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2008年9月

2008年9月29日 (月)

副官のお仕事 その3

ここのところ、硬い内容の記事が多かったので、今回は「副官のお仕事」シリーズの続きを書きます。


前回、なにも行事の無い日の業務について書いたので、今回は、行事がある日の仕事についてです。いろいろな行事がありますが、最も分かりやすいケースとして、視察の場合を書いてみたいと思います。これだけでも長くなるので、2回に分ける予定です。


副官が付くような高級幹部の場合、指揮下の部隊が離れた場所(基地)にあるケースが良くあります。(基地司令の場合は違いますが、厳密に書くと基地司令でも分屯基地がある場合は、分屯基地が指揮下になります)
それらの指揮下部隊を視察する時は、普通は副官が随行します。


視察の予定が入ると、副官の最初の仕事は、視察スケジュールの調整です。
視察先での行動は、ほとんど視察先部隊が計画するため、副官の立てるスケジュールは視察先部隊に到着するまでの移動と、宿泊関係、そして帰りの移動についてとなります。
また、視察先部隊が恥をかかないよう、指揮官のバイオグラフィー(経歴)や趣向(飲み物の好みや喫煙の有無など)について、部隊に連絡するのも副官の仕事です。


移動手段は、一般と同様に車や電車の場合、民間航空機の場合もありますが、当然ながら自衛隊機を使用するケースもあります。


航空自衛隊や海上自衛隊の場合は、空港を持つ基地間で輸送機が定期運行されています。基本は貨物用な訳ですが、あまりスペースで隊員も乗れます。この定期便自体は、高級幹部でなくとも乗れるものですが、高級幹部が利用するケースもあります。
空自が運行している定期便は、C-1輸送機とC-130輸送機、それとCH-47ヘリで、搭乗者はエプロンを歩いて機体の後方から乗り込むわけですが、高級幹部の場合は、車を横付けして前方左(ヘリは右)のドアから入ります。
副官も指揮官に随行するので、基本的に同じ動きです。搭乗すると、1席分空けて指揮官の隣に座るのが普通です。指揮官用には座布団が用意されていますが、副官はそこまでの待遇はされません。(指揮官は、おてふきもサービスされたりします。出してくれるのは無骨なロードマスターですが)


定期便でなく、特別にフライトが組まれる場合も良くあります。
使用される機体は、CH-47やU-4といった連絡任務に使用される機体の他、指揮下部隊が運用する複座型機の場合もあります。(指揮官がパイロットの場合、年間飛行という訓練のため自分で操縦するケースも多い)
この時、航空機のトラブルが発生する可能性もあるため、通常は予備機も準備されます。そして、トラブルが起きなければ、これに副官が乗って随行するケースもあります。
これは、パイロット以外の職種の者が副官になった場合、最もおいしい点かもしれません。
航空自衛官と言えど、パイロット以外で戦闘機や練習機に乗れる場合は、整備職種など非常に限定されるからです。
こういった移動手段として使用される機体としては、やはりT-4が最も良く使われています。
視察などでの移動の場合、ある程度荷物もありますが、T-4などではコックピット内に荷物を入れる余裕はほとんどありません。その場合、増槽(ドロップタンク)にそっくりなトラベルポッドというものが使われます。ポッドの横がパカッと開いて、荷物が入れられるのです。
ポッド内は与圧などされないので、入れるモノは注意しないと爆発します。副官は、こういった場合も考慮して指揮官の荷物(もちろん自分の物も)を準備しないといけません。


次回は、視察先部隊での動きについて書く予定です。

2008年9月27日 (土)

新防衛大臣は人選ミス

麻生内閣の防衛大臣に浜田靖一氏が任命されました。


前任の林前防衛大臣とは異なり、防衛に理解のある防衛族議員です。
ですが、これは人選ミスでしょう。


浜田防衛大臣は、ハマコーさんの長男という典型的な2世議員(政治家は世襲制か?)で、防衛政務次官、防衛庁副長官、自民党の国防部会長などを務めた経歴をもつ国防族議員です。
私は、防衛大臣には防衛問題に理解のある防衛族議員の方に就いて欲しいと思っています。潜水艦が領海侵犯した際にも、海上警備行動の発令をためらうこともないでしょうし、なによりも現場で勤務する自衛隊員にとって励みになる、つまり士気の上がることだからです。


ですが、この方はいけません。
就任翌日25日の夕刊フジでも「浜田防衛相に異議あり」という記事が出ていましたが、口利き体質の利権屋では、益よりも害の方が大きくなります。


口利きがあると、装備品調達などで不適切なものが納入されたり、価格が異常だったりすることになります。
私が現役の時にも、なぜこんな装備品が購入されるのか理解し難いものが納入され、倉庫で埃をかぶっているというケースは良くあった事です。おまけにこう言った装備品は、会計検査の折には目を付けられることがないように、現場で誤魔化さなければなりません。
価格が高いことの弊害は、直接には目に入りませんが、必要な装備や物品の数が少なくなるという結果になります。
いずれにせよ、防衛力の低下となって顕れます。


また、父親似ならば失言も多そうです。防衛省に余計な災禍とならなければ良いのですが・・・


そしてそれ以上に、ミサイル防衛に関する見識に問題がありそうです。
2ちゃんにリンクが張られていましたが、過去自民党の国防部会長だったおり、MDに関して、専守防衛の観点から、他国に向けたミサイルについては関与しないとする発言をしています。
ソースはこちら。
http://www.jimin.jp/jimin/daily/03_06/05/150605c.shtml


現状、そしてこれからも当分は、弾道ミサイル防衛を実効性のあるものとするためには、米国との協力は不可欠です。
赤外線によって弾道ミサイルの発射を検知する早期警戒衛星の不備については、良く言われることですが、それ以上に、日本の偵察能力では兆候の察知が困難なことが問題です。
能力も十分とは言えない4機程度の偵察衛星で得られる情報は限られたものです。
未だに誤情報がまかり通っていますが、ノドンは発射直前の燃料注入など必要としていません。
アメリカの深く広範な情報収集・分析力なくして弾道ミサイル防衛は成立しません。
PAC-3は防護対象近傍に機動展開が必要ですし、イージス艦にしても適切な海域に進出しなければ満足なミサイル防衛網はかけられないからです。


憲法解釈の問題があることは承知していますが、米国に向かうミサイルの防衛にも協力する姿勢を採らなければ、日本を防衛する態勢の構築に無理が生じます。
今ごろは内局が新大臣を教育しているでしょうが、きっちりと教育してもらわなければ、内局が存在する価値もないでしょう。


2008年9月24日 (水)

PAC-3実射試験 その実効性は?

前回の予告通り、今回は先日行われたPAC-3ミサイルによる弾道ミサイル迎撃試験の実効性について考えてみます。

まず報道されている実射試験の内容をまとめると、次のとおりです。
・模擬ミサイルは、南側、距離120kmの地点から発射された。
・模擬ミサイルの発射2分後に、迎撃ミサイル2発が発射され、その約30秒後、迎撃に成功した。
・模擬ミサイルは、PAC-2ミサイルである。
・PAC-3ミサイルを発射した機材は、発射機2基のほか、レーダーと管制装置などである。
・PAC-3ミサイルによる目標の迎撃高度は10数キロだった。

これに加えて、空自が公開した写真から読み取れる情報を列挙してみます。なお、以下の写真は全て航空自衛隊提供です。
・模擬ミサイルとなったPAC-2は、試験用に改造されている。
(迎撃した瞬間の写真が公開されているが、航跡が写っており、試験の評価用にスモークを引くように改造してある。PAC-2にせよPAC-3にせよ、ロケットモーターの作動時間は10数秒と言われており、インパクト時には、両ミサイルともロケットモーターは燃え尽きているため。なお、スモークを焚くという方法は、ミサイル試験を可視画像で評価する際、よく行われる方法です)
10095508437

・同一発射機から2発のミサイルが発射された。
(1発目の噴煙とおもわれる煙の中で、ミサイルが発射される写真がある)
(もう1機の発射機は、おそらく予備)
10095508441

・模擬ミサイルは、急角度で接近(落下)している可能性が高い。
(PAC-3ミサイルの発射直後の写真に、姿勢制御用サイド・スラスターが下方に2度噴射されていることが写っており、発射直後のプリプログラム誘導で、飛翔方向を上に(急角度に)変更していることが分かります。なお、パトリオットミサイル発射機の発射時の角度は、60度程度の固定式です。(基地祭などで確認できる)試験の安全確保上、展開している試験部隊を飛び越える模擬ミサイルの飛翔は行わないはずなので、部隊直前に急角度で落下している可能性が高い)
10095508450
10095508456
10095508459

以上を踏まえるとともに、必然と思われる要素を加味して推論すると、今回の試験で使用された模擬弾道ミサイルのプロファイルなどは次のとおりです。
・標的の模擬弾道ミサイルとなったPAC-2ミサイルは、通常の目標を迎撃する際と異なり、高い弾道軌道を飛翔した。
(PAC-2ミサイルは機動を操舵翼で行っており、宇宙環境に近い高高度では旋回できないため、通常目標の迎撃ではそれほど高い弾道軌道は採らない(エネルギーロスを防ぐため、弾道に近い軌道ではある))
・模擬ミサイルの速度は、マック3を超えていた。
(模擬ミサイルは、試験部隊に向けて発射されたはずであり、インパクト時、両ミサイル(PAC-3と模擬ミサイル)はほぼ正対(ヘッドオン)状態だったと思われる。両ミサイルは、水平距離120kmを約150秒で飛翔しており、平均水平速度は800m/秒程度となる。模擬ミサイルは高い弾道を飛翔しており、インパクト時の垂直速度は水平速度と同等以上と推測でき、水平垂直成分を合成した実際の速度は、1140m/秒以上=約マック3強となる。この数値は最低限のもの。おそらく模擬ミサイルは150秒で100km程度しか飛行していないと思われるため、実際の速度はもっと遅い)
・模擬目標は、ミサイル本体と中間の指令誘導を行うプログラムの変更により、飛翔プロファイルを弾道に近いものに変更した。
(PAC-2自体は、プログラム中に模擬目標を作成し、これに向けて飛翔させたと思われる)

一言で言えば、マック3以上の弾道軌道だったということです。
模擬弾道ミサイルなので、弾道軌道なのは当たり前ですが、速度はマック3以上という程度です。
空自が迎撃しなければならないノドンは、IRBMに区分されるミサイルで、速度はマック9を超えると言われています。
模擬ミサイルの速度がマック3強程度だったとすると、スペックとしてはSRBMでしかなく、ノドンの原型となったスカッドの中でも最も古いスカッドA程度だったとことが分かります。

一部新聞紙上でも、今回の試験では、模擬ミサイルの速度がノドンの半分以下でしかなく、実効性には疑問があるような記事がありました。
しかし、公表されているデータを元に分析すると、半分以下どころか1/3程度だったことが分かります。
防衛省は、「数値を入れ替えれば対応できる」と意味不明なコメントをしているようですが、迎撃目標の速度に関する限り、率直に言ってノドンに対する実効性は疑問と言わざるを得ないでしょう。

ですが、今回の試験は第1歩です。
最初からノドン並を狙って外れた場合、失敗の原因分析が難しくなります。第1ステップとしては、弾道軌道を飛翔するミサイルの迎撃が可能だということを確認した、という所でしょう。おそらく来年予定されている試験ではもっと高速の目標を迎撃するはずです。

また、レーダーの小型目標探知能力については、今回の試験で確認できたかどうかは分かりません。目標が1/3程度の速度だったこともあり、リアクションタイムの余力は、相当にあったと思います。
ですが、目標が今回の3倍の速度だったときにも十分だったか否かについての判断材料は、残念ながら公開されていません。試験を実施した部隊では、データが取れた筈ですので、今後は製造元の三菱電機とともに解析し、検討するでしょう。

今回の試験については、個人的にも非常に興味があった事項です。
これからも関連の情報をウォッチするつもりです。

2008年9月22日 (月)

PAC-3の実射試験はどんな試験?

さる9月17日、空自は初となるパトリオットPAC-3ミサイルの実射試験を行い、弾道ミサイルに見立てた模擬ミサイルの迎撃に成功したそうです。
この関連ニュースがさまざまに報じられましたが、今回はこの試験内容について書いてみたいと思います。


試験場所は、アメリカ、ニューメキシコ州のホワイトサンズ射場です。
「ミサイル射場なんて知らないよ!」という方がほとんどでしょうが、実はこの場所、日本人にも結構良く見られている場所でもあります。
サンズとは砂の複数形で、要は砂漠のこと。つまりホワイトサンズとは白い砂漠という意味です。
最近はあまり見られなくなった気がしますが、真っ白な砂が広がる砂漠は、CMの撮影場所などとしてよく使われました。私が覚えているシーンとしては、何のCMだったか忘れましたが、白い砂の上でスティービー・ワンダーが歌っていたCMを覚えています。
(最近は、気候の変動で雨が増え、以前ほど美しくないようです)


CMとして使われているくらいなので、一応観光地となっています。ところがこの観光地、ミサイル射場があるため、機械部品を見つけても手を触れないようにと書かれた注意書きが立っています。
なにせミサイル射場ですから、破片であっても爆発性のものが無いとは限りません。それに宇宙開発関連の試射が行われることもあり、毒性のある燃料などが付着している可能性もあります。


ちなみに、このホワイトサンズ射場の直ぐ近くに、F-117が配備されていたホロマンAFBがあるので、上空にあの特徴的な黒いシルエットを見ることができたこともあります。


今回の試験を行った部隊の編成ですが、ニュースを見ておや?と思った点が2点ほどあります。
本来、この種の試験を行うべき部隊は、パトリオットを保有する高射部隊に技術的な指導をしたり、運用法の研究を行う高射教導隊(静岡県浜松)なのですが、ニュースでは第1高射群(埼玉県・入間基地)と高射教導隊(浜松基地)の隊員約80人が試験を行ったと報じられています。
PAC-3は、2007年の3月に入間基地に所在する第1高射群第4高射隊配備されたのを皮切りに、その後第1高射群の第1、第2、第3高射隊にも配備されました。高射教導隊には今年度中の配備予定となっています。以前のニュース記事で、使用される機材は高射教導隊のものとなっているため、配備されたばかりの機材をアメリカに持ち込んだのかもしれません。
今回は、本来試験を行うべき高射教導隊の隊員が機材に不慣れなため、第1高射群との混成部隊で発射試験が行われたものと思われます。
もう一つ?だった点は、メンバーのトップが飛行開発実験団司令だと報じられている点です。高射教導隊にせよ第1高射群にせよ、空自のパトリオット部隊は全て航空総隊隷下であるため、飛行開発実験団司令が試験部隊の指揮官とは考え難いのです。もっとも、日本のメディアはその辺に無頓着なため、指揮官ではなく単に視察に行っていただけの可能性もあります。


試験の内容については、以前のブログ記事でターゲットとなる模擬弾道ミサイルが何であるのかが問題になると書きました。
弾道ミサイルに近いプロファイルで飛行させることが可能なターゲットドローン、AQM-37Cかもしれないと書いていたのですが、なんと今回使用されたターゲットはパトリオットPAC-2ミサイルだったそうです。
各紙が報道している中、模擬弾がPAC-2だと書いていたのは中日新聞だけなので、誤報の可能性もありますが、一応信用しましょう。
模擬弾のプロファイルは、試験の実効性を図る重要な点です。
次回の記事では、模擬弾がPAC-2であることを前提に、試験の実効性について分析してみたいと思います。

2008年9月20日 (土)

H21概算要求-F-15近代化改修とGCI

概算要求関係の前回の記事で書きましたが、F-15近代化改修の項目は、次の7つです。
・FDL搭載改修(Link16)
・レーダー換装
・AAM-4搭載改修
・AAM-5搭載改修(HMD)
・セントラルコンピュータの能力向上
・ジェネレータの能力向上
・空調システムの強化


この内、防衛省が公開している概算要求資料において、改修効果を説明している項目は、次の3つです。
① FDL(Flight Data Link)搭載改修
② レーダー換装+AAM-4搭載改修
③ AAM-5搭載改修(HMD)


この中でも、最も戦闘の様相を劇的に変えるものは、①のデータリンクです。
従来、特に視程外においてパイロットがSA(状況認識)を得るための手段は、自機の機上レーダーと地上及び機上(AWACS)の管制官からのボイスでした。(一部の機体にはLink16とは別のデータリンクがあるが、情報量が少なく、SA向上に資する効果は大きくない)
自機の機上レーダーも、探知追尾能力は地上レーダーとは比較にならないものでしたし、インターフェイスがBスコープだったりで、とても全体状況を把握できるような情報は提供していませんでした。
近代化改修でLink16による情報入手が可能になれば、PPIスコープ同様の鳥瞰的情報が把握できる上、従来では管制官のボイスからしか得ることのできなかった背後の目標についても情報を得ることができます。
レーダー表示については、次のアドレスを参照のこと。
http://homepage1.nifty.com/avionics/data/radar-scope.html


このデータリンク搭載により、パイロットは管制官による支援がなくとも、相手の側方などの敵レーダーの覆域外から、自機のレーダーを使用することなく接敵することが可能になります。


今回の近代化改修は、たとえ防衛省の要求が満額回答を得たとしても、F-2などを含む戦闘機全体としては、まだまだ一部です。
そのため、依然として(要撃)管制官は必要ですが、その重要度は確実に下がってきています。
逆に、2機あるいは4機のエレメントリーダー、フライトリーダーの重要性はさらに高いものになって行くでしょう。
また、Linkをささえる通信電子の重要性は上がって来ます。

Linkが普及すると、航空自衛隊内における各職種の重みも変わってくるでしょう。

2008年9月17日 (水)

潜水艦の領海侵犯 ウソくさい政府発表

またしても潜水艦による領海侵犯が発生しました。


政府発表を一言で言えば、「一生懸命対処しましたが見失いました」というものですが、どうにもウソくさく、穏便に済まそうとしている節が強いように思えます。
以下では、政府発表にない部分を推測し、事案の真相を推測してみます。
なお、事案の概略は、末尾に産経新聞の記事をコピーしているので、参照して下さい。


まずは、潜水艦の目的ですが、考えられるものは海底地形や海流・水温などの海洋調査か電子情報の収集活動でしょう。ですが、電子情報は国内に潜入した工作員が実施できるので、まず間違いなく海洋調査と思われます。


工作員の潜入・回収という可能性も考えられなくはないですが、能力の低い北朝鮮潜水艦が足摺岬に居たとは考えにくい。国交のある中国なら、どうどうと空港を使うでしょうから、やはり工作員の潜入ではないと思われます。


そして目的が海洋調査であるとするならば、あたごが潜水艦を発見できた理由も納得ができます。
ニュースでは、「あたご」は潜水艦の潜望鏡らしきものを発見したと報じられています。確かに衝突事故を起こした「あたご」は、見張りを厳重にしているでしょう。水上レーダーに映った目標(潜望鏡)を漁船ではないかと思い、必死で海上を見つめていたかもしれません。それにしても、偶然近くを航行していて見つけたというのは、可能性としては考え難いものです。

やはり、潜水艦が海底探査のために打ったアクティブソナー音を聞きつけ、駆けつけた結果なのではないかと思われます。
曳航式ソナーは常時使用されていませんが、バウソナーは常時モニターされていると思われます。海底探査のために微小で出力されたピンガーを、あたごのソナーマンが捕捉したのではないでしょうか。


なお、発見直後の追跡にP-3が加わっていた様子はないので、やはりあたごが第1発見したものと思われます。
発見が早朝なので、その後は洋上監視のための任務飛行準備をしていたP-3が加わったものと思われます。
新聞報道では、P-3が毎日行っているパトロール網をかいくぐり、潜水艦が太平洋側に居たことを驚くようなものもありますが、定期的なパトロールでは発見できなくとも不思議はありません。
P-3が本格的な潜水艦探知を行うためにはソノブイの投下が必須ですが、通常の監視活動ではそこまでする費用(ソノブイは使い捨て)がないからです。


発見後、中央への報告はまたしても遅れたようです。どの段階で遅れたのかは明確ではありませんが、どうせ内局が「らしきものとはなんだ?」とか言っていたのでしょう。


発見後5分後(7時1分)には領海外に出たということですので、大臣への報告時は、既に領海外に出ているとの内容だったと思われますが、領海外に退去後でも追跡件があるため、海上警備行動の発令は可能だったはずです。
やはり新任の上、国防族でもない林大臣には決断しきれなかったのでしょうか。


潜水艦の国籍は確認されていませんが、可能性があるのは中国とロシアくらいです。状況を鑑みれば、十中八九中国でしょう。

海警行動も発令されないまま、追跡だけ続けた「あたご」ですが、足摺岬から南、南海トラフ方向に逃げる潜水艦を約1時間半後に見失っています。深度を下げた潜水艦が、変温層の下に逃げたのでしょう。
それ以降も追跡するとなると潜水艦が必要ですが、運悪く(あたりまえですが)近くには居なかったようです。


今回の領海侵犯は、石垣島での領海侵犯と同じように海上警備行動を発令して対応が出来たはずです。ですが政府はそれをしませんでした。それも、潜水艦の領海侵犯時には海警行動を発令すると決めていたにもかかわらずです。
防衛省は、理由というより言い訳を並べています。林防衛大臣が、親中国の福田総理に気兼ねしたのか、中国の顔色を窺ったのか定かではありませんが、穏便に済まそうとしたように見受けられます。
おそらく海幕は忸怩たる思いがしているでしょう。林大臣の省内での信用も落ちたのではないでしょうか。


また仮に、海警行動が発令されていたとしても、国際法的には可能でも国内法上は退去勧告しかできない状況は、いい加減に改めるべきではないでしょうか。潜水艦による潜没領海侵犯なんて悪意があるとしか思えないわけですから。


こんな対応を続けている限り、中国は更に増長するでしょう。


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潜水艦が領海侵犯か 海自イージス艦が発見 高知沖
産経新聞 2008.9.15 01:12
14日午前6時56分ごろ、高知県足摺岬沖の豊後水道周辺の領海内で、潜水艦の潜望鏡らしきものを、周辺海域を航行していた海上自衛隊のイージス艦「あたご」が発見した。あたごは潜水艦の可能性が高いと判断し、ソナーによる捜索を続けたが、約1時間半後に見失った。防衛省は国籍不明の潜水艦による領海侵犯の可能性があるとしてP3C哨戒機や護衛艦などを出して捜索を続けている。

 海上自衛隊や米軍に該当する潜水艦はなく、あたごが発見した5分後には南側へと航行し、領海外に出たという。あたごは追尾を続けたが、午前8時39分に追尾不能となった。

 防衛省によると、発見水域は、足摺岬の南南西約57キロで、日本領海の内側約7キロ。あたごの艦長らが約1キロ先にある潜望鏡のようなものを目視で確認した。外国の潜水艦は領海内では浮上航行が国連海洋法条約で決められており、潜望鏡を出して航行していたとすれば、意図的な領海侵犯だった可能性が高い。

 福田康夫首相は14日、防衛省に「追尾、情報収集を徹底して、万全の態勢をとるように」と指示した。政府は、潜水艦の国籍が判明すれば、相手国に抗議し、再発防止を求める方針だ。ただ、防衛省関係者は「クジラや魚群を潜水艦と誤認するケースは多い。潜水艦でない可能性も含めて慎重に調べている」と語った。米軍から事前の情報提供はなく、潜水艦を目視したというのは、あたごからの情報だけとなっている。

 外国潜水艦の領海侵犯事件では、平成16年11月に中国の潜水艦が沖縄県石垣島周辺の領海を侵犯し、政府が海上警備行動を発令したケースがある。政府は中国海軍の原子力潜水艦と断定し、中国側に抗議した。

 防衛相は警察機関では対処が不可能と認められる事態が発生した場合、首相の承認を得て自衛隊部隊に海上警備行動を発令することができる。今回は潜水艦と判断した時点ですでに領海外に出ており、再び領海内に引き返す可能性が低いことから発令を見送った。

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2008年9月15日 (月)

与那国島への自衛隊配備

前回の記事で沖縄の対自衛隊感情について書いたばかりですが、与那国島で自衛隊の誘致活動が行われているというニュースがあったので、今回は与那国島への自衛隊配備について書きます。


ニュースの内容は、与那国防衛協会が与那国町の人口の30%に及ぶ署名とともに、町と町議会に対して自衛隊の誘致要請を行ったというものでした。

掲載紙は、八重山毎日新聞の9月13日付です。
http://www.y-mainichi.co.jp/news/11928/
また、この誘致活動が、来年の町長選挙にも影響するという記事も載っています。
http://www.y-mainichi.co.jp/news/11925/


誘致活動が行われている理由は、中台関係や不審者(船)などに対する対応能力への不安がある他、町の過疎化対策や活性化という側面があるようですが、記事では専ら補助金などによる町の活性化についてばかり書かれています。


住民の治安面での不安や補助金などについては、次のサイトが詳しいのでコチラをご覧下さい。
http://naha.cool.ne.jp/nanao320/topics/topics08.htm


このブログでは、与那国島に自衛隊を配備する場合の部隊種別や規模、その効果について書きます。


配備した場合、最も効果の高い部隊は、空自のレーダーサイトです。
現在あるレーダーサイトは、宮古島の第53警戒隊が最も南西にあるサイトとなります。次は沖縄本島与座岳にある第56警戒郡と久米島の第54警戒隊になるので、宮古の53警隊が非常に重要な役割を担っていることになります。
尖閣との位置関係で言えば、宮古島と与那国島は大差無いので、尖閣諸島の上空に関しては与那国島にサイトを建設してもそれほど大きな影響はありません。
しかし、尖閣諸島をめぐる衝突発生時や平時の離島警備に関して言えば、与那国島にサイトを建設する意義は非常に大きいものがあります。


尖閣や与那国島は、宮古島から150マイル近くもの距離があり、53警隊のレーダーでも中高度以下は見えません。
彼我不明機が高高度を飛行していたとしても、53警隊が探知できるのは、尖閣や与那国まで100マイルを切ってからということです。
尖閣や与那国は、スクランブル機が上がる那覇から250マイル以上もあるため、今年度末に配備機がF-15に変わったところで、スクランブルでは到底間に合わないということになります。(情勢緊迫時はCAPが必要ということ)
加えて中国や台湾は、平時の偵察活動を通じて(ESMや那覇からスクランブル機が上がるタイミング)、53警隊のレーダー覆域をある程度把握しています。その下を飛行されれば、こちらは気が付くことさえできません。


もしも与那国にレーダーサイトがあれば、与那国からは台湾の山が見える位ですので、台湾による活動は、LO-LO-LOでない限りすぐに把握できます。中国機が尖閣に接近する場合も、同様です。


加えて、平時ではADIZやFIRの境界問題がありますが、レーダーで早期に情報が得られれば、現実的な問題は回避できます。


中台危機の場合、台北は宮古島から200マイル以上もあり、通常の航空活動を監視することは不可能です。
与那国にサイトがあれば、台北を含めた台湾北部の状況をかなり把握できます。
これからサイトを作るとなれば、おそらくFPS-5になるでしょうから、中国が台湾に打ち込むSRBMもほとんどが捕捉できるはずです。そして、その情報はJADGEを通じてリアルタイムで米軍にも流れることになります。(日本政府が積極的に意図しなくても、台湾と米軍を支援することになる。日本に対する攻撃も警戒する必要が生じるため、止めることも出来ない。)
ただし、与那国にガメラレーダーを建設するためには、おそらく発電設備の建設などが必要になります。(町はその方が喜ぶ?)


レーダーサイトを設置するとなれば100人以上の自衛官が常駐することになるため、不審船が来航した場合などでも、警察の支援に十分以上の貢献ができるでしょう。
(現在は島にある武器が拳銃2丁と言われる。それが小銃100丁以上になる。近年は空自も基地警備能力を向上させているため、陸自の1個小隊程度の能力にはなる?)
しかし、サイトを新たに建設するとなれば、費用的にも相当になる上、防衛計画の大綱別表に示された基幹部隊数も変更しなければならないため、ハードルは極めて高いと思われます。


レーダーサイト以外には、2000mに延長された与那国空港の滑走路を利用して、航空部隊を配備する可能性も考えられます。
しかし、戦闘機を運用するには滑走路長が十分とは言い難い上、レーダーサイトなしに戦闘機部隊を配備しても効果が薄いでしょう。
海自の哨戒機(P-3やP-X)を配備しても良いですが、足(航続距離)がある上、水上、水中目標は速度が遅いため、那覇からの運用でもそれほど問題がありません。
となると、陸自のヘリや連絡偵察機ですが、島に普通化部隊も配備されるなら、有効な機動力となるでしょう。尖閣が紛争の場になれば、数時間で陸自部隊を上陸させられるため、前進待機する意義は十分にあります。
島の人々にとっては、急患空輸にも威力を発揮するため、もっともありがたい部隊かもしれません。


海自の水上艦艇を配備してパトロールすれば、不審船監視などでは威力を発揮するでしょうが、これは一義的には海上保安庁の任務です。
(海保の小型艦艇、あるいはヘリの常駐はやるべきだと思う)


これ以外となると、もう陸自の普通化部隊しかないでしょう。沿岸監視レーダーを装備した普通化部隊は、島民の安全確保のためには最良ですが、噂されていた宮古島駐屯も現実とはなっていないため、なかなか難しそうです。
配備するとなれば、最低でも1個中隊規模になるでしょうから、家族も含めると島民は10%から20%程度増えることになります。


これまでは、住民の反対を言い訳として、日本政府は南西地域をあまりにも軽視してきたように思えます。
しかし、これからはそれも通用しないでしょう。
与那国への自衛隊配備は、軍事的には意義のあることです。たとえ住民の賛成が得られなくともきちっと検討すべき事項です。

2008年9月13日 (土)

沖縄の対自衛隊感情

1混団の旅団化改編など、沖縄の問題にたびたび触れてきました。
尖閣の領有権問題や中国の軍拡問題など、防衛問題のホットな地域だからということはもちろんですが、現役自衛官時代に2年以上も住んだ場所だからでもあります。
思い入れもありますし、ある程度は事情を承知しています。


一昨日(9月11日)、那覇空港でF-4型機がフラットタイア(パンク)し、滑走路閉鎖となる事象が発生しました。
そこで今回は、このフラットタイアを報じる新聞記事を比較しながら、沖縄の対自衛隊感情について書いてみます。


沖縄は太平洋戦争で唯一地上戦が行われた場所として、旧軍に対する嫌悪感から自衛隊感情も悪いと良く言われます。
諸先輩方の話を聞いた所では、たしかに昔はそうだったようです。ですが、私が勤務した数年前でも、他の地域と比べて特に自衛隊感情が悪いと感じることはほとんどありませんでした。
むしろ、那覇などでは自衛官が多いこともあり、自衛隊慣れしているようにも思います。(制服でコンビニに入っても、特に気に留める人もいない。)


さて、昨日の那覇空港でのフラットタイアですが、まずは事故の概要を押さえておきましょう。
発生日時は11日午後0時50分頃、空自那覇基地所属のF-4型機が訓練飛行を終えて那覇空港に着陸した際、左主脚のタイヤがパンクし、誘導路上で停止しました。滑走路上に散乱したタイヤ破片等の回収のため、滑走路が約1時間閉鎖されたとのことです。


この事故をネットで報じていた新聞は、沖縄の主要地方紙2紙(沖縄タイムス、琉球新報)、それと石垣島を中心とした八重山諸島の話題を中心に掲載する八重山毎日新聞オンラインでした。宮古島の宮古毎日新聞と八重山日報には掲載されていませんでした。

事故は単なるパンクで、記事にするほどのことはないと思われる方もいるでしょうが、本土と距離のある沖縄では、県外とのアクセス手段はほぼ空路に限られると言って良い状況です。おまけに沖縄本島の空港は那覇空港のみです。
事故の影響は、東京在住者にとって東海道新幹線が止まる以上の影響があります。記事となることはもっともことでしょう。
それは、滑走路閉鎖になるような事故を起こした機体が、たとえ民間機であっても同様にニュースになることから見てもわかることです。


掲載紙の論調を見てみると、沖縄タイムスと琉球新報は、事故概要と影響を淡々と報じており、特に反自衛隊的な感じは受けません。沖縄タイムスの方は、県が原因究明と再発防止策の徹底を申し入れた事も報じている一方で、ランウェイ閉鎖の影響で嘉手納に着陸した別の自衛隊機を気遣うような文面もあり、特段自衛隊を問題視しているようには思えません。


沖縄本島の主要2紙、特に沖縄タイムスの方は、左に偏向しているとの言葉も聞きますが、この事故報道に関する限り、淡々と報じている印象です。


その一方で、八重山毎日新聞には「乗客からは「自衛隊機が民間飛行場を利用するからこんなことになる」と怒りの声が上がった。」という文面が見られ、反自衛隊的な論調になっています。
八重山毎日新聞は、石垣島を中心に発行されている新聞で、すぐ近くにある宮古島の宮古毎日新聞と八重山日報が事故自体を報じていないことと対照的です。


フラットタイアに対する報道を見る限り、全体としては特に自衛隊感情が悪いとは思えませんでした。

その一方で、先島、八重山の局地地方紙?の違いにはちょっと興味がそそられます。
以前から空自の分屯基地がある宮古島の2紙は、事故自体を報じておらず好意的に見えます。
それに対して、自衛隊の駐屯地などがない石垣の新聞は、批判的な記事を掲載しています。

やはり、民心の安定のためにも、先島・八重山に自衛隊が駐屯した方が良さそうです。


ちなみに、自衛隊に好意的と思われる八重山日報と、批判的と思われる八重山毎日新聞は、ともに日本最南端の新聞社と自称して張り合っています。

2008年9月11日 (木)

8空団のF-15が墜落

産経新聞配信で、8空団のF-15が墜落という記事が流れました。


墜落場所は山口県見島沖南西約30キロの日本海海上で、原因はなんらかのエンジントラブルと報じられています。
パイロットも無事救助されたようです。

原因はエンジントラブルだとしても、整備上の問題だったのか、パイロットのミス(僚機のブラスト内に入ったとか、インテークから十分な吸気ができない異常な姿勢になったとか)なのかは不明です。


なんにせよ、パイロットを含めて死傷者が居ないみたいですので、それが何よりです。


がしかし、これで航空総隊隷下でここ何年も続いてきた航空大事故の無事故記録がストップしてしまいました。
データが手元にありませんが、総隊隷下の航空機墜落事故は久々だったはずです。


自衛隊創設期は、極めて頻繁に墜落事故が発生し、死傷者も数多く出ていました。最近では安全施策が徹底され、大きな事故は非常に少なくなっていましたが、やはりゼロにはなりません。
厳しい訓練をしている訳なので、無理なからぬことなのですが、100臆を超える国家資産が海に沈んだと考えると、やっぱり大層な事ですね。

2008年9月 9日 (火)

H21概算要求-防衛省の意気込み

本年度予算に引き続き、F-15の近代化改修費用が概算要求に盛り込まれている。
改修の内容は従来と同様ですが、21年度概算要求が従来と異なっている点は、防衛省の意気込みです。


平成20年度の概算要求では、周辺諸国による航空機戦力の急激な近代化と取得に要する費用の節減を図るため、2個飛行隊分32機の改修費を計上しました。
この32機という機数は、現中期防で計画されている近代化改修26機を単年で上回る意欲的な数でしたが、実際の予算では20機分の改修だけしか認められていません。


その反省もあってか、21年度概算要求資料では、F-15の近代化改修だけに2ページも費やされています。(20年度の概算要求及び予算資料では僅か半ページだった)
追加された内容には、本年度予算で改修機数が減らされた理由の一つでもある中期防を上回ることについての説明が入っている他、経費節減効果が期待できることをグラフ付で示しています。
なんとしてでも予算化しようという防衛省の意気込みの顕れでしょう。


また、20年度概算要求資料では、改修項目は記載されていたものの、その軍事的な効果については全く記載されていませんでした。
21年度の概算要求資料では、この効果の説明だけでほぼ1ページを費やしています。
これは、防衛省の意気込みというだけでなく、改修の意義が関係者に十分に理解されなかったのではないでしょうか。

実際、この近代化改修によって、同じF-15と言えど、全く別の機体と言って良いほどの差異が生じます。0.5世代位の性能差があると言っても良いと思います。
一応改修項目にも触れておくと、
・FDL搭載改修(Link16)
・レーダー換装
・AAM-4搭載改修
・AAM-5搭載改修(HMD)
・セントラルコンピュータの能力向上
・ジェネレータの能力向上
・空調システムの強化
の7項目となっています。
改修項目それぞれの効果は、相互に効果を高め合っているため、どれが一番とは言いにくいものの、一応上記の記述順序が私の考えた各項目の貢献度です。

各改修項目の意義についても、触れようと思いますが、長くなりそうなので次回にします。


さて、防衛省の意気込みは、21年度予算にどの程度反映されるでしょうか?

2008年9月 7日 (日)

H21概算要求-防衛省改革

平成21年度の概算要求の内、20年度の予算から最も大きく変更されている点は、その冒頭に防衛省改革という大きな項目が設けられている点です。


20年度の概算要求の時点では、まだ守屋元次官の件が問題となっていなかったこともあり、平成20年度の予算では、庁から省への移行という大きな組織改編があったものの、予算面ではそれほど大きな扱いにはなっていませんでした。


事務方トップと言われる次官にからむ問題は、防衛省にとって大きなダメージと言われましたが、制服を着ていたものとしては、これを端として内局のあり方が大きく問題とされていたことは、むしろ喜ばしいことのように感じます。


21年度の概算要求に盛り込まれた防衛省改革の内容は、22年度以降に持ち越された本格的な防衛省改革の端緒でしかありませんが、この項目が概算要求の筆頭に書かれた意義は一般の方が感じる以上に大きなモノがあります。
簡潔明瞭を良しとする防衛省の文書では、項目の順序が非常に大きな意味を持つからです。


心情を正直に言わせてもらえば、多くの制服自衛官にとって、内局は目の上のタンコブです。
制服組のトップ級、統幕を始め各幕僚長でさえ、次官はおろか新米のキャリアにも頭が上がらないという話を耳にしたり、時には実際に目にしました。制服自衛官にとって、同じカマの飯を食べた仲ではない者が我が物顔でいることにはホントに腹が立ったものです。
(民主的な制度に則って、民意を受けて選ばれた首相や大臣は別です。)
しかも、彼らは防衛省の役人でありながら、軍事の実態には通じていません。彼らは、現場を見ることなど滅多にないのです。(制服側で煙たがっているということもある。)
また、私を含め多くの制服自衛官が内局を良く思わない理由の一つには、省外とくに警察庁からの出向者が多くの重要ポストを占め、国防よりも出身官庁の省益のために行動しているのではと思われるケースを良く耳にしたからです。(「日本海クライシス2012」の中でも、それっぽい内容は少しだけ書きました。)


しかしながら、内局を完全に廃止するような事が妥当だと思っているわけでもありません。現場も中央もバランス良く知っている人材でなければ、上に立つにはふさわしくなく、上に行く制服自衛官は、頻繁な人事異動が不可欠だからです。つまり、中央に居て継続的に業務に携わる内局が必要でもあるということです。


21年度中には、本格的な防衛省改革の論議が進展するようなので、現職自衛官の方々が少しでも活躍できるようになることを祈りながら見守りたいと思います。

2008年9月 5日 (金)

副官のお仕事 その2

前回は、副官と副官付の位置付けを書いたので、今回は副官の実際のお仕事(任務)について、1日のスケジュールを追って書いてみます。
一応お断りしておきますが、以下は、空自の一般的な副官について書いています。見知っている限りでは、陸海もそう違わないようですが、異なる場合もあるでしょう。

一般的に、幕僚よりも30分から1時間程度は早く登庁します。他の部課と異なり、普通朝礼などは行いませんが、副官付との打ち合わせは必須です。指揮官自身の登庁は遅めですが、出迎えるだけでなく、大抵は専属ドライバーが官舎に迎えに行く際に同行します。

指揮官が登庁すれば、女性の副官付がお茶を出すとともに、一日のスケジュールについて報告します。(迎えの車内で済ます方も多し)朝食を登庁してから食べる指揮官の場合、お茶ではなく食事を出すことになります。

その後、特に行事のない日であれば、続々と決裁を仰ぎに幕僚が訪れます。副官は、アポイントの有無、役職などを勘案して、幕僚が決裁を受けるために入室する順序をコントロールします。内容の重要度や緊急性も勘案するので、部隊全体の動きを承知していることも必要です。そのためには、決裁を受ける文書の内容を見せてもらうことも良くあります。

指揮官の昼食は大抵が会食なので、食堂まで同行し、指揮官の食事の間に自分も食事を取ります。給仕については、食堂のスタッフが行うので、副官が手を出すことはありません。指揮官が執務室に帰る際、当然随行しなければならないため、自分は急いで食べます。指揮官もそれは分かっているので、あまり早く食べ終わる方は少ないですが、中には例外もおられるので、そういう方に付いた場合は大変です。
自衛隊の食堂は、日替わりの単一メニューをセルフサービルで取ります。時間的に集中するので、かなり並ぶのが常です。しかし、副官と専属ドライバーは割り込みOKで最優先で食べることが出来ます。

午後のスケジュールも、午前同様ですが、指揮官自身も体力維持のためにトレーニングが入ることが普通です。トレーニングメニューはそれぞれですが、副官もこれに同行します。携帯電話を携行し、指揮官に緊急連絡を伝えることが任務ですが、単なる付き合いという側面もあります。
午後の執務が終わり、指揮官が退庁する際も、官舎まで同行することが普通です。

その後、副官室に戻り、翌日以降の準備をすることになりますが、この流れにならないケースも非常に多くなります。
指揮官が、部内外の夜の会合に参加するからです。役職などで差異はありますが、基地司令など部外との関わりが多い職務の場合、ほぼ毎日という方もおられます。
副官は、午後のトレーニングと同様で、緊急連絡を伝えることを含め、大抵は同行することになります。任務終了は指揮官を官舎に送り届けるまでです。

当然ですが、1日の勤務時間は非常に長くなります。部内外のVIPと関るため、気も使います。私が知る限り、希望して副官に付いたという方は聞いたことがありません。
また、勤務時間が長くても、手当て(給与の一部)はありません。
しかし、良い点もあります。指揮官に余程嫌われない限り、次の補職(勤務先)については、かなり希望にそった配置がして貰えます。
他にも、ある意味おいしい思いが出来るというメリットもあるのですが、それらは次回以降に書きたいと思います。

2008年9月 3日 (水)

H21概算要求-第1混成団の旅団化

やっと21年度概算要求の概要が防衛省からリリースされました。
http://www.mod.go.jp/j/library/archives/yosan/2009/yosan_gaiyou.pdf
そこで、これから何回かに分けて、気になる点などを書いてみたいと思います。


第1回目としては、今まで何度もブログで取り上げた第1混成団の旅団化改編について書きましょう。なお、宮古島への駐屯についてはなんら記載がないので、少なくとも21年度は見送りになったようです。


まず名称ですが、まだ仮称になっているものの、第15旅団と明記されました。
人員は、1800名から300名増の2100人規模
このあたりは、新聞でも報道されていた通りです。


部隊としては、混成群が増強解体され、普通科連隊、偵察隊、施設中隊、通信隊ができます。普通科、偵察、通信、これらは機動力を高める離島対処旅団らしい編制です。施設中隊は、離島での防御陣地構築や侵入したゲリコマがIEDを設置することへの対処でしょう。


ちょっと意外だったのは、化学防護隊が新編されることです。普通科部隊でもそれなりな事はできるはずですが、化学防護隊を新編するとは思いませんでした。中国が、簡単に大量破壊兵器を使用するとは思えないので、台湾海峡危機なども考慮してのことかも知れません。
また、化学防護隊の組織図上での位置が、旅団司令部・付隊の下に書いてあることが疑問です。ただし、リリースされた資料の図は簡略化されており、司令部の位置もおかしいので、気にしても仕方ない部分かもしれません。


それと、上記の図には、気になる点があります。化学防護隊と同様の位置付けで未掲載の部隊があることを匂わずようなマークが付いています。
もしかすると、「宮古島準備室」というような組織が作られるのかもしれません。


戦力増強している点の定性的な表現を見ると、普通科部隊と車両の増強が図られることになっています。これは、新聞報道にもあったとおり、人員増と軽走行機動車や高機動車の増加を意味していると思われます。
飛行隊については、態勢の充実と記述されており、装備機数が増えないことが分かります。沖縄では急患空輸の仕事も多く、飛行隊は多忙なため、人員増を図り緊急対応能力の向上を図るという意味だと思われます。


この他、改編関係では、第9師団の改編(機甲、特科戦力を削減し、普通科を増強)と第14師団の改編(14飛行隊の新編)が盛り込まれています。

いずれも、大規模な戦争よりもゲリコマなど、非対称戦を強く意識した改編が予定されています。

2008年9月 1日 (月)

防衛省に情報開示請求 その2

防衛省に情報公開請求書、正確には「行政文書開示請求書」を郵送した翌日、早速問い合わせの電話が来ました。
私が不在だったため、電話番号と担当者名を告げ、コールバック(折り返しの電話をするとの意味ですが、自衛隊内では良く使われる)してほしいということでした。
翌日は忙しさの中で忘れていましたが、翌々日になんとか電話をしました。番号は防衛省の代表番号かと思いましたが、担当部署に引いた直接回線(外部とやり取りの多い部署には直接回線が置かれることは珍しくない)でした。以下はその時の電話の内容です。


---------------------------------


防衛省不明男性 「はい、防衛省情報公開室です。」
私 「先日開示請求を送付した数多と申します。野中さん(仮名、担当者)さんはいらっしゃいますか?」
防衛省不明男性 「はい、少々お待ちください。」
古巣に電話しているだけなのだが、非常に緊張する。


担当 「はい、野中で御座います。」
担当の方は女性だった。それだけでも多少緊張が解けた。
階級を名乗らないところを見ると、事務官か技官のようだ。
私 「数多と申します。一昨日開示請求の件でお電話を頂いたようですが・・・」
担当 「あ、はい。開示請求書を頂いたのですが、いつのモノを請求されているのでしょうか?」
私 「えと、いつの物と言うのは特に限定しておりません。○×課の保管している全文書のリストが貰えれば良いのですが・・・」
担当 「そうですか。ですが、年度毎でしか請求できない事になっておりまして・・・」
私 「え? あの、○×課の発簡簿と来簡簿をコピーして頂くだけで良いのですが、何か問題があるんでしょうか?」
文書の管理をしている部課単位では、発簡簿と来簡簿という簿冊を設け、自部署で発簡した文書と受領した文書を管理している。量が多ければ複数冊になるが、ともに複数年のものをまとめていることが普通なので、年度毎での請求という意味が、直ぐには理解できなかった。
担当 「はい。ですが、発簡簿と来簡簿は年度単位でしか請求して頂けないことになっております」
私が、請求したモノについて十分承知していることを理解していただろうに、というより理解したからか、思いっきりお役所回答を返されてしまった。
私 「え? 発簡簿も来簡簿も簿冊じゃないですか」
担当 「そうなんですが、文書の保存期間は1年未満、1年保存、3年、5年、10年・・・」
私 「それは承知してますが、開示にあたっては年度毎にしか受付しないという事でしょうか。年度毎に何件も開示請求が必要ということですか?」
担当 「はい、その通りです」
担当 「ですが今回の場合、年度を指定して頂き、別途収入印紙だけ送って頂ければ、複数の開示請求として処理させて頂きます」
セコ!
しかし、こうなると防衛省もお役所、その通りにしか事務処理はしてもらえない。
私 「分かりました、それでは平成10年から現時点まで、請求は11年分ですから、あと10年分の印紙3000円をお送りすればOKですか?」
担当 「はい。そうして頂ければ大丈夫です」


---------------------------------


と言う訳で、翌日早速3000円分の印紙だけを郵送した。
それにしても、11年分のリストを請求するだけで3300円もかかるとは、防衛省はそこまで逼迫しているのだろうか?


そして、後日A4大の封筒が届いた。
保管文書のリストが不開示になることはありえないので、早速開示決定の通知書かと思い早速開けて見た。
しかし、中身は、私が送付した開示請求書に、手書きで年度を書き添え、追加の3000円分の印紙を貼り付け、受付済みの判子が押されただけの受付結果の通知だった。

これから一ヶ月以内に開示・不開示の決定がなされ、書面で通知を送るとの案内も付いていた。しかも、開示決定がされても、その後に実施方法等申出書の送付と手数料(コピー代等)の納付が控えている。


先は長そうだ。
この先もまた書きます。

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