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2009年2月

2009年2月28日 (土)

そろそろそれなりの対応を

北朝鮮が「人工衛星」の発射準備を進めていることに関して、舞水端里での組み立て作業が始まったことを韓国の聯合ニュースが報じています。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2009022802000089.html

日本政府関係者としては、24日の記者会見で河村官房長官が「具体的な動きがあるということは、今の時点では確認している状況ではない。『すぐに』という判断はしていない」と述べていますが、着々と準備が進めらていることは確実で、日本政府としても「引き続き重大な関心を持って情報収集に努めたい」(河村官房長官の3日の発言)としているように、監視を強めています。

以前の記事で、政府が異様に落ち着いていることを書きましたが、いよいよ緊迫してきました。
中曽根外相は、「仮に危険が差し迫っていれば、それなりの対応はしなければならない」と述べており、そろそろ「それなりの対応」をしてもらわなければなりません。
浜田防衛相は、MDによる迎撃に関して「今回のこと(北朝鮮の発射準備)でどうこうではなく、前から検討している」と述べており、「それなりの対応」の絵は描けています。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090227-OYT1T00521.htm

今回の北朝鮮による「人工衛星」の発射において、実際にMDで対処するべき状況は、「北朝鮮がミサイル?発射準備-日本に出来ること 」で書いたとおり、打ち上げ失敗により落下してくる物体の迎撃を行うことです。
法的にも、能力的にも可能なことなのですから、早めに「弾道ミサイル等の破壊措置命」を出すべきです。

今月始め2月3日の記者会見で、河村官房長官は、「インテリジェンス(機密情報)に関することなのでコメントは差し控える」と言っていますが、破壊措置命令を出すタイミングがあまりに直前の場合、日本及びアメリカの情報収集能力(が高いこと)が北朝鮮にバレてしまいます。
北朝鮮は、蓋付き列車を使えば、日米の監視を欺けると勘違いしているくらいですから、監視の精度は、まだまだ秘匿しておく価値があります。

もうそろそろそれなりの対応を!

2009年2月26日 (木)

シミュレーションを書くこと

軍事研究誌の最新号である2009年3月号に、元陸上自衛官の高井三郎氏が、「竹島砲爆撃作戦は可能か?」という記事を書いています。

この記事の内容については、また別の機会に書きたいと思っていますが、今回はこの記事の文末に同氏が、「日本の防衛担当記者達は、筆者の竹島・対馬作戦の一例を見て、相手にわが手の内を見せる秘密漏洩と騒ぐであろう。」と書いていることについて書きます。


と言うのも、同氏が非難を受けるなら、公開している小説中で、同氏と同様に起こりうる危機を描いているため、私も同罪だろうからです。


同氏の論文は、日本が竹島を攻撃した際に起こりうる事態について記述しています。
私の書いた小説は、北朝鮮が長射程の弾道ミサイルを開発した後に起こりうる事態について書きました。
想定している事態はまったく別のことですが、周辺諸国の軍事的能力や自衛隊、米軍の能力から、起こりうる事態とその結果を予想して書いているという点で同じです。

同氏と私では、メジャー度が雲と泥ほど違うので、同じ罪だとしても量刑は違うでしょうが、同氏が有罪なら私も有罪でしょう。


ですが、同氏が「現代各国軍の参謀教育を受けた将校であれば、誰でも気が付く」と書いている通り、シミュレーションが正確であればあるほど、結果は必然的なものとなり、相手国の軍人も同じものを予想するはずなのです。竹島を巡る事態は、韓国軍参謀本部も同じような予想をしているでしょうし、ICBM級のミサイルが開発できた時のことは、朝鮮人民軍内部でも予想できているはずです。


一方、上記の通り、同氏はこういったシミュレーションを公表することに問題はない、と書いているものの、その意義を書いてはいません。
しかし、私はこの意義こそが重要なのだと考えています。
民主主義の国にあっては、軍人(自衛官)だけが、軍事的に予想される事態を考えていれば良いというものではありません。
広く国民全体が、起こりうる事態を理解し、国防政策についての意思を持っているべきです。そのためにも、起こりうる事態を分かりやすく示したシミュレーションが公開されているべきだと考えています。

2009年2月24日 (火)

ブラックウォーター in Japan

よく知られた話ですが、前回の記事に書いたブラックウォーター社は日本でも活動しています。(正確には子会社)


場所は青森県つがる市車力で、米軍が設置運用しているAN/TPY-2レーダーを警備しています。
車力には、米軍人は2人しか常駐しておらず、運用は軍属といえるメーカーレイセオン社の会社技術員が行い、警備をブラックウォーター社が請け負っていると言われています。給食関係など後方支援も同社が関与(一括受注?)している可能性が高いと思われます。


伝えられるところによると、レーダー周辺の米軍管理地に近寄っただけで直ぐに彼らが飛んできて、写真を撮るなとか、早く立ち去れといったことを言うそうです。
しかしながら、米軍管理地区以外では、彼らには何の権限があるわけでもなく、柵の外から写真を撮ったところで、本来は咎められる筋合いはありません。(通報を受けた日本の警察に職務質問されるでしょうが)


案外、警備が彼らに任せられた理由は、彼らが無茶をする組織であることを逆手にとって、抑止効果を期待(にらみを効かす)したのかもしれません。
法的には問題ないと分かっていても、ブラックウォーター社と聞けば、私自身近寄りたいとは思いません。悪名高い彼らのこと、射殺しておいて「攻撃するそぶりを見せたので、自衛として仕方なく撃った」とか主張しかねないように思えます。


軍事研究誌2008年1月号の記事に「これが車力基地だ!」と派手なタイトルを付けた元朝日新聞記者の石川巌氏が、わざわざ車力分屯基地まで行きながら、同レーダーが配置されている地区には接近さえせずに引き返したこともブラックウォーターの名前が効いたからかもしれません。
(記事中でも、車力にはABCの3地区があると書いているくらいなので、基地の正門前に行ったところで、同レーダーが見えないことくらい見当がついたはず)


あまり好ましい話ではありませんが、今後日本国内でも、同社のようなPSCの活動は増えてゆくのでしょう。

2009年2月21日 (土)

黒水社

PMC(Private Military Company)大手として、おそらく日本では最も有名(famousではない)なブラックウォーター社が社名を変更するそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20090216-OYT1T00078.htm


新社名は「ズィー」と報じられてますが、「Xe」と綴るようで、「ゼェー」の方がしっくりきます。
現在の社名は、創業の地となったノースカロライナ州とバージニア州の境にある湿地帯に、泥炭で黒く染まった水が湧き出すことから付けられた名前ですが、日本語に訳せば「黒水社」となり、まるで香港の秘密結社かと思えるほどです。
今時やくざの息がかかった企業でもこんな名前は付けません。

ですが、今回の社名変更は、単純に現在の社名が印象が良くないという理由ではありません。


最も直接的な引き金は、今年1月29日にイラク政府が発表した同社のイラク国内における営業禁止処分です。
http://www.afpbb.com/article/politics/2565819/3736667
この決定は、2007年9月16日に発生した同社社員による銃乱射事件により、多数の市民が犠牲になったことが理由とされています。
この事件は、同社だけでなく、PMC全体の規制を強めるべきという主張が広まる契機となった象徴的な事件であり、この決定はある意味見せしめの意味もあるのでしょう。


同社は売り上げの1/3をイラクにおける業務から稼ぎ出しており、この決定により、収益源が大きく減少し、経営的に非常に苦しい状況に迫られました。
ですが、これは自業自得と呼ぶべきもので、何かにつけ銃を持ち出すという、同社の業務姿勢に起因するものです。(上記2007年の事件は氷山の一角)


現在まで受け継がれている近江商人の理念に、「三方よし」というものがあります。この三方とは「売り手よし ・ 買い手よし ・ 世間よし 」と言われるもので、前2者については、いわゆるWIN-WIN、相互利益であり、商売では当たり前のものですが、最後の世間良しとは、現代風の言い方をすればCSRであり、コンプライアンスでもあります。
ブラックウォーター社は、この「世間よし」を軽んじたために、自分の首を絞めてしまったのです。


現在は、前記の事件を始めとした粗暴な営業スタイルが、直接的な武力を用いるPMCの規制強化をももたらしたため、ブラックウォーター社のような荒事を得意とするPMCにとっては、構造的な不況状態といえる状況なのです。


今後ブラックウォーター社は、軍事訓練などのコンサルティング業務や航空機運行に関するグラウンド業務などを拡大し、業態転換を図るということです。
社名変更は、同社にとって、PMCからPSC(Private Security Company)に脱皮するとの決意表明でもあるのでしょう。

2009年2月19日 (木)

北朝鮮のミサイル?発射方位

一つ前のエントリーでも北朝鮮が準備していると言われるテポドンの事を書きましたが、今回はその発射方位について、書いてみます。


まず最初に、最近の発射事例をおさらいしてみます。
1998年の発射では、日本の東北地方を飛び越え、一部のブースターを含め、太平洋上に落下しています。
この時は、衛星の軌道投入を目指していたと見られています。
2006年のノドンとの連続発射の際には、1998年よりも若干北よりの方角に飛翔し、日本海北部に落下したと見られていますが、かなり早い段階から異常があったと見られており、予定していた方位に飛翔したか否かは分かりません。


もしも人工衛星であれば、地球の自転方向に飛翔させた方が軌道投入が容易なため、基本的には東に発射する可能性が高くなります。
つまり、またもや日本列島を飛び越えることになります。


もし、弾道ミサイルの発射実験であれば、飛翔距離が問題になります。
もし3000km程度であれば、ロシアのカムチャツカ半島にある射場を借りた試験を行う可能性もあり、その場合は2006年のミサイル発射と同様に北東方向に飛翔させるでしょう。この程度の射程距離だった場合、日本を飛び越えさせることは、失敗時に日本に落下する可能性も高くなるため、日本列島の飛び越えは選択しないだろうと思われます。
もし射程が6000km程度かそれ以上の場合、北東方向に射撃すると、アラスカからアメリカ西海岸付近に着弾することになります。
これは政治的にかなりリスキーです。となれば、やはり日本列島を飛び越えて太平洋上に落下させる可能性が高いと思われます。


と言う訳で、今回のロケット(ミサイル)も日本列島を飛び越えることになりそうです。


前回のエントリーでも書いたとおり、今回の政府及びマスコミは異様と思えるほど落ち着いています。
一時期は、北朝鮮が対艦ミサイルの発射訓練をしただけでも大騒ぎしていたことを考えると、どうにもナゾですが、これでイザ飛び越えられた時に騒いだとしたら、何にも考えてないということになります。

備えるべきは備え、事に臨んでは淡々と、と言うスタイルが理想だと思いますが、日本の実態は、やるべくこともやらずして、事が起こったら大騒ぎ、という状態に近いような気がしてなりません。

2009年2月16日 (月)

北朝鮮がミサイル?発射準備-日本に出来ること

北朝鮮が弾道ミサイルの発射準備を行っていると各所で報道されています。
当初、金総書記の誕生日である16日に発射が行われるのでは、と報じられていましたが、現在の情報では、まだ準備は整っておらず、李明博大統領が就任1周年を迎える今月25日とか、軍創立の4月25日とか諸説でています。

発射時期については、情報なしに憶測しても仕方ないので、これ以上書かないというつもりでしたが、RC-135Sコブラボールが13日夜に嘉手納に来たということなので、そう遠くはなさそうです。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090215/plc0902150139000-n1.htm
もっとも、前回の2007年のミサイル発射時にも1ヶ月以上前から飛来していましたし、この時米軍情報筋はコブラボールの飛行時間に関して、夜間は発射しないだろうと見込み、日中だけ飛行させていた結果、払暁に発射され裏を書かれた経緯があるため、早めに展開しているかもしれません。
同機やミサイル観測支援艦(オブザベーションアイランド、インビンシブル)の所在が報じられれば、米軍の行動から発射時期は見当が付きます。


さて、今回の北朝鮮の行動に対して、日本政府は奇妙なほど落ち着いた沈黙振りを示しています。
おそらくこれはテポドンが既に日本にとっての脅威というよりも、アメリカにとっての脅威となっているため、騒ぎが大きくなれば、やっかいな集団的自衛権の問題が顕在化してしまうことを警戒しての行動でしょう。
しかし、表向き沈黙していても、「もしも」の事態に備えて、自衛隊は準備しているはずです。
では、「もしも」の事態としては、どんなものが考えられ、自衛隊は何ができるでしょうか。


まず最初に一つ重要なことがあります。今回の北朝鮮の行動について、ニュースでは「ミサイル発射準備」と報じられていますが、おそらくミサイルではなく、テポドン2号を利用した人工衛星の打ち上げ実験でしょう。
と書こうと思っていたら、今回は珍しいことに北朝鮮が衛星の発射であることをアナウンスしました。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20090216-OYT1T00391.htm?from=main2

1998年と2006年の発射の際にも事前には何もアナウンスしていないこと、及び政治的に揺さぶりをかける意図から、今回も何もアナウンスすることなしに発射を行うかと思っていましたが、さすがに北朝鮮でも国際的な目を気にしたようです。
ただし、衛星などによる偵察を避けるため、上部をふたで覆った特殊な貨物列車を使用し、これを工場内まで引き込んでロケット(ミサイル)を積載しており、対応にはちぐはぐな点も見られます。(本当に宇宙開発であるならおおっぴらにやればいい)
http://www.chosunonline.com/article/20090213000020
米軍の偵察能力を見くびっており、ばれないと思っていたものの、騒ぎになったのでアナウンスした、というあたりが実情かも知れません。


1998年の日本を飛び越えたテポドン2号の発射実験の際、北朝鮮は事後に衛星の発射だったと主張しています。実際にも、衛星の軌道投入を意図していたが失敗したと見られています。(軍事研究誌に掲載されている野木恵一氏の記事など参照)
今回も国際的な批判をかわす意図から、ミサイル発射実験としてではなく、衛星打ち上げ実験として実施するようです。


これは、両者は表裏一体どころか、技術的には全く同じもので、衛星の打ち上げが出来れば、ミサイルとしても使用できるからです。
違いはペイロードと飛翔距離だけで、軽い衛星なら周回軌道に乗るものが、重い弾頭だと再突入してくるというだけに過ぎません。
(再突入弾体を大気圏への再突入に耐えられるようにすることは必要)
日本ではあまり認知されていませんが、ソ連(当時)が世界最初の人工衛星スプートニクを打ち上げた際、アメリカがICBMの脅威にパニックになったことも同じ理由です。これは、スプートニクショックと呼ばれています。
最近の例としては、今月2日イランが国産のサフィール(使者)2型ロケットを使用し、オミド(希望)衛星を打ち上げたばかりです。


となると、日本にとっての「もしも」の事態としては、なんらかの失敗によって、日本の領域にブースターを含めたロケットの一部が落下してくることが考えられます。
1998年のテポドン発射では、日本を飛び越え太平洋に落下しているのですから、これは十分にありえる事態です。


法的には、自衛隊法82条の2(弾道ミサイル等に対する破壊措置)によって、「弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のもの」に対して、破壊(迎撃)することを自衛隊に命ずる事が出来ることになっています。

現時点では、破壊措置命令は出されていませんが、82条の2の3項による緊急対処要領が定められて(平成19年3月23日の閣議決定)おり、防衛大臣が命じさえすれば、迎撃ができることになっています。
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2008/2008/html/ks316000.html
ただし、この緊急対処要領は、パトリオットPAC-3ミサイルを装備する第1高射群に対してのみ規定しており、SM-3を装備したイージス艦での緊急事態対処はできないことになっています。

総理はこの問題よりも給付金問題や郵政民営化の方が忙しいようで、イージスも使用可能にするための破壊措置命令を出すような方向に動いていませんが、もし日本の領域に何かが落ちてくるような事態になれば、非難は免れないでしょう。


能力的には、初期の警報は米軍のDSP衛星頼みです。

レーダーは、FPS-3改と飯岡で試験に使用されていたFPS-XX、それとイージスのSPY-1となります。FPS-5が実働状態にないため、十分とは言い難いですが、発射地点が分かっているため、問題なく捕捉できるでしょう。

指揮統制は、年度末には中警団にJADGEが入ることになっているので、任務付与されてはいないでしょうが、おそらくもう稼動状態にあると思われます。1高群に対してのキューイングは、JADGEに問題がなければ大丈夫でしょう。まだJADGEが使えない状態であれば、イージスもパトリオットも自らの目標捕捉能力だけで対処することになりますが、今回に限れば、複数目標に対処しなければならない事態ではないため、さほど問題は生じないと思われます。

迎撃能力は、イージスSM-3とパトリオットPAC-3です。
イージスは、昨年11月に実施された2回目の迎撃試験に失敗しましたが、1回目の試験では成功しています。もともと日本に到達する程度のミサイルには対処可能なスペックで開発されているので、2回目の試験で生じた不具合(確定した原因はアナウンスされていない)が、システムの根本的な問題でない限り対処は可能なはずです。
ただし、ブースターなどが落ちてくる場合、SM-3のキネティック弾頭の重量が小さい(わずか23kg)ため、イージスで迎撃した場合、被害がより広範に及ぶ結果となり、迎撃したことが結果としてマイナスとなる可能性もありえます。

パトリオットPAC-3は、日本に到達するノドン級のミサイルには対処が可能と思われています。
弾道軌道をとる物体は、基本的に射距離と速度が相関しているため、今回の件で、日本の領域に落ちてくる物体がある場合、速度はノドン級と同等になります。そのため、PAC-3による対処も可能なはずです。
昨年9月に行われた実射試験も成功しました。
ただし、パトリオットの場合、射程が短いので、迎撃したところで、物体が落ちてくる事自体は防げません。弾頭であれば、当然破壊すべきですが、ブースターであれば落下物を増やす(PAC-3弾の分)結果になるだけかもしれません。
また、PAC-3は射程が短く防護範囲が狭いので、現在の配備基地に置いたままでは、各基地とその北東方向の狭い範囲が防護できるだけです。
今回の件では、日本に物体が落ちてくるとすれば、それはなんらかのミスの結果であり、落下位置が予測しようがないことから、パトリオットの存在はほぼ意味がないとも言えます。


このまま政府がアクションを取らなければ、今回の「もしも」に対しては、意味のあることはなんら出来ないことになります。(PAC-3には防衛大臣が(緊急で)破壊措置を命ずることができますが、PAC-3の防護範囲に落下してくる可能性はゼロに近い)
「もしも」を警戒してとるべき手段は、自衛隊法82条の2の1項に基づく命令を発し、航空総隊司令官の下にイージスを含めた統合任務部隊を編成してSM-3を使用した弾道ミサイル等の破壊措置を行うことです。


実効性という点では難しいものがありますが、日本の姿勢を北朝鮮に分からせるためにも、弾道ミサイル等の破壊措置命令を出すべきです。

2009年2月15日 (日)

第101無人偵察機隊

先日の記事「離島有事に無人偵察機」において、第101無人偵察機隊という部隊の存在について書きました。
産経新聞がその存在を知らず、誤報を書くくらいレア度の高い部隊です。そこで、今回はこの第101無人偵察機隊について、紹介したいと思います。


ただし、私の知識は数年前までの情報+公刊資料がベースですので、最新の状況とは若干差異があるかもしれません。


さて、この第101無人偵察機隊ですが、陸上自衛隊北部方面隊第1高射特科団の隷下部隊です。当然、上級部隊である第1高射特科団の任務遂行に寄与すべき部隊なのですが、偵察によって高射特科団が必要とする対空情報を収集する部隊ではありません。

装備するチャカRは、地上目標の偵察はできますが、対空目標の捜索は不可能で、無人偵察機隊という名称ではあるものの、実質的な主任務は、偵察ではなく高射特科団の訓練支援になります。


同部隊は、北海道日高地方の静内町にある静内駐屯地に所在しており、静内対空射場などにおいて行われる対空射撃訓練に対して、ターゲットドローンを飛行させ、模擬目標を提供しています。
装備する主な機材は、基本的な構造はチャカRと同一のチャカ3と、チャカ3より速度の低い目標を模擬するためのRCAT(アールキャット)です。
http://www15.tok2.com/home/lttom/military-powers_jgsdf/omoshiro/military-powers_omoshiro-06.htm


同部隊は、静内対空射場において第1高射特科団だけではなく、全国の高射特科部隊に加え、空自の基地防空部隊(以前は海自も)の訓練を支援しています。
また、同じく静内で行われているOH-1のAAM射撃訓練も支援しています。

部隊の名は体を現していないのですが、新島の試験場を除けば、国内でSAMの射撃訓練が実施できる射場が静内しかないこともあり、縁の下の力持ちとして重要な部隊です。

同部隊が支援する静内での射撃訓練には、短SAM(SAM-1、SAM-1C)や携SAM(スティンガー、SAM-2)の他、87AWなどの高射機関砲があり、漁業補償などの関係から、春から秋にかけて、全国の部隊が静内で訓練を行います。


おまけ

これらの訓練が行われる静内対空射場は、海岸沿いを走る国道235号線の海側にあり、ミサイルの射撃訓練という非常に珍しいものでありながら、一般の人が容易に目にすることができるという極めて稀な場所にあります。
(ちなみに山側は静内駐屯地となっています)
対空ミサイルの実射訓練は、例え自衛官であってもめったに目にすることは出来ないため、訓練の際には、多数の見学者が訪れます。
そのレアな機会に、運が良ければ(タイミングが合えば)、距離的にはほとんど変わらない位置にある国道上から、ターゲットドローンの飛翔やミサイルの発射を見ることが出来る訳です。(情報保全上は結構問題ですが)

ミサイルの射撃を見たい!、という人は、国道上で粘ってみると良いかもしれません。
(おまわりさんに職質されても関知しませんので、あしからず)

2009年2月11日 (水)

海賊対処は改憲問題につながる

海上自衛隊による海賊対処について、これまでにも何回か記事を書きました。
この件については、このブログでけではなく、各所でいろいろな問題について語られていますが、この海賊対処が改憲問題を生起せざるを得ないことを論じているものはあまりないように見受けられます。
ですが、今後非常に大きな問題に発展する可能性のある問題があるため、今回はそれについて書いてみます。


自衛官は実直です。
海賊対処のために派遣されれば、真摯に任務に取り組むでしょう。
ですが、人の行う事でミスがないと言うことはありえません。間違いは必ず起ります。

現在海賊対処を実施している各国軍隊の中でも間違いは発生しています。
例を挙げると、2008年11月18日、インド海軍は海賊船の母船を撃沈しましたが、この船は実際には海賊に乗っ取られたタイの漁船だったことが判明しています。
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2543167/3556899


間違いが発生した場合、どんな事態になるでしょうか。
政治的な問題になることはもとよりですが、もし過失(過剰な武力行使など)があれば、それは罪に問われます。
諸外国であれば、特別裁判所である軍事法廷、あるいは軍法会議と呼ばれるもので裁かれます。
日本の場合は、憲法76条の規定により、通常の裁判所(地裁、高裁、最高裁)で裁かれることになります。
********************
憲法76条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。(後略)
********************


まず、第1にこれが適当なのか、はたして通常の裁判所が裁くことが可能なのかという問題があります。
海賊対処は、本来それを任とすべき警察権行使の機関である海上保安庁の手にあまることから海上自衛隊に白羽の矢が立った訳です。
つまり、通常の治安機関では対処できない事態だから軍隊(あえてこう書きます)の出番となった訳です。
そういった事態に対して、通常の司法によって判断することは不適切です。なにより、裁判官や検察官、弁護士ともに軍事という特殊な環境下に置かれる組織に暗いことが問題です。
また、自衛隊が通常の裁判所により裁かれるということは、指揮の一元性の否定にも繋がります。


次に、通常の裁判所で裁かれるということは、秘密の保持上も問題です。
憲法82条では、裁判は公開法廷で実施すると規定されています。
一応、同条2項において、公の秩序に害する場合など、特定の状況下では公開せずに裁判を行うことも可能とされていますが、基本は公開法廷です。
********************
第82条
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第3章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
********************


何らかの過失があった可能性がある事態では、その行動が、部隊行動基準(ROE)などに照らし合わせて適正だったかと言うことが問題となりますが、部隊行動基準(ROE)は決して公になってはならないものです。
もしこれが海賊の知るところとなれば、彼らは自衛隊が対処し難い行動を採る事になるでしょう。
今回の海賊対処では、各国との協調という点では問題になりませんが、インド洋で行われていた給油活動等、各国との協調が必要な事態では、ROEも調整が図られることは当然で、それが外部に漏れるとしたら、各国は自衛隊と協調することは難しくなってしまいます。


海賊対処は、相手が他国の軍隊ではないこともあり、過ちは起き易いものです。
海上自衛隊がインド海軍と同じような過ちを犯すことは十分にありえるのです。

自衛隊の行動上の過ちは、特別法廷である軍法会議によって裁かなければ、上記のような問題が発生します。

解決(特別法廷としての軍法会議の設置)には改憲が必要となるため、一朝一夕にどうにかなるものでもありませんが、その時になってから、慌てるようでは遅すぎます。
今からしっかりと議論するべきでしょう。

2009年2月 9日 (月)

下地島への自衛隊誘致に自衛隊がツレない訳

下地島空港がある宮古島市の市長が変わり、新市長が自衛隊誘致を排除しない考えでもあることから、以前に盛り上がりながら頓挫した自衛隊誘致が再び脚光を浴びる可能性も出てきました。


そこで今回は、以前にあった自衛隊誘致の動きに対して、防衛省・自衛隊側の反応が悪かった理由について書いてみます。


まず最初に、以前に起った自衛隊誘致活動についておさらいしてみます。(by wiki)
2001年(平成13年)4月18日 - 伊良部町議会が空港への自衛隊訓練誘致を満場一致で決議。防衛庁は「前向きに検討」とした。
2005年(平成17年)3月16日 - 伊良部町議会で空港への自衛隊誘致を賛成9反対8で決議。住民説明会で反対意見が続出。
3月25日 - 伊良部町臨時議会で16日の自衛隊誘致決議と平成13年の自衛隊訓練誘致決議の白紙撤回を賛成16反対1で決議。


これを見ただけで、感の良い方は理由が分かったかもしれません。
2001年と2005年の誘致決議は、微妙に違います。それは、2001年の決議では「訓練」の文字が入っていることです。


では「訓練誘致」とは、どういうものでしょうか。
自衛隊の戦闘機が実施する訓練飛行は、基本的には発進した基地に戻ります。機種や訓練内容により飛行時間は変わりますが、もともと旅客機のような長時間飛行をするようには作られていないため、通常の飛行時間は数時間です。自ずと、1機の戦闘機が1日に数回の離発着することになります。
また、タッチアンドゴー(着陸と同様に接地しながら、停止せずそのまま離陸する訓練)を含む離着陸訓練も実施されます。
「訓練誘致」とは、部隊の恒常的な配備ではなく、1日あるいは数日の間だけ、下地島空港に展開し、これらの訓練飛行に伴う離発着を下地島空港で行うというものなのです。

2001年の伊良部町議会の決議は、訓練によって空港使用料が空港側に入り、それによる税収が期待できる他、燃料の購入なども発生するため、町が潤うことを期待したものでした。
また、この「訓練誘致」が行われると、那覇空港では自衛隊機による離発着回数が減るため、過密が問題となっている那覇空港に余力がでることもあり、観光の振興にもプラスになるという意見もありました。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-111291-storytopic-86.html


しかし、自衛隊にとっては、この「訓練誘致」は多大なコスト増につながる上、離島防衛への寄与が少ない他、アラート待機は那覇で行うことから、対領空侵犯措置の実効性向上には繋がらないなど、うまみの少ないものでした。

特に、コスト面での問題は非常に重要です。
自衛隊機が下地島で訓練を行うためには、パイロットと機体が飛んで行けば、それで訓練が可能になるわけではありません。
燃料給油など、飛行に必須の作業を行う列線整備員や彼らの使う機材は欠かせませんし、故障は必ず発生するため、ある程度の整備機能も必要です。
民間機では必要のない地上拘束装置(バリア)などの空港設備も必要になります。


訓練誘致が決議された当時、伊良部町長は「(町の要請は)最低でも訓練誘致であり、基地化は理想的だ。できれば常駐させてほしい」と発言するなど、訓練誘致の先には恒常的な部隊展開が念頭にあったようですが、表向きは訓練だけの誘致でした。
2005年の決議は、訓練誘致に留まらず、恒久的な部隊展開の誘致活動でしたが、わずか10日ほどで白紙撤回されています。


自衛隊にとって、本当にうまみのある誘致は「訓練誘致」ではありません。訓練誘致では自衛隊側がノリ気にならないことは、2005年までに宮古島の方々も承知しているでしょう。
自衛隊誘致を排除しない考えを示している下地宮古島市新市長(ややこしい名前だ)が、今後どのような姿勢でこの問題に当たるのか、注視して行きたいと思います。

2009年2月 7日 (土)

缶メシ

キッチンの整理をしていたところ、棚の奥から忘れられていた自衛隊の携行食、通称缶メシ(副食のみ)と米軍のレーションが出てきました。

最近ではミリメシがムックなどに取り上げられてブームになっていたりするので、今さら私が取り上げるまでもないのですが、単に食べるだけではもったいないので、こちらで紹介します。
今回は、出てきたものの中から、缶メシの副食を取り上げます。主食のメシを出すのが一番なのですが、主食の方は発掘されませんでした。

出てきたものは2種類
一つは副食の王道たくあん。
もっとも配られる可能性の高い副食メニューです。
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小さく2食分と書いてあります。
通常2人に1缶配られます。

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中身はこんな感じ。
よくある薄切りではなく、ブツ切り状態で、一口で食べるのはつらいため、普通は少しずつかじります。
味は結構好評で、酒のつまみにもなります。

もう一缶は、ます野菜煮
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特に頻繁にでるメニューという訳でもなく、たまたま偶然に残っていたものです。

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ますと共に、たけのこ、にんじん、コブ巻きがきれいに並べられて入ってます。
味はちょっと濃い目でしょうか。
野菜にもますの味が染み込んでいて、なかなかです。

さて、なんで今さらこんなものが出てきたかと言うと、一言で言えば缶メシが敬遠されていたからです。
この缶メシ、味は決して不味くはありません。種類も結構多くあります。
ですが、どれも似たような味付けなんです。
という訳で、飽きます。

訓練の折、これしか食べることができなければこれを食べますが、他のものを食べることができれば、そちらを食べて缶メシを残しておくということをよくやります。
当然保存も利くので、とっておけば食事に手をかけたくない時に重宝します。
そんな訳で、棚の奥から発掘されました。

ご紹介できなかったのですが、主食の方は缶ごと鍋で煮て温めることで、半日ほどは暖かいままおいしく食べられます。

これで缶メシも食べ納めかな。

2009年2月 5日 (木)

方面隊が消える?

ちょっと古い話ですが、軍事研究誌の昨年2008年10月号に、藤井久氏が書いた「登場するか陸上総隊」なる記事が載っていました。


戦闘部隊に関して、海自は自衛艦隊司令官、空自は航空総隊司令官という単一の指揮官が存在するのに対して、陸自では各方面隊司令官が横並びという状態を改めるべく、陸上総隊が登場するのではないか、という記事でした。


私の現役時にも、何度か耳にしたことのある話で、根も葉もない噂レベルの話ではありません。
日本の国土程度の広さでは、単一の指揮官では指揮しきらないというほど広くはないため、検討されることはもっともでしょう。
なにせ、上記記事では書かれていないものの、陸自の各方面隊司令官が横並びになっている本当の理由は、自衛隊創設当時、官僚がクーデターを警戒したからだという話もあるくらいです。


さて、ここからやっと本題です。
ブログタイトルに書いた方面隊は、藤井氏の記事で触れられている陸自方面隊の事ではありません。

となると、そう、空自の航空方面隊の事です。
バカなことを言うなと思う方もいらっしゃるでしょうが、全く可能性のない話ではないのです。


その理由は、一つには彼我共に航空機の能力(特に航続距離)が向上し、容易に方面隊の境界を越える事態が発生しやすくなった事。
第二に、新たに任務に加わった弾道ミサイル防衛では、方面隊による作戦運用が不可能なこと。
(目標が他国の領域にあるうちから対処を開始し、指揮下にある海自部隊を含め、全国の部隊を一元的に運用しないとまともに対処できない)

次に、上の内容とも関連しますが、JADGEをはじめとした指揮統制手段の能力向上により、総隊が直接指揮を執ることも可能になってきていることです。


方面隊の機能は、単に作戦運用に止まらないため、実際に方面隊が廃止されると諸々の問題が発生します。
ですが、今後それらの問題解決を計り、方面隊廃止の方向に行かないとも限りません。

実際、今後の(航空)自衛隊をどのような組織とするかという議論の中では、たびたび話題に上っていた話なのです。

今後、本当に方面隊が廃止される方向に行くかは分かりません。

ですが、予算が減少するなか、災害派遣や国際貢献と言った新任務が増えている状況を考えれば、より効率的な部隊運用でもある総隊による一元運用は、決して非現実的なプランではありません。


蛇足ですが、以前は逆に総隊無用論というものもありました。
それは、方面隊レベルで十分な部隊運用と練成ができるにも関わらず、総隊という結節は無駄ではないかというものです。言い方を変えると(方面隊からすると)、総隊は余計な口を挟むな!ということだったのですが、総隊の価値と存在感が高まったため、近年ではあまり聞かれません。

2009年2月 3日 (火)

3種の効用

先日の記事「省エネじゃない 」に対して、某氏からコメントを頂きました。その中で自衛隊の省エネ策として厚着・薄着の推奨というのがありました。

もちろん、その通りなのですが、薄着の推奨については、「クールビズ」なんて言葉が発生する遥か以前から、自衛隊は民間より先進的です。

それは、3種夏服と呼ばれる半そでの制服の存在です。
通常「3種」と呼ばれる夏用制服は、半そでであるだけでなく、生地は麻混ですし、前が大きく開いた開襟の制服です。
ちなみに、1種は冬用制服と同じデザインで、生地を通気性の良いものに換えたもの(Yシャツも着る)。2種は、3種と同じ生地ですが、長袖でタイも締めるものです。

現役自衛官だった頃には、さして気に留めることもなかったのですが、民間に出てスーツを着るようになると、3種のありがたみが身にしみます。

また、過去には半そでの作業服である防暑服なんてのもありました。

自衛隊は、実はクールビズの元祖だったんです。

2009年2月 1日 (日)

ネガティブリスト

海上自衛隊が海賊対処のために派遣されようとしています。
海上警備行動での派遣には諸処の問題があることは、以前の記事「海自によるソマリア海賊対策の根拠と限界 」でも書いた通りですが、派遣の途中から根拠が海賊処罰取締法に切り替えられる見込みで、この点は改善がなされる方向で固まっています。

新聞などでも問題視されている武器使用の基準、部隊行動基準(ROE)も、海賊処罰取締法への根拠移行とともに、より部隊が動きやすいものになるでしょう。
しかし、それでも残る懸念があります。

それは、上記の基準がネガティブリストで記述されるか否かです。
ネガティブリストとは、「○○をしてはならない。」と否定形式で書かれるもので、その逆は「○○をする。」あるいは「○○をして良い。」と肯定形式で書くポジティブリストとなります。

部隊行動基準などは公開されていないため、詳細は書けませんが、石破元防衛庁長官(当時)も著書の中で書いている通り、自衛隊法を始め、自衛隊の規則類は全てポジティブリストで書かれています。
その理由は、防衛省に限らず、各省庁の権限を発生させる行政法の全てがが、ポジティブリストで書かれるためです。
(お役所は規定された事以外を行うと違法行為となるため、これが、管轄外を理由に仕事をしないという、お役所仕事のお役所仕事たる所以となっています)

自衛隊の各種規則類は、全てその上位規則を根拠としています。
それは、上位規則がポジティブリストにとして、「可能」と規定している物について、その細部を規定する物が下位規則だからです。そのため、下位規則もまたポジティブリストになってしまいます。
自衛隊法や防衛省設置法は行政法ですから、それを根拠とする自衛隊の各種規則も、また同じようにポジティブリストとなってしまう訳です。
私も現役自衛官の頃、新たな試みや規則を作ろうとすると「根拠はなんだ!」、「根拠(文書)を示せ」と、耳タコなほど言われました。

このように、自衛隊の規則類がポジティブリストとなっているのは、それなりに理由のあることではあります。
ですが、派遣される海自の行動を規制する部隊行動基準などが、ポジティブリストのままでは危険です。

良く言われる事は、ポジティブリストでは、判断が難しく、一瞬の躊躇が危険につながると言うものですが、部隊行動基準などに触れたことがない人には分かり難い話でしょう。

うまく説明することは難しいですが、若干説明を加えてみます。
ポジティブリストでは、行っても良い事(場合)、つまり白だけが規定されるため、グレーは基本的に黒、行ってはいけない事(場合)と判断すべき物となります。つまり、白ではない可能性のある場合は、黒なのです。これは、非常な心理的負荷になります。

また、部隊行動基準などを作成する上では、グレーをなくそうとすると、網羅的に書かなければならなくなり、条文がどんどん増えてしまう結果となります。
現役時代に参加したある演習において、想定として出された部隊行動基準を見て絶句した事を覚えています。
それは、あらゆるケースに適合できるように統裁部(演習をコントロールする指導側のこと)が苦労した賜物だったのですが、私の感想は、「こんなもの、幹部だって全てを覚えきれない」というものでした。
また、項目が増えることによって、前述の心理的負荷も増える結果となります。

山のような項目数の部隊行動基準等が出されたとしても、CICで艦長を始めとした幹部が判断する場合はまだ良いでしょう。
ですが、今回の海賊対処では、特別警備隊が海賊船内に入って臨検することも考えられています。彼らに長大で複雑な基準を暗記させ、それによって咄嗟の判断を要求するとすれば、それは中央がすべき苦労を、現場に押し付けていることに他なりません。

前述したように、部隊行動基準などを、旧弊を排して、ネガティブリストとして作ることには、相当な困難(内閣法制局など関係者の納得)があるでしょう。
ですが、これなしに海自を送り出したとしたら、隊員が背広組に殺されることにもなりかねません。

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