイプから。
・北朝鮮からIMOに通告された危険区域
4月4日-8日 毎日1100-1600(日本時間)
(1)
北緯40ー41ー40 東経135-34ー45
北緯40ー27ー22 東経138-30ー40
北緯40ー16ー34 東経138-30ー22
北緯40ー30ー52 東経135-34ー26
で囲まれる海面
(2)
北緯34-35-42 東経164-40ー42
北緯31-22-22 東経172-18-36
北緯29-55-53 東経172-13-47
北緯33-09-16 東経164-35-42
で囲まれる海面
・飛翔体は八峰町、角館市、普代村上空を通過
・飛翔体は第1宇宙速度に達していない。(=軌道投入は失敗)
・第1段ブースターは、通告海域に落下
・第2段以降の最終落下地点は、北朝鮮が事前に2段目ブースターが落下すると通告した千葉・房総半島東方2150キロから2950キロの太平洋上のうち、最も日本列島に寄った海域。ミサイルの飛行距離は、北朝鮮の舞水端里(ムスダンリ)にある発射施設から3200キロ前後。カートライト米統合参謀本部副議長は2段目と3段目の落下場所は「非常に近い」とし、「落ちた物体は原形をとどめていなかったようだ」と述べている。


2 政府関係
・迎撃は困難との認識を示した政府関係者は鴻池祥肇官房副長官
・自治体への情報伝達には、導入自治体が少ないため全国瞬時警報システム「J-ALERT(J-アラート)」は使用せず、専用回線メールで一斉同報する「エムネット」を使用(エムネットは市町村の担当課のパソコンにメールが届くと着信アラームが鳴り、職員が防災無線を使って住民に伝える仕組み。伝達に5分程度かかるが、全国自治体の約7割で整備)
・中央指揮所は午前11時31分ごろ、米国の早期警戒衛星による発射情報を確認
・32分、「北朝鮮から飛翔(ひしょう)体が発射された」と発表した。
・11時48分ごろ、日本の東約2100キロの太平洋上まで追尾し、レーダーの捕捉範囲の限界に達した。
・日本の領域への落下物はなく、破壊措置は実施せず。
・P3Cが、落下推定時刻の38分後の同日午後0時15分ごろ、落下推定海域から西に約40キロの海域で、半径約50メートルの円形状の変色を確認。午後3時ごろには、幅約50メートル、長さ3キロの帯状になった。薄く光る状態で、ブースターから液体が流れ出した可能性があると報道された。
・2段目のブースターの落下について、河村官房長官は「日本の東約1270キロの太平洋上に落下したものと推測される」と記者会見で発表したが、防衛省は発表文から落下予測地域を削除し、「分析中」と訂正した。その後再度1270kmを落下予測地点とした。しかし、第2段ブースターの分離は確認していない。
・1段目のブースター落下予想地点を報告した時点で、現時点で推測される飛翔体の落下地点は房総半島の東方約1270km、落下予想時刻は43分頃と報告されている。
・政府は、弾頭には見せかけの衛星を載せただけで、ブースターの出力や制御を試すミサイル実験だったとの見解で、表現も「飛翔体」から「ミサイル」に変更。
・破壊措置命令は6日に解除


3 米軍関係
・嘉手納に展開した米軍の偵察機は、RC-135U(コンバットセント)が1機、RC-135S(コブラボール)が2機、U2が1機
・米軍MD対応イージス艦は「ステザム」、「カーティス・ウィルバー」、「シャイロー」、「フィッツジェラルド」を含む6隻以上、ただし「ホッパー」、「ジョン・S・マケイン」は横須賀に入港したまま
・弾道ミサイル観測艦は、オブザベーション・アイランド(T-AGM-23)が確認されている(4月7日朝に佐世保に入港)もう1艦のインディペンデンスについては不明


4 その他
・北朝鮮は4月1日までに、舞水端里近くにの基地にミグ23などの戦闘機を移動

2009年4月14日 (火)

新聞の将来

軍事関係ではありますが、今回は少々趣の異なった記事を書きます。


ちょっと前の話になりますが、電通が「日本の広告費2008」というレポートを発表しました。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2009/pdf/2009013-0223.pdf

それによると、広告の各種メディア別の広告費は、昨年秋からの金融危機によって軒並み低下しています。
が、その中でも新聞の低下は激しく、前年度比12.5パーセントもの減少となってとなっています。
新聞広告の下落は昨年だけのものではなく、ここ数年継続している傾向です。


その最大の理由は、主にネットの普及による新聞離れだと言われています。
今やほとんどのニュースがネットで見ることができるため、新聞を買う必要はないというわけです。

もともと新聞はテレビなどと比較すると、即時性に劣る代わりに、正確で事象を深く掘り下げるところにメリットがあるとされていました。
テレビが普及した後も、そのメリットを生かして、現在まで生き残ってきたわけですが、最近では軍事を含む一部で、そのメリットさえも失われつつあるようです。


軍事は専門性の高い分野で、(特に日本にあっては)防衛記者クラブに詰める記者でも、理解が十分と言える人はほとんどいないのが実情でしょう。
その結果、記事に誤りがあるケースが珍しくないだけでなく、ニュースの意味を読み解けていない場合も少なくありません。
次の記事なんかは、その酷いケースの典型で、物理的な限界と政治的な困難と法的な限界が弁別できていません。(小川和久氏の話がおかしいこともあるが)
http://sankei.jp.msn.com/world/korea/090307/kor0903071801001-n1.htm


こう言った実情に加えて、インターネット、特にアマチュア記者が書くブログの存在が新聞の存在意義を脅かしています。新聞よりも、事象を深く掘り下げ、ニュースの意味を読み取っているからです。速報性の点でもブログの方が早いことも珍しくありません。


1日1万ヒットを超える化け物ブログの「週間オブイェクト」では、イスラエルのガザ進攻で使用された白燐弾の件を、新聞やニュースが記事にする前から報じていますし、内容もそれらより突っ込んだものでした。(個人に対する攻撃的な姿勢はどうかとも思うが)
http://obiekt.seesaa.net/category/909880-1.html


最近の弾道ミサイル関連を中心として、私が書いたエントリーも、その簡略版かと思えるような記事が後になって紙面に載ったりしています。(私の場合は元プロなので、同列に並べてはいけないのかもしれませんが)


インターネット先進国のアメリカでは、大統領の記者会見にもブロガーの席が設けられるほどです。

アメリカの新聞は、日本の新聞に比べ、単なる事実の報道に留まらず、事象を深く掘り下げた記事を書くことが一般的です。
そのアメリカでさえ、印刷された新聞の発行を停止し、ネット販売に注力する新聞社が出始めています。

広告収入の減少や販売部数の低迷から、新聞各社の業績は危機的だと伝えられています。記事のグレードを上げなければ、アメリカのようにネット転換もかなわず、本当に消えてゆく運命かもしれません。

2009年4月12日 (日)

お疲れ様でした

弾道ミサイル等破壊措置で出動されていた自衛官の皆様、お疲れ様でした。


今回の件では、さまざまな課題も出てきたでしょうが、自衛隊がこれほどまで注目され、ニュースになった機会も少ないのではないでしょうか。特にPAC-3を装備する高射部隊やFPS-5とFPS-3改を装備する警戒管制組織は、普段と比べると格段の注目を浴びていました。


その一方、注目をさせる側のマスコミは、防衛問題に対する見識の低さも露呈させています。
全部を論えることはとても無理なので、一番笑える記事を貼っておきます。
http://mainichi.jp/select/world/northkorea/archive/news/2009/04/20090406k0000m040070000c.html
こちらの記事にある写真のキャプションが傑作です。いくらなんでも「砲台」はないでしょう、毎日さん。


さて、弾道ミサイル等の破壊措置命令について、朝雲が載せているので、紹介しておきます。
この中で、一つだけ注目すべき点は、BMD統合任務部隊にSM-3搭載イージス艦以外の護衛艦が一切含まれなかった点です。イージスの護衛を行っていたはずの他の護衛艦は、自衛艦隊司令官に対し、「所要の支援等を実施せよ」とだけ命じられており、自衛艦隊司令官の指揮下で動いていたことが分かります。なお、太平洋で監視だけしていた「きりしま」も同様です。
********************
弾道ミサイル等破壊措置に関する自衛隊行動命令(概要)

1 自衛隊は、北朝鮮が、平成21年3月12日(日本時間。以下同じ)、国際海事機関に対し、「試験通信衛星」の打ち上げのための事前通報を行い、本年4月4日から8日までの毎日11時から16時まで、日本海及び太平洋の一部に危険区域を設定したとの情報その他関連情報を受け、自衛隊法(昭和29年法律第165号。以下「法」という。)第82条の2第3項の規定に基づき、同項に規定する弾道ミサイル等に対する破壊措置に関する緊急対処要領に従い、事態が急変し我が国に向けて弾道ミサイル等が飛来する場合における人命及び財産に対する被害を防止するため、我が国領域に落下することが確認された弾道ミサイル等に対する破壊措置等の必要な措置を実施する。

2 航空総隊司令官は、次に示すところにより、我が国領域に落下することが確認された弾道ミサイル等に対する破壊措置を実施せよ。なお、当該破壊措置の実施に関し航空総隊司令官の指揮を受ける部隊をBMD統合任務部隊と、航空総隊司令官をBMD統合任務部隊指揮官とそれぞれ呼称する。
(1)部隊の規模
スタンダード・ミサイルSM3(以下「SM3」という。)搭載護衛艦、情報収集・警戒監視のために必要な部隊、ペトリオット・ミサイルPAC3(以下「PAC3」という。)が配備されている高射部隊(以下「PAC3部隊」という。)及び航空警戒管制部隊
(2)命令の期間
別命のない限り、本年4月10日をもって終結
(3)破壊措置の対象
北朝鮮から発射されたと考えられる弾道ミサイル等であり、我が国の弾道ミサイル防衛システムにより我が国領域に落下することが確認されたもの
(4)破壊方法
SM3又はPAC3を発射し我が国領域又は周辺の公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。以下同じ。)の上空において破壊する。
(5)行動の範囲
我が国領域並びに我が国周辺の公海及びその上空
ただし、SM3搭載護衛艦及びPAC3部隊については、上記の範囲のうち次のとおりとする。
ア SM3搭載護衛艦
上記の範囲のうち、日本海において首都圏及び北朝鮮が発射する弾道ミサイル等の予想飛翔経路下周辺を含む我が国領域を防護できる位置
イ PAC3部隊
上記の範囲のうち、陸上自衛隊岩手駐屯地、陸上自衛隊岩手山中演習場、陸上自衛隊秋田駐屯地、陸上自衛隊新屋演習場、陸上自衛隊朝霞駐屯地、陸上自衛隊習志野演習場、航空自衛隊加茂分屯基地、航空自衛隊市ヶ谷基地及び航空自衛隊習志野分屯基地

3 東北方面総監、東部方面総監、通信団長、陸上自衛隊情報保全隊長、陸上自衛隊中央業務支援隊長、自衛艦隊司令官、各地方総監、システム通信隊群司令、海上自衛隊補給本部長、航空支援集団司令官、航空開発実験集団司令官、航空教育集団司令官及び航空自衛隊補給本部長は、この命令の実施に関し、所要の支援等を実施せよ。

4 各方面総監、中央即応集団司令官、自衛艦隊司令官及び航空総隊司令官は、弾道ミサイル等が発射されたことが確認され次第、我が国領域における被害が予期される地域に対する被害の有無の確認のための情報収集を実施せよ。

5 この命令の実施に関し必要な細部の事項は、統合幕僚長に指令させる。
********************
具体的な部隊名は統幕長指令が分からないとハッキリしませんが、こちらはさすがにリリースされていないようです。

2009年4月 9日 (木)

コースティング

前回の記事は、これ以上の情報が出てくるまでには時間がかかるかなと思ってUPした訳ですが、今回の防衛省、というより日本政府の情報公開姿勢は非常にオープンです。
前回の記事で書いた事項の答は、ほとんど6日朝の読売が報じていましたし、第2段の分離などについて、かなりの情報が出てきました。


「きりしま」の位置については、日本から約1000kmとのことでしたので、これは書いたとおりでした。
第2段ブースターはトラック以前の問題で、分離ができていなかった模様です。


いろいろと情報が出てきた中で、注目すべき点は、飛翔体がまだ飛翔中の内から防衛省が第2段ブースターの落下予想地点を日本の東1270kmとしていたことです。


実際には第2段ブースターは、日本の東2100km以上まで飛翔した訳ですが、当初の落下予想地点が誤っていた理由は、イージスを含めたレーダーによる目標の追尾ミスということは考え難いです。

よって、政府が第2段ロケットの落下予想を日本の東1270kmとしたことは、この時点で飛翔体の加速は停止しており、第2段ブースターの作動は停止していたと考えるべきです。
またさらに、それにも関わらず、第2段ロケットがその落下予想地点を大きく超え、日本の東2100km以遠に飛翔したということは、その後再度第2段ロケットによる加速が行われたということです。


テポドンは液体燃料ロケットですから、いったんロケットの作動を停止し、再点火することはそれほど難しくはありません。意図的に停止することは可能です。

一方、事故によって停止してしまったという可能性もありますが、その後再加速したとは言え、第2段ロケットが最終的に落下したと思われる地点が、北朝鮮の通告した範囲内でしたので、事故によってロケット作動が停止したとは考え難く、やはり意図的な停止だったと見るべきです。


となると、この意図的な第2段ロケットの停止は、コースティング(慣性飛行)だったと思われます。
コースティング(慣性飛行)は、普通弾道ミサイルの発射では行われませんが、人工衛星の打ち上げ時には実施されます。
人工衛星の打ち上げについては、私もそれほど詳しくありませんが、軌道の高度を得るために行われるもののようです。


日本政府は今回の飛翔体が弾道ミサイルだったとするようですが、この点を考えると、北朝鮮は何らかの物体を衛星軌道に投入することを意図していた可能性が高いと言えます。
もちろん技術としては同一線上にあるものですから、北朝鮮が弾道ミサイルの開発をもくろんでいることは間違いありませんが、今回の飛翔体が弾道ミサイルだったとすることは、こじつけすぎに思えます。
日本政府の姿勢は、このことを認識しつつも、安保理での非難決議採択を意図してのことでしょう。


さて、第2段ロケットの途中での作動停止がコースティングだったとして、ここでまた一つ問題があります。それは、防衛省がコースティングが行われる可能性を考慮していたか否かです。


日本の東1270kmだとしていた第2段ロケットの落下予想地点について、防衛省が訂正し、分離されていなかったと公表したのが、まる1日以上経過した以降だったことを考えると、コースティングが行われる可能性を考慮してはいなかったのではないかと思われます。


今回、コースティングに入った段階での予想落下地点が日本から1000km以上離れていたため、SM-3での迎撃は行いませんでしたが、コースティングを認識していなかったとすれば、コースティングに入る時間がもう少し早ければ、この段階でSM-3による迎撃を行っていた可能性も考えられます。


もしコースティングに入る段階での予想落下地点が日本の領域にかかっていたなら、第2段ロケットの分離を確認していなくても、自衛隊は迎撃を行った可能性が高いのではないでしょうか。
飛翔体が日本に落下する場合、ノドンと同程度の飛翔時間しかかかりませんから、その飛翔時間は約10分しかなく、迎撃できる時間も長いとは言えないからです。


今回の発射におけるコースティングの継続時間は分かりませんが、それほど長くはなかったでしょう。(おそらく数十秒)
もしSM-3による迎撃を行っていた場合、SM-3の発射後に再加速が始まってしまえば、迎撃は間違いなく失敗します。
この場合、防衛省は国民の信頼を大きく失った可能性が高いと思われます。


一方、もし迎撃が成功していれば、北朝鮮は何らかの物体を軌道に投入することをもくろんでいたでしょうから、猛烈な反発をしたと思われます。
飛翔体の発射前、日本が日本の領域に落下するのでなければ迎撃を行わないことは北朝鮮にも分かっていたはずですが、北朝鮮は、迎撃が戦争行為だと盛んにアピールし、迎撃されることを恐れていました。
何をそれほど恐れているのかと怪訝にも思えるほどでしたが、このコースティングがロケットの分離と誤解され、SM-3によって迎撃されることを恐れていたのではないでしょうか。


自衛隊の中で、コースティングが行われる可能性を承知していた人間がいなかったとは思えません。ですが、今回の顛末を見るに、組織としてコースティングの可能性を考慮していたとは思えません。
北朝鮮は人工衛星の打ち上げを行うと宣言していたわけですから、コースティングは当然想定されるべき事態で、これは自衛隊の失態と言えます。幸い迎撃失敗という最悪の事態にはなっていませんが、次回(北朝鮮が弾道ミサイルの開発を断念するいことはありえないので、必ず次回もある)に向けた最大の反省材料ではないでしょうか。


また、コースティングを落下の始まりとして誤認し、迎撃をしてしまうことは、北朝鮮としても望ましい事態ではないはずです。
次回は、発射日時と危険区域の通告に留まらず、打ち上げ計画の詳細を通知して欲しいものです。

2009年4月 5日 (日)

飛翔体発射-現時点(5日夜)の判明事項

ついに北朝鮮が飛翔体を発射させました。
防衛省から分析された結果が発表されるのは、米国との見解のすり合わせなどもあるため、かなり時間を要するでしょう。

報道は山のような記事が出ていますが、ここでは事実関係をまとめ、そこから言える事、推測される事を書いておきます。


まず最初に防衛省の発表内容です。
5日午前11時30分頃:飛翔体発射
同日午前11時32分 :防衛省最初の発表
同日午前11時37分頃:本邦通過
同日午前11時37分頃:第1段ブースター落下(推定)、秋田県西方約280キロメートルの日本海上
同日午前11時43分頃:第2段ブースター落下(推定)、日本の東約1270キロメートルの太平洋上
なお第2段ブースターについては、当初の発表後に不明と訂正後、再度訂正で同地点と発表されている。
同日午前11時48分 :追尾終了、日本の東約2100キロメートルの太平洋上(予定通り)
なお、防衛相の会見では、飛翔方位は通告のとおりだったという主旨の発言をしている。


次に北朝鮮の朝鮮中央通信の発表です。
同日午前11時20分 :3段式ロケット「銀河(ウンハ)2号」を咸鏡北道花台郡にある東海(日本海)衛星発射場から発射
同日午前11時29分2秒:人工衛星「光明星(クァンミョンソン)2号」軌道進入に成功
衛星の軌道は、傾斜角は40・6度で、近地点490キロ・メートル、遠地点1426キロ・メートルの楕円軌道。周期104分12秒で地球の周りを回っている。
同衛星は「金日成(キム・イルソン)将軍の歌」「金正日(キム・ジョンイル)将軍の歌」のメロディーと測定資料を周波数470メガ・ヘルツで送信し、UHF帯の通信中継を行っている。


最後に、NORADの発表です。
第1段階は日本海に落下
残りの部分は先端部も含めて太平洋に落ちた
(第2段と3段目以降の分離については、情報なし)


北朝鮮の発表と日本政府の発表は、発射時刻にかなりのずれがあります。
北朝鮮の発表は、予定時刻をそのまま報道したとしても、軌道投入時刻が3段目の燃焼が終わっていない可能性もある時刻なので、まじめに考慮しても意味のないものでしょう。


北朝鮮が本来投入を狙っていた軌道は、朝鮮中央通信の発表の通りだと思われますが、今回の飛翔体が数日程度でも軌道に留まっていれば、北朝鮮は光明星2号は返回式衛星で、打ち上げは成功だったと強弁するつもりだと思われます。
(返回式衛星とは、中国が得意とする変わった衛星で、数日から十数日の運用の後、大気圏に再突入させて回収するというモノです。)


さて、飛翔体の飛翔状況は政府発表とNORADの情報にも差異がありますが、仮に政府発表のとおりだったとして、そこから何がわかるでしょうか。


確かなことは、「きりしま」が日本の東900km程度の場所に展開していたということだけです。これは、目標の追尾終了が日本の東約2100キロメートルの太平洋上で、この位置が予定通りだった、つまり性能上の限界だったことから分かります。


次に推測される事項としては、日本の観測網は第2段ブースターが分離されていたとしても、それを追尾できていなかった可能性があるということです。
これは、もちろん政府発表が2転したことが論拠ですが、それだけではありません。


基本的に、日本のレーダーサイトは太平洋方面の監視能力が高くありません。これは、脅威の方角から日本海方面を重点的に監視できるようにサイトを作ったからに他なりません。
立地条件などから、太平洋方面が全く監視できないサイトもあります。


今回弾道ミサイル監視に参加していたレーダーの内、下甑島のFPS-5は弾道ミサイル監視が出来る大型のアレイが太平洋方向を向いていないため、対応できません。
飯岡のFPS-5は、試験用のため回転できますが、当初はアレイを北に向けていたでしょうから、発射直後から東北地方あたりまでを警戒した後、アレイ面を太平洋方向に回転させている間は監視を行えていない可能性が高いと思われます。


FPS-3改については、当別、加茂、輪島、経ヶ岬、背振山については、基本的に日本海側の監視サイトなので、太平洋側の監視は困難です。
大滝根、串本の2箇所だけが太平洋側のサイトですが、FPS-3は改になっているとは言え、弾道ミサイル監視では複数目標の追尾は困難です。分離したターゲットの内、両サイトとも第3段および弾頭部を追尾してしまい、第2段ブースターの方は、システムが自動計算した計算上だけの航跡になってしまった可能性があります。


イージス艦については、LRS&Sでの追尾も、FPS-3改と同様に複数目標の追尾が困難なため、ブースターではなく第3段以上の方をトラックしていた可能性があります。
(3月28日付の読売新聞の記事に、海自幹部の談話として「レーダーは飛翔する弾頭を追尾しており、いきなり切り離された部品にレーダーを振り向けることは難しい」と載っています。)
また、「きりしま」については、目標の追尾が出来ていたとしても、リンクで連接できていなかった可能性もあります。
link16によるリンクは、見通し線内でしか構成できませんが、「きりしま」の展開位置が遠方だった他、中継となるAWACSなどを日本海側に集中させていたため、「きりしま」についてはリンクせずに単独で運用されていた可能性も考えられるからです。


第2段ブースターの追尾については推測ですが、今回の発表からこの程度の可能性は推測できます。
ということは、北朝鮮を始めとする諸外国の情報組織も、日本のMD能力を同じように推測できるということです。
国民に安心を与えるという点では、今回の対応はうまく出来たように思えます。

ですが、これによってかなりの情報が諸外国の知るところとなったとも言えます。どこまで情報公開するかという点については、微妙なものがあるように思えます。


最後に面白い関連ニュースを一つ。
4日に起こった誤報騒ぎですが、日本政府だけでなく朝鮮総連も誤報を流したそうです。読売が報じています。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090404-OYT1T01153.htm?from=y10
本国から、事実はどうであれ、成功を報じるように指令が出ていたんでしょうね。
短い記事なので、全文を転載しておきます。
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朝鮮総連機関紙も「発射成功」記事、ネットに30分間


 【ソウル=前田泰広】北朝鮮の主張を代弁する在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の機関紙「朝鮮新報」(電子版)が4日、長距離弾道ミサイルの「発射成功」を伝える記事をインターネット上に掲載し、直後に削除するトラブルがあった。

 日本政府だけでなく、身内であるはずの朝鮮総連まで“フライング”した格好だ。

 韓国の聯合ニュースによると、問題の記事は、試験通信衛星の光明星(クァンミョンソン)2号について、「発射成功」「軌道に進入した」などと伝えた2本。日本政府の誤発表より前の4日午前11時前後に相次いで掲載された。2本とも約30分後にはネットから消えた。
(2009年4月5日03時07分 読売新聞)
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誤報の原因と課題

飛翔体がいよいよ発射されたようです。被害がなくて何よりですが、詳細が出てくるまでに時間もかかるでしょうから、とりあえず、昨日の誤警報について書きます。

昨日、私はテレビに噛り付いていたので、誤探知だったという情報を聞き、DSPの誤探知が多いため、「どうせまたDSPだな」と思ったのですが、根本的な原因は飯岡のFPS-5にあったそうです。

飯岡のFPS-5は、元来FPS-XXとしてFPS-5の開発のために建設、使用されてきたものです。本来なら、開発終了後に解体撤去されるべきものでした。
ですが、開発段階で弾道ミサイル探知に非常に高い能力があることが実証されたため(本来弾道ミサイル探知用に設計されていないFPS-3改の能力が限定的なこともある)、主に弾道ミサイル防衛の指揮を取る航空総隊司令部の意向を汲み、防衛計画の大綱別表に定められた部隊数外のレーダーとして、開発終了後も実運用されることとなったものです。

事の顛末を要約すると、FPS-5が衛星軌道上の物体を探知し、それを弾道ミサイルと誤認して流した警報が発表されてしまったということになります。
これに関して、DSP衛星からのSEW(Satellite Early Warning:早期警戒情報)や他のレーダーからの情報をダブルチェックしていなかったことで、防衛省が批判を受けていますが、これは難しい問題です。
ちょうど先日「狼が来たぞ 」で誤警報が問題であることを書きましたが、誤警報を問題視しすぎると警報が遅れます。
今回の件では、「早く早く」というオーダーが招いた結果であるとも言えます。ある政府高官が「あつものに懲りてなますを吹くような事態があってはならない」と発言したそうですが、まさにそのとおりでしょう。
(本日の飛翔体発射時の発表が迅速だったので、結果は良好なようです。)

防衛省に対して批判的な記事では、DPSを絶対視するようなモノもありますが、DSP自体は相当に不正確で、それゆえNORADで一旦精査されたものがSEWとして入ってくる体制になっています。そのため、遅れることもしばしばです。

この辺の問題は、新聞などでも盛んに取り上げられていますので、ここではこの程度に留めて、別の課題について書いておきます。

ある意味、今回の誤報は、FPS-5の探知性能の高さを証明したとも言えますが、衛星軌道を飛翔する物体までトラックするとなると、今後現在の飯岡、下甑だけでなく全国5箇所でFPS-5が運用されるようになることも鑑み、衛星軌道の飛翔物体を管理できる態勢を作らなければなりません。
イメージとしては、対領空侵犯措置の一環として民間航空機を識別しているようなモノです。

アメリカの場合は、NORADにおいてSSN(Space Surveillance Network:宇宙監視ネットワーク)と呼ばれるシステムにスペースデブリまで含めて監視しています。
これは、冷戦当時から飛来するICBMを軌道上の物体と識別するために稼動しているものです。

わが国に対する弾道ミサイルの脅威はもやや常に存在している訳ですし、FPS-5の能力が軌道上の物体まで捕捉することを踏まえると、日本も同種のことをする必要性があるということです。

弾道ミサイルの可能性のある飛翔体が観測された場合には、この衛星軌道上の飛翔体カタログと照らし合わせ、本当に弾道ミサイルなのかどうか判定させるのです。

もちろん、システムの立ち上げに当たってはアメリカの協力を仰ぎ、NORADとの情報共有をすることが妥当でしょうし、日本独自にデブリの監視を行っている美星と上斎原の両スペースガードセンター(BSGC)と協力することも重要でしょう。

システムの運用は、対領空侵犯措置を行う各航空方面隊SOCの下で統制を行っているDCが識別を担当しているように、弾道ミサイル防衛を指揮するCOCの下で統制を行っているAOCC(防空指揮群)に実施させることが適当です。

弾道ミサイルの場合、対処の時間が極めて短いため、実際のシステムとしては、人間が介在しなくとも自動的に判別されることが必要です。現在導入が進められているJADGEのプログラムを改修し、自動照合させるようにすることは可能でしょう。

今回の誤報は失敗ではありますが、そこから課題を見つけて修正してゆくことが重要です。

2009年4月 3日 (金)

破壊措置命令ー防護範囲と迎撃の適否(PAC-3編)

SM-3編からのつづき

さて、射程についていろいろと言われるPAC-3です。

ノドンクラスに対する迎撃性能については、以前の記事「PAC-3はノドンを撃墜できるか? オブイェクト記事 その1 」からその4で書いているとおり、十分な性能があるはずです。
問題はPAC-3の射程と防護範囲になります。

PAC-3の射程は20kmと言われています。
そして、PAC-3によって防護される範囲、フットプリントは、次の図のよう形になります。
資料が少々古いことと、描画条件が違うのですが、形はほぼ同じです。某ブログで、ギターのピックの形と表されていましたが、まさにそんな形です。
O0480047510160550212

射程を20kmとし、高射隊との位置関係を表した図としては、次の通りです。
O0320024710160550215

実際のフットプリント(防護範囲)としては、各高射隊を基点として、弾道ミサイルの飛来方向に対して、次の図のような形、距離の防護範囲となります。
ランチャーファーム(リモートランチを利用した発射機ユニット)の場合、レーダーが直近にないので、フットプリントは少し小さくなるでしょうが、やはりランチャーファームを基点としてフットプリントが描けます。

新屋演習場
O0480035210160550226

岩手山演習場
O0480035210160550233

朝霞駐屯地
O0480034610160550245

習志野演習場
O0480034510160550264

市ヶ谷駐屯地
O0480034510160550272

入間基地
O0480034510160550276

首都圏全体(入間あり)
O0480034510160550285

首都圏全体(入間なし)
O0480034510160550292

首都圏での防護範囲は、十分とは言えないものの、十分に意味のあるものになっています。
今後は、高射隊だけでなく、リモートランチ端末の取得も今年度(21年度)にも続いてゆくので、防護範囲はさらに拡大させてゆくことが可能でしょう。
一方、東北の方は、もう少し適切な展開地が無かったのか、と思える防護範囲になっています。
ただ、今回のことはなにぶん急でしたし、関東と違って、秋田や岩手に関しては、事前の陣地偵察や調整なども出来ていなかったでしょうから、とにかく自衛隊の管理する土地で広い地積の確保できる場所、ということで両演習場が選ばれたのだと思われます。
今後は、破壊措置命令でも陣地構築ができるよう自衛隊法の改正も視野に入れなければなりませんし、せめて防衛省以外の官庁が管理する土地も使用できるよう、官庁間協力を進める必要があります。

なお、複数の部隊が入っていると思われる習志野、朝霞では次のような範囲になるんじゃないか、と思われる方もいるかもしれませんが、フットプリントは弾道ミサイルの飛来方向に対して描けるものなので、あくまで上の図ようなフットプリントになります。
O0320023010160550300

また、この図を見て「私の家はギリギリ入ってない!」と思う方もいるでしょうが、多少外れているだけなら、迎撃できる可能性はあります。
と言うのも、このフットプリントはあくまで有効射程(通常80%程度の十分に高い迎撃確率が得られる範囲)を元にしたものですので、確立は低くなるものの、図示した範囲外でも防護される可能性はあるからです。
また例えば、迎撃確率が50%しかないような地点でも、2発のミサイルを同時あるいは連続して射撃すれば、撃墜確率は75%になります。

次に、迎撃の適否について考えて見ます。
今まで何回も書いてきたとおり、破壊措置命令を発出し、PAC-3部隊を展開させることは実施するべきですし、実際そのようになりました。
ですが、PAC-3によって実際に迎撃を行うことについては、懸念もあります。
その理由は、一言で言えば、命中しない可能性がかなりある、ということです。

「今まで迎撃可能だと言って来たじゃねえか!」とおっしゃる方も多いでしょう。
目標がまともな弾道ミサイルなら、迎撃は十分に可能なはずです。
ですが、今回迎撃することになるターゲットは、あくまでまともに飛ばなかったミサイルです。「破壊措置命令ー日本に飛来する可能 」で書いたとおり、目標は異状の発生した第2段ロケット以上の部分です。本来、この状態で大気圏に再突入することは意図(設計)されていませんし、突入の際の姿勢も先端部を先にしてはいない可能性が高いでしょう。
突入の際に空中分解したり、弾体が歪む可能性も高いと思われます。
当然、弾道は不安定で、不規則に変化することになります。

これと同種の現象は、イラク戦争においても発生しています。イラクが急造したアルフセインミサイルは、空中で分解したり歪んだりした結果、PAC-2パトリオットによる迎撃は失敗しているのです。

もしPAC-3による迎撃を行いながら、迎撃に失敗した場合、北朝鮮や左翼活動家などの格好の宣伝材料となってしまいます。

PAC-3での迎撃は、人口稠密地でのみ実施すべき(着弾地点が岩手山麓や、秋田の海岸ならスルー)だと思いますし、射撃する場合は、それこそ1目標に5発くらいのPAC-3を叩き込むつもり(2FUが展開している場所なら可能なはず)でいないと、逆効果になりかねません。

最後に、Xデーが、いよいよ明日に迫りました。
現役自衛官の方々のご健闘を祈念致しております。

破壊措置命令ー防護範囲と迎撃の適否(SM-3編)

なんだかんだ言っても、やはり一番気になるのは、SM-3とPAC-3で防護できるのか、という点でしょう。
と言う訳で、今回と次回はこの辺について書いてみます。

なお、以下では今回の弾道ミサイルについてもノドンクラスのミサイルに対する能力を基本として書いています。というのも、何らかの事故で今回の弾道ミサイルが日本の領域に落下してくる時、弾道ミサイルの性質として、飛翔経路や速度はノドン並になるからで、ノドンクラスに対して迎撃が可能であれば、日本に落下してくる今回の弾道ミサイルの迎撃が可能だからです。

ではまず、話の簡単なSM-3の方から。
イージスSM-3による弾道ミサイル防衛について、図示された防護範囲の資料というものは出てこないのですが、射程は1200kmとも言われ、ノドンクラスの弾道ミサイルに対しては、2艦で日本全域が防護できると言われています。
最大射高も200km以上であり、今回の弾道ミサイル射撃でも、日本に落下してくる物体の迎撃には十分です。

ただし、法的な制約(自衛隊法82条の2)から目標の加速が終了し、日本に落下することが確認できなければ迎撃はできませんし、他国の領域上空での迎撃もできません。
そのため、舞水端里から発射され日本に落下する弾道ミサイルに対する、秋田・山形沖に展開するイージス艦から発射するSM-3のインパクトポイントは、大体次の図のような範囲になると思われます。
O0480040510160549642
(SM-3の詳細な性能は不明なので、実際にこの範囲で迎撃が可能という図ではなく、インパクトポイントの範囲を図示すると、大体このような形になると理解して下さい)

この図から、今回の弾道ミサイルが、このエリアを通過してくる場合に迎撃が可能ということですから、秋田・山形沖に展開すれば、実際に落下してくる可能性のある秋田、岩手を中心とした東北地方は防護可能ですし、関東地方の防護も可能だと言えます。

以前の記事「北朝鮮がミサイル?発射準備-日本に出来ること 」で、SM-3による目標の破壊の程度が不十分かもしれないと書きましたが、落下被害の発生する地域が広がる可能性はあっても、人口密集地に落下する見込みなら、やはり迎撃は行うべきです。
SM-3はミッドコースフェイズでの迎撃ですので、迎撃により目標を分割できれば、大気圏への再突入で焼失する可能性も高まるからです。(逆に言えば、日本の領域に落下するとしても、山間地へ落下することが確実であれば、迎撃しない方がベター)

なお、図を描いていて思いついたんですが、今回の弾道ミサイルが北方領土に向けて落下してゆく場合、自衛隊はSM-3で迎撃するのでしょうか?
日本政府としては、北方領土はわが国の領土としてますので、法的には可能です。
この件は推測しか書けないので、これで留めておきますが、興味のそそられる話です。

PAC-3編につづく

2009年4月 2日 (木)

破壊措置命令ー日本に飛来する可能性

4月4日に向けた自衛隊部隊展開案 」でも多少触れましたが、北朝鮮の「弾道ミサイル」が日本に飛来(落下)する可能性について検討してみます。

まず、今回打ち上げられる「弾道ミサイル」ですが、2段式のテポドン2か、あるいはこれを改造した3段式のモノと見られています。
(最近の衛星画像の分析では3段式らしい)
これを踏まえて北朝鮮がIMOに通告した危険範囲を見てみると、秋田沖の日本海に設定されたエリアには、第1段目のロケットが落下し、太平洋上のエリアには第2段目のロケットが着弾予定だということです。

この点を前提として、「弾道ミサイル」の発射シーケンスに応じた事故の可能性を考えてみます。

まず、前回のミサイル発射時と同様に、発射直後から異状な飛翔(あらぬ方向に飛ぶなど)が発生する可能性もありますが、基本的にこの場合は日本まで飛来しません。
1弾目のロケット落下予定海域が秋田沖であることから分かるとおり、1段目のロケットが弾道ミサイルを加速できるのは、せいぜい秋田沖に落下する程度までしか出来ないということです。
ただし、今回の弾道ミサイルもおそらくそうですが、長射程のミサイルや宇宙ロケットは、大気の影響を極小化し、効率的に速度を得るため、発射後しばらくはほぼ垂直に上昇し、その後水平方向に加速する重力ターンという飛翔を行います。
今回の弾道ミサイルが、発射直後から浅い角度で飛行を始めた場合、高度が上がらないものの水平方向の速度が高くなるため、着弾地点が日本に近づく可能性はあります。しかし、その場合は北朝鮮が早期に自爆させるでしょうから、1段目が完全に燃焼し、1段目ロケットの推力だけで日本に到達することは、極めて低い可能性だと言えるでしょう。

1段目は正常に飛翔した場合、次に失敗の可能性があるシーケンスは、1段目の分離に失敗する場合です。
ですが、直ぐに分かると思いますが、この場合は、秋田沖の予定海面に分離されないまま落下してくるだけです。(おそらく落下途中で空中分解するでしょうが)
なお、分離に成功したものの、2段目の点火に失敗してもほぼ同じ状況になります。

その次の可能性としては、1段目の切り離し及び2段目の点火に成功したものの、2段目のロケットの燃焼中に異状が発生する場合があります。例えば何らかの理由によりロケットモーターの燃焼が停止するとか、爆発してしまうケース、姿勢制御系の異状により、加速方向が変わるなどです。
この場合のみ、実際に日本に落下してくる可能性があります。(ただし、2段目の燃焼の早期に異状が発生するのでなければ、日本を飛び越えてしまいます)
ですが、この場合は1段目の燃焼もその後の分離も正常に行われているわけですから、秋田・岩手方向に飛んでいることは間違いありません。
つまり、予定されている飛行経路から大幅にずれた日本の領域に落下するということはあり得ない訳です。

という訳で、防衛省は首都圏に影響が及ぶ「もしも」のケースも考えているようですが、それはほぼゼロと言えるほど「もしも」のケースです。
つまり、発射直後から異常な方向に飛翔し、北朝鮮が自爆コマンドを入力するものの、ミサイルはその信号を受け付けず、なおかつ1段目の分離は正常に行われ、2段目による加速が始まったものの、2段目も早い段階から異状が発生する場合です。
(早い段階とした理由は、2段目ロケットの落下予定位置が、日本よりかなり離れた太平洋上に設定されているからです)

パトリオットに関して言えば、首都圏にかなりの部隊が展開していますが、今回は秋田岩手に展開する高射教導隊しか迎撃の可能性はないでしょう。

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