海賊対処は改憲問題につながる
海上自衛隊による海賊対処について、これまでにも何回か記事を書きました。
この件については、このブログでけではなく、各所でいろいろな問題について語られていますが、この海賊対処が改憲問題を生起せざるを得ないことを論じているものはあまりないように見受けられます。
ですが、今後非常に大きな問題に発展する可能性のある問題があるため、今回はそれについて書いてみます。
自衛官は実直です。
海賊対処のために派遣されれば、真摯に任務に取り組むでしょう。
ですが、人の行う事でミスがないと言うことはありえません。間違いは必ず起ります。
現在海賊対処を実施している各国軍隊の中でも間違いは発生しています。
例を挙げると、2008年11月18日、インド海軍は海賊船の母船を撃沈しましたが、この船は実際には海賊に乗っ取られたタイの漁船だったことが判明しています。
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2543167/3556899
間違いが発生した場合、どんな事態になるでしょうか。
政治的な問題になることはもとよりですが、もし過失(過剰な武力行使など)があれば、それは罪に問われます。
諸外国であれば、特別裁判所である軍事法廷、あるいは軍法会議と呼ばれるもので裁かれます。
日本の場合は、憲法76条の規定により、通常の裁判所(地裁、高裁、最高裁)で裁かれることになります。
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憲法76条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。(後略)
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まず、第1にこれが適当なのか、はたして通常の裁判所が裁くことが可能なのかという問題があります。
海賊対処は、本来それを任とすべき警察権行使の機関である海上保安庁の手にあまることから海上自衛隊に白羽の矢が立った訳です。
つまり、通常の治安機関では対処できない事態だから軍隊(あえてこう書きます)の出番となった訳です。
そういった事態に対して、通常の司法によって判断することは不適切です。なにより、裁判官や検察官、弁護士ともに軍事という特殊な環境下に置かれる組織に暗いことが問題です。
また、自衛隊が通常の裁判所により裁かれるということは、指揮の一元性の否定にも繋がります。
次に、通常の裁判所で裁かれるということは、秘密の保持上も問題です。
憲法82条では、裁判は公開法廷で実施すると規定されています。
一応、同条2項において、公の秩序に害する場合など、特定の状況下では公開せずに裁判を行うことも可能とされていますが、基本は公開法廷です。
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第82条
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第3章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
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何らかの過失があった可能性がある事態では、その行動が、部隊行動基準(ROE)などに照らし合わせて適正だったかと言うことが問題となりますが、部隊行動基準(ROE)は決して公になってはならないものです。
もしこれが海賊の知るところとなれば、彼らは自衛隊が対処し難い行動を採る事になるでしょう。
今回の海賊対処では、各国との協調という点では問題になりませんが、インド洋で行われていた給油活動等、各国との協調が必要な事態では、ROEも調整が図られることは当然で、それが外部に漏れるとしたら、各国は自衛隊と協調することは難しくなってしまいます。
海賊対処は、相手が他国の軍隊ではないこともあり、過ちは起き易いものです。
海上自衛隊がインド海軍と同じような過ちを犯すことは十分にありえるのです。
自衛隊の行動上の過ちは、特別法廷である軍法会議によって裁かなければ、上記のような問題が発生します。
解決(特別法廷としての軍法会議の設置)には改憲が必要となるため、一朝一夕にどうにかなるものでもありませんが、その時になってから、慌てるようでは遅すぎます。
今からしっかりと議論するべきでしょう。
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