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2009年2月 1日 (日)

ネガティブリスト

海上自衛隊が海賊対処のために派遣されようとしています。
海上警備行動での派遣には諸処の問題があることは、以前の記事「海自によるソマリア海賊対策の根拠と限界 」でも書いた通りですが、派遣の途中から根拠が海賊処罰取締法に切り替えられる見込みで、この点は改善がなされる方向で固まっています。

新聞などでも問題視されている武器使用の基準、部隊行動基準(ROE)も、海賊処罰取締法への根拠移行とともに、より部隊が動きやすいものになるでしょう。
しかし、それでも残る懸念があります。

それは、上記の基準がネガティブリストで記述されるか否かです。
ネガティブリストとは、「○○をしてはならない。」と否定形式で書かれるもので、その逆は「○○をする。」あるいは「○○をして良い。」と肯定形式で書くポジティブリストとなります。

部隊行動基準などは公開されていないため、詳細は書けませんが、石破元防衛庁長官(当時)も著書の中で書いている通り、自衛隊法を始め、自衛隊の規則類は全てポジティブリストで書かれています。
その理由は、防衛省に限らず、各省庁の権限を発生させる行政法の全てがが、ポジティブリストで書かれるためです。
(お役所は規定された事以外を行うと違法行為となるため、これが、管轄外を理由に仕事をしないという、お役所仕事のお役所仕事たる所以となっています)

自衛隊の各種規則類は、全てその上位規則を根拠としています。
それは、上位規則がポジティブリストにとして、「可能」と規定している物について、その細部を規定する物が下位規則だからです。そのため、下位規則もまたポジティブリストになってしまいます。
自衛隊法や防衛省設置法は行政法ですから、それを根拠とする自衛隊の各種規則も、また同じようにポジティブリストとなってしまう訳です。
私も現役自衛官の頃、新たな試みや規則を作ろうとすると「根拠はなんだ!」、「根拠(文書)を示せ」と、耳タコなほど言われました。

このように、自衛隊の規則類がポジティブリストとなっているのは、それなりに理由のあることではあります。
ですが、派遣される海自の行動を規制する部隊行動基準などが、ポジティブリストのままでは危険です。

良く言われる事は、ポジティブリストでは、判断が難しく、一瞬の躊躇が危険につながると言うものですが、部隊行動基準などに触れたことがない人には分かり難い話でしょう。

うまく説明することは難しいですが、若干説明を加えてみます。
ポジティブリストでは、行っても良い事(場合)、つまり白だけが規定されるため、グレーは基本的に黒、行ってはいけない事(場合)と判断すべき物となります。つまり、白ではない可能性のある場合は、黒なのです。これは、非常な心理的負荷になります。

また、部隊行動基準などを作成する上では、グレーをなくそうとすると、網羅的に書かなければならなくなり、条文がどんどん増えてしまう結果となります。
現役時代に参加したある演習において、想定として出された部隊行動基準を見て絶句した事を覚えています。
それは、あらゆるケースに適合できるように統裁部(演習をコントロールする指導側のこと)が苦労した賜物だったのですが、私の感想は、「こんなもの、幹部だって全てを覚えきれない」というものでした。
また、項目が増えることによって、前述の心理的負荷も増える結果となります。

山のような項目数の部隊行動基準等が出されたとしても、CICで艦長を始めとした幹部が判断する場合はまだ良いでしょう。
ですが、今回の海賊対処では、特別警備隊が海賊船内に入って臨検することも考えられています。彼らに長大で複雑な基準を暗記させ、それによって咄嗟の判断を要求するとすれば、それは中央がすべき苦労を、現場に押し付けていることに他なりません。

前述したように、部隊行動基準などを、旧弊を排して、ネガティブリストとして作ることには、相当な困難(内閣法制局など関係者の納得)があるでしょう。
ですが、これなしに海自を送り出したとしたら、隊員が背広組に殺されることにもなりかねません。

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防衛関係法規・規則」カテゴリの記事

コメント

1 ■背広組体験を…
以前、一流企業の研修で 自衛隊体験入隊のTVをみました。私は、苦難を乗り越え 遣り遂げた体験者と 叱咤激励で達成に導かれた指導教官の姿に 感動しました。新入背広組に 体験入隊の研修は ないのでしょうか? あるのが良いのかもわかりませんが、背広組には 日本国の国益を考えるより 私欲のみを考えている様に感じます。背広組を見るたびに 話し方や態度に緊張感がなく ダラダラしてみえます。顔の作りまで ダラダラみえてしまいます。歴代幕僚長始め、隊員の方々は お顔もお姿もキリッとされており 志の高さを感じ 感謝の気持ちで いっぱいになります。憲法~法律の解釈には 矛盾が多く 危険な任務ばかりで 大変申し訳ありません。

2 ■背広組の体験入隊
現実にはないのですが、悪くない発想だと思います。
私も背広組の現場部隊理解を深めるという目的で、同じようなことを考えたことはあります。といっても、部内者である彼らに数日の体験入隊では足りないので、方面隊レベルの司令部に一時期勤務させるというような案でした。

ですが、現実問題として考えると実現は難しいように思います。
というのも、おそらくこの考えに最も反対するのが背広組ではなく、制服組であろうということです。
これも改めるべきものなのですが、現在までのところ制服組は、背広組に極力情報を与えないように努力してます。視察などがあれば、表面的な部分を流して終わりにすることが通常です。
背広組と制服組が真に車の両輪として動くためには制服組のほうも意識改革が必要だと思っています。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

3 ■無題
コメント ありがとうございます。私は 阪神淡路大震災の災害派遣の時、自衛隊の皆様が 仮設浴場を設置され 入浴者の履き物を 丁寧に丁寧に 並べている姿を拝見した時涙を流しながら感動しました。また、活動範囲の多さに驚きました。イラク派遣の緊張、どれだけ過酷な訓練を重ねられているのだろうと頭がさがります。背広組に 情報を見せたくない気持ちもわかります。インド洋から撤退される時も 最後まで素晴らしい任務遂行でした。せめて背広組にも 体力トレーニングをさせて頂きたいです。ブヨブヨの体型は 防衛省には 似合いません。

4 ■長くなりますが
制服組が内局に対し情報提供を抑制しているとのお話ですが、数多さんは内局に情報を渡せば、その先には車輪の如く双方が調和する関係が実現すると考えていますか?だとするなら、それは甘過ぎる。

1つの象徴的かつ重大な例を挙げましょう。予算折衝の際、誰が装備・教育訓練の必要性を財務省の素人役人に説明し、かつ納得させているのでしょう?

それは、紛れもない自衛官です。

数理では、彼らとて情報は持っています。種々の防衛計画案を大臣に提出するのですから。しかし、説明出来ない。事務官には、陸海空の多岐に亘る装備・教育訓練に関して部外に詳細に説明する能力はありません。つまり、その戦略的重要性を理解していないと言えます。
理解していれば、少なくとも名目上においては政治と自衛官の橋渡し役である彼らは、まず戦略的重要性を知るための努力は行うはずです。しかし、組織としてそのような努力は全くしていないのが現実です。


装備や教育訓練は、自衛隊の生命線です。国防の要です。それを疎かにする事務官に、当事者である自衛官は何を信頼の担保として情報を渡せば良いのでしょう。

かつて私が小原台に在学していた時、学祭にVIP用ヘリで来賓した事務次官は、まさに歴史小説さながらの官ガンでした。 肥え太った彼は、昼食を食べるとそそくさとヘリに乗り、市ヶ谷に帰って行きました。そして数年後、彼は汚職で逮捕されました。私にとって、内局に代表される事務官とは、今でもこの印象そのままです。

最後に、警察権に関して。現在、内局に勤める事務官に対しては、大臣承認がなければ捜査は出来ない規定になっています。自衛官には即捜査、事務官には一枚のフィルター。彼らを司法警察権からさえも守るのは、この国の欺瞞以外の何者でもありません。

これはほんの一例ですが、こういった歪曲関係を是正しなければ、事務官の正しい存在意義すら分かり得ないと考えます。

時代を見据えれば、内局という制度は無用の長物だと考えます。文官コントロールなる駄想を捨て、

事務官は自衛官の事務に関わる所掌の補佐に専従する

と隊法に規定すべき時期が来たのではないでしょうか。

5 ■頭の痛い人も
ヨネリン様
一部の(航空)自衛官には頭の痛いお話かもしれません。
なさけない話ですが、ぷよぷよになってしまっている人も一部ですが居るんですよ。
メタボが騒がれて、隊をあげてなんとかしようとしてますが、少々時間がかかるでしょう。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

6 ■制服
みかん様
私も制服を着ていたので、気持ちは分かりますし、背広組が幅を利かす制度を改めるという結論は同意しますが、ただ敵視するだけでは現実は変えられません。
広く国民全体に支持してもらえる制度を考えていかないと、うまくはゆかないでしょう。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

7 ■そうでしたかぁ~
私は東北の 陸上自衛隊の近くに 住んでいます。敷地内には、病院もあり、いつ通っても 敷地内で訓練されている様子がみれます。暑い日も 雪の日も…。引き締まった体です。空の上だと 走る事がないので太るのでしょうか。私は、自分の弱さを克服する時 知覧のお手紙の事や、小野栄一 海軍少尉のお言葉を唱えます。私たちが、後に続かなければ、あの戦いは何だったのか…ななってしまいます。制服組の皆様に感謝です。

8 ■無題
回答ありがとうございます。
下記に述べた結論は、敵視思考ではなく全くの現実に基づいたものですが、さらにここで貴方に説明することは無益なので辞めておきます。
自衛官が自己を顧みるという点については当に仰る通りで、私を含め自衛官は自己修練を怠ってはならないと思います。
ヨネリンさんのように期待してくれる国民を裏切ることのないよう、これからも着実に任務に邁進します。

9 ■無題
みかん様
私は外に出た身なので、外から微力ながら応援させて頂きます。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

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