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2008年11月21日 (金)

SM-3による弾道ミサイル迎撃試験失敗の原因

イージス艦「ちょうかい」による弾道ミサイル迎撃試験(JFTM-2)が実施されました。
10112559211
(海上自衛隊/毎日新聞)
10112559214
(海上自衛隊提供/東京新聞)

試験が失敗したことで、ニュースやブログで原因と影響について話題となっています。
SM-3の弾頭部分に問題があったのではないかとも報じられており、統合幕僚長も個人的見解として「システム全体では許容範囲」と説明するなど、あまり問題視しない見方が多いようです。
週間オブイェクトでも、同様の論調です。
http://obiekt.seesaa.net/article/109960076.html

ですが、楽観視することは危険な気がします。現段階では情報が少ないのですが、分かっている範囲の情報をまとめて、原因を考えてみました。
YouTube画像はコチラ
http://jp.youtube.com/watch?v=QIlLysf1LM0
最初に、判明している事実関係です。
・迎撃試験は、「こんごう」に続き2回目
・「ちょうかい」には、標的となる模擬弾道ミサイルの発射時刻を知らせずに実施(「こんごう」の際は、通知)
・「ちょうかい」は、模擬ミサイル発射地点(カウアイ島)から数百キロ離れた海上に停泊(「こんごう」の際は約450キロ)
・標的はMRBM(弾頭がブースターと分離する物かは不明)を模擬(JFTM-1でもMRBMだったが、弾頭はブースターと分離する形式)
・(標的発射の)3分後にSM-3を発射
・SM-3は大気圏外まで順調に誘導された
・迎撃予定の数秒前に標的を見失った
今回の試験が前回(JFTM-1)と最も異なっている点は、模擬ミサイルの発射時刻を知らされていなかったことですが、SM-3の発射時間が前回と同等あるいは若干早かった(JFTM-1では、模擬ミサイル発射4分後にSM-3を発射)ことを見ると、捕捉追尾については問題が無かったものと思われます。(YouTubeの映像を見ても、S M-3の発射前にしっかりと10秒のカウントダウンを行っており、慌てている様子はない)
防衛省としても、「イージス艦のシステムに問題はなかった」と発表しているので、発射時期の事前通知がなかったことが失敗の原因になったということはありえないでしょう。
少々気になる点は、YouTubeの映像中、発射されたSM-3が早くもブースターの燃焼中にかなり水平方向に飛翔している点です。(JFTM-1の時は、あまり水平方向には飛翔していない)
公表されている情報にはありませんが、JFTM-1と比べると、模擬ミサイルはイージス艦から離れた位置を横行するようなトラジェクトリーだった可能性、あるいはイージスよりかなり手前か、逆に奥に着弾するようなトラジェクトリーだった可能性があります。
そうだとすると、発射されSM-3は、模擬ミサイルの進路と直交する速度成分が大きい状態でインパクトしなければならなかった可能性が高いことになります。
なにが言いたいかと言うと、直交速度成分が大きかった結果、中期誘導での誤差が大きく、終末期誘導で誤差を修正しきらなかった結果、インパクト数秒前になって赤外線シーカーの追随範囲外に目標が出てしまった可能性もあるということです。
今回の試験に用いられたSM-3の弾頭が、どの程度の情報をダウンリンクで「ちょうかい」に送信しているかは分かりません。
ですが、以前の米軍での試験のYouTube映像であったような、赤外線シーカーが捕捉した映像をダウンリンクで落としていたのなら、上で指摘していたような可能性は直ぐに確認できるでしょう。(普通は、試験用のテレメトリー弾でもない限り、そこまでダウンリンクで落としてはいないと思うのですが、SM-3ブロック1A自体が試験用みたいなものなので、それだけの機能を持っている可能性もあるのかも)
もしそうであれば、失敗の原因が確定するのも早いが、原因の根は深く、「システム全体では許容範囲」と発言した統合幕僚長の認識も間違っていることになります。
また、単純に弾頭部に異状のあった不良弾だったとしても、必ずしもJSF氏が書いているような赤外線シーカーの問題とは限りません。
インパクト数秒前までは捕捉できていたようなので、ミサイル内蔵のバッテリー(多くは熱電池)不良による急激な電圧変動でシーカーの動作が不安定になった可能性も十分にありえます。(内蔵電池の作動時間は、ミサイルの飛翔時間に合わせて作ってあるため、ミサイル不良の原因としては比較的多い)
もちろん不良な赤外線シーカーが、インパクト直前の急激な受光量増大に対応しきらず、目標をロストした可能性(カメラのハレーションのような状態)、あるいは突然壊れた可能性もあるでしょう。
なお、米軍が実施したSM-3の迎撃試験の内で失敗したものは、いずれも模擬ミサイルの弾頭がブースターと分離しないタイプのものだったことを考えると、感度を高くとっている赤外線シーカーが、インパクト直前の受光量の増大に対応しきらないケースは多いのかもしれません。
防衛省が原因の詳細を発表するかは分かりませんが、発表があればまたレポートします。
(中期誘導の誤差が大きかったのならば、詳細の発表はされないかも・・・)

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コメント

1 ■明らかな間違い。
ミサイルに多くは燃料電池が積まれているという部分ですが明らかに間違いです。どんな怪しげな知識をリファレンスとしたかは分かりませんが、少なくともその知識は一般的どころか常識に引っかかりもしないものであるとだけ申し上げておきます。

因みに何が使われているのか?と問えば一般的には「熱電地」が使用されます。逆に熱電地が搭載されない誘導弾はあり得ないと言っていいです。

何故熱電地が使用されるのかというと、10年以上ノーメンテナンスで保管でき、そして動作する事(燃料電池には不可能)、活性化後の立ち上がりが早く(これも燃料電池には不可能)、かつ大電力が一定時間ながらも取り出せる事(これも燃料電池には以下略)からです。

熱電地とは何か?については検索すれば分かりますので説明は割愛します。

2 ■ご指摘どうもです
熱電池も燃料電池の種類だと勝手に誤解してました。(確かに作動後は触れないほど熱くなりますね)
記事のほうは修正しておきます。


http://ameblo.jp/kuon-amata/

3 ■訂正感謝します。
なお、電池切れという可能性もちと薄いです。熱電地は動作時間以上(安全率)を取った放電特性を有していること。そして熱電地は構造自体、余りにも設計が枯れすぎており、溶接部が十年を超える経年で腐食してしまう程度のトラブルしかまずあり得ないからです。それくらい枯れきっています。

となると、シーカーが目標をロストしたという言葉だけで考えられる事は以下の2点、枝だけ考えても7点になります。

1.シーカーそのものが故障した場合
1.1クールボトル及び冷却配管の破損による赤外線輝度分解能の低下(溶接部位の強度不足、継ぎ手の強度不足)
1.2.素子配線の切断もしくはIVアンプ(電荷-電圧変換器)の故障(検証方法の不足)

2.純粋にシーカー視線から目標が消えた場合
2.1中間誘導誤差によるミスディスタンスの増大があった場合
2.1.1迎撃エンベロップギリギリの位置がコリジョンコースであったため(発射タイミングが早すぎもしくは遅すぎ)
2.1.2迎撃エンベロップ外の位置がコリジョンコースであったため(同上)
2.2中間誘導制御が良すぎた場合
2.2.1終末誘導に切り替わった相対位置が余りにも近すぎた(誘導は収束系ですので最適な相対位置というものが確実にあります)
2.3KVそのものに問題があった場合
2.3.1DACSのノズルが詰まった(2000Kを優に超えるガスを貯め、噴出させるのですからあり得なくはないです)
2.3.2ガスジェネレータ容器が破れたか火薬が燃えなかったかのいずれかの条件下で駆動力が失われた(同上)

いま数十秒程度考えただけでも、この程度のFTA(Fault Tree Analysis)モドキが出てきますし、普通はFTA等を作った上で運用で対処可能なもの、HW的な不具合があるため早急に設計変更もしくは製造・検証方法変更をするのかを考えます。以上は物づくりをしている人であるならば誰でも知ってる思考法ですね。当然ながら、ある程度の概念設計ができることが大前提にありますが。

もし、ある程度の説得力のある故障分析を今後も展開したいのであれば、最低限上記程度の分析を行った上でどの領域のフォルトが致命的なのか、どの領域ならば問題が少ないか(運用でカバーできるなど)を切り分けた上で展開していただければと思います。

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