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2008年11月12日 (水)

日本独自の早期警戒衛星は不要だ!

2ちゃんの軍事板「ミサイル防衛」スレで気になる話題がありました。また、ちょうど先日関連のニュースがあったので、開示請求についての最終回を急遽変更し、早期警戒衛星について書きます。


政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生首相)がとりまとめる衛星とロケットに関する事務局原案が明らかになりました。
内容として、弾道ミサイル発射を検知する早期警戒衛星や、通信手段を強化する衛星の導入の検討など、防衛利用の促進が掲げられています。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20081104-OYT1T00414.htm


このブログでは、MDについてもたびたび取り上げており、普通に考えれば歓迎のコメントを書くところです。
ですが、早期警戒衛星については反対です。


現時点で、早期警戒衛星と言えば、アメリカのDSP衛星のことになります。
事務局原案でも、DSP衛星と同様の物を自前で整備することを盛り込んでいると思われます。(原文が見つかりませんが、大石英司氏のブログでも、DSP衛星と読みかえられていますし、おそらく間違いないでしょう)
http://eiji.txt-nifty.com/diary/2008/11/post-e52b.html


DSP衛星は、赤道上空3万6千kmに位置する静止衛星で、数基をもって地球全体を監視していると言われています。
もともとは、冷戦期においてソ連が発射する弾道ミサイルを検知し、警報を発するために作られた物で、性能向上が図られつつ、順次新型に置き換わってきました。


これと同等のモノを装備することは、日本にとっても、一見、悪い話には思えません。
しかし、それに敢えて反対意見を述べるのは、DSP衛星と同様なものでは、日本への脅威には不十分だからです。
また、十分なモノはコストが見合わないからです(後述)


DSP衛星は、もともとICBMなど射程の長いミサイルを監視することが目的とされており、順次改良されているとは言え、ノドンなどMRBMに対して十分な監視能力を持っていません。
DSP衛星のセンサー感度や処理アルゴリズムを高性能化すれば、問題が片付くと言うものでもありません。感度が高ければ、誤警報の可能性も高まるからです。

実際、2001年11月22日に、韓国が済州島の西にミサイルの発射実験をした際、警報を受けた防衛省・自衛隊が一時騒然となるという事態も発生しています。
(古いニュースのため、日本の新聞社のサイトからは既に消えています。ですが、当時のニュースがコピペされた2ちゃんのログ、及び朝鮮日報のニュースは残ってました。)
http://news.2ch.net/newsplus/kako/1006/10064/1006437050.html
http://www.chosunonline.com/article/20011123000008

この時、警報によって問題が発生したと言うことは、発射地点が北朝鮮なのか韓国なのか、着弾地点が東シナ海なのか日本まで届くのかが不明確だったということです。
そして、こういう事態が実際に生じているということは、ハインリッヒの法則によれば、問題として顕在化していない誤警報が多数存在すると言うことです。そして通常は、一定時間経過するまで待ってから再確認するなどのフィルタリングが行われている可能性が高いということになります。


湾岸戦争、イラク戦争でのスカッド迎撃にDSPが機能したことをもって、DSPでも一定の効果を期待できると言う論もあります。
しかし、湾岸やイラク戦争では、たとえ誤警報確率が90%だったとしても、パトリオットの態勢移行回数が増え、故障発生率が増える以外、大した問題はありませんでした。
しかし、ここで詳細を書くことはできませんが、日本の弾道ミサイル防衛では、誤警報によって重篤な問題が発生します。


また、誤警報確率が高いシステムは、「狼が来たぞ」と同じで、直ぐに信頼されなくなります。各自治体を通じて警報が流されても、誤警報が続けば、誰も反応しなくなるでしょう。


この問題は、衛星が静止軌道に在るという基本条件が変わらない限り、十分な能力を持たせることが出来るとも考えられてはいません。
そのため、アメリカはMRBMなどにも十分な監視能力を持たせるため、DSP衛星の後継として、宇宙空間赤外線システム(SBIRS)衛星に置き換えることとしています。


SBIRSには2種類(正確には3種)あり、静止軌道GEO(2基)と長楕円軌道HEO(2基)に投入されるSIBRS-HIGH、そしてLEOに投入されるSIBRS-LOW(24基)という構成になっています。なおSIBRS-LOWは、現在ではSTSS(宇宙配備追尾監視システム)と名称変更されています。
詳しくは、軍事研究07年10月号の多田智彦氏の記事をご覧下さい。
また、ウィキ(英語)にも記事があります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Space-Based_Infrared_System
http://en.wikipedia.org/wiki/Space_Tracking_and_Surveillance_System


アメリカがやっている事が常に正解という訳ではありませんが、確度の高い早期警戒情報を得るためには、STSS衛星と同様のものが必要ということです。
日本周辺の監視能力に限定すれば、STSSと同様の衛星は、24基も必要ないかもしれません。ですが、低軌道ゆえ、いくつもの衛星を代わる代わる使用する形を取らざるを得ず、多数の衛星が必要なことに変わりはありません。
となると、前述のとおり、早期警戒衛星の独自保有は、コストがかかり過ぎることになります。


現在、アメリカのSIBRSとSTSSの開発は遅延しています。それは、アメリカの関心が、同盟国の防護ではなく、自国を守るNMDに集中しているからだと思われます。(ICBM級の弾道ミサイルを警戒するNMDでは、早期警戒衛星はDSPで事足りる。)


日本政府は、早期警戒衛星の独自配備を考えるほどならば、開発費用を一部負担するなどしてSTSS衛星の開発配備を進展させ、出来れば協同運用する(集団的自衛権の問題もありますが)などした方が現実的です。


以前は、DSPからの早期警戒情報が、日本国外の経由地を経ることから、警報の伝達遅延を問題視する声も聞かれました。
しかし現在では、JTAGSが三沢にも配備されているので、至短時間で日本の領域にも伝達されますし、横田のBJOCCが既に稼動中ということなので、COC/AOCCの横田移転を待つことなく、自衛隊にも伝達される態勢が整っていると思われます。

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コメント

現実の世界、今までの歴史を観て、長年スパイ天国と言われ長年に渡り情報・軍事に無関心で無頓着で知識も警戒心も無く来たので、ナイーブな人もいるのかと。
米を含め、諸外国は何十年も前から高解像度の偵察衛星を開発保有しても日本を含めて攻撃されると毎日恐怖してないし、気にもしてないでしょ。
気にしても止めさせられないし、どの国も警戒防衛する自由や権利があるんだから。
それより、実際に北朝鮮が核ミサイルを開発実験発射して、中国が日本に水爆ミサイルの照準を合わせて常時発射出来る事には何も感じないのか?

はる 様
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