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2009年1月 4日 (日)

海自によるソマリア海賊対策の根拠と限界

ソマリア沖の海賊対策に海自艦艇の派遣が検討されています。


しかし、海自の派遣は、自衛隊法82条(の1)に規定されている海上警備行動を根拠とする方向で調整されています。
海上警備行動を根拠とする理由は、法改正の必要性は認識しつつも、法改正には時間がかかるためですが、さまざまな限界があります。


最も問題な点として報じられている点は、保護する対象が日本籍船、日本の事業者が運航する船及び外国船に乗船している日本人に限られることです。


また、現場において、これ以上に問題となりそうな事項は、海上警備行動は、警察権の行使として本来は海上保安庁が行う任務を代わって行うものであるため、強力な火器を持っていても武器使用権限などは警察並にならざるを得ないことです。
このことが、12月25日の記者会見で、増田防衛次官が「海上警備行動時の権限と、海賊対策での武器使用とには差があるように感じる」と発言した理由です。


「海上における警備行動に関する訓令」等の関連規則は公開されていないため、詳細はご紹介できませんが、基本的に海上警備行動時の(武器使用)権限は、自衛隊法九十三条ににおいて「警察官職務執行法(第7条)に準じる」と規定されています。
(なお、自衛隊法第93条の3において準用されることが規定されている海上保安庁法第20条の2では、警察官職務執行法第7条よりも、武器を使用する条件が緩和されていますが、この規定は我が国の内水又は領海での規定であるため海賊対策には使えません)


警察官職務執行法第7条は、次のように規定されています。
********************
(武器の使用)
第七条 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
一 死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
二 逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
********************


法文を読んだことのない方には、はなはだ辛い文章かもしれませんが、ものすごく大雑把に言うと、相手の状況に応じて、やりすぎない範囲でのみ武器を使用して良いという規定です。
これは、「警察比例の原則」と呼ばれる物で、この原則が在るゆえに、警察による拳銃使用がニュースとして流れる度に、警察が「適正な銃の使用だった」とアナウンスするわけです。
警察比例の原則については、詳しいサイトが沢山あるので、興味のある方はそちらをご覧下さい。

この比例の原則があるため、海自が派遣される場合、相手に危害を与える射撃(いわゆる危害射撃)については、正当防衛もしくは緊急避難の場合に限られるなど、海賊を相手とするには難があることが予想されます。

ソマリア沖の海賊については、相当に重武装であることが報じられており、RPGなどを所持していると考えるのが妥当ですが、発見した海賊が、発砲もせずに逃走した場合、いきなり機関砲弾を叩き込むわけには行きません。
不審船事案と同様に、相手が相当の抵抗の意思を示さない限り、如何に強力な火器を持っていても使用できない訳です。


また、海上警備行動における権限には、海保が司法警察官として実施する捜査や逮捕、送検などの権限などは含まれていません。
そのため、海自艦艇に海上保安官が同乗することが検討されています。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090103/plc0901030108000-n1.htm
実力行使の部分は海自が行い、その後の処置は同乗する海上保安官が実施するという、なかなかの妙案だと思います。
(このニュースが流れるまでは、巡視船も行かなければ無理か、と思ってました)

なお、清谷信一氏は、自身のブログで、自衛隊の警務隊も司法警察官なので、海上保安官が乗り込む必要は無く、海保が縄張り争いでこんなことを言い出したと書いています。
http://kiyotani.at.webry.info/200901/article_3.html
ですが、警務隊は基本的に部内の犯罪に対してしか司法警察権がないため、民間船舶に対する海賊行為を、犯罪として処置することはできません。
(海自艦艇に対する抵抗については処置できる)


このように、海自が海賊対策を海上警備行動として行うには様々な問題があります。
自衛隊の海外派遣は、今までも多くの問題があるまま派遣されてきたケースがほとんどです。
その都度、現場の努力で乗り越えてきた訳ですが、今の政治のドタバタを見ると、またしても同じ様相になりそうです。

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海賊対処」カテゴリの記事

コメント

1 ■警務隊の警察権行使に関して
本文中に明らかな錯誤がありますので訂正します。
警務隊には自衛隊内のみにしか司法警察権がない、とありますが、違います。 詳しくは警務隊と警察との協定、をご覧になれば分かります。 捜査の分担に関して、概略の協定が説明されています。協定です。強調しておきます。
該協定中にある通り、対象が軍艦であれ民間船舶であれ、警務隊の警察権の行使は何ら制約されるものではありません。
これは権限の問題ではなく、政治上の超克すべき陥穽です。
恐縮ではありますが、軍事を語る前には勉強をして頂きたく存じます。

2 ■無題
私の書き方に、誤解をされる余地があったかもしれませんが、「自衛隊内」というのは対象についてのことで、場所を指したものではありません。
つまり、自衛官の犯した犯罪についてしか司法警察権がないという意味です。
警務隊が協定を結ぶにしても、根拠法令の範囲を逸脱することはできません。
(政治の問題ではありません)
自衛隊法もお読み頂ければと思います。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

3 ■数多久遠さまへ
回答ありがとうございます。自衛隊内というのが場所ではなく対象という貴方の論旨は分かりました。
しかし、誠に残念ですが、再度誤りを指摘せねばなりません。
警務隊は自衛官の犯した犯罪についてのみ警察権を行使することができる、とありますが、違います。
警務隊は自衛隊に関する人・物件が対象であれば民間人を逮捕することが出来ます。実際、しています。具体的には建造物侵入等です。これは事実ですし自衛隊法施行令にも明記されています。。
特別司法警察職員に関しては、社会の認知度が低いこともあり、不明な点が多いためにそのような認識に至っていることと思いますが、是非関係法令の確認をお願いしたく申し上げます。

4 ■司法警察権
みかん様
対象だと言う事が分かっていただけで良かったです。

さて、警察権についでですが、本文中にもあるとおり、ここで問題となるのは司法警察権です。
一度「司法警察権」あるいは「司法警察官」というものを調べて頂いた方が良いかと思います。
そして、本文中で問題となっている部分は、司法警察権の中の捜査や送検です。

例を挙げられている「逮捕」については、「私人逮捕」というものもあり、司法警察権がない一般の自衛官はおろか、私人でも可能です。(もちろん司法警察権の中にも含まれる権限ですので、司法警察官も逮捕は可能です)
(ガードマンが守っている施設内に侵入した不審者を逮捕できることも同じ根拠です)

自衛隊の施設に対する建造物侵入犯に対しては、通常司法警察官ではなく、警備の任を負っている警衛隊(警務隊ではありません)が、逮捕します。
(まれに基地内をジョギングしていた普通の自衛官が逮捕したりするケースもあります)
その後、行われた不法行為については、司法警察官である警務隊が必要に応じて取り調べなどを実施することになります。

ふれ回っている訳ではないので、ご存知なくとももっともなのですが、私自身長年自衛隊に勤務し、警備関係の仕事もしていた関係上、警務隊とも付き合いがありました。
関係法令は承知していますよ。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

5 ■長くなりますが
司法警察権に関して勉強せよとの進言、ありがとうございます。 私は現役の司法警察員であり、幹部自衛官でもありますが、他ならぬ警衛隊OBの方のお言葉なので有難く頂戴致します。
回答頂きました私人逮捕に関してですが、仰る通りです。素人と考えて説明を怠った私の責に負う所です。ちなみに私人逮捕では身柄の拘束のみで、身体検索や事情聴取は出来ません。すぐに司法警察員に引致せねばなりません。(自衛隊では時々警衛隊員が行き過ぎた逮捕行為をします)
さて、逮捕や送致に関して、法律用語をご存知のようなのではっきり申し上げます。貴方の説明では警務隊が民間人を逮捕できないと云うことに対して何の立証にもなりません。なぜなら、警務隊は建造物侵入以外にも、暴行、傷害、業務上過失致死傷等の罪に関して民間人に対する警察権を有しているからです。他にも枚挙できますが、長くなるので書きません。間違いなく出来ます。現にしています。
要は、対象が防衛省・自衛隊に関するものならば警察権の行使は至って支障ないのです。ただ、貴方はその説明として、自衛官の犯した犯罪についてのみ警察権を行使できると述べていることから、根本的な錯誤が生じています。そしてこれは、警務隊の司法警察権に対する非常に大きな誤解と言わざるを得ません。
あまり気が進まなかったのですが、貴方が警務隊に関して誤った認識を持っているようなので、敢えて説明しました。
こうして防衛に関する啓蒙活動をして頂くことは現役として非常に有難いのですが、合理・適正な理論を汲まねばそれは誤った効果をもたらします。
若輩ながら、自己の職務に関しては貴方の誤りを看過することは出来ません。
ちなみに、通常我々の世界では司法警察官とは言いません。司法警察員と言います。

6 ■みかんさま
現役の方でしたか、私の方もそうとは知らず失礼な言い方をしてしまいました。申し訳ありません。

さて、ブログについては、コラム的読み物であるため、すべてを網羅的に書こうとは思っておりません。
しかし、今回の警務隊による民間人の逮捕の件ですが、ブログの本文の方をもう一度ご覧ください。
>民間船舶に対する海賊行為を、犯罪として
>処置することはできません。
>(海自艦艇に対する抵抗については処置で
>きる)
と書いており、「対象が防衛省・自衛隊に関するものならば」とみかん様がおっしゃるように、その点は担保しております。
(ここまで書く必要は必ずしもないかな、と思ったので括弧書きです)

司法警察員と称する事は初めて聞き及びました。ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

7 ■無題
確かにコラム的な範囲では、説明しきれませんよね。まだまだ警察権について申し上げたいことは山ほどあるのですが、長くなるので止めます。
要は、今回の海賊取り締まりの件で海保の名が出てきたのは、日本特有の慣習であり政治判断であって、海保に特別な権限やスキルがあるからではない、という事です。現場で指揮系統が二分されるような運用はマサに愚の骨頂。

ソマリアはどこ?海保の英訳は? これだけで自ずと答えは出ています。

サイト主さんの言うように、頭の悪い大臣や、知性なき政治家にはもう少し現実を謙虚に受け止めて欲しいものです。艱難辛苦を味わうのは、我々現場の人間ですから。
長くなりましたが、ブログ楽しみに拝見してます。
芯のある保守に会えたようで嬉しいです。

8 ■そもそも
数多久遠様、みかん様、
現場を経験されている方々の「司法警察権」の議論、門外漢の私でもよく分かりました。ありがとうございました。
そこで、「そもそも」の質問をさせて頂きたいのですが、今回、ソマリア沖への海上警備行動に海上保安官を乗船させ、自衛隊の警務官を乗船させない理由はどこにあるのでしょうか?
私の理解では、民間の船舶”のみ”に対する犯罪(海賊)行為に関して、司法警察権を行使できない自衛隊警務官では拘留・送致等の対処はできない、と思うのです。
例えば、日本船籍のタンカーに銃撃を加えている船(海賊船)を見つけ、ボートなどで接近、立入検査を行うとします。この段階で海賊船は、海上自衛隊の護衛艦やボート等に対して何の抵抗もしていません。この場合、立入検査は海上警備行動発令による行政警察権で執行し、必要であれば逮捕となるでしょう。そこで、すぐに司法警察員へ引渡す必要があるのですが、ここで自衛隊の警務官は逮捕者(海賊)に対して権限があるのでしょうか?自衛隊(護衛艦や隊員)に対してなんらかの犯罪行為があれば、あきらかに自衛隊の警務官でも職務の範囲が及んでいると思うのですが。あるいは、「隊員の職務に関し隊員以外の者の犯した犯罪」という職務の範囲が、この場合、当てはめられるのでしょうか?
自衛隊に対してなんら抵抗を見せない海賊に対しては、”海上における”犯罪について司法警察職員として職務を行える、海上保安官が対応しないといけないので、海上保安官を乗船させる事になる、のではないでしょうか?
よろしければ、ご教示下さいませ。

9 ■その通りです
関心 様
ご理解されている通りです。

タンカーに銃撃している海賊に対して、逮捕はできるが、その際自衛隊に対してなんら抵抗しない場合、「隊員の職務に関し隊員以外の者の犯した犯罪」が存在しないため、警務官では拘留・送致等はできないということになります。
少しでも抵抗するそぶりを見せていれば、「隊員の職務に関し隊員以外の者の犯した犯罪」として処置できるため警務官でも対処はできます。
ただしそれは、「隊員の職務に関し隊員以外の者の犯した犯罪」としての隊員に対する抵抗についてのみとなるため、タンカーに銃撃したことなどに関しては拘留・送致等ができません。

質問のありました海上保安官を乗船させ、自衛隊の警務官を乗船させない理由ですが、警務官に可能なことは全て海上保安官でも可能だが、警務官は海上保安官に可能なことの全てを実施する権限はない。
つまり、海上保安官が乗っていれば、警務官は必要ないということです。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

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